素敵な夢になりますように…
go on 18
Name change
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「…っ、」
ズシン…と響く地響きや遠くで聞こえる悲鳴に、NAMEはびくりと身体を震わす。
周りにはもう誰も居らず、フラッシュバックのようにあの日母と別れた元の世界を思い出した。
…、違う…!ここは、この世界には、生きてる人がたくさんいる…!
そう思い、走り出そうとした時だった。
「ひぎいゃあああっっっ!!!!」
「っ!!」
屋根の向こうから見えた巨人が、今まさに人を喰い殺していた瞬間だった。
「あ…、あ…、ひ、人が…」
夥しい量の血が飛び散り、初めて聞く断末魔の叫びだった。
目も耳も覆いたくなるその光景に、NAMEはヘタリとその場に崩れ落ち、ただ茫然とまだ遠くに見える巨人たちを見つめた。
…動かなきゃ。…でも、どうして…?身体が、言うことを聞かない…
迫り来る恐怖に動けないでいると、NAMEの視界に巨人の周りを飛び回る人影が映った。
「…!あれは…、自由の、翼…!」
立体機動で飛ぶ調査兵団の兵士を見つけたNAMEは自分の頬を両手で叩き、しっかりしろと頭をブンブンと振って立ち上がると、内門への道を走り出す。
…リヴァイさんが来てくれる…!こんな、情けないところ見られるわけにはいかない。
……、これ以上、幻滅されたくない…!自分の身は、自分で守らなきゃ。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
「ハァ…っ、ハァ…、(人が、増えてきた…。内門が近いんだ、きっと…)」
ようやく、人がごった返してる所までやってきたNAMEは、手際の悪い避難誘導をする憲兵団の男に声を掛けられた。
「お、おいそこのお前っ!い、今ここへ走ってきたようだが、まさか巨人を連れてきてはいないだろうな!?」
「…、は、…?い、いえ…、お、追いかけられては、いません…」
「ほ、本当なのか!?お前、今ここへ着いたということは破壊された外門と大分近い所から来たのではないのか!?」
「…、た、確かに、多少は、外壁寄りだったかもしれませんが」
「っっ!!!お前、ここにいる我々を殺す気かっ!!?」
「っ!?、な、何を…」
「壁に近い住民までここへ逃げてきてしまっては巨人は皆集まった人間に寄ってきちまうだろうが!!」
…この人は…、何を、言っているの…?
壁から近い住民は時間稼ぎの囮だと言いたいの…?
「っ…、このもっと手前では、調査兵団が身を挺して巨人と戦ってくれています…」
「は?そ、そんなの、巨人と戦うのがアイツらの仕事だろ!当たり前だろうが!」
「彼らの仕事は!壁の外の謎を調査することですっ!!壁の中の民を守るのは憲兵の方達が一番優秀なはずではないんですか?」
「っ、き、貴様、憲兵に逆らう気か!」
「確認しているだけですっ!壁の中のエリートなんでしょう?なんで住民を内門へ誘導するだけなのにそんなにもたついているのですか!?もっと向こうにはまだ住民が居るはずなのに何故誰も誘導しに来てくれないのですか!?」
「ぐっ、」
「おい!何の騒ぎだ!」
NAMEが憲兵に詰め寄っていると、新たに3人ほどの憲兵が姿を現した。
「この女が急に喚き散らしてきやがって…」
「とにかくここから離れろ。時間がねえぞ」
「あ、ああ。そうだな」
何やらボソボソと話し出す憲兵達に訝しげな目を向けていたNAMEは、どこからか聞こえてくる泣き声に気がつく。
…子供…の声…?…一体どこから…
「…マ…、ママぁーっ!…」
「…っ、!」
目を凝らしてみると、家屋の屋根裏部屋の窓と思われる場所から、子供が泣きながら母親を呼んでいた。
「っ!逃げ遅れ…?憲兵さんっ!あそこにまだ子供が…、あ、れ?」
振り返って憲兵に子供の避難をさせるよう声を掛けたNAMEは、さっきまでいた憲兵達の姿が消えたことにキョロキョロと首を動かす。
誘導の仕事に戻ったのかと思い、NAMEは憲兵を探すよりも自分が行った方が早いと子供のいる家屋へと走り出した。
しかし、走りながら今度は民衆の声がNAMEの耳に届いてくる。
「えっ、そんなまさか…!」
「間違いないっ!内門をもうすぐ完全に閉鎖するって…!!」
「っ!?(閉鎖…!?まだこんなに内門にすら辿り着いてない人が大勢いるのに…?)」
信じられないその会話に、先程の憲兵達の言葉が過ぎる。
『とにかくここから離れろ。時間がねえぞ』
あれは民衆の追及から逃れる為に発せられた言葉だったのだと合点がいく。
NAMEは、なんて自分本位な人達だろうとさっきの憲兵に対して気持ちを乱されるも、今はとにかくあの子供を、巨人に見つかる前に保護しなくてはと雑念を振り払った。
「ハァっ…、こ、これは…!」
子供のいる家屋に辿り着いたNAMEは、入り口側が飛んできた瓦礫で塞がれていることに絶句した。
NAMEは急いで外へ戻り、下から子供に向かって声を掛ける。
「ぼくー!おーい!聞こえるー?」
「うっ、うぇ…、」
「今お姉ちゃんが助けるからね。君が居る部屋からは下に降りてこれるー?」
NAMEの問い掛けに、子供はブンブンと首を横に振った。
「ドアが、開かないの…、うっ、ママもっ、ずっと呼んでるのに、帰ってきてくれないのっ…ううっ」
「分かった!絶対お姉ちゃんがそこに行くから泣かないで待ってて!出来るよね!」
「…っ、う、うん」
NAMEはニコッと笑うと、再び走り出した。
子供のいる窓は屋根と繋がっているため、屋根にさえ上がれれば保護出来ると考え、NAMEは家屋の周りを調べ始める。
すると、死角になっていた壁に屋根に登る用の梯子が備え付けられているのを発見した。
NAMEはその梯子に手を掛け、ギシと音を鳴らしながら屋根まで上がった。
「お待たせ。泣かないで待てたね、偉いぞ!」
「お姉ちゃん…!」
「出てこれる?滑らないように絶対お姉ちゃんの手を離さないでね」
「うんっ」
瓦屋根の上に子供を引き上げ、NAMEはふぅ、と安堵の息を吐いた。
「ぼく1人?」
「うん…、ママ、お買い物に出掛けちゃって…そしたらすっごい大きい音がして下に行こうとしても出られなくて…」
「…」
…とにかく早く内門を目指さなきゃ…。まだ…、大丈夫!閉鎖はされてな…
「っ!お姉ちゃんっっっ!!!」
「っ!?」
ーガシャアンッ!!
内門に目を向けていたNAMEの背後から巨人の腕が急に伸びてきて2人を襲う。NAMEは咄嗟に子供を庇った。
しかし、腕を伸ばしてきた巨人は屋根までの高さがないのか、手探りで動かしているだけだ。
最初の攻撃で飛んできた瓦が幾らかNAMEの顔や腕を掠ったが、特に大きな怪我もなかったためすぐさま子供の手を引き、巨人の腕から離れる。
「お、お姉ちゃん…、怖いよおっ」
「大丈夫…、大丈夫よ…。(…、ど、どうしよう…今の衝撃で梯子が落ちた…。飛び降りるには高さもあるしこの子を連れては危険過ぎる…、どうしたら…)」
退路を断たれていたそんな時。
飛んできた調査兵団の兵士の1人がその巨人を倒し、屋根の上へと降り立った。
「NAMEさんっ!?」
「!ジャンっ!!」
「な、なんでNAMEさんがこんなとこに…」
「ジャン、事情は今度説明するから、今はこの子を内門まで避難させてほしいの!」
「え?」
「時間が無いの…!内門が閉じてしまう」
「は…はあ!?内門が閉じるって…、まだ民間人はいっぱい」
「憲兵の人が…、多分、閉じようとしてる」
「そ、んな…馬鹿な…」
「お願いジャン!この子を連れて内門へ行って。そして憲兵を説得して!全員逃げ切るまで待ってほしいって」
「…っ、けどNAMEさんを置いてくわけには」
「私は大丈夫だから!ここ、結構高いしそんな大きい巨人も近くに見えないし!…でも門が閉鎖されたら逃げても意味がないの…。内門のそばは人が溢れ返ってて…このままじゃ巨人が集まってきちゃう!だから、お願いジャン…!急いで内門へ行って」
ジャンはギリ、と口を噛み締めると、意を決して子供を抱き上げ走り出した。
「クソっ!NAMEさん!このガキと内門は俺に任せてくれ!!絶対死ぬな!!!」
「っ、うん!ジャン、ありがとうっ!!!」
ジャンにとって苦渋の選択だった。
だが、NAMEの言う通り優先すべきは内門だ。
内門の問題を速やかに解決し、何としてでもNAMEが巨人に狙われる前に戻らなくてはと強く思った。
「お姉ちゃん、置いて、いくの?」
「っ、必ず助けに戻る!おいボウズ!俺と同じ服の奴を見つけたらすぐに教えろよ!すぐNAMEさんのとこに行かせる!」
ジャンは子供を担ぎ直し、内門への道を急いだ。
…よかった…。これであの子はひとまず大丈夫だよね…。
ジャンの後ろ姿を見送りながら、NAMEは安堵の息を漏らす。
「っ、私もただ待ってるだけじゃダメだ、何か、使える物がないか探さなきゃ…」
NAMEはそう思い立ち、さっきまで子供がいた部屋を覗き込んだ。
するとその瞬間…
「きゃあっ」
後ろからドンと背中を蹴り飛ばされ、子供部屋へと倒れこんでしまう。
倒れた身体を起こしながら振り返り、窓の外に立っていた人物を確認したNAMEの顔はどんどん蒼くなっていった。
「オ…オーサ、さん…!」
「逃げ遅れた民間人かと思って来てみれば、またあんたなの?来て損したわ」
冷たい瞳で自分を見下ろしてくるオーサに、NAMEは何も言えずまた俯いた。
その姿を見たオーサは、勝ち誇ったようにクスリと笑った。
「最近見掛けないと思ったらこんな所にいたのね。ようやく自分の居るべき場所が分かったってとこかしら?」
「…、」
「アハっ、アハハハっ!兵長にも見放され、調査兵団にも居場所が無くなって。…最後は巨人のエサ…。ざまあみなさい」
「オーサさんっ…!そんなことより他にやることがあるはずですっ!」
「私に指図すんじゃないわよっ!!!」
「っ、」
「偉そうな口たたかないで。あんたは、私の上官でもなければ、仲間でもなんでもないわ」
「オーサさん…」
「なによ、その顔。…この期に及んでまだ仲間だと思ってる?フッ、お生憎。私はあんた以外を助けるので忙しいの」
「…で、いいです…」
「は?なに?文句でも…」
「それでいいですからっ」
「!?」
「早く、一人でも多くの命を、救ってください」
NAMEの真剣な瞳にオーサはたじろぐ。
「…、フンッ、なによ、こんなところでまでイイ子ちゃん気取りなのね。それじゃ、せいぜい余生を悔やみながら…」
「っ!?オっ、オーサさん後ろっっ!!!」
「え?…っきゃああああああっ!!!」
突如オーサの背後に現れたのは、屋根の高さをゆうに越える巨人だった。
その姿を視界に捉えた瞬間NAMEは叫んだが、その言葉をオーサが理解した時にはもう、その体は巨人の手に捕まってしまっていた。
「いっいやああっっ」
「オーサさんっ!!!」
窓から引き離され、部屋からオーサの姿が見えなくなった。
NAMEはその場にあったオモチャ箱を掴み、すぐさま窓から飛び出す。
窓から屋根の上に出たNAMEは、辛うじて巨人の指の隙間から出ている腕でブレードを煙突に突き刺し、巨人の口に引き寄せられるのを必死に堪えるオーサの姿が目に入った。
「っ、そ、その人をはっはなっ、放しなさいっ」
「っ!、あ、あんた…!ぐうぅっ」
NAMEはオモチャ箱の中から適当に掴み取り、巨人の大きな顔に向かって次々とオモチャを震えながら投げつける。
「…っ、な、に、してんのよ…、私のことなんか、さっさと、見捨て、なさい、よ!イイ気味だ、て思ってるんでしょ!」
「っ、思ってません!!!私はっ、誰も、死んでほしくなんかありませんっ!!」
「っ…」
「オーサさんも、絶対、見捨てたりなんかしませんっ!」
そう声を張り上げて、全く効いていない最後のオモチャを投げつけた。
巨人はオーサを掴んだ手はそのままに、もう片方の腕を伸ばし、NAMEにその大きな手が近付いていく。
…っ!ーだめ、もう何も無い…
巨人が沢山いて他の兵士達もみんな必死だ…。こんな所、誰も気付いてもらえない…
…全員助けるなんて、無理だ…
オーサさんも助けられない。私も、死ぬ…、誰も、助けられない…
…最後に…、もう一度リヴァイさんに会いたかったな…
そう思いながら、ふとポケットに入っていたスマホに気付いたNAMEの頭に、急に母の言葉が蘇った。
『諦めんな』
…
『生きていれば未来は来る
それを明るい未来に出来るかどうかは、NAMEの心掛け次第なんだよ』
…、そうだ…、そうだよね、お母さん…
目の前にいる人くらい、助けたい!
諦めたくない!!
「オーサさんっ、目閉じて!!!」
「!?」
NAMEはポケットからスマホを取り出すと、ライトの機能を最大に上げて巨人の目を目掛けて光を当てた。
その瞬間、眩しさに目が眩んだ巨人はオーサからも手を放して両手を目元へと戻していく。
よろめいたオーサの身体をNAMEは必死に受け止めた。
「オーサさん、しっかり!これ、立体機動装置、まだ使えますか!?早くここから離れてください!」
「あ、んた、何言って…」
「兵士の皆さんは絶対生きなきゃダメなんです!生きて、この世界に自由を…うっ…!?」
「あっ!!!」
視力を取り戻した巨人は、オーサを庇うようにして立っていたNAMEの上着を掴み、そのままつまみ上げて天を仰いだ。
軽々と持ち上げられたNAMEの眼下には、深く真っ暗な巨人の口が広がる。
巨人がNAMEをつまんでいた指を離せば、NAMEの身体は吸い込まれるように巨人の口へと落下した。
「っNAMEさん!!!」
…オーサさんが、何か…叫んでる…、私、の、名前…?
何も、音が聞こえない…。…なんで、私の身体はこんなにゆっくり落ちていくの…?
…、私、死ぬ、の…?
……………、いや…、まだ死にたくない…
だってまだ…、リヴァイさんに…!リヴァイさんにありがとうって…言ってない…!
いやだ…!いやだよ…!!リヴァイさん…!
私…!リヴァイさんに、会いたいっ!!
「NAMEーっっ!!!!!」
「ーっ!?」
その瞬間、無音だった世界に、急にピアノの音が響くようにNAMEの耳にその声が響いたのだった。
to be continued...
2022.4.27
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