treasure
「ミウはマッチをどの子に進化させるの?」
その問いに膝の上のイーブイを撫でながら答える。
「ブースター!イーブイのままでも可愛いけど、たくさんもふもふしてるブースターがいいの!だからマッチはいつかブースターにするの。ね。マッチ。」
「ぶい?」
よく分かっていないのかマッチは首を傾げた。
物心ついた時から両親に連れられ、あちこち旅してきたミウにとって同い年の友達はとても貴重だった。
親の気まぐれで年離れた兄の元で暮らし始めてからすぐに仲良くなった兄の友人の息子。
名前はレキ。
とても大切なミウの友達。
「…どうしたの…それ…」
頬には擦り傷。
左手首に巻かれた包帯。
額にはかなり大きめの絆創膏。
大切な友達の姿にミウはショックを受けていた。
「あー…。うん…岩場から落っこちちゃって…」
困ったように差し出されたのは石。
「これでマッチをブースターに進化させられるよね?」
欲しかった炎の石。それがあればマッチはブースターに進化できる。
たしかにずっとマッチをブースターに進化させたいと思っていた。
けれど、目の前の石にミウの手は伸びない。
この石をどうやって手に入れた?
そしてその怪我は…
「…ねえ。」
「うん?」
「その…ケガ…この石のせい…?」
ミウの問いに困ったように笑うだけでレキは
答えなかった。
それは、肯定していると思わせるのには十分だった。
ミウの手はレキの手を払いのけていた。
「ぶいっ?」
足元にいたマッチが驚いてミウを見上げる。
「いらない!そんなのいらないもん!」
自分が言わなかったら怪我なんかしなかったのに。
そう思うとものすごく苦しくなった。
「ミウ、どうして怒るの?マッチをブースターにしたいって言ってたでしょ?」
石を拾いながらレキがミウに尋ねる。
「ぶい…」
二人の様子にマッチはオロオロするばかり。
「………。」
ぱたぱたと床に落ちる雫。
「ぶいぃ…」
雫が濡らした床をマッチが見つめる。
その時、静まり返った部屋の外からレキを呼ぶ声がした。
レキは一瞬、行くのを躊躇うかのようにミウに視線を送ったがミウがそれに合わせる事は無かった。
部屋を出ていくレキが困ったように笑い、ドアは閉じた。