第一章
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旧校舎に戻るとぼーさんがぼーさんらしい格好をしていた。
「…茶髪にピアスで長髪の坊主…!!」
何か新しいジャンルが開けそうです。
「じゃーかしぃ!ん?おい、あっちの子はどうした?」
ん?そういや黒田さんがいない。やっと帰ったのか。
つか帰るなら帰るで一言ないのか?…ないのか。
「あー…帰ったんじゃない?」
もう知らん。いや、最初から知ったこっちゃないけど。
投げやりな態度の私にジョンが苦笑しながら訊ねてきた。
「あのう、ところで渋谷さんはどないしはりました?」
…そういえばあの場でジョンは空気と化していた。ごめん。マジごめん。
だから私がナルを引きずって行くのも見ていただろう。
…存在忘れてたわけじゃないんだ。マジごめん。
「はずかしくなって逃げ出したんじゃないの?」
「かもな」
そしてすかさず揶揄をいれる年齢的には大人陣。頭脳がどうだかは知らない。
…成人したからって一人前と胸をはれるわけじゃないって…うん、知ってた。
「病院に行けって追い出しといた」
とりあえず気まずそうなジョンに返事をする。
大人組?スルーだ。
「素手でガラス割ってたからね。
念のために…って言ったけどちゃんと行ったかどーかわかんないけどね」
病院、と聞いて心配そうな顔をするジョンに苦笑しておく。
ジョンいい子!!メンバーの中の唯一の癒しである。
…決して大人陣が心配そうでないとゆーわけではない。多分この人たちもいい人なんだよなぁ。
「まぁ、多分そんな大きな怪我はしてないと思うよ。
指も動いてたから腱に異常とかもないだろうし。
本当に切り傷刺し傷くらいじゃないかな」
「そうどすか?なら、ええやです。
ほんま、誰も大きな怪我せぇへんと良かったでんなぁ」
ですねー。ああもうジョンいい子!!
さて、ここに来た目的を果たしちゃいましょうかね。
まだ残っているモニタから配線を抜いて持ち上げる。
いやぁ、ホントは指示にないことすると失敗したときが怖いんだけどね。
でもいつ倒壊してもおかしくないらしい校舎にむざむざ機材を放置するのも気が引けるっつか…
「あら、ぼーさんの除霊見物しないの?」
「好奇心よりお仕事優先なの」
巫女さん、いや、巫女っぽくないからもう綾子でいいや。ぼーさんもそう呼んでるし。
綾子のセリフで気付いた。これから除霊するからあんな格好なのねぼーさん!
でも仏式のお祓いってお経でしょ。法華経と南無阿弥陀仏しか知らないけど。
葬式とたいして変わらない気もするし、別に見なくてもいいや。
「よろしいのんですか。かたづけてしもうて」
ジョンがコードを回収しながらそう訊ねてくる。
どうやら手伝ってくれるらしい。紳士!!ジェントル!!
「怒られたら謝ることにするよ。
いつ壊れるかわからないトコに機材放置して気が気じゃない思いするよかましっしょ」
へら、と笑ってそう返す。と、綾子が意外そうな口ぶりで言った。
「ボウヤのお説をまだ信じてるわけ?」
「信じるも何も」
心外です!って声が出た。や、心外ですよ。
ナルの説って地盤沈下のことだよね。それがデマみたいに扱われてることとか。(根拠ねぇ!!)
私の行動が全くの無駄足みたいに言われてることとか。(失礼な!!)
もっと柔軟な思考持たなきゃ駄目だと思うのですよ。
「さっきのがポルターガイストだったとしても今まで起こったことの原因が同じとは限らないし」
霊の存在と地盤沈下は二律背反、ではない。
どちらかが証明されたからってもう片方が否定されるってことにはならない。
それに、
「実際地盤沈下は本当に起きてるんだし、この校舎がいつペシャっていくかわからないのも事実なわけじゃん?
運ばないで後悔したら取り返しつかないけど運んでからの後悔だったら取り返しつくじゃん」
あ、データ的に取り返しつかないかも?いやでもどうせナルいないし電源入ってないし……
…………一応レコーダーだけでも仕掛けておこうかな…。
カメラよりは安そうだし…軽いし…
「つーわけで機材は運び出しちゃうよ。除霊頑張ってねー」
一声だけかけて教室を出た。
あの二人も、なんだかんだバラバラには行動しないんだよねぇ。
時刻は7時10分前。
夏ならまだ明るい時間だけど今は春だ。
ハイ、いい感じに暗くなってきています。
「麻衣さん、二階にレコーダー セットしましたです」
「あ、ありがとー」
ジョンに手伝ってもらって思いつくことは全部やった。
足の怪我を気遣ってほんといろいろ動いてくれた。ちょっと大袈裟であります…
「渋谷さんは戻りはりました?」
「いやー…今日は戻らないつもりかもねぇ…」
「さいどすか…しんぱいですなぁ」
そう、ナルが戻ってこない。
あいつも一言足りないよね。今日戻ってこないならそう言えっつーの!!
やきもきさせられるこっちの身にもなってほしい。
「まったく!部下に優しくないボスだなぁ!」
いつもこの調子なら本物の助手さんはさぞ苦労していることだろう。
そうひとりごちる私にジョンは苦笑している。癒し系だ。
「ほんなら、ボクもちょこっと中を見てきますよって」
ボクも、である。
どーやらぼーさんの除霊は滞りなく終わったらしい。
その後さらに綾子がもう一度お祓いをして、今は二人とも校舎を見回りしている。
「はいよ。天井と窓に気をつけてね。危ないと思ったらすぐ避難するんだよ」
「ハイ。麻衣さんも気を付けておくれやす」
苦笑気味なジョンと別れる。
さて、どうするかな。一応7時まで待ってみようか。
つか帰るならぼーさんたちにひとこと言ってからの方がいいか。
待つと決めると時間がたつのは遅い。とりとめのないことが頭の中をぐるぐるしている。
あー…そういえばぼーさんの除霊、チラッと聞こえたのはお経じゃないっぽかったなぁ…。
やっぱり見に行けばよかったかも…いや、解説してくれるナルがいないとわからないか。…や、居ても解説してくれないか。
よし、今度ぼーさんに直接聞こう。そうしよう。
昇降口の正面の階段に腰掛けてそんな事を考えていたら物音がした。
ナルが戻ってきたのかな、と昇降口に目を向けるとそこには
何故か黒田さんがいた。
なーんでーやねーーーん!!
心の中で盛大にツッコんだ私を誰が責められるだろうか。いや、責められはしない!
「どう?」じゃねーーーよ!!何が「どう?」だYO!!
何でお前がココにいるんだよ!!もうわけわかんないよ!!
厨ニ故の…ゲフン、若さ故の勇敢さというか無謀さというか…
そんなもので武装した黒田さんに常識という言葉は通用しないらしい。
一回帰ったならそのまませめて学校まで大人しくしていてほしかった。
「く、黒田さん…やっぱり危ないから帰ったら…?」
「だって、私がいないと霊がいるかわからないでしょ?除霊はすすんでるの?」
あんたがいてもわからんわアホーーー!!!
とにかく早く帰っていただこうそうしよう!私のため?いいやみんなのためにも!
「えーとうんほら一段落したからこれから引き上げるところだよあははははは」
訳:はよ帰れ!!
である。伝わるわけがないね。わかってる。なんかもう疲れてきたよ私。
誰かタイムマシンで10年後くらいの彼女をここに連れてきてくれ。自分でツッコミ入れてくれ。
「……あら、」
そしてタイミングの悪いことに綾子が現れた。
綾子はツッコミはしてくれるものの黒田さんの更なる厨ニ発言を引き出してしまう諸刃の剣なのだ。
「子供の遊ぶ時間じゃないわよ、おうちに帰んなさい。除霊は成功したわよ」
したり顔でそう告げる綾子。イマイチ信用ならない。
確かに何も起こらない。しかし今後また起こるかもしれない。
霊の有無についてもわからない状況で除霊の成功の是非がわかるわけもない。
そして案の定
「……まだ除霊できてないわ」
中ニ病タイムに突入した。
彼女は天井あたりのあらぬ部分を見上げている。
あたかも、そこに何かがいるかのように…
「感じるもの…。まだ、霊がたくさんいる……」
やめてぇーー!!!私のライフはもう0よ!!!
モーションまでつけちゃったらもう色んな意味でアウトである。
助けてドラえもん。自然治癒なんて待ってられる余裕ない。私に。
「また霊感ごっこ?やめときなさいよ。こっちはプロなんだから」
「そのわりにたいしたことないじゃない」
そのイタイ発言に綾子がツッコむ。そして言い返されている。
ごめん、その黒田さんのセリフは間違ってないと思うんだ。
沸点の低い綾子が更に言い返す、前にいつから聞いていたのかぼーさんが割り込んだ。
あ、ジョンもいる。
「だーいじょぶだって!綾子はともかくおれがやったんだから」
「なんですってぇ!?」
そして口喧嘩。ぼーさんは綾子をからかってるような感じだ。
大人の余裕?いやいや、ガキである。やれやれ。
問題は黒田さんをどーやって帰らせるか、だ。
ちなみに前回の頭痛ネタは使えないと思う。
夜の学校に危険を冒して入るテンションが邪魔をするだろう。
……何だか焦燥感でイライラする。
やらなければいけないことをやっていないようなもやもやした不快感。
何だろ…黒田さんにイライラしてるのとはまた違う…
ふいに全員の声が止む。
静かになった廊下に小さな足音が響いた。…多分、二階から。
廊下を小走りするような音はだんだん近付いてくる。
「誰か、いる…?」
「まさか!全員ここに……」
ここに居る可能性のある人は全員ここにいる。
ナルは二階にいるはずはないし、第一あんなパタパタパタ、だなんて可愛い足音ではない。
足音は廊下を走る音から階段を下りる音に変わる。
カツン、カツン、
一段一段、ゆっくりと階段を下りてくる音。
カツン、カツン、カツン、
コトン、と足音が止まった。丁度、踊場のあたり…
と、ぼーさんが駆け出す。
「!ちょ!」
階段を数段飛ばしで駆け上がり、踊場の手前で止まる。
下りてきたモノが、そこにはいるはず。
ぼーさんはきょろ、とその辺りを見回して首を横に振った。
「…誰もいねぇ」
誰か(幽霊とか)いても嫌だけど誰もいなくても不気味っすね!!
原因がわからないって怖いね!!あー…何の音だったのアレ。
まったくどちら様だよ…除霊成功したんじゃなかったんかい…つーか何かいたんかい…
階段を下りてくるぼーさんが釈然としない顔で言った。
「気のせいだろ」
「いやいやいやいや!あんたらあーゆーのをどーにかするために来てるんでしょーが!!スルーしてどうする!!」
がっくがくである。
そりゃね。友達同士で肝試しとかしてこーゆー不思議なことがおきたらなかったことにしますよ?
でもあんたらはそーゆー仕事で来てるんだからそれはまずいでしょ!!
「…風の音よ!」
「それ絶対無理があるからね!?声とか何かが揺れたとかじゃ…あーもーー!!」
見苦しくも言い逃れようとする二人にいろいろ限界に来た。
なにがってそりゃ恐怖心とかイライラとかやり場のない怒りとか、そういうものですよ。
「いーーかげんにしてよね!!何が大人か!!プロか!!」
階段の手すりに拳を振り下ろす。大きな音に驚いて全員が私を注視する。
だが今はそんなの関係ねぇ!!私はきっ、と綾子を睨みつけた。
「綾子!あんた黒田さんに『こっちはプロなんだから』っつったよね?」
ついさっき、ほんの数分前の発言だ。その前にも似たようなことは言っていたと思う。
私の剣幕に驚いてかなにも言い返してこない綾子からぼーさんに視線を移す。……心なしかぼーさんがビクッとしたような…
「ぼーさんもナルを意味わかんないけど罵ったあとに『大人な自分たちはしっかりしよう』的なこと言ってたよね?」
細かいセリフなんかは覚えていないがそんな内容のことを言っていた。
数時間前のことだし、覚えてなかったら若年性アルツハイマーと決め付けてやるさ!
「プロだろうが大人だろうが!自分に言ったことに責任持ちなさい!!できないなら素直に」
謝れ馬鹿!!
そう盛大に啖呵を切ろうとした瞬間、手すりを殴った音とは比べ物にならない大きな音がした。
思わず言葉を止めて天井を見る。
「ノック音……」
ジョンがそう言うが違うと思う。
コレ、ノックなんて紳士的なものじゃないでしょう。
それともノックって普通に叩くって意味ですか、そうですか。
ともかくドンだかバンだか容赦なく校舎を痛めつける音はあちこちから聞こえてくる。
「きゃあ!」
突然の破裂音。蛍光灯が弾けた。
ちょ…オイコラ学校ーーーー!!!!使わなくなった校舎なら蛍光灯抜いとけ!!
机とか椅子とかもそのままなんだなーとか思ってたけど備品くらい整理しとけ馬鹿!!
咄嗟に俯いて手でガードしたからいいものの…って蛍光灯の中身って何か有害じゃなかったっけ…?うぇ…
パニックのあまりエラいスピードで頭が回転している。それもくだらない内容で。
口に出したら数秒かかるだろう量の内容がコンマ数秒で駆け巡っている。
あわあわしている内に再び足音が走り始めた……って激しィーーーー!!!!!
パタパタなんていう可愛らしいものではない。全力疾走だ。
廊下は走っちゃいけませんって叱られるぞおまいら!!…ら!?
なんてっこた!! 増 え て る !!!!
「足音がさっきより増えてはります」
「屋内運動会かよ」
さすがにこの期に及んでシカトこくつもりはないらしいぼーさん。
その例えは言い得て妙だ。…小学校のときとかはいつもこんな感じだったけどね!
「おい、外に出ろ!天井に注意しろよ!」
自分たちは中に残るつもり!?なに考えてんの!?馬鹿なの!?死ぬの…って洒落にならんよ!
この衝撃で下手すりゃマジで校舎潰れるでしょJK!!
そんな思考でおろ、と足を迷わせればそれに気付いたらしいぼーさんが苦い顔で言った。
「『大人でプロ』な俺たちは子供で一般人な嬢ちゃんたちを先に逃がすべきだろ!」
「ら、らじゃ!」
少なくとも素直に反省できる大人らしい。すごいことだと思う。素晴らしい。まーべらす。
黒田さんと二人して背を押された。
そういえばまたか。コイツが居るときばっか災難に巻き込まれてる気がする…。
もたついてる黒田さんの腕を引きながら小走りで昇降口におりる。
後ろではぼーさんたちがいろいろやっているようだがまるで効き目がない。
三十六計逃げるに如かず…って感じかな。
脳内で柔らかい戦車が「撤退ーー」と叫んでいる。
と、目の前の下駄箱が小刻みに揺れているのに気付く。
あるぇー…地震……ではないね。うん。
揺れを感じないのに素晴らしく縦にガタガタ揺れる下駄箱。バイブってんじゃねーよ!!
早く通りすぎようとするが黒田さんがもたもたしている。まじうぜぇ。
下駄箱の揺れはだんだん激しくなる。やっべ、これ倒れるんじゃね?
直後、下駄箱が大きく揺れた。
あ、やっぱり倒れる。そう思うのとほぼ同時に黒田さんを後ろに突き飛ばしていた。
後ろにはぼーさんがいる。自分、ナイス判断。
案の定倒れ掛かってくる下駄箱に反射的に手を伸ばす。
古いつくりのクソ重い下駄箱を当然ながらに支えられるわけもなく。
………ん?あったかい…?
――――――ポルターガイストが動かしたものは
あ、そういえばそんなことを…
「嬢ちゃん!」
くっそ、やっぱ何で備品整理しとかなかったんだ学校め