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海軍if

海軍if1

海の上での追いかけっこ。
こっちがいつも鬼の役。
やりすぎなくらいでかでかと正義の印を掲げたマストの下で、今日も海兵が慌ただしく戦闘準備をしている。
その中で特に気負うこともなく、どこかのんびりとした仕草で水平線のほど近くを走る船を見やる少年がいた。潮風に癖のある黒髪が揺れる。
「おーすげーな、あの船最新式のモーター積んでるんじゃね?」
隣には同じくらいの背丈の少年が立っていた。髪の色は相方と対称的な金色。ちょっと珍しいくらいのスピードで遠ざかる船を「おー」とやはり緊張感のない様子で眺めている。
「あー、かもなー。めちゃくちゃ速ぇ」
「おれら、追いつけんの?」
「追いつけなかったら今追っかけてねーだろ」
「そっか。じゃあ戦うんだな」
「沈めんのか。もったいないねーな」
「無傷で勝ったら、おれたちにくれねェかなあ」
「いやさすがに無理じゃねえ?」
「だよなあ……じゃあさくっと沈めるしかねェか」
「おう、来年になったらルフィが来るからな。出来るだけ手柄立てておかねーと」
「さっさと追いつかれちゃ兄ちゃんの立場がねーからな」
のほほんと会話を交わす二人に背後から檄が飛ぶ。
「二人とも何してる! さぼってねェで位置につけ!」
「はぁい」と声を揃えて返事をする。その緩さに声をかけた上官は頭を抱えたが、いざ戦闘になればこの二人が誰よりよく働くことは知っている。何しろ、英雄ガープが直々に連れてきた“お墨付き”なのだ。
彼らを乗せた海軍の船はぐんとスピードを上げる。
米粒のようだった敵船がどんどん大きくなり、あっという間に射程の範囲内まで迫る。
誰からともなく士気を高める声が上がる。戦がはじまる印、鬨の声だ。
横付けすると海兵が敵船へ乗り移っていく。エースとサボはその先頭にいる。
相手は海賊。高い技術を持っている。でも、そこまで強くはない。逃げ切れなかったところで勝負はついている。
二人はそれぞれ手にした鉄パイプを自在に振り回して敵を攻撃する。刃物や銃を持った大男がおもしろいように倒れていく。激しい戦いの中央で背中を預け合って戦うのは楽しかった。高揚感と万能感。二人なら不可能なことなんて何もないと思える。

エース、サボ十七歳。海軍に入って二度目の夏だった。
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