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treasure




眠れぬ一夜を過ごし、朝になるとシアルに連れられ兄と暮らした家を後にした。
ピジョットのピジーに乗ってあっという間に着いたのは港。

「ここからは船で海を渡ります。僕一人ならピジーでそのまま行ってもいいんですが、沖は風が強くて危ないですから。」

促されて港に停泊していた船に乗り込む。
船に乗るのはいつぶりだろうか…
こんな状況でなければ、船に乗って海を渡るのも楽しかったかもしれない。

「ぶーい?ぶい。」

ずっと黙ったままで元気がないミウをマッチが心配そうに見上げる。

「町での暮らしにもすぐ慣れると思いますよ、ミウなら。」

「にゃあ。みゃあ。」

シアルにユウが同調する。

「僕もいますし、知らない人ばかりじゃないですから困ったらみんな助けてくれますよ。ミウの見知った子達もいますから。」

「…知ってる子…?」


直ぐ様思い浮かんだのはミウにとって大切な友達の姿。
炎の石の一件があったあの日以来、彼とは会っていない。
結局マッチも旅の中でブースターに進化させなかった。
あの時の怪我はちゃんと治っただろうか…

「…シアル君。」

「何ですか?」

「レキ、元気にしてる?」

「レキ?ああ、はい。元気ですよ。そういえばミウはレキと仲良かったですもんね。」

「うん。でも、最後に会った時ケンカしちゃって…」

ミウはマッチを抱きしめ、もふもふの毛に顔を埋めた。

「…私…レキに怪我させちゃったから…」

マッチをブースターにしたいと言わなかったら、レキは石を手にいれようとしなかったし怪我もしなかったのではないか…
ずっと胸の奥に引っ掛かっていた。

「…なるほど。でも、ミウは悪くないでしょう。ミウはお願いしたわけではないんですから。それは勝手にレキがやって勝手にした怪我なんですから。」

ミウの話を聞いたシアルは呆れたように言った。

「それに、アレは言ったからってやめる事もないんですよ。気にするだけ無駄です。気にしたら友達として付き合っていけないですよ?」


あの、炎の石は使われる事なくミウの手元にずっとある。
カバンに兄がこっそり忍ばせていたのに気付いたのは旅に出て少し経ってからだった。


「気になるんなら直接本人と話したらどうですか?スッキリすると思いますよ。ねえ、マッチ。」

「ぶいっ☆」

マッチが嬉しそうに返事する。

たしかにその通りかもしれない。
けど、彼を前にした時に自分は冷静でいられるのかちゃんとお話できるのか。
自信が無かった…







船から降りると港は人で混雑していた。
人混みの中マッチを抱く腕に力を入れ、ミウは
必死にシアルの後をついていく。

「…はあ…」

夕べあまり眠れていないのも重なり、港に着いたばかりでもうヘトヘトだった。

「大丈夫ですか?」

「…疲れちゃった…。人いっぱいだし、シアル君歩くの早いんだもん…」

膨らませたミウの頬にシアルが冷たい缶を押し付ける。

「少しここで待っててください。僕、ちょっと電話してくるんで…」

「…うん。」

ゆっくりとベンチに腰を降ろす。

「すぐ戻ってきますからね。」

シアルは人混みの中に消えていってしまった。

マッチはミウの足元でキョロキョロと目の前を行き来する人の波を目で追っている。
ぼんやりと人の流れを見つめていると、ブースターを連れている人が目に留まった。
石を使えば、マッチもブースターになれる。
マッチはどう思っているんだろう。
進化したい?したくない?
ずっとブースターにすると言い続けてきたのにマッチはまだイーブイのまま。

「ねえ、マッチ………あれ?」

足元に目を落とすと、その姿がどこにも無い。

「マッチ!!」

気が付くと駆け出していた。
初めて訪れた町。
もちろん右も左も分からない。
道に迷う事など微塵も頭に無かった。
ただ、必死だった。

モンスターボールを取り出して放る。

「ばう!」

出たのはトリミアンのルーツ。

「お願いルーツ!マッチを探してほしいの!」

「ばうっ!」

ルーツは頷くと地面の臭いを嗅ぎはじめた。

──クンクン…クンクン…

ルーツが一歩一歩歩みを進めていく。
今はルーツを信じるしかない。ルーツだけが頼り。早くマッチを見付けなくては…

「ばう!わう!」

突然ルーツが走り出した。

「あっ…ルーツ!待って!」

大きな通りを逸れ、裏路地へと入っていく。
狭い路地は建物の影になっているせいか昼間でも薄暗く感じる。

「ばうばうばうばうばうばうっ!」

ルーツの激しく吠える声が路地裏に響く。
ミウが追い付いても吠えるのを止めない。

「ばうばうばうばうばうばうー!」

「ちょっと~!何なのよこのポケモン!」

「ばうばうばうばうばうばうわうわう!」

ルーツと向かい合うように一人の少女が立っていた。
今にも飛び掛かりそうなルーツに怯んでいるその腕に抱かれていたのは赤いリボンを着けたイーブイ。
そのリボンはミウが着けた物だった。

「マッチ!」

「!ぶいいぃー!」

名前を呼ばれたマッチが少女の腕で暴れる。

「ぶいい!ぶいいー!」

「その子、私のイーブイなの!返して!」

「嫌よっ!」

少女はマッチを抱えたままそっぽを向いた。


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