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treasure



しんじゅの所へやってきて数日だが、ミウは既にこの家に馴染みつつあった。
兄夫婦には2人子供がいて、2人ともすぐに懐き、打ち解けた。
しんじゅはミウと子供達を分け隔てなく扱ってくれる。

「そういえば、あの後シアル君ってどうしたの?」

この町まで連れてきてくれたシアル。
港ではぐれたきりで気になっていた。

「あー。あの後仕事があって、そのまま研究所に行っちゃったから。頼み事を最後までやり遂げられなかったくせに文句ばっかり言うんだもん。あり得ない。」

しんじゅが不満そうに目の前にある葉を取り、沸騰した鍋の中に入れる。

「…それ、私のせいだし…あまり怒らないであげてほしいな…」

怒られるシアルを想像すると申し訳ない。

「ミウは気にしなくていいのっ。いっつも屁理屈ばっかりなシアルがいけないんだから。まあ、今回はシアルに仕事がある中で頼み事しちゃったワケだし…折れてあげたけどー。」

しんじゅが鍋をかき混ぜると中のお湯が緑色に変わる。
漂う独特の香り…
しんじゅもミウの兄と同じく薬師。
自分で薬草を育て、薬を作り、売っている。
家はお店を兼ねていて、様々な薬が置かれていた。
ちなみにほとんどがポケモン用だが、しんじゅによれば人にも一応効かない事はないらしい。

「まあ、気になるんならそのうち研究所の方覗いてみたら?その前に向こうから来るかもだけど。」

シアルはポケモン研究員でこの森の反対側にある山裾にある牧場の敷地に研究所を構えているらしい。
改めてポケモン研究員だと思うと、聞いてみたい事がたくさんある。

『でりょ!でりょー!』

店の方からしんじゅのデリバードのデリくんが呼ぶ声がした。

「…お客さんが来たのかな?ミウ、私手が離せないから代わりに出てくれる?薬の事ならデリくんに聞けば分かると思うから。」

「分かった。いこ、マッチ。」

「ぶ。」


マッチを連れて店に出たミウはカウンター越しに立っている人物を目にして驚いた。
同じ町に住んでいるのだから、彼がここを訪れても何ら不思議では無いのに。

「でーりょ。でりょ。」

デリくんがミウに手招きする。

「ええと…お薬買いに来たの?」

ミウが尋ねると彼は首を横に振った。

「ううん。俺が用があるのはミウだから。一緒に来てほしいんだ。」

「…でも…」

「でりょ!」

デリくんが行け、というように頷いた。

















「悪かったわね!」

「らい…」

目の前の少女とライチュウにミウは困ったような顔をした。

「ぶー…」

マッチは不満気に少女を見ている。

レキに連れられて来たのは浜辺だった。
そこにいたのは何故かマッチを自分の物にしようとしたあの少女とライチュウ。
口では謝っているが、態度は全然反省しているようには見えない。

「…モカ、人に対して謝る態度とは思えないよねえ…。父さんにまた"かみなり"落としてもらいたいワケ?」

「!」

レキの言葉に少女とライチュウは慌てて頭を下げた。

「すみませんでしたああああああっ!」

「らい──────っ!」

態度の変わりようにミウは腕組みをして少女の脇に立つ少年、レキに視線を向けた。

「…私は…マッチが無事だし別にもういいんだけど…。やっぱり人のポケモンを捕まえるのはいけないって思うな。」

「ぶー!」

マッチも何度も頷く。

「分かったわよ!だから謝ったでしょ!」

「モカ。か・み・な・り…」

「~っ!!お兄ちゃんしつこいっ!」

"お兄ちゃん"
聞き間違いでなければ少女はレキに向かってそう言った。
そういえば、ミウはレキとレキの父は知っているが家族の話は聞いたことが無かった。
兄妹のやり取りを黙って見つめる。
何度も少女、モカがレキに突っかかっていくがレキは涼しげな顔をしてあしらっていた。
だんだん涙目になってくるモカ。
ミウは堪らず口を挟んだ。

「もういいって。ね、マッチ。」

「ぶ。」

マッチがそっぽを向く。
どうやらマッチはまだご不満なようだ。

「あ…。だ…だからその辺にしてあげてほしいな…なんて…」

「…モカ。ミウの優しさに感謝しなよ。」

レキがため息混じりに言うと

「うるさいっ!お兄ちゃんのバカ!」

そう捨て台詞を吐き、モカは逃げるように走り去ってしまった。
慌ててライチュウが追いかけていく。

「…妹…いたんだ…」

「あー。そういえば言ってなかったっけ?モカっていうんだけどいつもあんなカンジなんだ。今回は父さんにいつもよりたくさん怒られたからね。ちょっとは懲りたかな…たぶん。」

レキがマッチを撫でた。

「久しぶりだね、マッチ。」

「ぶー!」

マッチは嬉しそうにレキにすり寄る。

「…ミウも久しぶり。」

背も高くなって、声も変わったけど笑顔は変わっていなかった。

「マッチ、進化したの戻せないよねー。…もう少し早く声掛けたら良かったな。」

「それは!!いいの。マッチ、進化できて嬉しそうだし。私もずっと…ブースターにしたかったんだもん。だから、いいの。」

「…そうなの?」

「うん。ね、マッチ。」

「ぶしゅたー☆」

マッチが大きく頷く。
やはり、マッチは進化できて嬉しいようだ。

「港でミウの事見掛けた時、マッチがまだイーブイだったから進化させるの嫌になっちゃったのかと思った。」

「港…?」

「実は港にミウが着いた時からずっと見てたんだ。…声掛けるタイミングが分かんなくて…マッチがあんな事になっちゃって…」

マッチを進化させたいという気持ちはずっと変わっていなかった。
ただ、レキにもらった石だから使うのを躊躇っていただけ。

「ミウ…石いらないって言ってたから…」

「!!ちがうの!」

やっぱりレキは分かっていない。

「進化させるのが嫌になったから石、いらないって言ったんじゃないの。石、探しに行ってレキがケガしたんだって思ったら…私がマッチをブースターにしたいって言わなかったら…」

「俺、ただミウに喜んで欲しかっただけなんだけどな…。石あげたら喜んでくれるってしか思わなかった。」

レキはミウが喜ぶと嬉しそうにしていた。
あの時もただ、ミウに喜んで欲しかっただけなのだろう。

「…レキがケガしてたら私は喜べないし嬉しくない…。それは…ダメなの。」

「…ごめんね、ミウ。」


いつの間にかマッチは水際に行っていた。
押し寄せてくる波に触れ、何やらビックリしている。
大慌てて水際から離れ、身震い。
どうやらブースターに進化したせいか、水が苦手になってしまったようだ。

「…マッチが進化できたの、あの石があったからなんだ。レキのおかげだよね?」

ミウはレキに笑って言った。


「ありがとう。」


それを見て、レキも嬉しそうに笑った。


「でも!もうあんなのダメなんだからね!危ない事はしないこと!」

ぷうっと頬を膨らませてみせる。

「あー…うん………気をつける…一応…」

どうにも歯切れが悪い。
訝ったようにミウが覗き込むが、目を合わせようとしない。

「…なんなのかな?その反応は…」

「あああ…あの後さ。学校始まっちゃってミウに会いに行けなくなっちゃったし、休みになったらミウは旅に出ちゃったって聞いてどうしようって思ってたんだー。」

「学校?…レキ、学校に通ってたの?」

友達だけど、お互いについてあまり知らなかったんだと改めて感じる。
この町で暮らせばもっとレキの事を知れるだろうか…
そう考えると嬉しくなった。




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