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女体化(連載・短編)

40歳×17歳♀


特技・戦闘、潜入捜査。
持てる能力をすべて使って、目的を為し遂げる。
だってこれは、おれの人生をかけた大勝負なのだから。


城かと見違うほど大きな船に、厳重な見回りの隙を掻い潜ってこっそり乗り込んだ。初めての場所ではない。記憶を頼りに奥へと進む。
通路は暗かったが、夜目は利く方だ。迷いなく足を進める。足音は立てない。
どこからか野太い笑い声が聞こえた。まだ騒いでいる人たちがいるらしい。声との距離からして、サボが彼らに見つかることはないはずだ。
海賊の船は寝静まるということを知らない。自由な生き方だ。憧れる。

とはいえ、目的の人物はもう寝ているはずだ。
よく食べて同じくらいよく眠る。
壮年を迎えた体はいつだって生きる力に満ちている。

目的の部屋の扉は閉まっていたが、鍵はかかっていない。
音を立てないように開けて中に入り込み、後ろ手に扉を閉める。
規則正しい寝息が聞こえた。いびきという方がいいのかもしれない。
惚れた欲目でそれすらかわいく思えてそっと寝台に忍び寄る。
小さな窓から入り込む月の光をたよりに部屋の内部を探る。
前に来たときと大きな違いは見られない。
ドキドキと心臓が音を立てていた。
さっき通り過ぎてきた喧騒が遠い。
ブーツを脱ぎ捨てて、膝からシーツの上に載ると、寝台が小さく軋む音を立てた。
求めていた人物が大の字になって寝ている。
逞しい体の横に手をついて。顔に顔を寄せる。
次の瞬間、腕を引かれて強引に体が反転させられた。
視界がぐるりと回って、月光などとは比べ物にならない光が目の前いっぱいにごうっと爆ぜる。
背中には移ったシーツの感触。
気付けば右腕をきつく掴まれて押し倒される格好になっていた。
サボを拘束している男の空いた右手にはゆらゆらと炎が立ち上がっている。
その美しさに思わず見惚れた。
「……何だ、サボか」
組み敷いた人間が見知った子供だと分かると、大海賊、“火拳”のエースは拘束する力を緩めた。
その炎がひと欠片飛んで、部屋の隅のランプに火が灯る。
シーツに散らばった短い金髪が灯りに照らされた。
「何しに来た。ドラゴンはお前がここにいるのを知ってるのか」
単純な問いかけではなく、悪さを働いた子供を咎める響きにサボはむっとして上半身を起こした。
「ドラゴンさんは知らない」
革命軍の秘蔵っ子が平然と言い放つ。エースにとっては娘のような年齢の少女だ。その強さはよく知っているが、心配のひとつもしたくなる。
「お前みたいな若い娘がこんなところをふらふらして何かあったらどうするんだ」
「何もねェよ」
言ってから失敗したと思う。あまりにも可愛げのない言い草だ。
口論をしに来た訳じゃないのに。
とはいえ、十七歳のサボは年齢以上に色恋沙汰に疎く、駆け引きの経験もない。
エースはサボよりふたまわりも大人で、おまけにこの海で名前を知らない者はいない大海賊だ。
拙い手管を用いたところで相手にされるはずもなく、だったら直球を投げた方が少しは見込みがあるのかも。
自分の勝負勘だけを頼りに震えそうな体に力を込めて、サボはエースを見据えた。
「エースに抱いてもらいにきた」
突拍子のないサボの言葉に、エースはたっぷり5秒ほど言葉を失う。
「…………はぁ?」
ようやく出てきたのは間の抜けた声で、けれどサボが顔を真っ赤にしていることが分かると表情を改めた。
「……あんまり大人を舐めるなよ」
ぎっと睨みつけるとその怒気にサボはびくっと肩を震わせた。
「……舐めてなんかいない! 好きなんだ、エースのこと……」
どんな戦闘でも怖いなんて思ったことがないのに、この人に怒られるのは怖い。
嫌われたらどうしよう。
でも、もう後にも引けない。
エースは大きくひとつ息を吐いた。
俯いた少女の想いに全く気付いていなかった訳じゃない。
だが、本気にしてもいなかった。
大人への漠然とした憧れなどいつかは消えて、年相応の恋愛をするのだろうと。
革命軍と海賊は決して同じものではないが、そうかけ離れた集団でもない。サボの周囲の大人たちのことも、彼らが幼い頃に引き取ったサボのことを目に入れても痛くないほど可愛がっていることも知っている。
恵まれたとは言えない生い立ちのことも聞いている。
だからこそ戦いの中にいても、いつかは穏やかな幸福を手に入れて欲しいと思っていた。
まさか、こんな実力行使をしてくるとは。
この船の中に忍び込むのは決して簡単なことではない。ましてや、ここは幹部であるエースの部屋だ。それを齢十七の少女が成し遂げたことは驚嘆に値する。
けれどその天才的な能力と、目の前で想いを告白して震える少女の姿はあまりにもアンバランスだ。
「……そんなに震えてるガキを抱けるかよ。今日はここに泊まっていいから、朝になったらバルティゴに帰れ」
サボにとっては絶望的な宣告だった。
「や、やだ!」
「駄々捏ねるなよ。ほら、今日はもう寝ろ」
「捏ねてない! 寝ない!」
「……捏ねてるじゃねェか」
「うえぇ〜ん……」
「……泣くなよ」
毛布を上から被せてやると、泣き顔を隠すように頭からすっぽりと潜り込む。
丸くなった背中をあやすように叩くと、小さくしゃくり上げる声が聞こえた。
エースだってサボのことはかわいいと思っている。
結婚していない、従って子供もいないから実の娘も同然に思っていた。
それで済んでいればよかったのだ。
最近になってそれだけではないと思うから、こんなことになって困っている。
四肢がすらりと伸び、体つきもぐっと大人びてきた。
大きな目によく笑う唇。
いかにもな美人という訳ではないが、その飾り気のなさがかえって好ましい。
そういう少女の抱いて欲しいという要求を何の下心もなく跳ね除けられるほど、エースだって枯れている訳じゃない。
「……早く大人にならねェと、こっちがジジイになっちまうぞ」
ああ、これは失言だ。
つい口を突いた言葉に、毛布の下から泣き濡れた大きな瞳がエースを見上げた。
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