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短編

2020弟誕

つい鼻歌が零れた。それが買い物客で溢れた店の中だったから、一斉に怪訝な顔を向けられて、曖昧な顔で緩い会釈でごまかす。
肉売り場の、普段絶対に寄りつかないショーケースの中。ぴかぴかに磨かれたガラスの向こうに鎮座する肉のかたまりは普段キロで買っているそれの数倍の値段がついていて少しばかりも躊躇しないと言ったら嘘になる。
まあでも年に一回の誕生日だし二人で割り勘だし、と気合いを入れ直してケースの向こうで注文を待っている店員に声をかけた。A5ランク、のすごさが弟に伝わるかどうかは別として、これを料理する男には絶対の信頼を置いている。
大きな包みと引き換えに金を支払い、保冷剤の入った袋をぶら下げt店を出ると、後ろから軽いクラクションの音が響いた。
「エースー!」
車の後部座席の窓から大きく身を乗り出しているのは今日の主役である弟だ。
「何だ、もう行くのか」
「もう待てねェって言うから、今出たら丁度エースを拾えるかと思って」
助手席に乗り込むとハンドルを握ったサボが言った。金髪が半分ほど開けた窓から入る風に揺れている。
シートベルトを締めるとサボが緩くアクセルを踏んだ。行き先はルフィの仲間が勤めているレストラン。貸し切りで誕生日を祝ってくれるというのだからさすがに気合いが入っている。
「ほらよ、おれとサボからのプレゼント」
運転席と助手席の間から袋を手渡すと、中身を察したルフィは目を輝かせた。
車の中では格好もつかないが、形式よりモノが大事だからこれはこれでいいだろう。本人も喜んでくれていることだし。
店の前まで送り届けて、大きく手を振るルフィがバックミラー越しに見えなくなるとサボは深くアクセルを踏んだ。
サンジはせっかくだから寄って行けよ、と行ってくれたが丁重に辞退した。遠慮するような仲でもないが、せっかくの仲間内のパーティーだ。兄の知らないところで確かに成長しているんだな、というのはもう十分に分かっている。
おれたちは帰ってきてから存分に祝ってやればいい。
「どこか寄ってくか?」
「海行こうぜ」
サボに訊かれて答えると、間髪入れず賛成が返ってくる。ぐん、と車のスピードが上がる。これからはこういう誕生日が当たり前になっていくのかもな、と思うと不思議と口元が綻んだ。
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