空模様雲様子
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はっきりしない空模様の中、俺は果てしなくつづく広野をボンヤリと眺めてる。
俺が生まれ、育ってきた西涼 。
砂漠が広がってる以外目立ったものはほとんどない。
でも、俺はここが好きだ。
あいつがいたから――――――
ここに帰るのがつらい―――――――
『空模様雲様子』
「孟起 !!お前、毎日毎日ドコほっつき歩いてるんだよ!」
「るっせえな!どこだっていいだろ。
女の一人もいねぇお前にはわかんねぇよ。」
従兄弟の馬岱 が明け方、疲れて帰ってきた俺を捕まえて大声で喚き散らす。
寝不足で機嫌が悪い俺に喧嘩を売っているとしか思えない。
「俺は眠いんだよ、こんな夜中にぎゃあぎゃあ騒ぐな。頭いてぇ。」
俺が後一歩でブチ切れるのに気づいたのか馬岱は声のトーンを下げて言った。
「あのなぁ、お前はいいよ、好き勝手してさ。
けど、それでお前の分まで頼みごとをされる俺の事、 チョットは考えたことあるか?」
「ねぇな。」
「…はぁー、だよなー。お前ってそう言う奴だよな。」
「分かってんなら聞くなよ。もう、寝てもいいだろ。じゃな。」
馬岱がうんざりしながらも恨めしい顔で俺を見ている。
そんな顔したって俺が折れるわけでもないの知ってるはずなのにバカな奴だ。
俺は、馬岱が恨めしい顔で睨んでる横を素通りする。
そして、眠気のせいで落ちてくる瞼にストップをかけずに自室に向かってウトウト歩く。
今日も見た女が脳裏から離れない。
ココ最近、俺が街に出るたびに見かけるんだが何も言わず俺の顔を見てるだけ。
女に顔を赤くして見られる。
それだけなら、いつものこと。 俺が気に止めることでもない。
それが、どことなく懐かしそうな顔で見られてるから厄介だ。やたら気になる。
分かることは、俺よりは5つぐらい年上だろうと言う事だけ。
あいつは何なんだ?
俺にどうして欲しいんだよ?かまって欲しいのか?
黙ってちゃワカンネェんだよ!!
あぁっ!イライラするっ!!!
俺は、沈みかけてる意識の中で懸命に考えたが
さすがに眠気には勝てないで 自室に着いた瞬間そのまま床に倒れこんだ。
その次、気づいた時は朝だった。
「失礼いたします。馬超さま、…まぁ、このような格好で寝ていらしたんですか?
風邪をおひきになられてはないですか?」
俺付きのベテラン侍女がいつものように定刻に起こしに来たが、返事するのもダルイ。
一言「わかった」とだけ返事をしたがそれ以外答える気も、つもりもない。
「今日は、ちゃんとやる事はやってから彼女のところに行ってくれと 馬岱さまがおっしゃっておられましたよ。」
侍女はそれを言って部屋を出て行った。
俺はしばらくうつ伏せになったまましばらく唸って
起きようと試みるが 次から、次へと襲ってくる眠気には勝てない。
もともと朝は起き上がるまでが辛い。
一端起き上がってしまえばどうって事ないんだが…。
「ほら!孟起!!いつまで寝てる気だよ!しかもそんな格好で。」
なんか遠くの方で馬岱が呼んでる気がする。
「おいっ!起きろよ!!」
ガッと俺の体に衝撃が加わった。
「ってぇ…、なんだよ岱。」
「なんだよじゃない。今、街で野党どもが暴れてるらしい連絡がはいった。抑えに行くぞ。」
「…はぁっ」
俺は仕方なく立ち上がると、よれている襟元と裾を簡単に直した。
昨日、眠気のろくに着替えもせずに寝たのがどうやらラッキーだったみたいだ。
「なぁ、怨むなら俺じゃなくて騒ぎを起こした奴らを恨めよ?」
「わかってるよ。んで、場所はどこなんだ?」
「へぇ、結構やってくれてんじゃねえか。」
街での騒ぎは絶好調で、野党どもの独壇場。
俺は、ああいう、自分が必ず勝てると思ってるような相手しか攻撃できない奴は断じて嫌いだ。
「行くぞ、岱。あんな奴らさっさと黙らせてやる。」
「本当、孟起は弱いものいじめとか嫌いだよな。」
「弱いものいじめ・・・ねぇ、あれって自分の弱さ加減を誇張してるようにしかおもえないんだよ。
それなのに俺は強いと勘違いしてるからムカつくんだ。」
野党どもの騒ぎは、ほんの何十分かで収まった。
「大したことなくてよかったな。けど戦争未亡人を襲うなんて汚いよなぁ。」
「!?未亡人?旦那がいたのか?あの女?」
「さっき、大丈夫だったかって話聞いたらそんなこと言ってたが、それがどうかしたのか?
・・・まさか、孟起!彼女狙ってたとかじゃないよな??」
「あぁっ?なんか言ったか岱?」
くだらないことを言っている岱を黙らせる。
野党に襲われていた女に目を向けると女と目が合った。
女は俺に軽く会釈をするとスット逃げるようにして小走りで駆けていった。
気になる――― 少し前から俺を懐かしい目で見ていたあの女だ。
「まてっ!」
考えるより先に身体が動いた。
女のほうが先に走ってはいたが追いつけない距離じゃない。
「おい!人が待てって言ってるの聞こえないのか!!」
「・・・っあ・・・、な、なんでしょうか?」
女は走るのをやめると恐る恐る俺の方を見る。
「別にとって食おうってんじゃねぇんだから、そんなに恐がらなくてもいいだろ。
俺が変な目で見られる。」
「すいません・・・。」
「それよりお前、最近俺のこと見てたよな?」
女は顔を伏せると小声で言った。
「すいません。・・・旦那に似ていたもので・・・つい・・・」
「旦那は・・・戦に出てるのか?」
「はい」
女は顔を伏せたまま、ぽそりぽそりと返事をするだけで俺の顔を見ようとしない。
ああっ!!ムシャクシャする!
何で俺がこんな女の為にイライラしなきゃならないんだ!!
「あー、もういい。好きにしろっ。」
どうしていいか分からない。
俺は、昨日よりもグジャグジャする頭を掻きむしりながら心配そうに見ている岱のもとに帰った。
「何話してたんだ?」
「なんでもない。あの女の旦那ってなんの戦に出てるんだ?」
「さぁ?そこまでは・・・。調べれば分かると思うが?」
「・・・・・・・・・」
「孟起?」
「帰る。」
「っあ、おいっ!」
早く屋敷に戻って資料を探さないと気がおさまらない。
なんであんな人妻、年増女の為にこんな事までしなきゃならないのか分からんが そのままほって置くのも後味が悪い。
なんでだ、なんであいつがこんなに気になるんだよ!自分が良くわからねぇっ・・・。
* *
「・・・これか?」
下にバサバサと散らばった書物を足で掻き分けて机の前まで戻ってパラパラと頁をめくる。
屋敷に帰ったあと岱に聞いた「桂寫 」と言う名を探して文字を追う。
「あった。赤壁かよ・・・。」
正確に言えば赤壁であった戦の後にあった劉備のとこの募兵に参軍していた。
はぁー、『最悪の場合』の可能性は五分だな。
まぁ、あの赤壁の戦に出ていなかっただけまだマシか。
・・・って、何でそこで俺がホッとしなきゃなんねぇんだ?
くそっ、あいつの事になるとわけが分からなくなる。ちきしょう。。。
「芙蓉!そんなトコでまた何やってんだ?そんなトコで泥まみれになってたら旦那もなくぜ?」
芙蓉 。旦那の事を調べる時に一緒に岱から聞いたあの女の名前。
「大丈夫です。彼が居たときは彼も一緒に泥まみれになってましたから。」
今日の夕飯になるらしい山菜を取りに山に行くと言った芙蓉の後をついてきてしまった。
何をしてるんだ。俺は・・・。
「仲よかったんだな。」
「はい。優しかったです。」
少し顔を赤らめながら嬉しそうに、そのくせ寂しさを隠し切れない顔で笑うを芙蓉見ていると 無性にコイツの旦那をぶん殴りたくなってくる。
何で、強制でもない募兵にコイツを置いてまで参軍してるんだか・・・
前、芙蓉に聞いたときには「彼はただ平和を求めていただけ。」
だとか言ってたが俺にはわからん。
平和が欲しいなら参軍なんかしないで田舎に行けばいい。
「馬超さま?いかがなさりましたか?」
あぁ、少しぼぅっとしていた。
「どうしたんですか?私の顔汚れてますか?」
汚れている。
山菜を摘むために地面を掘った手で汗を拭いたりするせいで、少しだが顔に泥が付いている。
けど、そんなことどうでもいい。
「!!ばっ、馬超さまっ!!!!」
芙蓉を思いっきり側に寄せた。
芙蓉の頭を俺の胸に押し付ける。芙蓉 、俺を見るな。
「何をなさるんです・・・?」
くぐもった声で不安そうに聞く。
今、俺はいやな顔してる。誰にも見られたくない。
「なんでもない。ただ、ちょっと、気分だ。これ以上何もしない。」
「そうですか。」
さっきとはまるで違う、聞いてるこっちが安心するような声。
「なぁ、芙蓉、お前旦那待てるか?」
「はい。彼は帰ってくる、待っててくれって言ってましたから。信じます。」
ぶわっと力が抜ける。
芙蓉を捕まえていた両手がズルズルと落ちる。
そこから顔を覗かせた芙蓉は、全てを見通してしまいそうな目を俺に向けた。
見るな!俺を見るな!!格好悪くてしょうがないだろ!!!
俺は馬鹿か?
馬鹿だろうな。
大がつく馬鹿だ。
* *
俺は明日借りを返しに行く。
父上を、母上を・・・俺の周りから全てを抹消した曹操に。
月が何もないこの土地を哀れむようにやわやわと照らす。
「孟起~、力みすぎるなよ。って、そう言っても無理か、お前にとっては返しても返しきれないもんだしな。」
「あぁ、曹操の首はぶった切ってやる。けど、この戦は俺だけの為じゃない。
奴を倒せば争う相手が1人減る。
その分、平和が近くなる…はずだ・・・、だから・・・」
「分かってるって、ココのみんなの大儀を背負ってるんだろ。お前も大変だよな。
け・ど・な、 俺達が居て、お前の助けになりたいって思ってるの忘れないでくれよな!」
「すまない。 なぁ、岱。この戦ってどれくらいで片付くと思う?」
「んぁ?どれくらい・・・って、それはお前が一番知ってるんじゃないのか?」
・・・そうだ、俺が一番良く知ってる。
カタがつくまでにはどんなに早くても一年はかかるはずだ。 早くても。。。
「どうした、孟起? あ、女だろ。
出発するのは明日、日が真上に射しかかったころだから それまでに帰ってこれればいいんじゃないのか?」
岱のニヤニヤした顔がムカつかないのは久しぶりだ。 おかげで踏ん切りがついた。
岱のヤツに礼がわりの一発をお見舞いしてやって俺は屋敷を出た。
「芙蓉」
「あら、馬超さまいらっし・・・・んっあっ・・・んぅぅ・・・」
俺は寝床を整えていた芙蓉を押し付けて、血色のいい唇を奪った。
そのまま首筋まで唇を這わせる。
「馬超さま」
芙蓉の強く優しい、そのくせどこか切ない声が俺を取り巻く。
「明日、出られるのでしょう? やっぱりあの人に似ていらっしゃいますわ。」
「・・・何処が?・・・俺は、復讐しにいくんだぞ?その先にあるのは平和じゃないかもしれない、 むしろ憎しみを生むかもしれない。」
「でも、馬超さまも戦ばかりのこの世がいやなのでしょう?この地を落ち着かせたいのでしょ?」
うなずく、それしかできない。
芙蓉の広く確かな言葉が重い。
「でしたらやっぱり彼と同じです。馬超さまはご自分に正直じゃないから。」
声の調子から、少し表情が緩んでいるのが想像できるが直接は見れない。
俺じゃない。芙蓉の中にいるのは桂寫だ。 待ってるのは俺じゃない。
今も、これからも、絶対に。
「芙蓉、ここにいてもいいか」
「はい。でも遅刻はしないでくださいね。」
ふわっと母のように微笑みかける芙蓉は俺には大きすぎた。
芙蓉の手を握って、その暖かさはすぐに眠気を呼んだ。 心地よい体温が右手から伝わる。
それ以上はない―――
「いってらっしゃいませ。みんな信じていますわ。落ち着いた世界が来ること。」
「旦那、戻ってくるといいな。そのためにも俺達もがんばらねぇとな。」
「大丈夫です。寫は戻ってきます。彼自身がそう言ってましたから。」
桂寫を信じきった目。
芙蓉なら桂寫が戻ってくるまで、ばばあになっても待ってるだろう。
早く帰ってこい。馬鹿旦那!! でないとぶっ殺すぞ。。。
「じゃあな、元気でな。」
芙蓉に背を向けてからは、色んなことを整理した。
芙蓉を立たせているのは桂寫で、それ以外に誰でもない。
俺は、曹操を討つ。
しばらくはそれ以外必要ないはずだ。
俺は行く。俺の望むものを得に。
* *
「そうか、ありがとな、岱。」
西涼から出て1年。やっぱり1年じゃ終わらなかった。
もう西涼には戻れないかもしれない。
芙蓉 を見ることは、もうないかもしれない。
でも、それでいい。
桂寫が戻ってきたらしい今、俺は西涼に戻るべきじゃないのかもしれない。
俺自身、恐い。 真っ直ぐに桂寫を見ている芙蓉を見れない。
整理がついたはずの気持ちが爆発する。
頼む、芙蓉。教えてくれ
「俺は、お前のように人を思うことができるようになるか?なぁ?芙蓉」
おかしい、頬が濡れている。
外は、全てを吸いこみそうな蒼が広がってるのにな。
俺が生まれ、育ってきた
砂漠が広がってる以外目立ったものはほとんどない。
でも、俺はここが好きだ。
あいつがいたから――――――
ここに帰るのがつらい―――――――
『空模様雲様子』
「
「るっせえな!どこだっていいだろ。
女の一人もいねぇお前にはわかんねぇよ。」
従兄弟の
寝不足で機嫌が悪い俺に喧嘩を売っているとしか思えない。
「俺は眠いんだよ、こんな夜中にぎゃあぎゃあ騒ぐな。頭いてぇ。」
俺が後一歩でブチ切れるのに気づいたのか馬岱は声のトーンを下げて言った。
「あのなぁ、お前はいいよ、好き勝手してさ。
けど、それでお前の分まで頼みごとをされる俺の事、 チョットは考えたことあるか?」
「ねぇな。」
「…はぁー、だよなー。お前ってそう言う奴だよな。」
「分かってんなら聞くなよ。もう、寝てもいいだろ。じゃな。」
馬岱がうんざりしながらも恨めしい顔で俺を見ている。
そんな顔したって俺が折れるわけでもないの知ってるはずなのにバカな奴だ。
俺は、馬岱が恨めしい顔で睨んでる横を素通りする。
そして、眠気のせいで落ちてくる瞼にストップをかけずに自室に向かってウトウト歩く。
今日も見た女が脳裏から離れない。
ココ最近、俺が街に出るたびに見かけるんだが何も言わず俺の顔を見てるだけ。
女に顔を赤くして見られる。
それだけなら、いつものこと。 俺が気に止めることでもない。
それが、どことなく懐かしそうな顔で見られてるから厄介だ。やたら気になる。
分かることは、俺よりは5つぐらい年上だろうと言う事だけ。
あいつは何なんだ?
俺にどうして欲しいんだよ?かまって欲しいのか?
黙ってちゃワカンネェんだよ!!
あぁっ!イライラするっ!!!
俺は、沈みかけてる意識の中で懸命に考えたが
さすがに眠気には勝てないで 自室に着いた瞬間そのまま床に倒れこんだ。
その次、気づいた時は朝だった。
「失礼いたします。馬超さま、…まぁ、このような格好で寝ていらしたんですか?
風邪をおひきになられてはないですか?」
俺付きのベテラン侍女がいつものように定刻に起こしに来たが、返事するのもダルイ。
一言「わかった」とだけ返事をしたがそれ以外答える気も、つもりもない。
「今日は、ちゃんとやる事はやってから彼女のところに行ってくれと 馬岱さまがおっしゃっておられましたよ。」
侍女はそれを言って部屋を出て行った。
俺はしばらくうつ伏せになったまましばらく唸って
起きようと試みるが 次から、次へと襲ってくる眠気には勝てない。
もともと朝は起き上がるまでが辛い。
一端起き上がってしまえばどうって事ないんだが…。
「ほら!孟起!!いつまで寝てる気だよ!しかもそんな格好で。」
なんか遠くの方で馬岱が呼んでる気がする。
「おいっ!起きろよ!!」
ガッと俺の体に衝撃が加わった。
「ってぇ…、なんだよ岱。」
「なんだよじゃない。今、街で野党どもが暴れてるらしい連絡がはいった。抑えに行くぞ。」
「…はぁっ」
俺は仕方なく立ち上がると、よれている襟元と裾を簡単に直した。
昨日、眠気のろくに着替えもせずに寝たのがどうやらラッキーだったみたいだ。
「なぁ、怨むなら俺じゃなくて騒ぎを起こした奴らを恨めよ?」
「わかってるよ。んで、場所はどこなんだ?」
「へぇ、結構やってくれてんじゃねえか。」
街での騒ぎは絶好調で、野党どもの独壇場。
俺は、ああいう、自分が必ず勝てると思ってるような相手しか攻撃できない奴は断じて嫌いだ。
「行くぞ、岱。あんな奴らさっさと黙らせてやる。」
「本当、孟起は弱いものいじめとか嫌いだよな。」
「弱いものいじめ・・・ねぇ、あれって自分の弱さ加減を誇張してるようにしかおもえないんだよ。
それなのに俺は強いと勘違いしてるからムカつくんだ。」
野党どもの騒ぎは、ほんの何十分かで収まった。
「大したことなくてよかったな。けど戦争未亡人を襲うなんて汚いよなぁ。」
「!?未亡人?旦那がいたのか?あの女?」
「さっき、大丈夫だったかって話聞いたらそんなこと言ってたが、それがどうかしたのか?
・・・まさか、孟起!彼女狙ってたとかじゃないよな??」
「あぁっ?なんか言ったか岱?」
くだらないことを言っている岱を黙らせる。
野党に襲われていた女に目を向けると女と目が合った。
女は俺に軽く会釈をするとスット逃げるようにして小走りで駆けていった。
気になる――― 少し前から俺を懐かしい目で見ていたあの女だ。
「まてっ!」
考えるより先に身体が動いた。
女のほうが先に走ってはいたが追いつけない距離じゃない。
「おい!人が待てって言ってるの聞こえないのか!!」
「・・・っあ・・・、な、なんでしょうか?」
女は走るのをやめると恐る恐る俺の方を見る。
「別にとって食おうってんじゃねぇんだから、そんなに恐がらなくてもいいだろ。
俺が変な目で見られる。」
「すいません・・・。」
「それよりお前、最近俺のこと見てたよな?」
女は顔を伏せると小声で言った。
「すいません。・・・旦那に似ていたもので・・・つい・・・」
「旦那は・・・戦に出てるのか?」
「はい」
女は顔を伏せたまま、ぽそりぽそりと返事をするだけで俺の顔を見ようとしない。
ああっ!!ムシャクシャする!
何で俺がこんな女の為にイライラしなきゃならないんだ!!
「あー、もういい。好きにしろっ。」
どうしていいか分からない。
俺は、昨日よりもグジャグジャする頭を掻きむしりながら心配そうに見ている岱のもとに帰った。
「何話してたんだ?」
「なんでもない。あの女の旦那ってなんの戦に出てるんだ?」
「さぁ?そこまでは・・・。調べれば分かると思うが?」
「・・・・・・・・・」
「孟起?」
「帰る。」
「っあ、おいっ!」
早く屋敷に戻って資料を探さないと気がおさまらない。
なんであんな人妻、年増女の為にこんな事までしなきゃならないのか分からんが そのままほって置くのも後味が悪い。
なんでだ、なんであいつがこんなに気になるんだよ!自分が良くわからねぇっ・・・。
* *
「・・・これか?」
下にバサバサと散らばった書物を足で掻き分けて机の前まで戻ってパラパラと頁をめくる。
屋敷に帰ったあと岱に聞いた「
「あった。赤壁かよ・・・。」
正確に言えば赤壁であった戦の後にあった劉備のとこの募兵に参軍していた。
はぁー、『最悪の場合』の可能性は五分だな。
まぁ、あの赤壁の戦に出ていなかっただけまだマシか。
・・・って、何でそこで俺がホッとしなきゃなんねぇんだ?
くそっ、あいつの事になるとわけが分からなくなる。ちきしょう。。。
「芙蓉!そんなトコでまた何やってんだ?そんなトコで泥まみれになってたら旦那もなくぜ?」
芙蓉 。旦那の事を調べる時に一緒に岱から聞いたあの女の名前。
「大丈夫です。彼が居たときは彼も一緒に泥まみれになってましたから。」
今日の夕飯になるらしい山菜を取りに山に行くと言った芙蓉の後をついてきてしまった。
何をしてるんだ。俺は・・・。
「仲よかったんだな。」
「はい。優しかったです。」
少し顔を赤らめながら嬉しそうに、そのくせ寂しさを隠し切れない顔で笑うを芙蓉見ていると 無性にコイツの旦那をぶん殴りたくなってくる。
何で、強制でもない募兵にコイツを置いてまで参軍してるんだか・・・
前、芙蓉に聞いたときには「彼はただ平和を求めていただけ。」
だとか言ってたが俺にはわからん。
平和が欲しいなら参軍なんかしないで田舎に行けばいい。
「馬超さま?いかがなさりましたか?」
あぁ、少しぼぅっとしていた。
「どうしたんですか?私の顔汚れてますか?」
汚れている。
山菜を摘むために地面を掘った手で汗を拭いたりするせいで、少しだが顔に泥が付いている。
けど、そんなことどうでもいい。
「!!ばっ、馬超さまっ!!!!」
芙蓉を思いっきり側に寄せた。
芙蓉の頭を俺の胸に押し付ける。芙蓉 、俺を見るな。
「何をなさるんです・・・?」
くぐもった声で不安そうに聞く。
今、俺はいやな顔してる。誰にも見られたくない。
「なんでもない。ただ、ちょっと、気分だ。これ以上何もしない。」
「そうですか。」
さっきとはまるで違う、聞いてるこっちが安心するような声。
「なぁ、芙蓉、お前旦那待てるか?」
「はい。彼は帰ってくる、待っててくれって言ってましたから。信じます。」
ぶわっと力が抜ける。
芙蓉を捕まえていた両手がズルズルと落ちる。
そこから顔を覗かせた芙蓉は、全てを見通してしまいそうな目を俺に向けた。
見るな!俺を見るな!!格好悪くてしょうがないだろ!!!
俺は馬鹿か?
馬鹿だろうな。
大がつく馬鹿だ。
* *
俺は明日借りを返しに行く。
父上を、母上を・・・俺の周りから全てを抹消した曹操に。
月が何もないこの土地を哀れむようにやわやわと照らす。
「孟起~、力みすぎるなよ。って、そう言っても無理か、お前にとっては返しても返しきれないもんだしな。」
「あぁ、曹操の首はぶった切ってやる。けど、この戦は俺だけの為じゃない。
奴を倒せば争う相手が1人減る。
その分、平和が近くなる…はずだ・・・、だから・・・」
「分かってるって、ココのみんなの大儀を背負ってるんだろ。お前も大変だよな。
け・ど・な、 俺達が居て、お前の助けになりたいって思ってるの忘れないでくれよな!」
「すまない。 なぁ、岱。この戦ってどれくらいで片付くと思う?」
「んぁ?どれくらい・・・って、それはお前が一番知ってるんじゃないのか?」
・・・そうだ、俺が一番良く知ってる。
カタがつくまでにはどんなに早くても一年はかかるはずだ。 早くても。。。
「どうした、孟起? あ、女だろ。
出発するのは明日、日が真上に射しかかったころだから それまでに帰ってこれればいいんじゃないのか?」
岱のニヤニヤした顔がムカつかないのは久しぶりだ。 おかげで踏ん切りがついた。
岱のヤツに礼がわりの一発をお見舞いしてやって俺は屋敷を出た。
「芙蓉」
「あら、馬超さまいらっし・・・・んっあっ・・・んぅぅ・・・」
俺は寝床を整えていた芙蓉を押し付けて、血色のいい唇を奪った。
そのまま首筋まで唇を這わせる。
「馬超さま」
芙蓉の強く優しい、そのくせどこか切ない声が俺を取り巻く。
「明日、出られるのでしょう? やっぱりあの人に似ていらっしゃいますわ。」
「・・・何処が?・・・俺は、復讐しにいくんだぞ?その先にあるのは平和じゃないかもしれない、 むしろ憎しみを生むかもしれない。」
「でも、馬超さまも戦ばかりのこの世がいやなのでしょう?この地を落ち着かせたいのでしょ?」
うなずく、それしかできない。
芙蓉の広く確かな言葉が重い。
「でしたらやっぱり彼と同じです。馬超さまはご自分に正直じゃないから。」
声の調子から、少し表情が緩んでいるのが想像できるが直接は見れない。
俺じゃない。芙蓉の中にいるのは桂寫だ。 待ってるのは俺じゃない。
今も、これからも、絶対に。
「芙蓉、ここにいてもいいか」
「はい。でも遅刻はしないでくださいね。」
ふわっと母のように微笑みかける芙蓉は俺には大きすぎた。
芙蓉の手を握って、その暖かさはすぐに眠気を呼んだ。 心地よい体温が右手から伝わる。
それ以上はない―――
「いってらっしゃいませ。みんな信じていますわ。落ち着いた世界が来ること。」
「旦那、戻ってくるといいな。そのためにも俺達もがんばらねぇとな。」
「大丈夫です。寫は戻ってきます。彼自身がそう言ってましたから。」
桂寫を信じきった目。
芙蓉なら桂寫が戻ってくるまで、ばばあになっても待ってるだろう。
早く帰ってこい。馬鹿旦那!! でないとぶっ殺すぞ。。。
「じゃあな、元気でな。」
芙蓉に背を向けてからは、色んなことを整理した。
芙蓉を立たせているのは桂寫で、それ以外に誰でもない。
俺は、曹操を討つ。
しばらくはそれ以外必要ないはずだ。
俺は行く。俺の望むものを得に。
* *
「そうか、ありがとな、岱。」
西涼から出て1年。やっぱり1年じゃ終わらなかった。
もう西涼には戻れないかもしれない。
芙蓉 を見ることは、もうないかもしれない。
でも、それでいい。
桂寫が戻ってきたらしい今、俺は西涼に戻るべきじゃないのかもしれない。
俺自身、恐い。 真っ直ぐに桂寫を見ている芙蓉を見れない。
整理がついたはずの気持ちが爆発する。
頼む、芙蓉。教えてくれ
「俺は、お前のように人を思うことができるようになるか?なぁ?芙蓉」
おかしい、頬が濡れている。
外は、全てを吸いこみそうな蒼が広がってるのにな。
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