妹よ
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太宰と別れ部屋に戻る。小林はリビングのソファに寝かせられ、其の傍らには凛子が佇んでいた。
俺の姿を視界に捉えた凛子はびくりと肩を揺らす。今迄見せたことのない、俺に対する怯えだ。あンなことを仕出かした後では、当然の反応だと自嘲する。
「に、いさ、ん……」
「……凛子、すまなかった」
其の足元に跪き、罪を白日の下に告白し懺悔する罪人のように俺は凛子を見上げた。俺に似た蒼い瞳は俺の心を推し量るように俺の眼を覗き込み、逸らされることはない。
「……私に謝らないで。私よりずっと、秀雄さんに、兄さんは恐ろしいことをしたわ」
尤もな言い分に何も言い返すことは出来ない。俺は小林に躰を向け、深く頭を下げた。
「すまなかった。手前にしたことは、許されることだとは思っていない。だが――」
「お義兄さん」
愚かな兄のために、純粋な凛子を棄てるような真似はしないでくれ。願える立場でもないが、其れだけは願いたかった言葉を遮った小林は、ソファから下りて俺の前に正座した。
「凛子さんとの交際を黙っていた僕の不誠実こそ、謝るべきなのです。貴方の大切な妹さんを、何処の馬の骨とも知れぬ男が誑かしていると思われても致し方ありません。しかし僕は真剣に将来を考えさせて頂いているのです。だからもう一度……否、何度でも願います。どうか、凛子さんを僕にください」
決して折れることのない強い意志。其れを前にした俺はただ、頷くだけだった。凛子はするすると腰を下ろして、俺の右手を両の手で摑んだ。
「兄さん……」
掌を凛子に見せる形で、凛子は俺の手を握る。
「貴方のことを、赦せる筈などないと思っていました」
伏せられた目が静かに上がり、俺を凛と見据えた。
「……それでも、貴方を赦さない選択肢など、私には存在しなかった」
睫毛から垂れる涙が、ぽたぽたと俺の指先に注がれる。
「貴方は貴方と同じ父と母を喪った私の側に、唯一居てくれた兄だった。何時も私を慰め、支え、護ってくれた」
擦り寄るように額が掌に押し付けられた。滑らかな肌の感触が伝わり、何時も此の額を撫でていたことを思い出す。
「――そんな貴方を、如何して赦さないでいられたでしょう」
嗚呼、誰よりも優しく愚かな妹よ。如何か願わくは――
俺の姿を視界に捉えた凛子はびくりと肩を揺らす。今迄見せたことのない、俺に対する怯えだ。あンなことを仕出かした後では、当然の反応だと自嘲する。
「に、いさ、ん……」
「……凛子、すまなかった」
其の足元に跪き、罪を白日の下に告白し懺悔する罪人のように俺は凛子を見上げた。俺に似た蒼い瞳は俺の心を推し量るように俺の眼を覗き込み、逸らされることはない。
「……私に謝らないで。私よりずっと、秀雄さんに、兄さんは恐ろしいことをしたわ」
尤もな言い分に何も言い返すことは出来ない。俺は小林に躰を向け、深く頭を下げた。
「すまなかった。手前にしたことは、許されることだとは思っていない。だが――」
「お義兄さん」
愚かな兄のために、純粋な凛子を棄てるような真似はしないでくれ。願える立場でもないが、其れだけは願いたかった言葉を遮った小林は、ソファから下りて俺の前に正座した。
「凛子さんとの交際を黙っていた僕の不誠実こそ、謝るべきなのです。貴方の大切な妹さんを、何処の馬の骨とも知れぬ男が誑かしていると思われても致し方ありません。しかし僕は真剣に将来を考えさせて頂いているのです。だからもう一度……否、何度でも願います。どうか、凛子さんを僕にください」
決して折れることのない強い意志。其れを前にした俺はただ、頷くだけだった。凛子はするすると腰を下ろして、俺の右手を両の手で摑んだ。
「兄さん……」
掌を凛子に見せる形で、凛子は俺の手を握る。
「貴方のことを、赦せる筈などないと思っていました」
伏せられた目が静かに上がり、俺を凛と見据えた。
「……それでも、貴方を赦さない選択肢など、私には存在しなかった」
睫毛から垂れる涙が、ぽたぽたと俺の指先に注がれる。
「貴方は貴方と同じ父と母を喪った私の側に、唯一居てくれた兄だった。何時も私を慰め、支え、護ってくれた」
擦り寄るように額が掌に押し付けられた。滑らかな肌の感触が伝わり、何時も此の額を撫でていたことを思い出す。
「――そんな貴方を、如何して赦さないでいられたでしょう」
嗚呼、誰よりも優しく愚かな妹よ。如何か願わくは――