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妹よ

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聖歌隊が賛美歌を歌い、神父から語られる神の言葉が終わり、式は終盤に差し掛かった。

「誓いの言葉」

荘厳な礼拝堂に、神父の穏やかな声が木霊する。向き合った新郎が緊張した面持ちで口を開いた。



「新郎となるわたしは、病めるときも、健やかなるときも、喜びのときも、悲しみのときも、凛子さんを愛し、扶け、其の命ある限り、真心を尽くすことを誓います」



「新婦となる私は、病めるときも、健やかなるときも、富めるときも、貧しきときも、死が2人を別つまで、秀雄さんを愛し、慈しみ、貞節を守ることを誓います」



俺の下ろしたヴェールは秀雄によって恭しく上げられ、2人の間で誓いの接吻キスが交わされる。結婚宣言が礼拝堂に響き、其の契りの唯一人の証人となった俺は拍手を送って礼拝堂を退場する2人を見送った。





「新郎様と花嫁様がお待ちです」



式が終了し、係に声を掛けられる。言われるままに連れて行かれたチャペルの敷地内の庭園には、義弟となった秀雄と、馬鹿デカいブーケを抱える凛子の姿があった。

2人がそっと俺の前にやって来る。

凛子は何か言いたげに、けれど唇を震わせて言葉を詰まらせた。しかし其れを分かっているような秀雄に背中を押されて俺を見る。



「……私と秀雄さんの結婚に賛成し、そして反対してくれた兄さん……ありがとう。憎まれ役を買って出るほど、私のことを誰よりも心配し、愛してくれていることを――判っています」



泪ぐみ乍らも微笑う凛子から差し出されたブーケを、俺は抱えて受け取った。目頭がじわじわと焦げるように熱くなり慌てて俯く。



「秀雄……凛子は、俺の命よりも大切な妹だ。必ず護れ。此れからは俺の代わりに、凛子を幸せにしろ」



「……ッはい!」



「兄さん、ありがとう。私、貴方の妹として生まれてきて良かった」



幸せそうに寄り添い歩む2人を見送り、俺は晴れ渡った空を仰いだ。



俺の生涯に、凛子よりも深く愛する女など、この先現れはしないだろう。だがだからこそ凛子の幸せを願った。

今迄の俺の凡てとも云える女を手放し、胸が痛まねェと云えば嘘になる。だが其れでも俺は“約束”を交わした、あの頃のような俺に戻る為に、秀雄への過ちを懺悔し、彼奴に凛子を託した。



「――病めるときも、健やかなるときも」



だから言葉として残したい。誰に誓うわけでもなく、ただ己を己たらしめるための新しい“約束”を。



「……喩え、死が2人を別つとも」



生涯、変わることのない愛を誓おう。

ブーケに一粒、温かな雨が落ちた。
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