死を記憶する女司書
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諭吉さんをお見送りした私も、そう時間を空けずに丁寧にラッピングしたアップルパイを携えて武装探偵社へ向かった。停留所でやや荒っぽく停車したバスを降りてビルのエレベーターに乗り込む。事務所のフロアに辿り着くと既に社内の喧騒が外まで漏れていた。
「おはようございます」
挨拶と共に扉を開けると、もう多くの人が出勤しているように見える。けれども私を探偵社に引き留めて勤務時間を延ばす彼はいないようだった。
「お早う御座います金沢さん」
資料を両手に抱えた国木田さんに声を掛けられ挨拶を交わす。あまりにも多いそれを少しでも持たせてもらおうと申し出たものの「女性に重いものを持たせるのは」と丁重に辞退されてしまった。
「あーっ! 凛子、やっと来たンだね!」
始業前から仕事を始めている国木田さんに一息入れていただこうとコーヒーの準備をしていると、武装探偵社の名探偵が大声を出して給湯室へ飛び込んで来る。今朝の諭吉さんの「子供ではない」という言葉に「そうでもありませんよ」と心の中で否定しつつ彼を見やる。
「おはようございます江戸川さん。少しお早い出勤ですね」
「また“江戸川さん”。良い加減名前で呼べって云ってるじゃないか。それより洋菓子は? 社長に食べたいって云って置いたのに!」
「安心してください、ちゃんと持って来ましたよ。今日の三時のおやつに飲み物と一緒にお出ししますね。それから、私なんかがお名前でなんて呼べません」
私から見る頭脳明晰な世界一の名探偵は、どうにもお菓子が大好きなだけの大きな子どもに見えてしまう。そのちぐはぐさがおかしくて、思わず笑ってしまった。私の様子に江戸川さんがきょとんとする。
「何笑ってるのさ。凛子は矢ッ張り変だ」
「ふふ、そうですね。私は変なのかもしれません」
彼の言うことは彼が意図してないとしてもあながち間違っていない。私はこの世界では異質の存在だ。いてはいけないはずなのに、死にかけていたはずなのに、なぜかこうして拾われて生き永らえているのだから。
「僕は世界で一番の探偵だし、どんな事件もたちどころに解決できる。でもその僕にも分からないことがひとつだけあるんだ。分かるかい?」
君の秘密だよと彼は言う。その笑い方はあまりに無邪気で、ノスタルジックに浸る私の心を呼び戻す。
「君の秘密になるとからっきしだ。これじゃあ折角の名探偵の名が泣くね。全く如何してくれるんだい?」
「……『貴様 は他人 の秘密を伺がって可いと思いますか?』」
江戸川さんの翠緑の双眸が虚をつかれたように見開かれた。そしてじわじわと、その顔に喜色が広がる。
「嗚呼、本当に面白い。 この僕を堂々と挑発するなんて君ぐらいだ!」
「挑発だなんてそんな。江戸川さんに本気を出されては、私では到底太刀打ちできませんよ」
「まあ可いサ。凛子が何と云おうが、僕は君の謎を解いて見せるだけだからね」
余程、私との言葉遊びが気に入ったらしい。愉快そうに笑ったまま、国木田さんへお茶を出すときも彼は張り付くようについて来ていた。
「おはようございます」
挨拶と共に扉を開けると、もう多くの人が出勤しているように見える。けれども私を探偵社に引き留めて勤務時間を延ばす彼はいないようだった。
「お早う御座います金沢さん」
資料を両手に抱えた国木田さんに声を掛けられ挨拶を交わす。あまりにも多いそれを少しでも持たせてもらおうと申し出たものの「女性に重いものを持たせるのは」と丁重に辞退されてしまった。
「あーっ! 凛子、やっと来たンだね!」
始業前から仕事を始めている国木田さんに一息入れていただこうとコーヒーの準備をしていると、武装探偵社の名探偵が大声を出して給湯室へ飛び込んで来る。今朝の諭吉さんの「子供ではない」という言葉に「そうでもありませんよ」と心の中で否定しつつ彼を見やる。
「おはようございます江戸川さん。少しお早い出勤ですね」
「また“江戸川さん”。良い加減名前で呼べって云ってるじゃないか。それより洋菓子は? 社長に食べたいって云って置いたのに!」
「安心してください、ちゃんと持って来ましたよ。今日の三時のおやつに飲み物と一緒にお出ししますね。それから、私なんかがお名前でなんて呼べません」
私から見る頭脳明晰な世界一の名探偵は、どうにもお菓子が大好きなだけの大きな子どもに見えてしまう。そのちぐはぐさがおかしくて、思わず笑ってしまった。私の様子に江戸川さんがきょとんとする。
「何笑ってるのさ。凛子は矢ッ張り変だ」
「ふふ、そうですね。私は変なのかもしれません」
彼の言うことは彼が意図してないとしてもあながち間違っていない。私はこの世界では異質の存在だ。いてはいけないはずなのに、死にかけていたはずなのに、なぜかこうして拾われて生き永らえているのだから。
「僕は世界で一番の探偵だし、どんな事件もたちどころに解決できる。でもその僕にも分からないことがひとつだけあるんだ。分かるかい?」
君の秘密だよと彼は言う。その笑い方はあまりに無邪気で、ノスタルジックに浸る私の心を呼び戻す。
「君の秘密になるとからっきしだ。これじゃあ折角の名探偵の名が泣くね。全く如何してくれるんだい?」
「……『
江戸川さんの翠緑の双眸が虚をつかれたように見開かれた。そしてじわじわと、その顔に喜色が広がる。
「嗚呼、本当に面白い。 この僕を堂々と挑発するなんて君ぐらいだ!」
「挑発だなんてそんな。江戸川さんに本気を出されては、私では到底太刀打ちできませんよ」
「まあ可いサ。凛子が何と云おうが、僕は君の謎を解いて見せるだけだからね」
余程、私との言葉遊びが気に入ったらしい。愉快そうに笑ったまま、国木田さんへお茶を出すときも彼は張り付くようについて来ていた。