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短編

2020サボ誕

誕生日、という言葉の意味は知っている。おれは3月20日。エースは1月1日。だから何だ、と言われると少し困る。おれにとって、それは単純な情報の羅列に過ぎない。名前と同じ識別のための記号。おれは誕生日というものを祝ったことがなかった。そういうものだと教えてくれる人がいなかったから。教えてくれるような人たちと出会ったときには、自分の誕生日を忘れてしまっていたから。

だから再会したルフィに満面の笑顔で打ち明けられて驚いた。
「おれとエースとマキノたちで毎年祝ってたんだ。サボの誕生日。誘っても店には来なかったけどダダンたちもこっそり宴してた」
他愛ない酒の席で当然のことのように弟は言って、にししと笑い声を上げた。
「いや、だってエースは」
エースだって、おれと同じだったはずだ。誕生日に込められた特別な意味を知らない。5年も一緒にいて互いの誕生日を祝ったことは一度もない。
「エース、マキノのところで色々勉強したんだ。あいさつとか、礼儀とか。そんで、誕生日は祝うもんだって言われて」
「……そっか」
おれにおれの人生があったようにエースにはエースの人生があった。二人きりの狭い世界が三人になって、どんどん広がって。嬉しく思うのと同時に、そういう時間を一緒に過ごせなかった寂しさと悔しさも感じる。それが、もう取り戻せなくなってしまった悲しさも。
おれの手元の盃にルフィが酒を注いだ。ぎこちない手つきだったが真心と気遣い、それから成長を感じて頬が緩む。ルフィは自分の盃とそれからもうひとつ、おれとの間に置いた盃にも順番に酒を注ぎ、それから自分の盃を掲げた。おれもそれに倣う。ルフィがにっと笑った。
「誕生日おめでとう、サボ!」
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