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【ワートリ】迅ヒュ【全年齢】

 今日はやたらと乾燥した日だった。唇がカサカサと乾燥して、気になった。頻繁に舐めてしまったのがよくなかったらしい。
「っ……」
 ぴりっと唇の薄い皮膚が裂け、少量の血が出た。ヒュースは少し前を歩く迅の袖を引く。
「迅、ティッシュはあるか?」
「どうしたの? って、血が出てるじゃん」
 振り返り様に迅はヒュースの顔を両手で挟む。少し上に向かせて確認しているようだった。
「唇、切れちゃったのか……痛そう。ヒュースはリップ持ってないの?」
「なんだそれは?」
 迅は懐からポケットティッシュを一枚取り出すと、ヒュースの唇をそれで押さえる。
「うーん簡単に言っちゃうと乾燥を防ぐ軟膏かな。リップクリームって名前で売っててね」
「それを買えばこの乾燥に耐えられるのか?」
「あるのとないのとじゃ全然違うよー。そこのコンビニにあるから買おっか」
 ヒュースの唇からの出血が止まったことを確認すると、迅は近くのコンビニを指差した。
 一緒にコンビニの中へ入ると、迅がリップクリームが置いてある棚へ案内してくれた。
 商品を見るとスティック状の軟膏になっていた。いくつか種類があるようでどれを選んだらいいかわからない。
「迅……」
「あー種類多いよね。おれが使ってるやつと同じでいい?」
「効き目があるやつならなんでもいい」
 そう答えたら迅は白いケースのリップクリームを手に取った。そのままレジへと持っていく。どうやら買ってくれるらしい。
 会計が終わり、外に出ると迅はリップクリームのパッケージを開けた。
「塗ってあげるから、こっち向いて~」
「ん……」
 素直に迅の方へ向くと、スッと目が細められる。少しだけ口を開かされて、リップクリームを唇に当てられた。左右、上下に塗られる。
「はい、終わり。最後に口閉じて、んってやってみて」
 どうやら最後に唇をあわせて塗り込むらしい。迅の作った表情を真似て塗り込んだ。
 軟膏なだけあって、唇がベタベタとする。だが、朝から感じていた乾燥は嘘のように消えた。
「できたぞ」
 そういうと迅がニヤニヤと気持ちの悪い笑いかたをしていた。
「なんだその顔は」
「いや、おまえがかわいくって……」
「ただ、軟膏を塗っただけだぞ」
「キスしたいくらいかわいいよ。ヒュース」
「なっ!?」
 公共の場でとんでもない事を言い出した迅から一歩後ろへ下がって逃げる。ここはコンビニの駐車場だ。キスなんてされたらたまったものではない。
「冗談だよ」
「冗談じゃなければ手が出ている」
 目の前で拳を作ると、平手じゃないのかと迅が騒いだ。
「っと……忘れてた。ヒュース、これ、ちゃんと使ってね」
 先ほど使ったリップクリームを渡される。素直に受け取って、パーカーのポケットの中へしまった。
「ふん……助かった」
「素直にありがとうって言っていいんだよ?」
「言わん!」
 からかってくるならば言わない。
 迅をおいてヒュースはすたすたと歩きだす。
「ちょっと待ってよ!」
 慌てた迅がヒュースを追いかけていった。

 そんなやりとりをした数日後、夕食の買い出しを迅と頼まれてまた二人で出掛けた。ひとりでもお使いくらい行けると言ったが、日本語が読めないからだめだと支部の連中に説得された。ちなみに納得はしていない。
 今日も生身に帽子をかぶって外に出た。スーパーへ向かう途中、パーカーのポケットに手をつっこむ。唇が乾燥してきたので、迅に買ってもらったリップクリームを使おうと思ったのだ。ポケットを漁るがリップクリームが入っていない。
 なぜ入っていないのか記憶をたどる。そういえば、自室で使ってデスクの上に置いた気がした。
 唇が乾燥して、舐めたくなる。だが、せっかく治ったのにまた切れてしまう気がした。こうなれば我慢だ。
 しかし時間が経つにつれて、かさかさして不愉快だった。徐々に眉間に皺が寄る。
 ヒュースは隣を歩く迅を見た。
 たぶん彼は持っているはずだ。少し癪だが背に腹は代えられぬ。
「迅、リップを持っていたら貸してくれ。忘れてきた」
 迅の袖を引いて顔は背ける。迅に頼みごとなど本当はしたくはない。少しの間があってから迅は快く返事をした。
「いいよ~ちょっと待ってね」
 迅が取り出したリップクリームのパッケージはオレンジ色をしていた。
「オレのと違う……」
 借りたリップクリームをじっと見てヒュースは呟く。確か自分が持っているものと同じものだと言っていたような記憶があるのだ。
「あぁ、ヒュースのは無香料でおれのははちみつの香りだからね」
「はちみつ……」
 香りだけなのか? 舐めたら甘いのだろうか?
「好奇心に駆られて舐めちゃダメだからね!」
 どうやらサイドエフェクトで先を見たようだ。釘を刺された。
「そんなこと、わかっている……」
 蓋を開けて借りたリップクリームを唇に押し当てる。上下左右に塗って、最後に擦り合わせる。少しだけ開いた唇からはちみつのいい香りがした。甘そうないい香り。舐めたくなるがそれでは軟膏を塗った意味がない。これからスーパーに行くのだから、はちみつを使った菓子を迅に買わせればいいのだ。
 リップクリームを返そうと迅に差し出す。
「迅、助かっ……」
 リップクリームを持った方の手首を強く捕まれる。もう片方の手は指を絡ませながら繋がった。そのまま真横の外壁に体ごと押し付けられて唇を奪われる。
 今、軟膏を塗ったばかりだと言うのに。
 無理矢理唇を開かされて、迅の舌が入り込んでくる。舌を絡めとられ吸い上げられた。
「ッツ……」
 迅の瞳が怖いくらい鋭かった。ゾクリと背中になにかが駆け抜ける。
 必死で迅のペースに食らいついて舌をからめた。方向を変えて何度も夢中でキスをする。口の端から唾液が伝う。ぼんやりと思考が曇って気持ちがいい。
「んぁ……じ、ん」
 キスの合間に名を呼んで、指を絡めた方の手に力を入れる。
 すっかり唇に塗ったリップクリームが取れる頃に、やっとヒュースは解放された。涙目で迅を睨むが、ちゅっというリップ音と共に口の端にキスをされただけだった。
 腰が抜けてその場でずるずるとしゃがみこむ。
「じんっっ!!」
「ご馳走さま」
 満足そうな笑顔を浮かべて、迅もしゃがむ。迅と目線があった。
 少しずれたヒュースの帽子に迅は手をかける。位置を直しながら彼は言った。
「ねぇ、今夜部屋にいってもいい?」
「ッッ……! す、すきにしろ!」
 手の甲で顔を隠すと、借りたままのリップクリームが目にはいった。
「リップ、おれがまた塗ってあげるよ」
「……貴様は変な気を起すから、自分でやる」
「残念……」
 次こそ、きちんとリップクリームを塗って迅に返す。
 ここが人通りの少ない道で良かった。そもそも、人が通るようなら、この男がキスを仕掛けてくるはずもないが。
「迅、スーパーではちみつを使った菓子を買え」
「いいよー、大きいの買って支部のみんなと食べよっか」
 機嫌良さそうに笑う迅に手を差し伸べられたので掴む。立ち上がってそのまま指を絡ませて手を繋いだ。
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