汝の愛よ我が胸に還れ
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懐かしい夢を見た。私の家族がまだ生きていた――愛するお兄さまたちが生きていた、生涯で一等に幸せだった在りし日の。
『シャルロッテ、かわいいロッティ。僕たちの宝』
私の頭を撫でるヴィルヘルムお兄さまの手つきは慈しむように優しい。その手に自分の頭を押し付け、もっと撫でるように甘える。そうすればこの人は眉を下げながら笑って、沢山撫でてくれるから。
『わたしたちの異能力 が、何よりも大切なおまえを護るように』
私の髪の毛先を弄んでいたヤーコプお兄さまの云った言葉の意味が、幼い当時の私には分からなかった。
私はいつもお兄さまたちに護られていたのに。深く愛されていたのに。彼らの最期のその日まで。それについぞ気づくことのなかった愚者 は、生涯に渡って悔い続けることになる。
――ピピピ、ピピピ
セットしていたアラームの音が規則正しく部屋に響いた。私に優しかった夢は徐々に朧いで、ゆっくりと瞼が開く。じんわりと滲んで消えたお兄さまたちの顔は慈しみに満ちた笑みを湛えていた。
喧しく喚くアラームを止める。まだ抜けきらない眠気に引き摺られつつ、のろのろとベッドから這い出て厚手のカーテンを開け放った。途端に朝陽が突き刺すように部屋の中に飛び込んできて思わず目を眇める。昨日の任務が長引いた所為かいつもよりも身体に疲労が残っていた。
クローゼットの前に立ってネグリジェを脱ぎ、仕事着としても普段着としても使っている服に着替える。袖に花の透し模様の入った白ブラウスに、フレア素材の黒いジャンパースカートと、白レースのソックス。白と黒が貴重のそれを同期のふたりに子供っぽいと揶揄われたのは記憶に新しい。
「お兄さまたちなら可愛いと褒めてくれるのに」
髪のセットをしながら毒吐くけれど、部屋には私独りだけ。独り言にも近いそれに答える人などいなく、静寂の中に溶けて消えた。そして先程の夢をまた思い出してどうしようもなく寂しくなる。
食欲が失せた私は朝食を食べることをやめ、少し早めに出勤することにした。一人暮らしにと用意された広過ぎる此の部屋は暮らしやすくも暮らしにくい。孤独は私の手に余る。
愛用している黒いメリージェーンパンプスをまた新しく卸して部屋を施錠し職場へ向かった。新しく増えた靴擦れの赤い傷が痛み、その存在を主張する。
けれども知らぬ振りをして、舞踏会に向かうお姫さまのように、軽やかに歩き始めた。今日の私も誰にも負けないくらい素敵なのだから。
『シャルロッテ、かわいいロッティ。僕たちの宝』
私の頭を撫でるヴィルヘルムお兄さまの手つきは慈しむように優しい。その手に自分の頭を押し付け、もっと撫でるように甘える。そうすればこの人は眉を下げながら笑って、沢山撫でてくれるから。
『わたしたちの
私の髪の毛先を弄んでいたヤーコプお兄さまの云った言葉の意味が、幼い当時の私には分からなかった。
私はいつもお兄さまたちに護られていたのに。深く愛されていたのに。彼らの最期のその日まで。それについぞ気づくことのなかった
――ピピピ、ピピピ
セットしていたアラームの音が規則正しく部屋に響いた。私に優しかった夢は徐々に朧いで、ゆっくりと瞼が開く。じんわりと滲んで消えたお兄さまたちの顔は慈しみに満ちた笑みを湛えていた。
喧しく喚くアラームを止める。まだ抜けきらない眠気に引き摺られつつ、のろのろとベッドから這い出て厚手のカーテンを開け放った。途端に朝陽が突き刺すように部屋の中に飛び込んできて思わず目を眇める。昨日の任務が長引いた所為かいつもよりも身体に疲労が残っていた。
クローゼットの前に立ってネグリジェを脱ぎ、仕事着としても普段着としても使っている服に着替える。袖に花の透し模様の入った白ブラウスに、フレア素材の黒いジャンパースカートと、白レースのソックス。白と黒が貴重のそれを同期のふたりに子供っぽいと揶揄われたのは記憶に新しい。
「お兄さまたちなら可愛いと褒めてくれるのに」
髪のセットをしながら毒吐くけれど、部屋には私独りだけ。独り言にも近いそれに答える人などいなく、静寂の中に溶けて消えた。そして先程の夢をまた思い出してどうしようもなく寂しくなる。
食欲が失せた私は朝食を食べることをやめ、少し早めに出勤することにした。一人暮らしにと用意された広過ぎる此の部屋は暮らしやすくも暮らしにくい。孤独は私の手に余る。
愛用している黒いメリージェーンパンプスをまた新しく卸して部屋を施錠し職場へ向かった。新しく増えた靴擦れの赤い傷が痛み、その存在を主張する。
けれども知らぬ振りをして、舞踏会に向かうお姫さまのように、軽やかに歩き始めた。今日の私も誰にも負けないくらい素敵なのだから。