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女体化(連載・短編)

40×17♀のバレンタイン

普段迷いなく竜爪拳を繰り出し、鉄パイプを振り回している手がらしくもなく震えた。
「大丈夫、ちゃんと上手くできてるよ」
隣でコアラがにこにこ笑う。他人事だと思って、簡単に言う。でも、コアラがいなかったらこんなことできなかった、絶対。
料理なんて柄じゃないしましてやお菓子、――バレンタインのチョコレート作りなんて。
偶然に偶然が重なった。
サボは任務から解放されている時期で、近くで白ひげ海賊団がひと暴れしたらしいと情報が入って、明日は二月十四日。
バレンタインデーなんて生まれてこの方意識したことがなかったのに、周りの女の子がみんな、あんまり騒ぐから。何を作るだとか、誰にあげるだとか。
「サボはどうするの?」って当たり前に訊かれて、最初は全然ぴんとこなかったのに「好きな人、いるんでしょ?」と追撃されれば思いつくのは一人しかいなかった。
白ひげ海賊団の二番隊隊長で、サボよりずっと年上の。
大人って、バレンタインとかどうなんだろう。そういうので浮き足立つって、子供っぽく見えたりするのかな。
第一、今までスルーしてたイベントなのにいきなり気合い入れてプレゼント持っていったりしたら引かれるんじゃないのか。
けれど、迷いと裏腹の好奇心に抗えなかった。革命軍にいる女の子たちに混ざって甘い香りの漂う台所に立つ自分。すごく浮いてる。らしくない。手付きは誰より不器用で危なっかしいことこの上ない。
それでもコアラや女の子たちの手を借りながらどうにかこうにか形にして、赤いリボンのラッピングまでするとそれはすごくかわいい贈り物のように見えた。
「かわいい!ぜったい喜んでくれるよ!」
サボの不安を見透かしたように一人の女の子が言う。
「そう、かな」
「そう、絶対!」
がんばってと背中を押され、コアラに見送られて小型船で海に出る。
潮の香りが頬を撫でていくのにほっとした。やっぱりこうやってあちこち駆け回っている方が性に合っている。
でも、今日はやっぱり特別だ。カバンのポケットにそっとしまったチョコレートのことをどうしても意識してしまう。
きっと渡したらありがとうって言ってくれる。食べたらおいしいって言ってくれる。でも、そこに込めた気持ちはどうだろう。いつもみたいに取り合ってもらえないかも。
でも、絶対伝えなければ。本命だって。他の誰にも、手作りのチョコなんか渡したりしない。
絶対に好きだって伝える。エースが、はぐらかすなんてできないくらい、百回でも千回でも繰り返してこの気持ちは伝えなければ。サボの本気が伝わるまで。
子供には子供の意地があるんだから。
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