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短編未満

任務の合間、街から街への移動で山越えの途中、野宿を余儀なくされてしまった。
慣れているというほどではないが、全くの初めてという訳でもないので適当な場所をみつけて腰を据える。
焚き火のための枝は一抱えほど集めたが、火をつける前にやめてしまった。
寒い分空気が澄んでいるのか、星がひどくきれいなことに気付いたので。
張り出した木の枝とびっしり多い繁る葉の隙間に点々と光る小さな星が見える。
きれいだ、と素直に思った。
それなりに忙しい身だ。
こんな風に夜空を見上げるのは一体いつぶりだろう。
海賊はどんなときにも遊び心を忘れない。
戦いの合間の休息には必ず船で宴をするのだとルフィが言っていた。
サボは海賊にはならなかった。
船出をしたその日に天竜人に撃たれ、記憶を喪い、革命軍に身を寄せることになった。
成り行きとはいえ他の選択肢がなかった訳ではないから、それはサボ自身が選んだ道だ。
記憶がなくても革命軍の考えや理念は水のように自然にサボの中に入ってきたし、記憶が戻ってもそれは変わることがない。


けれど、その一方でつい考えてしまう“もしも”がある。
17でエースと一緒に海に出ることができていたら。
幼い日の旅立ちが成功していたら。
記憶を喪うことさえなかったら。
サボの思う“もしも”はいつもひとつだ。
何かがひとつ違っていたら、エースは今も生きていたんじゃないか。
それが二十余年の人生で一番の後悔だった。


死んだら人は星になるという。
それをまともに信じるほど繊細にはできていない。
けれど、その夢物語を大切に思う人の気持ちを、今は少し理解することができる。
その身を焦がしながら己の存在を誇示する星の姿は、どこかエースの生き様に似ている。
(俺も死んだら、エースの星と一緒に燃えるものになれんのかな)
指先を炎に変えた。
ゆっくりと範囲を広げていけば、その意思のままにサボの体は炎に変化する。
エースの炎は今、サボの体に宿っている。
体を炎に変えるときにはいつも不思議な感覚がつきまとった。
己と世界とを隔てる体という境界があいまいになる。
己であって己でなくなるような感覚。
世界そのものに溶け込んで実体がなくなる。
けれど、その感覚が連れてくるのは不安ではなく、心地よい安堵なのだ。
そんなふうに思うのは、エースの炎を受け継いだという意識のせいかもしれない。
全身を炎に変えてしまえば、サボはエースと同じモノになれる。
炎を通して、エースの存在を感じることができる。
それが、あの日無力だった自分への身勝手な慰めになるのだった。
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