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treasure


「ぶー…」

ふと、こちらを見つめるマッチと目が合った。
さっきまでイーブイだったのに今は全く違う姿。
撫でてあげれば触った感触も全然違う。
増したもふもふ感…

「ばう。」

ルーツも心配そうにミウを覗き込む。

「ケガしてない?」

「…うん。」

伸ばされた手を取り、ゆっくり立ち上がる。
目の前の少年はミウより背が高くて握った手も少し大きく感じた。

「きゅ。」

少年の肩の小さなサンダース。
この子は全然変わっていない…

「…なら良かった。それじゃ行こうか。」

「え。…どこに…?」

彼は答える事無くミウの手を引いて歩き出した。












握られた手は温かかった。
言葉を発する事無く、ただ歩き続ける。
お店が建ち並ぶ通りを抜け、人通りの少ない道へ…
どんどん道を外れた方へ向かっていく。
前を歩く少年の背中。
ミウの記憶よりもだいぶ背は伸びているが、髪色と瞳の色は変わらない。
さっき聞いた声は少し低くなっていた気がする。
何度も呼び掛けようと思ったが、何を言えばいいのか分からない。

ミウの隣を歩くマッチは足元をちょこちょこ歩いていた時とは違いミウの腰位の高さがある。
もう、抱えて歩くのは無理そうだ。
歩く度に揺れるもふもふ。立派なもふもふ。
その後ろを歩くルーツももふもふだが、今のマッチには敵わない。
マッチは自分のもふもふさが気になるのか、時折首回りや尻尾を自分で触って確かめている。
その様子はとても楽しそうに見えた。

「少し待ってて。」

足が止まる。
そこでミウは初めて自分が森の中にいる事に気がついた。


森の中に切り開かれた場所に建つ一軒のログハウス。
入り口には可愛らしい看板。
小瓶や植物の絵が描かれている。
建物の周りには花壇に畑…
木々がきちんと手入れされているためか、森の中なのに光が射し込んでいてここは薄暗くない。
畑の奥には温室のような物も見える。

少年は建物に入ってすぐ、ミウより少し背が高い位の少女を連れて出てきた。

「じゃ、後はお願いします。」

そう少女に言うと、そのまま走り去ってしまった。
ミウは話したい事があったはずなのに、最後まで声が出なかった。
ただ、小さくなっていくその背中を見つめるだけ。
せっかく会えたのに…

「ミウ。疲れたでしょ?中に入って。」

「え!あ…」

声を掛けられハッとする。
金色の髪に青い瞳の少女は笑顔でミウを建物の中へと促した。
















「やーっと会えた!今まで会う機会なかったし。」

少女はミウの手を握り、少し興奮気味に言った。

「はじめまして、ミウ。私が貴女の"おねえさん"のしんじゅ。」

「ええっ!?」

ミウが驚くのも無理はない。
目の前にいるのはミウより少し年上位の少女なのだ。
背もミウとそんなに変わらない。
可愛らしい女の子としか思えない…
兄の奥さんであり、2人子供がいるとミウは聞いていた。

しんじゅはちょっと誇らしげに胸に手を当て、満面の笑みを浮かべている。

「シアルから港ではぐれたって聞いて心配してたんだけど…レキがいてくれて良かった。ほんっとシアルってば抜けてるんだから!」

「あのっ…」

シアルの言葉が頭を過る。

"しんじゅさんに怒られる"

「シアル君のこと、怒らないであげてください!はぐれちゃったの…私のせいだし。シアル君は待ってろって言ったのに…私…その…マッチがいなくなっちゃって…」

「うん。分かってる。」

しんじゅはマッチを撫でた。

「レキから聞いたし。町に着いてすぐ大変な目に遭っちゃったね…。…ごめんね、ミウ。色々と。ソラがああなのは今に始まった事じゃないけど今回のは私も呆れてるんだ。だって、自分の妹の事なのに!」

頬を膨らませて不満そうな表情を作る。

「どうせ生きてれば帰ってくるんだからソラの事はいいの。でも、ミウの事は違うでしょ?自分がいなくなれば独りになっちゃうって少し考えたら分かる事なのに!ミウは私の妹でもあるんだから。ねえ、マッチ。」

「ぶぶうー?」

ぷりぷりと怒ってみせるが、全く怖くはない義姉。
むしろ可愛らしく見える。

「ミウ。おかえりなさい。」

そう言って、しんじゅはミウを抱き締めてくれた。








「マッチ…」

改めてマッチを抱き締める。
もふもふでとても温かい。

「ブースターになったんだね、ホントに。」

「ぶぶっ☆」

あの時、マッチは自ら望んで炎の石を咥えたように見えた。
単に目に入って拾おうとしただけなのかもしれないけれど、少なくともミウにはそう見えた。

「マッチは…ずっとブースターに進化したかったの?」

「ぶー☆」

とりあえず今の自分の姿は気に入っているようだ。

「そっか。ずっと進化させたいって言ってたんだもんね。…あ、言ってたのは私か。」

「ぶぶっ☆」

「ブースターになれたね、マッチ。とっても可愛いよ。」

「ぶう──────☆」

マッチはとっても嬉しそう。
進化してしまった物は戻せないし、炎の石も戻ってこない。
あの日、受け取るのを拒否した炎の石を理由はどうあれ使ってしまった。
これは元々、ミウも望んでいた進化。

「…お礼、言わなきゃだよね。」

「ぶ?」

石をくれたのは彼。
マッチをブースターにしたいミウのために手に入れてくれたのだから。





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