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短編未満

鎧の下で激しく心臓が鳴っている。硬い殻に響く音が体の中で暴れている。
それが緊張からくるものだと気付いて少し驚いた。自分には、あまり縁のない感覚だと思っていたから。
けれど、これからおれが成そうとしていることを考えれば平静のままいることの方が難しかった。
ここには、おれ一人。
周囲は全員敵。
成功以外にはあり得ない。さもなくば死。
不思議と死に対する恐怖は薄い。それは数えきれないほど死線を潜り抜けた経験なのか、身近に見てきた他者の死ゆえなのか。
誰かの死を身が震えるほど恐ろしく感じたのはたった一度きり。
おれが記憶を取り戻すきっかけになったあいつのことだけだ。
心臓の音に混ざって、ごう、と炎が上がる気配を感じる。
メラメラの実を食ってから、時折それはおれのなかで予感なく燃え上がる。
おれの意思とは関係なくおれのなかで燃え上がる、おれのものではない炎。
体のなかでうねりをあげるそれは、おれが見たことのないはずのあいつの炎だ。
どうしてそうと分かるのか、けれどそれがあいつなのだというたしかな感覚。
おれを焚き付けているようにもなだめようとしているようにも思える。
あいつの本当の意思のありかは分からない。
でも、その炎を感じるたびにおれは不思議なほどの安堵を覚える。
ここにはおれ一人だけど、おれのなかにはあいつがいる。
「悪いけど、最後まで付き合ってもらうぞ」
小さく呟いた。
最後が示すのが勝利なのか死なのか。それを天秤ではかることすらおまえはきっと嫌がるだろう。おまえがそうしたら、おれだって絶対に引き止める。
だから、これはおれのわがままだ。
もしも死んだら、あの世の入り口で待っててくれよ。
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