死を記憶する女司書
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出社して朝一番、昨日私が司書の仕事をしている間に中島さんは無事に入社試験を済ませた話をナオミちゃんから聞いた。諭吉さんからの許可も降りたようで、中島さんも今日から晴れて武装探偵社の社員になったのだ。
「はあ……」
そして早速、国木田さんから仕事の指名が入ったらしい。内容は恐らく先ほどやって来た女性の依頼だ。中島さんは重い溜息を吐きながら支度を整えている。
「初仕事ですね。緊張していますか?」
「凛子さん!」
使用済みの来客用ティーカップを給湯室に下げる途中、頼りなげな背中に見兼ねて声を掛けた。すると中島さんはこちらを振り返って弱ったように笑う。その様子は彼の未熟さを表しているようで少し焦れったくも羨ましくもあった。
「僕に、出来るのでしょうか……」
重々しく吐いたのはどうしようもない気持ち。谷崎さんとナオミちゃんが同行すると言っていたけれど、やはり不安なのかもしれない。
国木田さんの気遣いもあって今回はそう難しくない仕事だけれど、いつかは彼も荒事をひとりで請け合うことになるだろう。荒事が苦手そうな、温和な彼が耐えていける世界かどうか。それはまだ分からない。分からない。でもだからこそ――
「『未だ試みずして、先ず疑うものは、勇者ではない』」
「え……?」
支度の手を止め、戸惑うような目で私を見る中島さんをまっすぐに見返す。前の世界では決してお目に掛かることのないような綺麗な瞳。そしてその瞳に自身への疑いや不安が滲んでいるのがどうしても惜しく思える。
暗い感情の曇りなく輝くそれは、どれだけ美しいことだろう。それを私は見てみたいと思ってしまった。
「自分を信じて下さい。探偵社は、私は、中島さんを信じていますから」
“勇者”たる人なんて、実は世界のどこにもいないかもしれない。人間は誰しも臆病であることを知っている。生きていく中で数えきれないほどの多くのことへ疑いの気持ちを向けるだろう。
私だってそのひとりで、だから私が彼に勇者たれと言えるはずもない。言う気もない。けれど自分を疑うなと言うことは許されるのではないだろうか。
「応援しています」笑いかけてそう言えば、中島さんは「はい!」と元気よく返事をしてくれた。それに嬉しくなって頷き返す。
「あ、あの、もしかして凛子さんの前職って作家ですか?」
ぱっと思いついたような調子で訊く中島さんに首を傾げた。前職……昨日、社の恒例の前職当てゲームでもしたのだろうか。太宰さんの前職を当てる人は一体、どこの誰になるのだろう。
「いいえ? 私はずっと武装探偵社で働いていますから。それに皆さんが褒めて下さる私の言葉、あるものの受け売りですよ」
中島さんが何かを言い募ろうとした刹那、国木田さんが彼に話しかけた。そろそろ行く時間になるのかもしれない。邪魔になってはいけないと、さり気なく話を切り上げて、2人に頭を下げて私は給湯室へ下がった。
「はあ……」
そして早速、国木田さんから仕事の指名が入ったらしい。内容は恐らく先ほどやって来た女性の依頼だ。中島さんは重い溜息を吐きながら支度を整えている。
「初仕事ですね。緊張していますか?」
「凛子さん!」
使用済みの来客用ティーカップを給湯室に下げる途中、頼りなげな背中に見兼ねて声を掛けた。すると中島さんはこちらを振り返って弱ったように笑う。その様子は彼の未熟さを表しているようで少し焦れったくも羨ましくもあった。
「僕に、出来るのでしょうか……」
重々しく吐いたのはどうしようもない気持ち。谷崎さんとナオミちゃんが同行すると言っていたけれど、やはり不安なのかもしれない。
国木田さんの気遣いもあって今回はそう難しくない仕事だけれど、いつかは彼も荒事をひとりで請け合うことになるだろう。荒事が苦手そうな、温和な彼が耐えていける世界かどうか。それはまだ分からない。分からない。でもだからこそ――
「『未だ試みずして、先ず疑うものは、勇者ではない』」
「え……?」
支度の手を止め、戸惑うような目で私を見る中島さんをまっすぐに見返す。前の世界では決してお目に掛かることのないような綺麗な瞳。そしてその瞳に自身への疑いや不安が滲んでいるのがどうしても惜しく思える。
暗い感情の曇りなく輝くそれは、どれだけ美しいことだろう。それを私は見てみたいと思ってしまった。
「自分を信じて下さい。探偵社は、私は、中島さんを信じていますから」
“勇者”たる人なんて、実は世界のどこにもいないかもしれない。人間は誰しも臆病であることを知っている。生きていく中で数えきれないほどの多くのことへ疑いの気持ちを向けるだろう。
私だってそのひとりで、だから私が彼に勇者たれと言えるはずもない。言う気もない。けれど自分を疑うなと言うことは許されるのではないだろうか。
「応援しています」笑いかけてそう言えば、中島さんは「はい!」と元気よく返事をしてくれた。それに嬉しくなって頷き返す。
「あ、あの、もしかして凛子さんの前職って作家ですか?」
ぱっと思いついたような調子で訊く中島さんに首を傾げた。前職……昨日、社の恒例の前職当てゲームでもしたのだろうか。太宰さんの前職を当てる人は一体、どこの誰になるのだろう。
「いいえ? 私はずっと武装探偵社で働いていますから。それに皆さんが褒めて下さる私の言葉、あるものの受け売りですよ」
中島さんが何かを言い募ろうとした刹那、国木田さんが彼に話しかけた。そろそろ行く時間になるのかもしれない。邪魔になってはいけないと、さり気なく話を切り上げて、2人に頭を下げて私は給湯室へ下がった。