素敵な夢になりますように…
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―現代
3月某日 東京
「…か、…っだれか…いませんか…!」
あれから何時間経った…?
誰もいない
何もない
ここは、どこなの…
こんな場所、知らない
ガラ、と足元の瓦礫が音を立てる。
見渡す限り瓦礫の山が広がるこの場所は、数時間前までは日本の中心だった場所だ。
ほんの一瞬、その僅かな時間で景色は一変した。
NAMEは歩き疲れ、とうとうその場に膝をついた。
―数時間前…
「NAMEー!みんなで写真撮ろう!!」
「うん!!お母さん、撮ってくれる?」
「任せな!」
今日は高校の卒業式。
来月、私はイギリスへ留学する。
歌うことが大好きで、社会勉強で始めた個人経営の居酒屋のアルバイト先では、オーナーからの勧めで歌を披露することになり、それが意外と評判になった。
出勤する日に毎回歌わせてもらっているうちに、イギリスで歌の勉強をしてみないかというスカウトを頂いたのだ。
母と、そのスカウトをしてくれた(なんかすごい大企業の)取締役の人に話を聞き、晴れて高校卒業と同時に留学しようという話になった。
こちらからの話だから、と言って留学金も滞在費なども全て出してくれるとのことで、本当に有難いお話だった。
友達とは離れてしまうけど、元々裕福ではなく、母子家庭で育った私は、高校卒業したら就職をする予定だった。
母は、高校も行かなくていいと言った私に、せめて高校だけは行きなさいと援助してくれた。本当は大学も行かせてやりたいと言ってくれていたけど、私はそこまで何かをやりたいと思ってないし、無駄な時間を過ごす方がもったいないと伝えたのだ。
正直に言えば、もっと色んなこともやってみたかったし、大好きな歌をもっと勉強したかった。でも、それにはやっぱりお金が必要で。
母は、毎日働いて忙しいながらも私を大事に育ててくれたし、必要最低限なものもちゃんと買ってくれた。感謝してもしきれないくらいだ。
だから就職して自立して、自分の力で歌の勉強が出来ればいいな、となんとなく思っていたのだ。
そして、高校2年生の時に、この留学の話を頂いた。
夢みたいな話で最初は半信半疑だったけど、ちゃんとした話で、それならぜひ、と母から言ってくれた。
どうやら、私が歌の勉強をしたいことはとっくにバレていたようだ。
さすが私のお母さんだなと思った。
母一人娘一人の暮らしは、決して楽ではなかったし苦労が多かったと思う。
それでも、私は母の元に生まれて本当に良かったと心から思えるし、多分、周りの子達に比べても相当仲良しな親子だと思う。
こうして、私は初めてそんな大好きな母の元を離れて、3年間異国の地へ行くことになった。
不安がないといえば嘘になるが、新しい挑戦にワクワクしている、という方が勝っていた。
そんな希望いっぱいの、新しい門出の日になるはずだったのに―…
「ほら、とっとと並びなガキんちょ共!」
「NAMEのお母さんってほんと面白いよね」
「ごめん、口悪くて…昔のヤンキー感が抜けないみたいなんだよね…」
「全然いいじゃん。美人さんだし!NAMEもお母さん似で羨ましいよー」
「そ、そうかな…」
「うんうん、ホント似てる!でも、きっとNAMEのお母さんは若い頃はかっこよかったんだろうねー!」
「あーわかる!そんな感じするね!!」
「オラ!そこ!あたしは今でも若いぞ!!」
「あ、ごめんなさーい!」
「もーお母さんってば!」
そんな風にみんなで笑い合って、最高の卒業式だった。
「お母さん、私達も一緒に撮ろう?お母さんが綺麗な格好してるの珍しいし!」
「あー?あたしは何着ても綺麗に着こなせんだよ」
「はいはい。じゃー撮るよー?3.2.1!」
「…これ加工した?」
「え?してないよ?」
「ちょっと!あんたは若いからいいけど40代の肌なめんなよ!」
「ええ!さっき自分で若いって言ってたじゃん!」
「うっさいわ!加工しな!!」
「もー。」
そんなやり取りをしてる時だった。
―ゴゴッ…ドォンッッッ
「っ…!?」
突如、地面が信じられない音と共に揺れ、一瞬で立てなくなった。
地震だ。
あちこちから悲鳴が起こり、いたる所で何かが倒れる音や割れる音が響き渡る。
激しい揺れはしばらく続き、徐々に足元にヒビが入り始めた。
―地面が、割れる…!
そう思った瞬間、大地に大きな亀裂が入った。
「「「「きゃあああああああああ」」」」
「み、みんなあああああ!!!!!!!!」
私の目の前で、友達が次々とその亀裂から落ちていく。
場所はここだけじゃないようで、周りからも人が落下しているようだった。
「!お、おかあ、さん…っ!?」
私は、さっきまで傍にいたはずの母を探した。
しかし揺れが激しくて探せない。
まさか今の亀裂に母も落ちてしまったのでは…そんな不吉な思考を巡らせている間に、ようやく揺れがおさまった。
「NAME!!」
「!お母さん!!!!」
無事だった母と力強く抱きしめ合ったあと、私達はゆっくりと周りを見渡す。
そこには、この世と思えないような景色が広がっていた。
大地は割れ、建物は倒壊し瓦礫の山が広がる。火災も起きているのか、遠くではオレンジの光があちこちに見える。
人の声は聞こえない。
みんなこの亀裂に落ちてしまったのだろうか…
「お、お母さん…ど、どうしたらいいの…」
「…スマホも繋がんないわ。…とにかく、誰か捜すわよ。避難所があるかもしれない」
「…」
この恐ろしい光景に、私の身体は信じられない程に震えていた。
頭も回らずに何も考えられない。
母は、私の手を強く握り、亀裂を避けながら瓦礫の上を歩き出した。
「な、なんで…なに…が、…もう、終わり、だ…みんな死ぬんだ…」
「…NAME、しっかりしな!大丈夫、あんたは生きてる!!」
歩くこともままならない私の方に振り返った母は、その場にしゃがんで私の顔を見上げた。握っていた手を温かい両手で包み込んでくれる。
「生きていれば絶対未来は来る!!それを明るい未来に出来るかは、NAMEの心がけ次第なんだよ」
それは母がよく言ってくれる言葉だった。
嫌なことがあった時、悲しいことがあった時。母はいつもこの言葉で励ましてくれた。
「諦めんな。自分が強くなることが一番大事!」
「っう…うん…」
「よし!さすがあたしの娘!!ほら、歩いて!人を捜そう!」
そう言って母はにっこりと大きく笑った。
私の大好きな笑顔だ。
この笑顔を見ると、本当に大丈夫なような気がしてくるから不思議だ。
友達も、みんな落ちた先で助かってるはずだ。
大丈夫。
みんな助かる!
そんな明るい希望を頭に描き、私は母のあとについて歩き出した、その時だった。
―メキメキッ
「っ!!NAMEっっ」
「えっ…」
母が私の身体を突き飛ばしたその瞬間、私の目の前にいた母が一瞬で大木の下敷きになったのだ。
「…え…お、おか…さ…」
突き飛ばされて尻もちをついた私は、今起こった現状に頭が追いつかない。
ゆっくりと目線を下げれば、木の下から母の腕と、赤い液体が視界に入る。
「い…いや…うそ、まってよ…お母さん、お母さん返事して!」
私は必死にその大木を動かそうとするが、それはびくともしない。
母の手を握っても、それもピクリとも動かなかった。
もう分かっていた。
母は死んだのだと。
頭ではそんなのとっくに分かってる。
だが、心がどうしてもそれを理解しようとはしてくれなかった。
「いやだ…大丈夫だから…!ここから絶対に助けるから…!
…っだ、誰かっ誰かいませんか!!誰か…!!」
それから、私は延々と叫びながらその大木を押し続けた。
しかし、いくら叫ぼうとも、いくら押そうとも、人が現れる気配もなければ木が動く気配もなかった。
赤かった血もだんだんと黒くなり、温かった母の手はもう冷たく潰れているだけだ。
「…っどうして、誰も、来てくれないの…。お願いだから…誰か…助けてくださぃ…」
掌からは血が滲み、痛みで意識は保てているがもう大声は出なかった。
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