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【ハガレン】ロイエド【全年齢】

 エドワードが、アルフォンスと共に報告書を出しにイーストシティへもどると、オフィスが騒がしかった。アルフォンスと首を傾げながら中へはいると、ハボック達がなにやらバタバタとオフィスを走り回っていた。
「なんかあったの?」
 そう尋ねるとハボック達は涙目になりながらエドワード達にすがった。
「いいところに!!」
「お帰りなさいエドワードくん、アルフォンスくん!!」
「大佐が仕事を残して逃げたんだよ!」
「捕まえるのに協力してくれ!!」
 鬼気迫る彼らのすがりっぷりに気圧される。思わず縦に頷いてしまうほどに、彼らは追い詰められているように感じた。
「お、おう……いいけど、オレも報告書出さないといけないし」
 これで大佐に対抗できると喜んでいる。どうやら、ロイは錬金術を使って逃げ出したらしい。なにをやっているんだと頭を抱えたくなった。
 そしてふと疑問が浮かんだ。ひとりいないのだ。一番ロイの脱走など許さない人物が。
「というか中尉は? 大佐の脱走なんて中尉は許さないだろ?」
「ホークアイ中尉、今日はお休みなんです~」
 フュリーが半べそをかきながら答えた。
 なるほど、状況が把握できた。リザがいないから脱走が容易だったわけだ。
 それにしても、いつもならリザがいなくともブツクサ言いながら仕事はするのだ。あの男は。ならば脱走した原因があるはずだ。
「なぁなぁ今日、大佐、上の人にイジメられたりした?」
「あー、ありがたいお言葉は貰ってたよ。セントラルからきた将軍に」
 接待でな。そうハボックは付け加えた。
 どうやらロイはそれで気力を使い果たしてしまったようだ。それならば、視察と称して逃げたフリだろう。多分、執務室に立て籠っている。
「わかった。多分そんなに遠くには行ってねぇと思う。見つけてちょっとやる気にさせてきてやるよ」
 エドワードがそういうとみんなが喜んだ。ロイの居場所に心辺りがあるといって、みんなには仕事へ戻ってもらった。アルフォンスも書類整理の手伝いを買って出たので人手は足りるだろう。
 さて、ロイをやる気にさせるために、まずはコーヒーを用意してこよう。
 エドワードはコーヒーを淹れに給湯室へ向かった。


「あーやる気がでんな……」
 ぼそりと小声で呟く。ちらりと自分のデスクの上を見れば、将軍に押し付けられた書類が山になっていた。本当に今やらねばならない仕事なのだろうかこれは。
 ペラペラと捲って見れば、全く急ぎではない上に内容も自分の管轄外である。なぜ、中央の仕事を急ぎと言われてやらなければならないのだろうか? そもそもこれはあの将軍の仕事ではなかろうか?
「はぁ……」
 ダラダラと進めてはいるが、一向に前進しない。視察と称して外の空気は吸いに行ったが、気が重いままだ。部下に指示を出すのも億劫になるほど……
 机に突っ伏していると、執務室のドアが叩かれる。叩いたと同時にドアノブが回された。しかし、この部屋の鍵は内からかけてあるので開く事はない。ひとりにしてほしくてそうしたのだ。
 部屋のドアノブが何度か回され、ガチャガチャと大きな音を立てている。
 早く諦めて去ってほしい。
 しばらくすると開けようとした人物はやっと諦めたのか静かになった。しかし、それも一瞬の静寂だった。バチバチと大きな音と共にドアの横に別の扉ができたのだ。
 ぽかんと口が開いてしまう。
 こんな事をする人物はひとりしかいない。
 別口の扉から堂々と部屋へ入ってきた子供は呆れた顔をしていた。
 呆れたのはこちらの方だ。
「大佐ぁ〜鍵かけて立て篭もるなよな。めんどいからさ」
 そう言って別口の扉を閉める。器用にコーヒーが入っているであろうマグカップを抱えたまま手を合わせて別口の扉を元の壁に戻した。
「鋼の……」
「みんな、大佐が逃げたって言って困ってたぜ」
 デスクまでやってきたエドワードはマグカップを置いて、肩をすくめる。
「逃げてない。ちょっと休憩に行くと言っただけなのだがね」
 休憩すらとらせて貰えないのか。酷い部下達だ。
「錬金術使って脱走するのは休憩に行くことになるのかよ……」
「ちょっと煙幕を作っただけで大袈裟な奴らだ……」
 ため息をつくと、エドワードが呆れた表情で椅子の近くまで回り込んで来た。向かい合うように椅子を横に回転させる。彼は横目でデスクの上の山積みになっている書類を見て、眉を下げた。
「これ、意地悪将軍の課題ってやつ?」
「そうだ」
「報告書、増やしてごめんな」
「構わない。むしろ君の報告書を読んでヒアリングする方が本来の業務だ」
「報告ついでに今日さ、オレ、大佐ん家泊まっていい?」
「えっ?」
 さらりとエドワードが告げてきた一言にロイは目を見開く。
 ついでと言わんばかりに、エドワードは懐から平たい紙袋を取り出してそれもデスクの上へ置いた。
「あと、でっかいチョコチャンククッキー。甘いし、大きいから気分転換になると思うぜ」
「あ、ありがとう……ちょっと待て、まさかとは思うが君一人で私の家に泊まるのか!? アルフォンスはどうするんだ!」
 なんでもないかのような態度にロイは慌てる。エドワードは自分の家に泊まると言ったのだ。アルフォンスの泊まる場所によっては突発的なお泊まりデートというやつではないか?
「アルならいつも使ってる宿屋の猫に会いたいって言ってたからそこに泊まる。問題なし」
「言い訳は!?」
「大佐は忙しいからで十分だろ? 虐められてんの知ってるし……それに多分、アンタとの関係バレてるし」
 視線を反らしてエドワードはそわそわと身体を揺らす。見間違えでなければ頬も少し色づいている。いつも素直じゃない彼からの誘いだ。こんなこと、滅多にない。
「なぁ、大佐……」
 そう、声をかけたエドワードはおそるおそるロイのすぐそばまで来ると視線を彷徨わせる。赤いジャケットの裾を握っては離してそんなことを繰り返していた。エドワードは続きを話さず迷っているようだった。
「どうした? 鋼の」
 ロイから沈黙を破り話しかける。するとエドワードは自らロイの膝に乗り上げてきたのだ。
 向かい合うとエドワードはゆっくりとロイの首に腕を回して抱きついた。おまけに顔をロイの首筋に埋め甘えている。
 これはなんだ? いったい彼はどうしたのだろうか? 熱でもあるのだろうか?
「やる気……でた?」
 耳元で囁くエドワードのセリフに心臓が跳ねる。
 思春期真っ只中の恋人に、ここまでのサービス、今までして貰ったことはない。
 驚きで声も出ず、目を見開き固まるロイに、エドワードはトドメを刺した。
 そのまま耳元にキスをしたのだ。ちゅっと可愛らしい音が直接脳に響く。
「早く終わったら……続きもできっけど……アンタはどうしたい?」
 こんな誘い文句を言われて、我慢できる男がいるだろうか?
 彼の匂いと体温と甘美な言葉。ここが執務室だということも忘れて力強く抱き締めかえす。
「た、大佐っ……! くるしいっ」
 力を入れすぎたらしい。腕の中でエドワードが踠いた。ここで機嫌を損ねられでもしたら、大変だ。こちらはすっかりその気なのだから。
「早く終わらせよう」
 少しだけ、力を抜いてそう伝えるとピタリとエドワードは止まった。顔を上げ、向かいあった彼の頬は真っ赤だった。慣れないお誘いをしたせいだろう。
「お、おう……オレ、手伝えることあるか?」
 なんでもない風を装って問うエドワードにロイは微笑む。
「山ほどあるぞ。見ての通りこの量だ」
「りょーかい……」
「そうだ。仕事する前に、ひとつ君から貰いたいものがあるのだがいいかね?」
「……大佐が素早く仕事を終わらせてくれるなら、いーよ」
 そういわれ、時計を確認する。現在時刻は十五時。書類の量を考えると定時にはとても間に合わない。だが、部下に仕事を分担し、エドワードとアルフォンスも宛にして良いというならば後は自分次第で早く終わるだろう。
 こちらは一刻も早くデリを買って、家に彼を連れ込みたいのだ。最優先事項はエドワードとの甘い逢瀬である。
「わかった。条件を飲もう。目標は十九時でどうかな?」
「乗った。目標じゃなくて、必ず……な? 間に合わなかった場合、今日家に行くって言ったのナシな」
 俄然やる気がでた。絶対に間に合わせる。
 ロイは口角を上げる。
 初めてのエドワードからの直接的な誘いだ。逃しはしない。
「承知した。では、ここにキスをくれたら嬉しい」
 そう言って自分の唇を指差す。今度はエドワードが笑う番だった。
「交渉成立」
 くいと顎を持ち上げられて、エドワードが近づいてくる。頬を染め、目を閉じて。彼の行動は男らしいのだが、ついつい可愛いと思ってしまう。
 唇同士が触れて、我慢できなくなった。ロイはエドワードの柔らかい唇を少しだけ食む。すると、パッとエドワードが離れてしまった。
「大人のちゅーは、全部終わったらな!」
 唇を尖らせたエドワードが本当に可愛くて仕方がない。
「了解」
 一言そう告げて、執務室での逢瀬は終わりを告げた。
 さて、なんとしてでも十九時にはここを出る。
 そう決めて、ロイはエドワードに指示を出し、仕事を始めた。


「なー大将。どんな魔法使ったんだよ」
 想定以上のスピードでロイは全ての仕事を終わらせた。そのせいか、ハボック達は唖然と帰り支度をするロイを見ている状態である。
 あまりのロイの変化っぷりにやる気にさせた方法をハボックはエドワードに尋ねる始末だ。
「んー? 強いて言うなら魔法じゃなくて錬金術だな。等価交換」
「つまり交渉ってことかよ」
「そうなるね」
 ニヤリと悪い笑みを浮かべたエドワードを見て、ハボックは少し距離を置いた。
「鋼の! いつまで話をしている。行くぞ」
「へーい! じゃあオレ行くな、少尉またな~」
 先程とは打って変わりニコニコと子供らしい笑みを浮かべて、エドワードはロイと連れだってオフィスを後にした。
 残った面子は扉が完全に閉まるまで目で追い続けた。
 完全に二人がいなくなって、静まる。最初に聞こえたのはアルフォンスのため息だった。
「大佐……本当に兄さんでいいのかなぁ……」
 ぼそりと聞こえたその一言にその場にいた全員がアルフォンスを見たのはいうまでもない。
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