素敵な夢になりますように…
go on 5
Name change
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夜風で、NAMEのまだ濡れている肩までの髪と、白のワンピースがゆらゆらと靡く。
「……またか…」
仕事の話を終え、エルヴィンの部屋から自分の部屋に戻る途中、リヴァイは廊下のソファで眠りこけているNAMEに気が付き舌打ちをした。
…それもそのはず。
NAMEを初めて見つけた時も、同じ場所だったからだ。
あの日、同じようにエルヴィンの部屋から自分の部屋へ戻る途中、見知らぬ女がこのソファで倒れているのを発見した。よく見れば身体中怪我をしていて、特に掌からの出血がひどかった。
リヴァイはすぐさま抱きかかえ、医療棟へと走り出したのだ。
「この場所が好きな奴だな…」
リヴァイはNAMEの顔にかかった髪をスッと撫でる。
露わになった端正な顔は、リヴァイの目を引いた。
自分に、好みの女がいると思ったことはなかった。しかし、それはあるのだとリヴァイは初めて知った。こんなにも触れてみたいと、ましてやよく知りもしない女に感じたことはなかったのだ。
「おい、起きろ。風邪引きてぇのか」
「…」
声を掛けても規則正しい寝息は変わらぬまま、NAMEは全く起きる気配はない。
「チッ…めんどくせぇ…」
一言吐き捨てると、リヴァイはゆっくりとNAMEの身体を抱きかかえた。
NAMEの顔がリヴァイの肩に寄りかかり、ふわりと石鹸の香りがリヴァイの鼻を掠める。
―今のは…夕方聞こえてきた歌と一緒だったな…。
こいつが歌ってたのか。
リヴァイは歩きながらNAMEの顔にもう一度視線を落とし、その無防備に眠る穏やかな寝顔に、再度舌打ちをした。
「野郎を刺激するなと忠告しただろうが…。」
イラつく気持ちを抑えながら、リヴァイは辿り着いたNAMEの部屋の扉を雑に開け、そのまま自分と同じ間取りの寝室に足を踏み入れる。そして、真新しいシーツが敷いてあるベッドへとNAMEをおろした。
ベッドに寝かせられたNAMEは初めて身じろぎ、立ち上がろうとするリヴァイの服をぎゅ、と握り締めた。起きたのかとリヴァイがNAMEの顔を覗き込めば、まだ寝息が聞こえてくる。寝惚けてるだけかと、その手を放そうとしたその時、リヴァイの手はピタリと動きを止めた。
「い…かないで…」
NAMEの顔が月明かりに照らされる。
さっきまで穏やかに眠っていたはずが、苦しそうに眉根を寄せ力強く閉じられている瞳からは涙が流れていた。
ドクンと脈を打つ心臓に気付かないフリをしながら、リヴァイはもう一度身体を屈め、NAMEの顔に手を添えた。流れ落ちる涙を人差し指で拭い、囁くように「ここにいるぞ」と声を掛けると、NAMEの表情はまた穏やかなものへと変わった。
そして。
「おか…あさん」
「…」
ズル、と肩が落ち、リヴァイは片眉を上げた。
…何を期待してやがんだ、俺は…。
大きく息を吐きながら今度こそ立ち上がったリヴァイは、自分の服を掴むNAMEの手を外してベッドへ戻し、布団を被せた。
・-・-・-・-・-・-・-・
「皆に我々の新しい仲間を紹介する!―NAME、挨拶を」
「NAME・バーナーです。よろしくお願いします!」
檀上に上がったNAMEはエルヴィンに促され、兵士達の前で自己紹介をした。
「バーナー」とは、モブリットの姓だ。親戚だからといって姓を合わせる必要はなかったが、然程珍しい苗字でもない為そのまま使う事になったのだ。元の世界の苗字では、この世界にはそぐわなすぎる。
NAMEを見るなり、兵士達は少なからずざわついた。
「うわ…美人…」「昨日ハンジさんと一緒にいた人だ」「あの人、昨日すっげー短いスカート履いてた人だよな?」「なんで兵服じゃないの?」と、兵士がコソコソと声を漏らす。
そんな声は気にも留めず、エルヴィンは紹介を続けた。
「彼女は調査兵団所属となるが、兵士ではない。事務担当として私が引き入れた。まずはリヴァイ兵士長の補佐官として、今日から任務に就く」
エルヴィンのその言葉に、兵士達のざわつきは大きさを増す。
「職務的に君達兵士とはあまり関わりはないかもしれないが、我々の調査を裏で支える人材だ。皆、よろしく頼む!」
その言葉を最後に、兵士達は解散した。
NAMEは、自分で言い始めたことだがここで働くという、並大抵の覚悟では務まらない事の大きさに再び不安を募らせたが、再度自分を鼓舞し、その弱気な考えを取り払うように自分の頬を両手でパチンと叩いた。
「自分を痛めつけて楽しいか?」
その様子を見ていたリヴァイは「馬鹿なことやってねぇで早く来い」と、ノロノロ歩いている(ようにリヴァイには見える) NAMEを急かした。
「お前の仕事はこれだ」
執務室に着くと、リヴァイはすぐさまNAMEに大量の書類を渡した。
「この書類の山を明日までに整理する。まずは、サインが必要なものとそうでないものに分けろ。その中から別で報告書にまとめるもの、そのまま保管するものに分ける。分類が終わったらサインが必要なものとそのまま保管するものを俺に回せ。お前はそれ以外をこの報告書にまとめろ。最後に俺がそれを確認する。分かったか」
「はいっ!了解です!」
早口でざっくりと説明しただけだったが、NAMEはメモを取りながらすぐさま返答した。とりあえず返事だけ、というわけではなく、ちゃんと理解している顔つきに、頭は悪くないようだとリヴァイは思った。
「すぐにモブリットがここへ来る。今日は聞きながらやれ。俺はこのまま訓練だ。悪いが俺が戻るまで書類は任せる」
「はい。…あの、リヴァイさん」
「なんだ」
「お仕事、与えてくれてありがとうございます。私、しっかり努めますので!」
NAMEの、必死に決意したようなその目を見て、リヴァイは昨夜のことを思い出していた。苦しそうに顔を歪め、母親を想って涙していた彼女は、リヴァイが思うよりもずっと、孤独を感じ、自分の居場所を探して必死に生きようとしているのかもしれない。
そんなことを思いながら、ぶっきらぼうに答えた。
「…ああ、昨日も聞いた」
「…そうでしたね。…訓練、頑張ってください!」
「ああ。夕方には戻る」
そんな些細なやり取りだったが、なぜか新婚のそれを想像してしまったリヴァイは頭の中で自分を嘲笑う。そして、NAMEの笑顔に見送られながら部屋を後にした。
―コンコンコン「NAME、モブリットだ。入ってもいいかい?」
「はいっ今開けますね!」
リヴァイが出て行って数分後、モブリットのノックにNAMEは急いで扉を開けて迎え入れた。
「お待ちしていました!」
「…ああ、お待たせ」
ぱあっと明るい笑顔で扉を開け自分を歓迎するNAMEに、モブリットは一瞬クラリと眩暈がした。
そのくらい、NAMEの笑顔には破壊力がある。
元々端正な顔立ちなのもあるが、普通にしていると実際の年齢より少し大人びて見える彼女は、笑うと途端に幼さが入り、眩しいほどに可愛さと可憐さが倍増されるのだ。
「…モブリットさん?」
「ん…あぁ、ごめん、なんだったかな」
「いえ。…モブリットさんも忙しいのに、私の手伝いまでさせてしまってすみません」
「はは。またそれか。気にしなくていいんだって。俺も自分の仕事をやりながら出来るんだし」
「…ほんとに有難いです。モブリットさんがいてくれると心強くて。実は、この書類の山に結構焦りを感じていたので…」
そう言って、れ。と舌を出して笑う彼女にモブリットの胸はドクンと高鳴った。
すぐ隣にいる彼女が、書類に目を戻しながら落ちてきた髪を耳に掛ける。その動作すらも美しくてつい目を奪われてしまう。
彼女は兵士ではない。故に兵服は着ておらず、昨日一緒に買った白の上品なブラウスにベージュのタイトスカートと低めのヒールを身に纏っている。
今までの格好と全く違うその姿は、大人びた彼女の雰囲気にとても合っていて、しかし笑うと幼さが見える彼女が少し背伸びをしているようなそんな格好に、より庇護欲を掻き立てられた。
この、華奢な肩を掴んで引き寄せたら彼女はどんな反応をするのだろうか…
そんな考えに至っていたことに気付いたモブリットは、ブンブンと大きく頭を振った。
「どうしました?」と覗き込んでくるNAMEから視線を外し、「なんでもないよ。さ、始めようか」と、頭を仕事に切り替えるモブリットであった。