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妹よ

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チャペルの窓から臨む蒼空は雲ひとつなく、ヨコハマに燦々と注ぐ陽の光は凛子の門出を祝福しているようだった。清々しい程迄に晴れた光景は梅雨入りをした6月とは思えない。

俺は新婦控室の前で、そわそわと落ち着きなく凛子の準備を待っていた。



「御兄様、新婦様のご用意が」



にこにこと愛想の好い係に声を掛けられ、部屋の中へと招かれる。其の中には、純白のドレスに身を包んだ“新婦”――凛子が幸せな微笑みを湛えて佇んでいた。



「其れでは御兄様、新婦様へヴェールダウンをお願い致します」



「あァ、判ってる」



凛子がゆっくりと腰を下ろし俺の前に跪く。美しく繊細な刺繍が施されたヴェールの裾を持ち、凛子の顔を覆うようにふわりと下ろせば、幸せに輝く花嫁が出来上がった。



「……御目出度う凛子、世界一の花嫁だ」

心からの賛辞を贈ると、凛子は花が綻ぶような笑みを浮かべる。ヴェール越しに見る其の笑顔は、今迄の笑顔で一等に美しかった。だが其の笑顔がまた俺に向けられることは、もう二度としてない。



「新郎様がお待ちです」



先程の係の先導によって控室を出て、礼拝堂の前迄凛子をエスコートする。俺の腕を取る凛子の指先の震えが手袋越しに伝わった。



「……緊張してンのか?」



「ええ、ちょっと……駄目ね、私。こういうとき、いつも緊張しちゃうから……」



声を震わせる凛子の手を宥めるように手の甲をそっと撫でてやる。昔、上がり症だった凛子の為に緊張を和らげる方法を幾つも考えていたことを思い出した。だが其れももう、俺の役目ではない。

「それではどうぞ」



係達の手によって礼拝堂のドアが開け放たれた。目も眩むスポットライトが俺たちを照らし、ヴァージンロードに足を踏み入れる。

ゆっくりとした歩みと共に思い出すのは、凛子と過ごした日々だった。



初めて逢った赤ン坊の凛子
俺の後を付いて回った凛子
親父とお袋が死んで泣き喚いた凛子
夢を見つけたと目を輝かせた凛子
――そして、花嫁となった凛子。



何時だって凛子の側に俺はいた。何時だって俺の隣には凛子がいた。だがそれももう、今日で仕舞いだ。



凛子の人生を表すヴァージンロードの終着地点にいるのは、凛子を此れから先の未来で幸せにする新郎。

俺の凛子を護る役は此処で終わる。だからどうか俺の代わりに、凛子を護ってやってくれと切に願った。
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