素敵な夢になりますように…
不死鳥の隣 1
Name change
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「…ん、…?、あ、れ?……っ⁉︎え、手錠??」
気がつくと、目の前には見慣れない景色。どうやら眠っていたらしい身体を起こそうと手を動かすと、やけに手首が重たく感じ、加えてジャラリという音。ボヤけていた視界が一気にその手錠にピントが合った。
ー…え?私…さっきまで図書館にいた、よね?
ここ、どこ?…なんで手錠が…
彼女はNAME2NAME、23歳。社会人5年目だ。高校の3年に上がる直前、唯一の家族だった母親が男と蒸発。受験どころでは無くなったNAMEはバイトに明け暮れながら高校を卒業し、今は派遣社員としてなんとか一人で生計を立てていた。
派遣といっても、真面目で手際の良いNAMEは正社員以上の仕事量を任されることも多く、中々にハードな毎日を送っていた。
人間関係に翻弄され続けていた母親を物心ついた頃から居なくなるまで見ていた影響か、あまり人と深く関わらないよう生きてきたNAMEは、社会人になってもそのスタンスは変わらず、とにかく無駄な愛想は無くし、ただ真面目にそして地味に仕事をこなしてきた。
唯一の楽しみだったのは、趣味である読書。母と住んでいたアパートから引っ越し、新居のそばにある古びた図書館へ休日に通うのが、彼女の癒しとなっていた。
今日もその図書館で本を探していたはずだった。
古びた感じは似てはいるが、こんな個室に入った覚えもなければ、手錠をかけられた覚えもない。
NAMEは重たい手首を床につき、上半身をゆっくりと起こしながら周囲を見回す。落ち着いてみれば、部屋の外からは騒がしい声と一緒に水の音も聞こえてくる。心なしか揺れている気もして、NAMEは一つの推測にたどり着いた。
「…船…?」
ーガチャッ「やっと起きやがったな。おい、あの女が起きたぞ!」
「っ⁉︎」
突如開いた扉から、いかにも悪そうな男が現れ、さらにその男の声により、同じようにいかつい男達が2人現れた。
男達はニヤニヤと笑みを溢しながらNAMEに近付き、先頭の男が上半身だけ起こしているNAMEの前にしゃがみ込むと、NAMEの顎を掴んで上に向けさせる。
「おい、こりゃあ当たりだぜ…。この容姿、あのワノ国出身にちがいねぇ。あの村にこんな女がいたとはなァ」
「ヒヒヒッ!地味な女だが高く売れるぜこれは」
意味は分からないが穏やかでないそのセリフに本能的に逃げなくてはと感じたNAMEだったが、訳の分からない状況も相まって恐怖で体が動かない。なんとか瞳だけは抵抗の意思を示してはいるが、男はそんなもの気にも留めずにNAMEの腕を掴んで立ち上がらせた。
「オラ。とっとと歩け!目が覚めたんなら目的の島に着くまでお前にもしっかり働いてもらわねぇとなァ」
「っ、…は、働く…?」
「あったりめぇだろうが。お前は奴隷として売られるんだ。この船でもしっかり働いてもらうぜェ」
「っ、奴隷⁉︎」
信じられない単語に、NAMEは思わず耳を疑う。このご時世にまだ奴隷売買があるなんて、と。確かに、よくよく見てみればここにいる男達は日本語を流暢に話してるし理解もしているが日本人ではない。どこか遠い国ではまだそのような制度が生きているのかという考えに及び、NAMEの額からは冷や汗が流れ落ちた。
「ま、お前には、昼間だけじゃなく夜も俺達相手に働いてもらうがなァ」
「ヒヒヒッ」
「っ、ぃやっ…、さ、触らないで…!」
「ヒャーハッハッハ!夜が待ち遠しいぜぇ!!」
歩かされながら、下卑た笑みを浮かべて自分の肌に厭らしく触れてくる男達に虫唾が走り、NAMEは気分が悪くなりながらも必死にその手から身体を離す。
しかし、その反応すらも男達には興奮を煽る材料にしかならないようだ。
「まァ、お楽しみは夜までとっとかねぇとな。今はしっかり働いてもらうぜ。オラ、早く甲板に出な!」
背中を押されながら部屋を出て外に出ると、NAMEの視界に信じられない光景が一気に入ってくる。
ここが海のど真ん中で、予想通り船の上だということ。その船は、実際に乗ることはもちろん、見るのも初めての帆船だということ。そして、大勢の人達が同じように手枷をつけられ荷物を運ばされたり、中には鞭で脅されてる人もいること。
ー…、これが…現実、なの??…夢、とか…ドッキリ、とか…であってほしいけど…この手錠もかなり重たいし、どこかでぶつけたのか足首も起きてからずっと痛い…。何より、働かされてる人達が血を流してる…。
こんなドッキリがあるわけない…紛れもない現実なんだ…。!あ、あんな子供まで…!
「っ!あ!」
目を疑うような光景の中に、さらに小学生くらいの子供を見つけたNAMEは、その子が疲労からかフラリと倒れ込み、持っていた荷物をぶちまけてしまったのと同時に声を漏らした。
「チッ、オイ何やってる小僧!さっさと立て!!立って荷物を拾い上げねぇか!!!」
「…、み、水を、水をくだ、さい」
「さっき飲んだばかりだろうが!まだ休憩じゃねぇだろ!てめぇ何様のつもりだ!?」
「お、おねがい、です…喉が、渇いて…」
「ハッ。そんなに飲みたきゃ、好きなだけ…」
「うっ」
ーザワッ
「!!まさか…!」
「飲んできやがれ!!!!」
「うわぁっ!!」
労働を強要させていた男は懇願する子供のTシャツの後ろ襟を掴み上げると、そのまま大きく振り上げ、子供を海へと投げ落とした。
NAMEは驚愕しながらも周りの男達を押しのけ
バシャアン!と大きな水音を立てて落ちた子供は、助けてともがくがすぐにその体力も無くなり、今にも海に沈んでいきそうだ。
ギャハハと響き渡る下劣な笑い声を無視して、NAMEは目に留まった太めの板を拾い上げそれを海へと放り投げる。男達がそれに気づき、何をしてると声を掛けようとした瞬間、躊躇いなく海へと飛び込んだ。
「なっ!!おっおい!女が飛び込んだぞ!!!」
「アァ!?あの女、手錠つけたまま逃げる気か!?」
「…いや、ガキんとこだ。念の為銃持ってこい!」
「あ〜?ケッ。あんな見ず知らずのクソガキを助けに飛び込んだってことか?」
「ぷはっ…!君、しっかり!この板に掴まって!」
「う…ゲホッ!ゴホッ…ハァッ…ハァ」
「(良かった…。暴れちゃうと私まで沈んじゃうとこだった)もう、大丈夫だからね。力抜いて、落ち着いて」
「ゲホッ…う、ゔん…おねえぢゃ、あ、ありがどゔ…ゲホッ…」
「(…こんな小さな子供に…、なんて酷いこと…)」
NAMEは、苦しそうにお礼を伝える男の子を見つめ、常軌を逸した男の行動に沸々と怒りが込み上げる。そんなNAMEに男達から声が掛かった。
「オイ女ァ!!てめぇは目玉商品なんだ!!そんなガキ捨ててさっさと戻ってこい!」
「っ…、この子と一緒でなければ戻りません!!」
「あ?生意気な女だな…、ここはグランドライン。海王類がウヨウヨいるんだ。そんなとこでずっと浸かってりゃ、奴らの餌食だぞ!」
「ヒッ…」
「かいおう、るい?」
男の脅しのような言葉に、子供はみるみる青ざめていくがNAMEは意味がわからず首を傾げるだけだ。
ーぐらん…なに?やっぱり海外の単語って分かんない…。でも、この子の表情からしてきっとサメみたいな獰猛な動物ってことよね…。
食べられるのはごめんだ。
そんなことを意外と冷静に考えていると、船の上が急にザワつきはじめた。
「おっ、おい、、あっちに船が見えるぞ…」
「なに?おい、望遠鏡貸せ!!」
「…船?…反対側に船が?…!君、助けが来たのかも…!」
「っ!お、お姉ちゃん…!し、したっ、下になんかいるっ!!」
「えっ?」
「おっおいおい!!!コッチは下から何か来るぞ!!!」
「何だとぉ!?」
「嘘だろ…、あれは…、あの船は…」
「!?おい、どーした!それよりこっちの下、あの影は海王る…」
「しっ白ひげ海賊団だァっ!!!」
「「「えぇええええ!!!?」」」
船の上のとんでもなく騒がしい状況に一瞬目を遣りつつ、NAMEは板に掴まりながら子供を力強く抱き締め、下から来る大きな影にごくりと息を呑みこむ。しかし、海からの生物が上がってくる前に、再び船から大きな声が響き渡った。
「こっ、こいつは…!」
「ふ、ふ、」
「「「不死鳥マルコおおおぉ!!?」」」
「うるせぇよい。てめぇら、俺達のナワバリ荒らしてタダで済むと思ってねぇだろうな」
「「「ぎゃあああ」」」
「…?船、に…青い炎…?」
近づいてくる白ひげ海賊団の海賊船、モビーディック号。そのスピードは凄まじく、先ほどまで望遠鏡でないと視認できなかったはずが、あっという間に肉眼で確認できるほどにまで迫ってきている。
そして、それよりも一足先に奴隷船へと降り立ったのは、青い炎を纏った白ひげ海賊団一番隊隊長、不死鳥マルコだ。
ドスの効いた声で威嚇するマルコに、大勢を虐げていた男達は一斉に降参ムードだ。その光景を見ていた囚われた人達は、ワッと歓声をあげた。
「白ひげ海賊団の隊長さんだ!!」
「助かったんじゃ…!」
そう安堵の息を吐いている間に、マルコはあっという間に男達をのして縛り上げ、囚われた人達に向き直った。
「こいつらで全員かい?」
「はっはい!だが隊長さん、子供が海に落とされて」
「何…?」
「それを助けに女の子が飛び込んだんだ…!今2人とも無事だがさっき下から…」
「「うわあああ!!!大王イカだぁあ!!」」
「!?」
事の状況を説明されていたマルコは、別の者達から上がったその叫声に海へと目をやった。
中々の大きさの大王イカに襲われている2つの人影を視界に捉えたところで、奴隷船に追いついたモビーディック号から二番隊隊長のエース、四番隊隊長のサッチらが乗り込んでくる。
マルコはサッチに奴隷達の解放を頼むと、瞬時に両手を翼に変えて飛び出した。
「な、イ、イカ…⁉︎イカって、こ、こんなに大きくなるの…⁉︎」
「わっ!おねえちゃんっ、助けてっ!」
「きゃ!!ちょっ、と!この子を連れてかないでっ!!」
見たこともない巨大なイカと対面したNAMEは、あまりの大きさに自分の目を疑う。そんなポカンとした状態でフリーズしていると、イカに巻き付かれた子供がググと持ち上げられ、抱いていたNAMEまで海面から引き上げられる。
NAMEは子供に巻き付いている触腕に思い切り噛み付くと、それが緩み、同時に再度海へと落っこちた。
「だ、大丈夫!?」
「う、うん…!で、でも…お、怒らせちゃったよ…!」
「へ…、っキャー!めっちゃ怒ってるぅ!!」
見るからに怒ってます。と分かりやすい表情をするイカに、NAMEは漫画じゃん!と心でツッコんだ。そんなことよりもとにかく逃げなくては。と子供を抱えながら、足だけで必死に泳ぎ始めようとするが、すぐさまイカの触腕が体に巻き付き捕らえられてしまう。
「お、おねえちゃ…」
「う、ぐぅ…!」
イカは、一本の触腕はNAMEの体に巻き付き、もう一本は子供の足に巻き付いて2人を引き剥がそうとしてくるが、NAMEは必死で子供の手を握った。
しかし、徐々に体に巻き付いている触腕の力が強くなり、ギシギシと骨が軋むような音が伝わってくる。
ー…く、苦し…い!……、さっきからこのイカ、この子ばっかり狙ってる…、この手を離したら、この子が食べられちゃう…!
でも…、苦し…、息が、できな…
体を圧迫され呼吸もままならず、段々と意識が遠のいていきそうなまさにその時、ドゴォンという爆発的な音と衝撃を感じ、その直後に体の解放感と浮遊感が同時にNAMEに伝わった。
海に落ちる、と感じたのも一瞬で、すぐさま何かの上にふわりと乗っかった。それは子供も同じだったようで、NAMEの隣であれ?とビックリしながらキョロキョロとしている。
「エースゥーっっ!!!!」
「「!?」」
乗っかった何かが青い鳥だと気付いた瞬間、その鳥が突然大声を上げた。
NAMEと子供がその声にビクリと身体を震わせてると、「分かってるって!!火拳ッッ!!!」という声が聞こえ、その声の直後にイカが大きな炎に包まれたのだった。
「わああ!!助かった!!隊長さん達、ありがとう!!!」
気がつくと、先程の奴隷船に降り立ちぺたんと腰を抜かしていたNAMEは、全てのトラブルが解決し、囚われていた人達が涙を流しながら盛り上がっているのを視野の端っこに入れながら呆然と眺めていた。
NAMEは目の前の青い鳥を凝視しつつ、頭の中のパニック状態をなんとか整理しようと必死だった。
ー…鳥が喋って、イカが燃えて…、みんな助かってて、なんかすごい大きいクジラの船があって、鳥が助けてくれて…イカが喋って…、、、あ?…ちがうちがう、…喋ったのは鳥で焼けたのがクジラで…?ちがうちがう…焼き鳥が…、、んんん?
「…誰が焼き鳥だよい」
「ファ!?」
思考が声に出てたらしいNAMEの言葉に、先程の青い鳥がじっと見つめながら口を開いた。
「あ…、ほ、ほんとに、あなたが喋ってるの…?」
「あ?あァ、こっちの方が話しやすいか」
「え…、⁉︎ひゃああ!!」
そう言って、鳥の姿から突然人間の姿に変わったその男を見て、NAMEは思わず悲鳴を上げた。
その声を聞き、未だ青い炎を纏うその男の隣に、テンガロハットを被った上裸の男と独特なリーゼントの男がやってきた。とにかく3人とも(特に鳥男とリーゼントが)大柄で、座り込んでいるNAMEは後ろにのけ反り、その男達をビクビクしながら見つめた。
「なんだよマルコ、助けた女に怖がられてんのか?」
「エース…。」
「バァーカ。かわい子ちゃんにどうせ変なことでもしたんだろ、このパイナップル」
「おいサッチ…、どの口がそのセリフ吐いてやがるんだよい。ブッ飛ばされてぇのか」
「ハハ!冗談だろー?そんなことより、…怪我なかったか?びしょ濡れだ、早く体も拭かねぇと、っておおお!!その清楚な顔に黒のブラジャーって!」
「ぁ//////」
「うおお!神様ありがドゥオバベガバダッ」
サッチと呼ばれたリーゼントが心配そうに近付いてきて、ずっと合っていた目が下にズレたかと思えばとんでもないことを発言するもんで。NAMEはようやく、自分の服がずぶ濡れで中の下着が透けていることに気が付いた。
デッキについていた両手をパッと胸の前を隠すようにクロスさせると、目の前で神に礼を述べていたサッチの顔が一瞬歪み、そしてまばたきをしてる間に目の前から消えた。
そうかと思えば濡れた髪がフワッと浮くほどの風が吹き、それと共にドッカーンという音が右側から聞こえてくる。
両手で自分を抱きしめるような形をとっていたNAMEはその形のまま音のした方に顔を向ければ、砂塵の中から右頬を腫らしたサッチが目くじらを立てて勢いよく立ち上がった。
「いってぇなマルコ!!テメェ手加減ってもんを知らねぇのか!」
「手加減してほしけりゃその呆けた思考をどうにかしてこいよい。」
「わはははは!アホだな、サッチは」
NAMEはそのやり取りを聞きつつ、マルコと呼ばれた鳥男が左脚を持ち上げていることから、きっとサッチはこのマルコに蹴られたのかとやっと理解した。
そんなことをボンヤリ考えていると、自分の肩にパサリと紫色の上着が掛けられ、パッと見上げると服を脱いだマルコが目の前に立っていて、そのまま屈んでNAMEの目を真っ直ぐに見つめた。
「寒くねぇか?」
「は、は…ぃ」
「…足首腫れてんな。捻ったのかい?」
「あ、これは…覚えてないんですけど気付いたら痛くて…」
「他に痛いとこは?」
「え、…と、手首、くらいです」
ジャラ、と嫌な音を出しながらその手錠を持ち上げてそう言えば、マルコの顔が僅かに引き攣る。
「海楼石の錠だな…。おいエース」
「ん?」
「さっき奴隷達を解放した時の錠はどーした?」
「あぁ、サッチが持ってるよ。俺は触れないからな、サッチにやってもらった!」
「そうか。…おいサッチ!」
「今度は何だよ!!」
「海楼石の錠だ。これも外してやってくれよい」
「そういう事は早く言えよバカめ!」
蹴り飛ばされた先で木箱を退かしながらやって来るサッチに指示を出し立ち上がるマルコに、NAMEは慌てて声を掛けた。
「あ、あのっ、服が、濡れてしまうので大丈夫…です」
「…着とけよい。目のやり場にも困るからねい」
「あ、…////す、すみません…」
そう言ってにこりと笑うマルコにNAMEは自分の姿をもう一度思い出して赤面するも、その鍛え上げられた逞しい身体を前にして、NAMEも同じく目のやり場に困った。
そんな顔を少し俯かせた時、サッチが前に現れ屈み込むと、NAMEの両手を優しく持ち上げた。
「さっきはあけすけにごめんな、俺サッチってんだ。んで、このパイナップルみてぇな頭のおっさんがマルコ。隣の暑苦しそうな奴がエース。よろしくな!…ほい、手錠取れたぜ。ったく、綺麗な手にこんなもんつけやがって…!」
「あ、ありがとうございます。…わ、私はNAME、と、申します…」
ニカっと屈託なく笑うサッチに他意はないと感じるものの、まだ目の前の見慣れない光景や状況に容易く人を信じられる余裕もなく、NAMEはフルネームを伝えるのを躊躇った。
…個人情報はそう簡単に出さない方が、きっといいよね…。
そんな事を考えていると、突然左半身に何かが小さくぶつかり、驚いてそちらを振り向けば、そこには先程の子供がニコリと笑ってNAMEに抱きついていた。
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