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短編

某テーマパークに行く話

商店街の福引きで一等を当てた、とサボが二枚のチケットを持って帰ってきたので二人であまり縁のないテーマパークに行くことになった。
「陸と海どっちがいい?」
「そりゃ海だろ」
ということで、どちらかと言えば大人向けと言われるらしい海のパークに決定。
酒が飲めるらしいというかわいらしさとは無縁の前情報に意味もなくテンションを上げていざ乗り込んだ。

キャラクターの耳のカチューシャを着けて、ビールと軽食片手にぶらぶら歩く。途中でおもしろそうなアトラクションを見つけると並んでみたりして。落ちたり回ったりするものを順番に乗って、大してこわくもないのにギャーギャー騒ぐ。ノープラン極まれり。入園の元手がかかっていないから呑気なものだ。
それよりも、ふとしたときに目につく景色が何となく。
「なーんか、さ」
「うん」
まだ正月が明けたばかりだというのに、辺りの装飾は過ぎるほどのピンク色一色。
「バレンタイン?」
「早くねェ?」
まあでもそうなのだろうな、というのはあちこちに掲げられたチョコレート柄で分かる。
「あ」
それを見てサボが声を上げた。
「何だよ」
「コアラに買い物頼まれてたんだった。何とかって限定のぬいぐるみ」
「何とか?」
「ここじゃねーと売ってねェからって」
どこに売ってるんだろうな、ときょろきょろし始めたサボの手を思わず掴む。サボがびっくりして振り返る。
「何だよ」
「お前さァ、それは反則じゃねーの」
「何が」
何も分かっていないサボが素直に首を傾げる。
「……このタイミングで他の女の名前出す、とか……」
面と向かってそれを口にするのが気恥ずかしくてぼそぼそと言うと、サボは「今さら?」と目を丸くした。
「だってコアラだぞ?」
サボのビジネス上のパートナーであるコアラのことはエースもよく知っている。互いに友情以上の感情がないことも。
でも今サボの頭に彼女のことがあるのは嫌だった。パークの中の甘ったるい空気に当てられたのかもしれない。
唇を尖らせたエースにサボはふっと笑った。辺りを見回して、「こっち」と手を引っ張られる。
ガタンゴトンとゆっくり電車が走る陸橋の下を潜ると、港を模した海辺に出る。そこには不思議なくらい人がいなかった。どこも混雑しているのに、そこだけぽっかりと穴が空いているみたいだ。
日が沈むのが早い季節、もう真っ暗ということはなかったが海を囲むように点々と黄色い灯りがついている。どこか懐かしさを覚える景色だった。
ぼうっと見掘れていると、ふいに柔らかな感触が唇を掠めていった。思わず隣を見るといたずらが成功した子供のような顔でサボが笑っている。その頬が赤いのは、きっと寒さのせいだけじゃない。
目に映る光景は、どこかの世界の、もしかしたら訪れたかも知れない未来によく似ていた。
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