死を記憶する女司書
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私の与えた外套を未だ身に纏う久しく見ていなかった貌と、血と硝煙のにおいが鼻をつく路地裏。殺伐とした雰囲気の中、彼と私は静かにお互いを見つめ合っていた。然し其の間にあるものは懐かしさでも親しみでもない。殺伐とした絶対零度の感情だけだ。
敦君は意識が戻ったから可いとして、谷崎兄妹 はかなり酷い傷を負っている。さっさと帰って与謝野女医 に診せないと拙 いだろう。
「それで? 何が目的なんだい?」
ポートマフィアの唐突な襲撃の理由は元部下である彼からあっさりと語られた。
其れは人虎――もとい、敦君の捕獲。如何やら敦君は闇市で七十億もの懸賞金が懸けられているらしい。全く以て景気の良い話だ。私の懸賞金とは零 が四つも違うじゃないか。出世したものだね敦君。
敦君の引き渡しを拒めば戦争も辞さないと宣 う彼を挑発すれば、彼の後輩と見受けられる美女は実に雄弁にポートマフィアを語った。無駄だというのに。マフィア の闇深さもその中に息づく強さも、此処に居る誰よりも私は知っているのだから。
そして其れを知る彼は易々と――“今”の社内で膨れ上がる懸賞金もつゆ知らず――私の前職を暴露した。嗚呼全く、彼は何時迄経っても空気が読めなくていけない。
ポートマフィア。其処が私の嘗ての職場。そして彼――芥川 龍之介の教育係でもあった。予想だにしなかったことへの衝撃に息を呑む後輩を連れて彼は背を向ける。先程の言葉通り今日“は”此処で退く心算 なのだろう。
「……っ!」
「あ、芥川先輩!」
彼の発作的な咳がまた経始 まったようだ。背中をさすろうとする後輩の白く嫋やかな手を厭う様に振り払い、ごそごそと外套の衣嚢 から取り出したハンカチを口元に当てる。
「……ん?」彼の手に収まっているハンカチには、如何にも見覚えがあった。其れは紳士 が持つには相応しくない女性らしいハンカチで、白地に綺麗な花模様が描かれている。其れだけならば有り触れた女性用ハンカチだけれど、其れには金糸の刺繍で“K”という飾り文字のイニシャルが入っていた。
「ねえ、一寸待ち給えよ。其のハンカチを如何して君が持っているんだい?」
去り行かんとする彼らを呼び止める。美女は胡乱な視線を此方を寄越したが、私の言葉で彼のハンカチを見た途端ぎょっとしたように目を瞠った。其の反応から矢張り彼のものではないらしい。
「……只、此方へ出向く途中に女に渡されただけのこと。行くぞ樋口」
取り付く島もなく消えた彼に小さな溜息を吐く。やっと立ち上がることが出来るようになった敦君にも谷崎兄妹の運搬を手伝って貰うことにして、私たちは路地裏を去った。
却説、如何したものかな。
敦君は意識が戻ったから可いとして、谷崎
「それで? 何が目的なんだい?」
ポートマフィアの唐突な襲撃の理由は元部下である彼からあっさりと語られた。
其れは人虎――もとい、敦君の捕獲。如何やら敦君は闇市で七十億もの懸賞金が懸けられているらしい。全く以て景気の良い話だ。私の懸賞金とは
敦君の引き渡しを拒めば戦争も辞さないと
そして其れを知る彼は易々と――“今”の社内で膨れ上がる懸賞金もつゆ知らず――私の前職を暴露した。嗚呼全く、彼は何時迄経っても空気が読めなくていけない。
ポートマフィア。其処が私の嘗ての職場。そして彼――芥川 龍之介の教育係でもあった。予想だにしなかったことへの衝撃に息を呑む後輩を連れて彼は背を向ける。先程の言葉通り今日“は”此処で退く
「……っ!」
「あ、芥川先輩!」
彼の発作的な咳がまた
「……ん?」彼の手に収まっているハンカチには、如何にも見覚えがあった。其れは
「ねえ、一寸待ち給えよ。其のハンカチを如何して君が持っているんだい?」
去り行かんとする彼らを呼び止める。美女は胡乱な視線を此方を寄越したが、私の言葉で彼のハンカチを見た途端ぎょっとしたように目を瞠った。其の反応から矢張り彼のものではないらしい。
「……只、此方へ出向く途中に女に渡されただけのこと。行くぞ樋口」
取り付く島もなく消えた彼に小さな溜息を吐く。やっと立ち上がることが出来るようになった敦君にも谷崎兄妹の運搬を手伝って貰うことにして、私たちは路地裏を去った。
却説、如何したものかな。