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忘れたくない/忘れてしまえ

忘れたくない

寝るのが怖い、というので理由を聞いたら、起きたときにまた忘れているかもしれないから、という答えが返ってきた。
「普段どうしてるんだよ」
「そんなに寝入らなくても体は回復するだろ」
マジか。食事中にすら寝落ちるエースにはとても信じられない。でも、サボは至極当たり前のような顔をしている。まさかこいつ、年単位でそんな生活しているのか。
「ガキの頃はそんなことなかっただろ」
ダダンのところでエースとルフィと三人、大の字になって眠っていた記憶がある。サボは他人事のように「そういやそうだなあ」と肯いた。
「けど革命軍に入ってからは任務で寝らんねェってのも多かったし」
「いやそれ激務すぎるだろ」
どんなブラック軍隊だ。いや革命軍だけど。ホワイトとは言えなくてもブラックじゃないと信じたい。とにかく、兄弟かつ恋人がそんな不健康な生活を送っているのはとてもじゃないが許容できない。
エースはサボの手を引っ張り上げると、無理やりベッドに押し込んだ。
「おい、エース?」
サボは逆らいこそしないが戸惑いを隠さない。
上から毛布をかけてばふばふと叩く。寝かしつけるなんて慣れてねェけど、繋いだ手はそのままで。
「寝ろ」
「はぁ? 急になんで」
「おれがそばにいれば忘れねェだろ」
そう言うと、サボの目がぐっと見開かれた。
「もし忘れても、思い出させてやれるしな」
にっと笑うと瞳が揺れる。何も言わない代わりに繋いだ手に力が籠もった。
「いででででで」
人間の頭蓋骨も握り潰せる握力なんだから手加減しろって。でも、その遠慮のなさがうれしい。
照れ隠しするように視線を落としたサボが「エースも」と言う。
「エースも一緒に寝ろよ。……多分おれ、そんなすぐに起きらんねェ」
エースはぽかんとして、けれどその言葉の意味を理解すると大きく肯いた。
「……おう」
枕を並べて、穏やかに時間が過ぎるのを待つ。普段だったらエースの方が先に寝付くけれどなんだかもったいなくて向かい合ったサボの顔をずっと見ていた。
閉じた目蓋を縁取る金色の睫毛が呼吸に合わせて揺れる。繋いだ手からゆっくりと力が抜けていく。寄り添った体の温度と心臓の鼓動を感じる。
全部を預けられているというたしかな信頼がじわり、と心に染みた。

二人がそろって目を覚ましたとき、太陽は空の一番高いところに昇っていた。
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