treasure
「ぶい。」
目を覚ますと、イーブイのマッチが上からこちらを覗き込んでいた。
ゆっくりと体を起こし、周りを見回してみる。
薄暗い部屋。
とても静かでガランとしている。
「…寝ちゃってた…」
「ぶいぶい?」
マッチを抱き寄せて大きく息を吐く。
「…お兄ちゃん…」
誰もいない家。
旅に出る前、ミウはここで兄と2人で暮らしていた。
けれど今、兄の姿がここには無い。
旅に出たミウは色んな町に行き、色んなポケモンと出会い、たくさんの発見や体験をした。
やりたい事も見つけた。
帰ったら兄に話したい事がたくさんあった。
「どこ行っちゃったのかな…」
「ぶい。」
薄暗かった部屋はあっという間に真っ暗になっていた。
空気が一気に冷たく感じる。
兄の帰ってくる気配は全く無い。
暗闇のせいで不安が増してくる。
このまま、兄が帰ってこなかったらどうしよう…
今のミウに頼れる人間はいなかった。
両親は旅をしていて、今どこにいるか分からない。
家はあってもここからは遠いしそこには誰もいない。
───ガタッ…
「!」
暗闇に突然音が響く。
「…な…に…?」
マッチを抱く手に力を入れた。
コツコツと近づいてくる足音。
人の気配がする。
兄が帰ってきたのだろうか…
「ぶい!」
「あっ…マッチ!」
するりとミウの腕を抜け出し、マッチが部屋のドアに駆け寄った。
「ぶい!ぶいー!」
ドアに向かって呼び掛けるように鳴く。
すると、その声に反応して足音が止まった。
───ギィ…
ゆっくりとドアの開く音。
真っ暗だった部屋が明るくなる。
「おかえり、ミウ。」
「…えっ?」
ドアを開けた人物を確認してミウは何度も目を擦った。
そこに立っていたのは思い浮かべたのとは違っていた。
「ぶい☆」
「にゃあ。」
マッチは立っている人物と一緒に入ってきたニャースと挨拶を交わした。
「マッチもおかえり。」
「ぶいぶ~☆」
嬉しそうに尻尾を振るマッチとは対照的にミウは固まったままだった。