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短編

初雪

寒い寒いとサボがぐずっているのでひとりでさっさとベッドを抜け出した。
エースは寝つきがいいぶん寝起きもいい。
サボはやたらと夜更かしして朝は時間さえ許せばいつまでも寝ている。
全てがとは言わないが、自分たちは色々なところで対称的にできている気がする。それなのに上手く生活が成り立っているのは不思議だ。
靴下もスリッパも面倒でぺたぺたと裸足で歩くと冬の空気に晒されていた床が冷たさを主張してきたが、寒さに強いエースは気にしない。服も下に寝間着代わりのスウェットを履いただけで上は何も身につけていないままだ。
服があまり好きじゃない、と言うたび「野生児か」ときっちり着込んだサボに笑われる。
「お、雪」
窓の外を見ると白いふわふわが空から降りてきていた。
初雪。
サボが寒いと言うわけだ。
窓を開けるとひやりとした空気が部屋に流れ込んでくる。
さらけ出したままの上半身も当然冷気に包まれるのだが、エースはそのまま窓際に立っていた。
「……さみーよ」
雪に見とれていると、しばらくしてぼすん、ぎゅっ、という勢いで後ろから抱きつかれる。
いつの間にか起きてきたらしいサボはエースに密着して暖を取ろうとしているらしく、ぐりぐりと体の隙間を埋めてきた。
上も下もグレーのスウェットをしっかり着ているにもかかわらず、回された手のひらは冷たい。
エースは平熱が高くてサボはやや低め。そんなところも反対にできている。
暖めてやるつもりで手に手を重ねてやるとぎゅうと握り返された。
「痛ぇよ、握力強いんだから加減して」
「……ん」
素直に頷いて力を緩めるので何だかたまらなくかわいくなってしまう。
まるで子供を相手にしているみたいだ。
「ほら見ろよ、雪だ」
外を見るよう促すとサボは「ほんとだ」と呟いた。
「初雪?」
「多分」
空から降りてくるふわふわはベランダの手すりにくっつくと次の瞬間溶けてしまう。
根雪にはなりそうもないが、雪が降っているというだけで特別感を味わえるのはお手軽でいい。
「ルフィは?」
雪でも降ろうものなら真っ先に大騒ぎしそうな弟の声が聞こえない。サボが首を傾げると
「お友達のとこ出かけたままだ。ほら、あれ、医者の」
「無断外泊か~ルフィも大人になっちゃったな~」
咎める響きは一切なく、サボがぼやく。
サボはとにかくルフィに甘い。ルフィを叱るようなところはエースですら見たことがない。
「ルフィが返ってくるまで、暖まることするか?」
不埒な響きで軽口を叩くと「……あほ」と返ってくる。かといって拒絶の色もない。
「さみーよ、暖めて」
そういう訳で、せっかくの雪の朝だが今日はこのままベッドにUターンだ。
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