妹よ
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凛子と選んだ硝子造りのローテーブルを挟んだ向かいのソファに、凛子と男が腰掛けている。男は細身で、座っていても其の身長の高さが窺えるが、その顔立ちから温厚な性質が滲んでいた。
「兄さん、此方が私とお付き合いして下さってる小林 秀雄 さんよ」
凛子が目配せをすると、男――小林は緊張した面持ちで頭を下げる。
「初めまして、中也さん。凛子さんとお付き合いさせて頂いている小林秀雄です」
「……凛子の兄、中也だ」
訪れる沈黙に居た堪れなくなったのか、凛子は態とらしく咳払いを一つして小林の紹介を始めた。
「兄さん、今迄ずっと内緒にしていてごめんなさい。秀雄さんはね、――」
凛子の話を聞くに、小林は物心ついた頃には孤児院で暮らしていたらしい。其の頃から文章を読むことが好きだった小林は勉学に励み、成人して孤児院を出てからはヨコハマでも有名な出版社に勤め始め、元より関心のあった演劇を鑑賞するようになったという。
そして2年前、小林は丁度舞台に出ていた凛子に惚れ、劇団長からの引き合わせによって友人関係から今に至ったと語る。
「中也さん、貴方にとって凛子さんが唯一の肉親であり、今迄大切にお守りした妹さんであることは十二分に存じ上げております。ですが如何か、如何か大切な凛子さんを、僕に下さい」
何か、喋らねェと。そう思っても、声が喉で潰れて消えた。其処へ凛子が更なる追い討ちをかける。
「私……屹度、屹度ね? 秀雄さんとなら、幸せになれると思うの」
無意識のうちに俺は異能力を発動させた。あろうことか他でもない、今まさに凛子との結婚を請うた小林に。そして其れは衝動的な殺意を含んでいた。
「がっ……?! あ゙あ゙っ……!」
突然の衝撃に、冷えた床に這い蹲って苦悶の声を洩らす小林。然し俺は本気で潰す心算 でいた。凛子を俺の手から奪おうとした時点で俺に敵する奴だと、俺自身が認識したからだ。そして突然のことに凛子は耳を劈く悲鳴を上げる。
「やめて、やめて兄さん!」
俺に縋り付く凛子の叫び声さえも何処か遠い。俺は無心で憎悪の対象に変わり果てた目の前の男を蹂躙した。
「自分の命よりも可愛い妹の声にも耳を塞ぐだなんて、中也、君は何時から兄失格になったんだい?」
まるで地獄絵図と化した部屋に響いた声。声と共に何処からともなく現れた男が俺の肩に触れた途端、無力感が俺を支配し異能力は強制的に解除された。床に倒れ込む小林を凛子は慌てて抱き起こす。
「……久しいじゃねェか、太宰」
悠然と微笑う其の男は嘗ての相棒――太宰治其の男だった。
「兄さん、此方が私とお付き合いして下さってる
凛子が目配せをすると、男――小林は緊張した面持ちで頭を下げる。
「初めまして、中也さん。凛子さんとお付き合いさせて頂いている小林秀雄です」
「……凛子の兄、中也だ」
訪れる沈黙に居た堪れなくなったのか、凛子は態とらしく咳払いを一つして小林の紹介を始めた。
「兄さん、今迄ずっと内緒にしていてごめんなさい。秀雄さんはね、――」
凛子の話を聞くに、小林は物心ついた頃には孤児院で暮らしていたらしい。其の頃から文章を読むことが好きだった小林は勉学に励み、成人して孤児院を出てからはヨコハマでも有名な出版社に勤め始め、元より関心のあった演劇を鑑賞するようになったという。
そして2年前、小林は丁度舞台に出ていた凛子に惚れ、劇団長からの引き合わせによって友人関係から今に至ったと語る。
「中也さん、貴方にとって凛子さんが唯一の肉親であり、今迄大切にお守りした妹さんであることは十二分に存じ上げております。ですが如何か、如何か大切な凛子さんを、僕に下さい」
何か、喋らねェと。そう思っても、声が喉で潰れて消えた。其処へ凛子が更なる追い討ちをかける。
「私……屹度、屹度ね? 秀雄さんとなら、幸せになれると思うの」
無意識のうちに俺は異能力を発動させた。あろうことか他でもない、今まさに凛子との結婚を請うた小林に。そして其れは衝動的な殺意を含んでいた。
「がっ……?! あ゙あ゙っ……!」
突然の衝撃に、冷えた床に這い蹲って苦悶の声を洩らす小林。然し俺は本気で潰す
「やめて、やめて兄さん!」
俺に縋り付く凛子の叫び声さえも何処か遠い。俺は無心で憎悪の対象に変わり果てた目の前の男を蹂躙した。
「自分の命よりも可愛い妹の声にも耳を塞ぐだなんて、中也、君は何時から兄失格になったんだい?」
まるで地獄絵図と化した部屋に響いた声。声と共に何処からともなく現れた男が俺の肩に触れた途端、無力感が俺を支配し異能力は強制的に解除された。床に倒れ込む小林を凛子は慌てて抱き起こす。
「……久しいじゃねェか、太宰」
悠然と微笑う其の男は嘗ての相棒――太宰治其の男だった。