バレンタイン、成功セリ

高校の同級生の宮くん(治くんのほう)が、おにぎり屋さんをやってるとうわさで聞いたのが、数か月前のこと。

へぇ、おにぎり好きやったんかな、ぜんっぜん話したことないもんな。

大学に進学して、卒業して。学生気分が抜けきらないまま社会人になって、もう数年。
こうやってみんな自分の道を見つけてくんやなぁとか、私もそろそろしっかり自分のこと考えんとあかんかなぁとか、物思いにふけることが最近増えてきた。

ちょっと刺激をもらえんかな、とこっそり「おにぎり宮」に行ってみることに。

お店に行ったとき、ちょうど治くんは不在やった。別に会いに行ったわけでもないからええねんけど。
美味しそうな具がいっぱいで、迷いながらおにぎりを2つ注文する。

「お好きな席に座ってお待ちください」
カウンター席の端に座って、おにぎりができるのを待った。
店内をぼーっと見るともなく見ていたら、一枚のポスターが目についた。

…ん?この人…あれ…ちょっと待って…
きた しんすけ ?
北信介!!?

思わずガタっと椅子から立ち上がる。ちょっとびっくりした顔で店員さんがこっちを見たけど、すぐ手元に視線を戻して作業に戻っていった。

うわ恥ずかし…

そーっと椅子に座り直し、今度はまじまじとそのポスターを見直した。
そのポスターには、黄金に広がる田んぼをバッグに、柔らかな笑顔でたたずむ作業着姿の北先輩が写ってた。

知らんかった…先輩、いまお米作っとるんや…

先輩が作っているというお米の袋もポスターで紹介されていて、よく見たらこの店内にもおんなじ米袋が展示されていた。どうやら、「おにぎり宮」で取り扱っているお米らしい。
お米の名前は「ちゃんと。」

…はぁ。さすがや。
北先輩はずっと北先輩やなぁ。
なんなら、前よりずっとかっこよくなってるわ。
運ばれてきた「ちゃんと。」を使った同級生のおにぎりを口いっぱいにほおばる。

私も、できそうなことから一つずつ、ちゃんとやってみよ。

大きくて食べきれず、おにぎり2つの内1つを包んでもらった。
まだあたたかなおにぎりが入った紙袋を片手に、私は意気揚々と一歩を踏み出す。


おしまい
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