treasure
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「ぶー!」
マッチが不満そうに口を尖らせる。
「マッチはもう少し待ってて。ルーツのが終わってからやってあげるからね。」
ブラシでルーツの毛を解かしながらミウがいい聞かせるがマッチは不満顔。
「ぶーっ!ぶうっ!」
「あー。ワガママ言ってるとやってあげないんだからね。」
マッチは自分のもふもふの毛並みが大好き。
少しでもヘタったり汚れたりするとこうしてワガママになってしまう。
何よりミウに手入れしてもらうのが大好きなのだ。
「うちのポケモン達はみんなミウにお手入れしてもらうの大好きだもんね。」
「でりょ~☆」
しんじゅにデリくんが同調する。
もちろんデリくんもミウのブラッシングが大好き。
「練習に付き合ってくれるみんなには感謝してるよー。もちろんお姉ちゃんにも。」
この町で暮らして2年が過ぎ、ここでの暮らしもすっかり慣れた。
ミウはトリマーさんになるため学校にも通い、日々頑張っている。
今ではしんじゅとも本当の姉妹のような関係。
子供達とも姉弟のようになっていた。
友達もたくさんできた。
「ぶ~☆」
やっとブラッシングしてもらえたマッチが至福の表情を浮かべる。
そういえば行方不明だった兄も先日戻ってきた。
戻ってきたのだが、またすぐに出て行ってしまった。
じっとしていられない人である。
「あ、材料切れちゃってる…採ってこなきゃ。」
「私採ってくるよ。温室にあるやつでしょ?」
一緒に暮らし、手伝いをするうちにミウも自然と覚えてしまった。
今やどこにどの薬草があるのか覚えてしまっている。
元々、父が作っているのを近くで見ていたので
少しだけ知識はあった。
父も同じ薬師だから。
ちなみに兄も同じだが、たまにおかしな物を作っている。
「………。」
外に出るとすぐ、見馴れた黒髪が目に入った。
庭にあるテーブルに突っ伏し、その傍らには小さなサンダース。
「こんにちは、シュルード。」
「きゅう☆」
サンダースのシュルードが眠っている主を起こそうとしたが、ミウはそれを止めた。
「また夜遊びしてたんでしょ。仕方ないなあ…」
シュルードを抱き上げ、隣にいたマッチの頭の上に乗せる。
ミウが覗き込んでもレキは眠ったままで目を覚ます気配がない。
昼間はわりといつもこんな感じで居眠りしてる事が多い。
原因はレキの趣味である夜遊び、本人曰く宝探し。
夜な夜な出掛けては森の奥や洞窟から色々持ち帰ってくる。
今に始まった事ではなく、幼い頃かららしい。
そのせいで絶えない生傷…
黒髪の隙間からだいぶ薄くなった古傷が見える。
あの、炎の石を取りに行った時に作った傷。
レキは相変わらず見つけた物をミウの所に持ってくる。
受け取るといつも嬉しそうだからついついミウも受け取ってしまう。
「今日は何を持ってきたのかな?」
やはり、右手に何か握られている。
「ぶー!ぶしゅた。」
催促するようにマッチが鼻先でミウをつついた。
「…そうだった。温室行って薬草採ってこなきゃ。ほら、レキ。起きて。」
眠っているレキを揺すって起こす。
レキは寝ぼけ眼でミウを確認すると、右手に握っていた物を差し出した。
それは1つの炎の石。
ミウはそれを受け取り、笑って言った。
『ありがとう。』
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