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短編

思い出

ふと目を覚ますと天井から眩しいほどの明かりが煌々と照らしている。体の中にある熱とそれがすっと冷めていく感覚が同時にあって、ああ、そういえばエースとしこたま飲んで飲みつぶれたのだと思い至った。とはいえ、気分はそう悪くない。明日に残るような飲み方をした訳ではない。
体を捻ると、ちょっとぎょっとするくらい近くにエースの寝顔がある。ぐーぐーと規則正しい寝息だかいびきだかが顔に触れるくらい。ふわっと酒の匂いが混ざっているが、それは自分も同じなので気にならない。
酔いにぼんやりとした頭は匂いでもなく音でもなく、視覚情報を一心に捉えている。眩しいほどの明かりの中で見るエースの顔は普段よりぐっと幼く見える。もう酒を飲むのも合法となった年齢だというのに、子供みたいな無邪気さだ。
その幼さが、ふと記憶の向こうにある十歳のエースを思い起こさせてぎゅっと胸が詰まる。
知らないはずの世界。知らないはずの男の人生。生と死が隣り合わせだった存在しないはずの記憶は気付いたときにはもうサボの中に存在していた。
連綿と続く人生の記憶は、けれどその男の中で歪に断絶している。
十歳と二十歳。
幼い頃の全てを忘れて生きていた男は、今のサボと同じ年齢で記憶を取り戻した。一番大事な兄弟の死と引き換えに。
虚無感とも罪悪感ともつかない兄弟への想いがあまりに強かったから、サボは忘れることなく再び生まれてきたのかもしれない。今度は、争いも戦いもない世界に。
兄弟を探し当てたのは運命なのか、魂に刻まれた執念なのか。
サボは十歳で再び喪った兄弟と再会した。
兄弟――エースは、サボと同じように過去の記憶を持っていた。
再会してからの十年間、サボとエースは過去に喪われた時間を取り戻すように一緒に時間を過ごした。
小学校、中学、高校、大学。
示し合わせて同じ学校を選び、ずっと一緒にいたというのに、エースの寝顔を見て重ねてしまうのが、本当なら知らないはずの前のエースだというのが不思議だ。
知っている顔、懐かしい顔。ずっと見ているはずなのに、どこか見慣れない寝顔。
魂に刻まれた過去の誰かが求めているのは、目の前のエースじゃないのかもしれない。強すぎる執着を自覚して怖くなる。
じっと見つめていると、強い視線に気が付いたのかエースがゆっくりと目を開いた。
「……サボ」
酒と寝起きで掠れた声に名前を呼ばれる。それから酔いの醒めない緩さでふにゃと笑いかけられると、いつの間にか強張っていた肩の力が抜けるのが分かった。
「……エース」
名前を返す声がほんの少しだけ震える。
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