汝の愛よ我が胸に還れ
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「あァ? 如何したンだよ、やけに早ェじゃねェか」
「おはよう中也。ほら、日本のことわざにもあるでしょう。早起きは得があるって」
「『早起きは三文の得』か?」
「そうそうそれよ」
職場のエントランスに入ると、“背の低い方”の同期と鉢合わせた。朝の夢が原因でらしくもなく早く出勤したなんて言えるはずもなく適当な言葉ではぐらかす。
「そういえば治はもう来たかしら? 此の間の調査報告書の提出、今日中のはずだけど」
「いや、未だ来てねェな。今頃は阿呆面下げて寝てンだろうよ」
「どうせ昨日も遅くまで飲んでたんでしょうね」
もう1人いる“背の高い方”の同期も同じ任務を仰せつかったはずなのに、どうやら今日も今日とて重役出勤のよう。実際のところ彼は最年少幹部であるからお偉方ではあるけれど。
「まあ治がいなくてもどうにでもなるわね。私たちだけでさっさと片付けちゃいましょうよ。どうせ夜にはまた任務があるし、仮眠する時間が欲しいわ」
「なら俺の部屋に来いよ」
急に立ち止まった中也につられて私も立ち止まる。目を泳がせながら、決まりが悪そうに指先でボルサリーノハットの鍔を弄る彼は、いつもの威勢の良い彼ではない。それが何だかおかしくて、ふふ、と笑いをこぼしてしまった。
「なッ……! ンだよ何か文句でもあんのか!」
「いいえ全く。そうね、それじゃあお邪魔しようかしら」
「たっく……面倒な奴だな」
ぶつぶつと小言を言われながらも彼の執務室へと招かれる。勝手知ったる其処に遠慮する素振りも見せずに入り、応接スペースのシングルソファに腰掛けた。それはスプリングがよくきいた黒革張りの舶来物で、中也の趣味の良さが窺える。
「珈琲と紅茶、何方が良い」
「紅茶。ストレートで良いわ」
給湯スペースで飲み物を淹れる中也に甘えて紅茶を頼んだ。ティーカップとソーサーの擦れる音を聞きつつ、報告書を作成する為にパソコンを立ち上げる。
身体に残る昨晩の任務の疲労から欠伸をひとつ漏らせば、私の紅茶と自分の珈琲を手にした中也が、不思議そうに私の顔を覗き込んだ。
「如何した。何時もは欠伸なんざしねェ手前が」
「そうかしら? 男は変に目敏くなくて良いのよ」
それ以上は詮索してくれるなと貰ったカップに口をつけた。ダージリンの香りを纏った湯気が鼻先を擽り、熱い液体が喉を通る。カップをソーサーに置き直せば、グロスが其れの縁を染めていた。後で塗り直さないと。
さあ、治が来る前に報告書を完成させて、食事でも奢らせよう。
「おはよう中也。ほら、日本のことわざにもあるでしょう。早起きは得があるって」
「『早起きは三文の得』か?」
「そうそうそれよ」
職場のエントランスに入ると、“背の低い方”の同期と鉢合わせた。朝の夢が原因でらしくもなく早く出勤したなんて言えるはずもなく適当な言葉ではぐらかす。
「そういえば治はもう来たかしら? 此の間の調査報告書の提出、今日中のはずだけど」
「いや、未だ来てねェな。今頃は阿呆面下げて寝てンだろうよ」
「どうせ昨日も遅くまで飲んでたんでしょうね」
もう1人いる“背の高い方”の同期も同じ任務を仰せつかったはずなのに、どうやら今日も今日とて重役出勤のよう。実際のところ彼は最年少幹部であるからお偉方ではあるけれど。
「まあ治がいなくてもどうにでもなるわね。私たちだけでさっさと片付けちゃいましょうよ。どうせ夜にはまた任務があるし、仮眠する時間が欲しいわ」
「なら俺の部屋に来いよ」
急に立ち止まった中也につられて私も立ち止まる。目を泳がせながら、決まりが悪そうに指先でボルサリーノハットの鍔を弄る彼は、いつもの威勢の良い彼ではない。それが何だかおかしくて、ふふ、と笑いをこぼしてしまった。
「なッ……! ンだよ何か文句でもあんのか!」
「いいえ全く。そうね、それじゃあお邪魔しようかしら」
「たっく……面倒な奴だな」
ぶつぶつと小言を言われながらも彼の執務室へと招かれる。勝手知ったる其処に遠慮する素振りも見せずに入り、応接スペースのシングルソファに腰掛けた。それはスプリングがよくきいた黒革張りの舶来物で、中也の趣味の良さが窺える。
「珈琲と紅茶、何方が良い」
「紅茶。ストレートで良いわ」
給湯スペースで飲み物を淹れる中也に甘えて紅茶を頼んだ。ティーカップとソーサーの擦れる音を聞きつつ、報告書を作成する為にパソコンを立ち上げる。
身体に残る昨晩の任務の疲労から欠伸をひとつ漏らせば、私の紅茶と自分の珈琲を手にした中也が、不思議そうに私の顔を覗き込んだ。
「如何した。何時もは欠伸なんざしねェ手前が」
「そうかしら? 男は変に目敏くなくて良いのよ」
それ以上は詮索してくれるなと貰ったカップに口をつけた。ダージリンの香りを纏った湯気が鼻先を擽り、熱い液体が喉を通る。カップをソーサーに置き直せば、グロスが其れの縁を染めていた。後で塗り直さないと。
さあ、治が来る前に報告書を完成させて、食事でも奢らせよう。