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妹よ

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一日の仕事を片付けて愛車に乗り込む。捌いても捌いても降って湧いて出る仕事の山に疲労がないと言えば嘘になるが、家で凛子が待っているンだ。帰る時間を遅くするわけにも疲れた顔を見せるわけにもいかねェと気を取り直す。

帰りの道すがら、今朝凛子が食べたいと云っていた店に寄りケェキを購った。彼奴の喜ぶ顔を思い浮かべ乍ら、2人で暮らすマンションの部屋のドアを開けると、見慣れない革靴が玄関に揃えられていた。

「あ……? ンだ此れ」

「お、お帰りなさい兄さん」

何時ものように出迎えに来た凛子の表情には柔和さはなく何処か緊張しているように引き攣っている。

「あァ、今帰った。此れ、今朝食いてェっつってたケェキだ。今食わねェなら、冷蔵庫にでも入れとけ」

「わあ……わざわざありがとう。仕事で疲れてたでしょう?」

「ンなこたァ可いんだよ。俺が勝手にしたことだ。其れより此の靴は如何したンだ? 俺のやつじゃねェだろ」

箱を渡す序でに靴について訊ねれば、凛子はどう話を始めるべきか考えあぐねているように見えた。意図を汲みかね目を眇めると、覚悟を決めたように凛子は口を開く。

「――兄さんに、紹介したい男性 ひ とがいるの」

「……は?」

一瞬、悪い冗談だと一笑に付すことを考えた。だが其れも出来ねェ程に凛子の目も真剣で、俺は間抜けな声を洩らす。

「もう、リビングにいらっしゃってるから」

云い逃げるように箱を手に台所 キツチンへ引ッ込んだ凛子を茫然と見送った。未だ彼奴の云ったことを飲み込めずに立ち尽くす。

「紹介したい人がいる」。其れは如何考えても「結婚を考えている男がいる」ということだ。其れが解らねェ程、俺は莫迦でも世間知らずでもない。

如何云うことだ? 今の今迄、そんな――将来を考えている男がいるなんざ――話を凛子から聞いたことはねえ。況してや今朝、凛子と朝飯を食ってるときでさえそんな素振りはおくびにも出しちゃいなかった。

澱んだ感情を胸に蓄えつつ、何処ぞの馬の骨が待つリビングのドアに手を掛けた。
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