死を記憶する女司書
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太宰さんたちと別れた後、私は一度帰宅して諭吉さんが好まれている牛鍋を夕食として作っておいた。太宰さんと国木田さんの人食い虎捕獲任務に同行するため帰りが遅くなるかもしれないという旨の書き置きをして指定された倉庫へ向かった。
「今晩は、凛子さん。月光に照らされる貴女も美しい」
「こ、今晩は……」
涼しい表情の太宰さんとは対照的に、中島さんは冴えないそれだ。ここにいない国木田さんは他の社員の方たちを駆り出しているのかもしれない。
「こんばんは、太宰さん、中島さん」
太宰さんのいつもの口説き文句に曖昧に微笑みつつ挨拶を返して共に倉庫の中へ入ると、中島さんは真ん中に鎮座する大きな木箱に座り込み、太宰さんと私は少し離れたコンテナに隣り合って腰掛けた。
夜が深くなるほど中島さんの虎に対する怯えは濃くなり、月明かりを頼りに本を読む太宰さんの余裕を見て弱々しく笑う。“要らない子”だと施設を追われた中島さんにとって、生死の言葉ほど拷問となるものはない。それは彼への枷となり、苦しめる鞭になる。いっそ死んでしまいたいと絶望したことは幾度となくあっただろう。
皮肉なことだと、笑ってしまえれば良いのに。
私は一度死んだ。まだ生きたいと願いながら死んだ。そして何故か、この異世界に飛ばされた。「ここに私の幸せはない」と言えば嘘になる。けれど「“元の世界”に未練はない」と言えばそれもまた嘘になってしまう。だから私から贈れる言葉はひとつだけ。
「『死ぬのか生きるのか、それは人間の幸不幸を決する鍵では無い』」
中島さんが驚いたように私を見た。太宰さんもわずかに私に目を瞠り、そして高く昇った月を見る。
「却説 ――そろそろかな」
突如響いた脅しつけるような大きな物音と怯える中島さん。しかし太宰さんは至極冷静に一連の人食い虎の種明かしをする。するとその刹那、大きな虎へと変身した中島さんが襲い掛かってきた。薄々気づいていたはずのこととはいえ、迫る爪の恐怖に強張る私を太宰さんは素早く横抱きにして攻撃をかわす。
「大丈夫ですか? 凛子さん」
「は、はい。あの、重かったでしょう?」
太宰さんはコンクリートの床に下ろしながらそんな筈ないでしょうと言いながらうふふと笑った。そして私を背に庇うように立ち、再び襲い掛かる虎――もとい中島さんに触れる。彼の異能力“人間失格”を発動させて。
途端に変身は解け、意識を失っている中島さんは太宰さんにしな垂れ掛かる。けれど太宰さんがすぐにそれを剥がして床に落としてしまったので、私は慌ててそばに寄った。
「脈、呼吸はともに正常。気を失っているだけのようです」
「そうですねえ。彼は未だ異能を自制させることが出来ずに暴走させてしまうようだ。自我を失うのも無理はない。……ところで凛子さん、先刻の言葉は素晴らしかったですね。物書きの才能があるのでは?」
彼の言葉に曖昧に笑う。きっともうじき、国木田さんたちが来るだろう。
「今晩は、凛子さん。月光に照らされる貴女も美しい」
「こ、今晩は……」
涼しい表情の太宰さんとは対照的に、中島さんは冴えないそれだ。ここにいない国木田さんは他の社員の方たちを駆り出しているのかもしれない。
「こんばんは、太宰さん、中島さん」
太宰さんのいつもの口説き文句に曖昧に微笑みつつ挨拶を返して共に倉庫の中へ入ると、中島さんは真ん中に鎮座する大きな木箱に座り込み、太宰さんと私は少し離れたコンテナに隣り合って腰掛けた。
夜が深くなるほど中島さんの虎に対する怯えは濃くなり、月明かりを頼りに本を読む太宰さんの余裕を見て弱々しく笑う。“要らない子”だと施設を追われた中島さんにとって、生死の言葉ほど拷問となるものはない。それは彼への枷となり、苦しめる鞭になる。いっそ死んでしまいたいと絶望したことは幾度となくあっただろう。
皮肉なことだと、笑ってしまえれば良いのに。
私は一度死んだ。まだ生きたいと願いながら死んだ。そして何故か、この異世界に飛ばされた。「ここに私の幸せはない」と言えば嘘になる。けれど「“元の世界”に未練はない」と言えばそれもまた嘘になってしまう。だから私から贈れる言葉はひとつだけ。
「『死ぬのか生きるのか、それは人間の幸不幸を決する鍵では無い』」
中島さんが驚いたように私を見た。太宰さんもわずかに私に目を瞠り、そして高く昇った月を見る。
「
突如響いた脅しつけるような大きな物音と怯える中島さん。しかし太宰さんは至極冷静に一連の人食い虎の種明かしをする。するとその刹那、大きな虎へと変身した中島さんが襲い掛かってきた。薄々気づいていたはずのこととはいえ、迫る爪の恐怖に強張る私を太宰さんは素早く横抱きにして攻撃をかわす。
「大丈夫ですか? 凛子さん」
「は、はい。あの、重かったでしょう?」
太宰さんはコンクリートの床に下ろしながらそんな筈ないでしょうと言いながらうふふと笑った。そして私を背に庇うように立ち、再び襲い掛かる虎――もとい中島さんに触れる。彼の異能力“人間失格”を発動させて。
途端に変身は解け、意識を失っている中島さんは太宰さんにしな垂れ掛かる。けれど太宰さんがすぐにそれを剥がして床に落としてしまったので、私は慌ててそばに寄った。
「脈、呼吸はともに正常。気を失っているだけのようです」
「そうですねえ。彼は未だ異能を自制させることが出来ずに暴走させてしまうようだ。自我を失うのも無理はない。……ところで凛子さん、先刻の言葉は素晴らしかったですね。物書きの才能があるのでは?」
彼の言葉に曖昧に笑う。きっともうじき、国木田さんたちが来るだろう。