死を記憶する女司書
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しゃれた帽子を被った小柄な男性が私たちの座る場所までゆっくりと歩いてくる。そして目の前に立つと、目深に被っていたそれをくいと上げてこちらを見た。
「よォ凛子、今日も有難うな。迎えに上がりましたよエリス嬢」
「こんにちは中原さん。いえ、エリスちゃんのおかげで仕事が前より楽しいですから、私こそお礼を申し上げるべきです」
私がそう言えば、中原さんは「そうか」と目元を緩ませる。彼と出会ったのはエリスちゃんが初めて来館した日だった。最初こそ雰囲気が怖い方だと思っていたけれど、言葉を交わすうちにそれは勘違いであったと認識を改め、今ではエリスちゃんのお迎えの際に世間話をするようになった。
「さ、エリスちゃん。また来てくださいね」
絵本をしまってエリスちゃんの背を軽く押して中原さんのところへと導く。けれど彼女はは私から離れようとしない。それどころか腰にしがみついて駄々をこね、少しでも帰りを引き延ばそうとする。
「イヤ、まだ帰りたくないわ! 凛子、リンタロウの図書館のお世話をしてよ。ここよりずっとキレイでおっきいの。あたしが云えばリンタロウは何でも聞いてくれるもん」
「ちょっ……! エリス嬢、ンな勝手なことは……」
「何よチュウヤ。ね、いいでしょ凛子」
甘えるように顔をすり寄せるエリスちゃんの頭を困りながら撫でた。 リンタロウさんという方がエリスちゃんのわがままを聞いてしまうとして、そのような偉い方がこの話を了承するとは思えない。 けれど中原さんの反応を見るとそうだと思いきることもできなかった。
初めてのエリスちゃんの申し出にどう返せば良いか考えあぐね、私は司書という仕事が副職であることを口実に丁重に断る。すると彼女は拗ねたように頬を膨らませた。
「ねえ、凛子はかぐや姫なの?」
「かぐや姫、ですか?」
中原さんがエリスちゃんの言葉の意味を汲みかねて助けを求めるように私を見つめると、彼女は更に言い募る。
「チュウヤ、凛子はかぐや姫みたいにスキな人と離ればなれにされちゃったんだって」
思わぬ彼女の言葉にぎょっとした。ちゃんと否定せずにごまかした私も悪いけれど、流石にこうなるとは思わなかった。「そうなのか?」と素直に問う中原さんに間髪入れず否定した。
「かぐや姫は自分を育てた親とも言える、翁と媼から引き離されてしまったでしょう? それこそがかぐや姫の罰であると……『愛するものから離されるほどに値打ちのあるものは、この世に何もありはしない』。そうエリスちゃんに教えただけです」
それ以上の言及から逃れるように、エリスちゃんにマカロンを渡せば、彼女は目を輝かせる。
「ねえ、次はいついるの?」
「来週の今日、お待ちしていますね。気をつけてお帰り下さい」
手を振るエリスちゃんに手を振り返し、私を見つめる中原さんに目を向ける。
「どうかしましたか?」
「あ、あァ、いや……」
歯切れの悪い中原さんに別れの挨拶をすれば、沈黙の末にそっぽを向いて出て行かれてしまった。
「よォ凛子、今日も有難うな。迎えに上がりましたよエリス嬢」
「こんにちは中原さん。いえ、エリスちゃんのおかげで仕事が前より楽しいですから、私こそお礼を申し上げるべきです」
私がそう言えば、中原さんは「そうか」と目元を緩ませる。彼と出会ったのはエリスちゃんが初めて来館した日だった。最初こそ雰囲気が怖い方だと思っていたけれど、言葉を交わすうちにそれは勘違いであったと認識を改め、今ではエリスちゃんのお迎えの際に世間話をするようになった。
「さ、エリスちゃん。また来てくださいね」
絵本をしまってエリスちゃんの背を軽く押して中原さんのところへと導く。けれど彼女はは私から離れようとしない。それどころか腰にしがみついて駄々をこね、少しでも帰りを引き延ばそうとする。
「イヤ、まだ帰りたくないわ! 凛子、リンタロウの図書館のお世話をしてよ。ここよりずっとキレイでおっきいの。あたしが云えばリンタロウは何でも聞いてくれるもん」
「ちょっ……! エリス嬢、ンな勝手なことは……」
「何よチュウヤ。ね、いいでしょ凛子」
甘えるように顔をすり寄せるエリスちゃんの頭を困りながら撫でた。 リンタロウさんという方がエリスちゃんのわがままを聞いてしまうとして、そのような偉い方がこの話を了承するとは思えない。 けれど中原さんの反応を見るとそうだと思いきることもできなかった。
初めてのエリスちゃんの申し出にどう返せば良いか考えあぐね、私は司書という仕事が副職であることを口実に丁重に断る。すると彼女は拗ねたように頬を膨らませた。
「ねえ、凛子はかぐや姫なの?」
「かぐや姫、ですか?」
中原さんがエリスちゃんの言葉の意味を汲みかねて助けを求めるように私を見つめると、彼女は更に言い募る。
「チュウヤ、凛子はかぐや姫みたいにスキな人と離ればなれにされちゃったんだって」
思わぬ彼女の言葉にぎょっとした。ちゃんと否定せずにごまかした私も悪いけれど、流石にこうなるとは思わなかった。「そうなのか?」と素直に問う中原さんに間髪入れず否定した。
「かぐや姫は自分を育てた親とも言える、翁と媼から引き離されてしまったでしょう? それこそがかぐや姫の罰であると……『愛するものから離されるほどに値打ちのあるものは、この世に何もありはしない』。そうエリスちゃんに教えただけです」
それ以上の言及から逃れるように、エリスちゃんにマカロンを渡せば、彼女は目を輝かせる。
「ねえ、次はいついるの?」
「来週の今日、お待ちしていますね。気をつけてお帰り下さい」
手を振るエリスちゃんに手を振り返し、私を見つめる中原さんに目を向ける。
「どうかしましたか?」
「あ、あァ、いや……」
歯切れの悪い中原さんに別れの挨拶をすれば、沈黙の末にそっぽを向いて出て行かれてしまった。