海軍if
海軍if2
-ACE-
海軍本部は好きなところじゃない。ジジィの呼び出しでなければ絶対に自分から足を運んだりしない。無駄に長い廊下、あちこちに掲げられた“正義”の二文字。
海軍の一兵卒であることと海軍の掲げる“正義”を振りかざすのは同じではない。でも、ここではそれが当然のようにまかり通っている。
育て親にして上官であるガープがその当たりをよく理解していることが唯一の救いか。変わり者だと言われながら英雄と呼ばれるほどの強さと功績は揺るがないし、それゆえに中将でありながら自由の効く立場を保ち続けエースにも無駄に“正義”とやらを押しつけては来ない。
立派な海兵になれ、という期待はそれなりに鬱陶しくもあったが、それも親心のうちと思えば無下に切り捨ててしまえるようなものでもなかった。
そうでなければ、エースはとっくにこの場所に見切りをつけて脱走でもしているだろう。
とにかく早くここを去るに越したことはない。
けれど、思わずエースは足を止めた。止めさせられた。そうさせたのは威圧感と、それから殺気。戦闘も修羅場もすでに幾度も経験しているが、その気配は今までに感じたことがないほど強く恐ろしい。
引きずられるように視線を上げると、エースの前に一人の男が立っていた。
知っている。海軍にいて知らない者はいない大将赤犬。
初めて対面するはずのその男が凍るような憎しみを込めた目でエースを見下ろしている。
冷や汗が背を伝った。
――知られている。
いや、知らないはずがないのだ。エースがどれほど隠そうとしても、上層部にいて知らないままの方が難しい。
エースが生まれながらに背負った罪。
有名すぎるエースの実の父親の名前。
だからこそガープは強固にエースを海兵にした。罪の血筋を引いていても、同じ軍に所属してしまえばおいそれと乱暴な扱いはできなくなる。まして、英雄ガープが後ろについているのなら。
けれど、きっとこの男にはそんなこと関係ない。徹底的な正義を掲げる男にとって、エースは揺らぐことのない絶対の悪の血を引く子供なのだ。
足が震えた。
「何か用ですか」
よく聞き慣れた声。エースと赤犬の間に割って入るようにそう言ったのはサボだった。
所用があるとかで、到着のタイミングが遅れたため、珍しくエースとは別行動を取っていた。
大将を前にしているにも関わらず一歩も臆した様子を見せない。それどころかエースを庇うように半身を前にしている。万が一赤犬が仕掛けてくれば、即座にサボも動くだろう。そういう気配だ。
赤犬は興を削がれたように「おどれら、礼儀のひとつも知らんのかい」と小さく舌を鳴らした。
「失礼しました」
何でもないことのようにサボが敬礼をするので、思わずエースもつられてしまう。
赤犬はエースとサボの顔を代わる代わる見やって何か言いたそうにし――だが結局何も言わずに去っていった。
「はぁ~~~~」とサボが大きく息を吐いたのは、大きすぎる背中が長い長い廊下の向こうにようやく見えなくなってからだった。
-ACE-
海軍本部は好きなところじゃない。ジジィの呼び出しでなければ絶対に自分から足を運んだりしない。無駄に長い廊下、あちこちに掲げられた“正義”の二文字。
海軍の一兵卒であることと海軍の掲げる“正義”を振りかざすのは同じではない。でも、ここではそれが当然のようにまかり通っている。
育て親にして上官であるガープがその当たりをよく理解していることが唯一の救いか。変わり者だと言われながら英雄と呼ばれるほどの強さと功績は揺るがないし、それゆえに中将でありながら自由の効く立場を保ち続けエースにも無駄に“正義”とやらを押しつけては来ない。
立派な海兵になれ、という期待はそれなりに鬱陶しくもあったが、それも親心のうちと思えば無下に切り捨ててしまえるようなものでもなかった。
そうでなければ、エースはとっくにこの場所に見切りをつけて脱走でもしているだろう。
とにかく早くここを去るに越したことはない。
けれど、思わずエースは足を止めた。止めさせられた。そうさせたのは威圧感と、それから殺気。戦闘も修羅場もすでに幾度も経験しているが、その気配は今までに感じたことがないほど強く恐ろしい。
引きずられるように視線を上げると、エースの前に一人の男が立っていた。
知っている。海軍にいて知らない者はいない大将赤犬。
初めて対面するはずのその男が凍るような憎しみを込めた目でエースを見下ろしている。
冷や汗が背を伝った。
――知られている。
いや、知らないはずがないのだ。エースがどれほど隠そうとしても、上層部にいて知らないままの方が難しい。
エースが生まれながらに背負った罪。
有名すぎるエースの実の父親の名前。
だからこそガープは強固にエースを海兵にした。罪の血筋を引いていても、同じ軍に所属してしまえばおいそれと乱暴な扱いはできなくなる。まして、英雄ガープが後ろについているのなら。
けれど、きっとこの男にはそんなこと関係ない。徹底的な正義を掲げる男にとって、エースは揺らぐことのない絶対の悪の血を引く子供なのだ。
足が震えた。
「何か用ですか」
よく聞き慣れた声。エースと赤犬の間に割って入るようにそう言ったのはサボだった。
所用があるとかで、到着のタイミングが遅れたため、珍しくエースとは別行動を取っていた。
大将を前にしているにも関わらず一歩も臆した様子を見せない。それどころかエースを庇うように半身を前にしている。万が一赤犬が仕掛けてくれば、即座にサボも動くだろう。そういう気配だ。
赤犬は興を削がれたように「おどれら、礼儀のひとつも知らんのかい」と小さく舌を鳴らした。
「失礼しました」
何でもないことのようにサボが敬礼をするので、思わずエースもつられてしまう。
赤犬はエースとサボの顔を代わる代わる見やって何か言いたそうにし――だが結局何も言わずに去っていった。
「はぁ~~~~」とサボが大きく息を吐いたのは、大きすぎる背中が長い長い廊下の向こうにようやく見えなくなってからだった。