第一章
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火曜日であります。
アザだらけで痛い体に思わず過去を振り返ってみたら、まだことの始まりから一週間経っていないことに気付いた。
その間、放課後が異様に濃くて長いんですけど…。
一日として平穏な日はなかった…。今日は何もないといいな。
そんな儚い願いを胸に抱きながら登校。そして旧校舎裏にまわる。
そこには見慣れてしまった黒いバンと黒い人。そしてもう一人、長身で松葉杖の…
私のせいで松葉杖をついていらっしゃるであろう助手さんの姿が(^p^)
どうしよう、コレ、朝っぱらから一体なんの試練?
まっすぐ教室に行っていれば良かったかもしれない…。いやでもそしたら嫌なことが先延ばしになるだけか…。
「お、おはようございます…」
とりあえず挨拶はする。心なしか語尾がきえてゆくのは見逃してほしい。
それでも二人の注目を自分に向けるのには十分だったらしい。
そして私を見て眉をしかめるのはやめていただきたい、助手さん。
…確かに私が悪いけれども、そんなにストレートに悪意を向けられ慣れていないんですよ!
「そ、その節はどうも…申し訳ございませんでした」
私に出来るのはふかぶかと頭を下げることぐらいです。
ちらりと助手さんの顔色を伺うと思いっきり不快そうに睨まれました。
表面上だけでも許してよ!大人げないな!
とか言えない。あくまで私が悪いしなぁ…。
と、気まずい思いをしているところにナルから声がかかった。
「ずいぶん早く来たな」
「そう?まぁ、あわよくば昨日のタネあかしをしてもらおうと思って」
ちょっと様子見ついでだったり。
あした、が朝でもいいのかはちょっとわからなかったけれど、まぁ、今がダメならまた後でもいい。
「…麻衣は口は固いほうか」
…女の子の世界では「言わないでね」とつけると話が早く広まるのは常識だったりする。
だから内容とか、約束した相手によるから絶対と言えたものではないけれど
「ナルが言うなっつーなら言わん」
もともと言いふらすのが好きなわけじゃないし。
それに彼が口止めするならそれなりの理由があるのだろうから。
ナルが黙り込む。…ちょっと、その沈黙はどーゆー意味だ。
「…ちょっと待て。じきに全員がくる」
「りょーかい」
…・・・ところで全員ってどっからどこまでだろう。
「ちょっと!なんであの子がいるのよ」
「アンタほんと大人げないな綾子…」
あの子、とはまぁ予想通りというか…厨二こと黒田さんです。ええ。
もう慣れました。というか、今回はちゃんとここにくる理由もあったしね。
昨日の校長室のアレがなんだったか知りたいらしい。うん、彼女も当事者だからそれは当然だよね。
だからナルが教室に戻るように言ったのが少し意外だった。
や、授業があるからってのはわかるんだけど、私には戻るように言わなかったし。
「んで、今日はなにを見せてくれるって?またハジかくまえにやめといたほうが」
こっちにも大人気ないのがいたか。と一つにまとめた中途半端に長い髪をひっぱってやった。
まったく構えてなかったぼーさんの頭がかくんとうしろに引かれる。
「・・・・・あにすんだよっ」
「大人でプロのはずのぼーさんのしっぽをひっぱりましたー」
言いながら手を離す。
「そんなこといって釘打たれても知らないよ?」
真面目な顔で言い放つと意味がわかる三人が同時に噴出した。
ナルはというと意味はわからなくとも不快な気配を感じたらしい。
「みなさんには実験の証人になっていただきます。…麻衣、」
声に棘があった。特に私を呼ぶとき。
怒らないでほしい。馬鹿にしたわけじゃないんだから。
「ジョンも。きのうサインした紙が破れてないか確認してくれ」
「ん。」
うしろでは助手さんがハンディカムで録画をしている。
さっきナルは「実験の証人」と言った。ここは実験室。
校長室のあれと関係のあるなんかの実験だったんだろうけれど。
考えながらレーダーに貼った紙を覗き込む。
「なんともないね」
「ハイ」
「ドアは?」
「んー。変わりありません」
「ハイです」
ところで、ナルさん。その手にあるのはくぎ抜きですかね。
もしやあれを今度ははがすとか言うんじゃ…
直後、ベニヤが吹っ飛んだ。正確には吹っ飛ばされた。思いのほか乱雑にナルがベニヤをひっぺがしたのである。
何がなんだか。な観衆をよそにナルは破壊活動を続けている。そうしてすぐにドアを封じていたベニヤは撤去された。
中に入ると当たりまえだが薄暗い。やっぱりサインしたベニヤ板には何の変化もない。
だけど、これが校長室のアレと関係あるなら変化してるのはきっと…
「…イスが」
案の定、チョークの円の中にあったイスは少し離れたところに倒れていた。
「…渋谷さん、イスが動いてまっせです」
「そうだな」
驚いた様子で報告するジョン。けど、ナルは余裕そうだ。むしろ口元は少し笑っている。
…なんというか、企みが成功したというか…計 画 通 り って感じの笑顔だ。…あそこまで悪役面じゃないけれど。
綾子が声を上げてもスルー。華麗にシカトぶっこいた。
設置したカメラを巻き戻して傍らのモニタで映像を確認して、更にはっきりと笑う。
どうやらナルの"実験"は成功だったらしい。満足そうだ。
「おい、ナルちゃん」
「…ご協力ありがとうございました」
質問受け付ける気0ですかね。
そしてこんなときでもナル呼びとは…ずいぶん定着したな、あだ名。
「僕は本日中に撤退します」
ギブミー説明。
結論だけ言われてもこっちは全く理解不能なのだ。
みんなも同じ意見らしくおい、だとかちょっと、だとか不満の声をあげている。
「まさか事件は解決したとか言うんじゃないでしょうね!?」
「そのつもりですが」
綾子が語気荒く問いただしても淡々と答える。
彼の中では最初の結論"地盤沈下"で答えがまとまっているらしい。
「校長から依頼を請けた件については地盤沈下ですべて説明できたと考えている」
「…待て待て!そんじゃ実験室のイスとおとといの騒ぎはなんだってんだよ」
「あれはポルターガイストだ」
「…ってポルターガイストなんかい!」
あまりに当然のごとく答えるからうっかり口をはさんでしまった。
ぼーさんも軽くコケている。…リアクションの比喩である。
「じゃあ誰が除霊すんだよ。まさか調査だけして帰るつもりか?」
ぼーさんの口調が少し厳しくなった。うーん、確かに誰がやっても除霊は一向に効かない。
ポルターガイストを起こすヤツが無害だとは思えないけど。
「除霊の必要はないと考えているんだが…ご覧になりますか?」
なりますとも。ナルが手元で操作したモニタをこっちに向ける。
そこにはきちんと円の中におさまっているイスが映し出されていた。
数秒後、音を立ててイスが後退し出す。
…しょぼい。
いやいやいや十分奇妙ではあるんだけれども!
けれどもおとといの盛大な足音やら何やらを経験したあとだとどうにもしょぼい気が…
イスはやがて今日発見された位置でひっくり返って止まった。
「立派なポルターガイストじゃねえか!除霊しないと…」
「その必要はありません」
殊更きっぱりと否定するナル。
映像を見る前と変わりないやりとりだし、見たからといって何かわかったわけでもない。
だからギブミー説明っつってんのに!もったいぶるない!
「昨日全員に暗示をかけた。夜、このイスが動く。と」
やっと説明に入っってくれるらしい。
なるほど、校長室のは暗示だったらしい。催眠術というやつだろうか。
「その上でここにイスを置く。窓とドアには内側から鍵をかけた。さらに板を張って封をした」
正直に言うと鍵は意味なかったと思う。
窓ガラスは全部割れてたから簡単に開けられる。
「すると人は通れないし、無理に入れば絶対にわかる」
「…なるほど。それでサインってわけね」
替えが効かないように。
…でも、暗示にかかったからってポルターガイストが起こせるものなんだろうか。生霊?
私のセリフをナルが肯定する。そして一度口をつぐんだ。
何かを躊躇するような彼にちょっと疑問を抱く。けどナルはすぐに言葉を続けた。
「ポルターガイストの半分は人間が犯人である場合だ」
曰く、それは一種の超能力で、本人も無意識でやっていることが多いという。
なにかの原因でストレスの溜まった人の「かまってほしい」「注目してほしい」という欲求から起こるんだとか。
「そういう場合、暗示をかけるとそのとおりのことが起こるんだ」
つまり、今回はその場合―――人間が犯人である場合だったってことか。
「じゃあイスが動いたのは人間のせいだってか?」
「おそらくは。少なくとも、僕はこの方法で失敗したことはない」
そしてその犯人…つーとちょっと印象悪いな。
その該当者は私の中で確定している。というかヤツ以外ではないだろう。多分。
かまってほしくてー、注目あつめたくてー、なんて、まんまアレだ。
中二病の心理だろ。
かまって欲しくてファッションリスカ。注目集めたくて虚言癖。
今も誰かの心に眠る黒歴史…
そっかー…じゃあ私が無駄にアホみたいにケガしたのは
「わ、たし……?」
ほとんどあんたのせいか!黒田さんめーー!!
ナルが黒田さんの方を見ているから正解だろう。いや、みんな黒田さんを見ている。満場一致である。
「そんな…私がやったっていうの!?」
「他の誰より君がやったと考える方が自然なんだ。君には最初からひっかかりを覚えていた」
嘘だと決め付ける対応をしていなくても、やっぱりナルは信じていなかったらしい。
というか、なんだか推理モノの謎解き明かし編みたいになってきた。
謎はすべて解けた!とか、犯人はおまえだ!とか。じっちゃんの名にかけて…はないけど。
大体犯人は「証拠はあるのか!?」とか言う。そして最終的に動機を喋りだす。
ナルに発言と事実の矛盾を突かれて「ウソなんかじゃないわ!」と叫んだ彼女に生暖かい視線を送っておく。
推理モノでいうなら「オレじゃない…!オレはやってない!」と言ったところだろうか。
どちらにしろ「さっさと吐いちまった方が楽になるぞ」と肩を叩いてやりたくなる。
そしてナルの追い込み…もとい説明は続く。
黒田さんの虚言をただの霊感ごっこだと思っていたこと。(いや、ただの霊感ごっこに違いはないんだけどね。)
機械の測定も霊媒師の真砂子の判断でも霊はいないという結果なのにも関わらずポルターガイストが起きた。イコール原因は人間。
その場合大抵はローティーン(つまり中学生前後ですねわかります)の子供や霊感の強い女性。んでさっきも言ってたようにストレスが溜まった人間の無意識下で起こる。
その無意識の底流にあるのは自己顕示欲だとか。まぁ、SOSというか。
「だから、犯人である人物がポルターガイストの標的になることが多い。怪我をすれば同情してもらえる。かまってもらえるという無意識のせいだ」
つまりスケールのデカイ自傷行為じゃん。やれやれ、人騒がせな…ん?
つまりガラスのシャワーも下駄箱の熱烈タックルも必然ってこと…?
つーまーりー私は自傷行為者を庇って巻き込まれてケガしたわけ……?
怪 我 し 損 じ ゃ ん !!!!
庇わなければよかった…!私のアホ…!
「普通の家なら住人の中に犯人がいる。しかし…ここには住人はいない。ではこの中でポルターガイストによって注目をあびた者は?」
激しくショックを受けている私の内心には知らん顔(当然知るはずもないが)で解説を続けるナル。
「該当するのは黒田さんと…麻衣だけになる」
「ぐはっ…」
まさかトドメをさされるとは思っても見なかった・・・!
そうですよ!自傷行為だとは知らずに庇って本人よりも怪我したのはこの私ですよ…!!わっ!!
ショックのあまり立ったまま机に突っ伏しているとぼーさんに慰められた。
「さすがお前のボスだよ」
ちょっと…。その言い方だとなんか私も同類みたいじゃないか。
ナルはナルだからあんなに容赦がないんだい。
「…あの通り能天気な麻衣とくらべて、黒田さんのほうが断然怪しいと判断した」
能天気とか言われてますよ。ちょっと。この数日ストレスだけなら随分溜まってるんですがね。
フラストレーション爆発なんてさせませんよ?だって大人だもん…。私、大人・・・。
「君は中学の頃から霊感が強いので有名で、それで周囲の注目をあびる存在だった」
あー…恵子やミチルに電話で聞いたのはこの話か。
じゃあ私の中学のころの話はなくて困ったんじゃなかろーか。同中出身の子いたっけ。
「君は旧校舎に悪霊がいるといっていた」
いかにも学校の怪談に出てきそうなシチュだもんね。そりゃあ食らいつきますよね。
「だが…もし旧校舎には霊などいず、すべては地盤沈下のせいだとみんながわかってしまったら…?」
「権威の失墜…つまり信用をなくす、と」
ナルが示唆した言葉をぼーさんが引き継いだ。
黒田さんは俯いて黙り込んでいる。
だが安心してほしい。ほとんどみんな「ハイハイ厨二厨二」で流してるから。もとから信じてないから。
まぁそれでも彼女の中でバレてはいけない嘘だったわけで。
それが暴かれるかもしれないという不安がストレスになった、と。うんまぁ、実はすごいよくわかる。その気持ち…。
…それを期にスッパリやめてなかったことにしちゃえばよかったのに…。
んでそのストレスが無意識に自己暗示をかけたわけだ。
そしてそれは正しく行われた。
「ん?でも待って。今回はナルが暗示をかけたんでしょ?ならポルターガイストの原因が人じゃなくても実験ではイスが動いちゃうんじゃないの?」
「…どーゆー意味だ?」
「うえ?えーと…」
わかりにくかったらしい。ぼーさんに聞き返されてうろたえた。
これ以上わかりやすく説明できる自信がありません…!
うまい言葉の捜索届けを発信しているとナルがため息をついてフォローしてくれた。彼には通じたらしい。
「…つまり、強く思っただけで誰にでもできるものなら実験の意味がない、ということだが」
「あー、そうそれ」
「…誰にでもできるわけじゃない。本人に才能がなければポルターガイストは起こらないんだ。おそらく、彼女は潜在的なサイキックだと思う」
「サイキッカー?へぇ、すごーい」
超能力者なんて霊能者と並ぶ異能者じゃん。
黒田さんも霊感じゃなくってスプーン曲げに走っていたら本物になっていたっつーことだよね。チョイスをミスったね、黒田さん。
「本人も意識していないが、ある程度のPKを持っているだろう」
「ぴーけー…」
「念力のことだ」
あ、どうも。ところでその馬鹿を見る目をやめてほしいなぁ。
普通そんな専門用語知らないから。オカルト好きーならともかく、パンピーは知らないから。
「黒田さんにとって旧校舎の悪霊は必要な存在だったんだ。周囲の注目を集めつづけるため…彼女の為に」
淡々としたナルの解説は思ったよりジェントルだった。
もっと容赦なく立ち直れなくなるまでズバズバ言ってもよさそうなものを。
やっぱり彼は微妙に優しい…違うな、やっぱり誠実なんだ。
彼がこういう人だから今この状況があるわけで…
「……運が悪かったっつーか良かったっつーか…」
結局旧校舎は"ハズレ"だったわけだし、ナルたちみたいな"本物"がこなければこうやって突きつけられることもなかったわけだよなぁ…
そう思って呟いた言葉が聞こえていたらしい。黒田さんがこっちを見た。
…や、別に聞かせるつもりで言ったんじゃないんだけど。とちょっと困りつつ言葉を付け足す。
「まぁ、良かったんじゃない?しばらくは自分の今までのセリフに羞恥して悶え苦しむと思うけど」
……思い切り外した気がしなくもない。周りの視線が非常に冷たいです。