川賊興覇の物語
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後編~
ララを船に乗っけて13日。
特に変った事はない。
しいて言うなら甘寧とララの言い合い合戦が増えている、と言った所だろうか。
「伯言どの、あの二人は大丈夫なのか?」
「どうしたんです?子明どの?あの二人がどうかしたんですか?」
「どうもこうも、毎日こう言い合いばっかりでは身がもたないのでは…」
「なんだ、そんなことですか。それなら全く心配ないと思いますよ。
あれは二人の趣味みたいなモノですから」
「はぁ、そうか…」
何処からの自信なのか、そう言い切る陸遜の勢いに押される呂蒙。
ドダッシ!!! 陸遜と呂蒙の居るところから反対側の甲板から、もの凄い音が聞こえてきた。
二人は顔を見合わせるなり、音の方向に向かって走り出した。
先程とは打って変わって真剣な顔だ。
「興覇どのっ!!ララどの!!」
一足先にその場に着いた呂蒙は少し顔を朱に染める。
そのすぐ後の陸遜はニヤついている。
「興覇どの、女性をおびえさせてはいけませんよ」
「何があったのっ!?どう‥した・の…って、そういう事ぉ…」
「興覇。お前、何が…」
「そういう事は、ココではなくもっと適切な場所があったのではないですか?」
尚香、孫策、周瑜と次々に集まりだし、それぞれに勝手な言葉を吐いていく。
その彼らの目の前には二人が重なり合って倒れこんでいる光景。
ぱっと見、甘寧がララを押し倒した風にも見える。
「あっのねぇ、脳みそ糸蒟蒻さん、呪い殺すわよ」
「はぁあ?誰のせいで俺は痛い目に会ったんだ?あぁ?」
「痛い目!!?人を下敷きにしといてそれはないわよ!下になった人のこと考えたことある?!」
「しらねぇよ!俺だって好きでお前の上になんか落ちねぇってんだよ!」
「当たり前よ。好きで落ちられたらたまったもんじゃないわ」
「まぁ、まぁお二人さん。ココは仲良くしましょうよ。折角ここまで進展したんですから。ねぇ」
二人の言い合いがいつものようにヒートアップする前に陸遜が軽い止めに入った。
が、それが正しい止め方なのかはいささか疑問だが・・・。
「興覇どのもララどのも正直になったらどうです?
こんな体勢で言い合っていたらこっちがやきもち焼くじゃないですかぁ」
陸遜の言葉に二人はやっとお互いが倒れこんだままの体勢、
つまりは甘寧がララを押し倒したような体勢でいることに気がついた。
「ちっちょっと、早くどきなさいよ!いつまでこうしてるつもり!皆に変な誤解されちゃったじゃない!!」
ララの顔はスッカリ真っ赤になっている。
「あ、すまねぇ」
甘寧の方もやや顔を赤くしながらやっとララの上から身体をどけようとしたそ時…
陸遜が後ろからさりげなく甘寧をエイッと軽く(?)押した。
不意に押された甘寧の身体は前方に傾きララめがけて倒れこむ。
「うぃぉっ、りくそ」
ちゅ。 ……
むなしく途中で途切れてしまった甘寧の反発。
妙に堅い雰囲気。
一人満足そうな陸遜。
どれもこれもチグハグで、可哀想としか言えない風景。
「あ、ああのよ、お前ら、その、なんっつーかそう言う仲なのか?」
やっとのことで口を開いたのは孫策で、余りにも不自然すぎる状況であったにもかかわらず聞く。
しかし、当の本人達は思考が停止してしまっているらしく、固まったまま動かない。
「興覇? ララ?」
孫策はちょいちょいと二人を突きながら声をかける。
「「…!!!?」」
孫策に突かれ我に返った二人は、今ある現状をすばやく飲み込んだらしく
すごい速さで立ち上がり、 一瞬、間をおくと相手の顔も見えないうちに背を向けてサッサと走っていった。
その場に残された孫策、呂蒙、周瑜、尚香は呆然とそれを見送り、 作戦を成功させたらしい陸遜だけが、一人満足げな笑みをたたえていた。
* *
(まてまて、なんなんだ俺らしくねぇ。あいつがなんだってんだ?
俺は、あの子とちゃんと約束したじゃねぇか、一人前になったら迎えにいくって…。
それまでは、他の女とはヤラネェって決めたはずだろ!チキショウ!!)
甘寧は船の手すりに寄りかかるようにしてやっとのことで立ち、頭を掻きむしりながら考えをめぐらせていた。
(アレは確か、長江沿いの町で、あの子はおばあちゃんが変な名ま…っ!!!)
どうやら何かに気づいたらしい。
「ああああああ!!!!!」
甘寧は叫ぶなり、 手すりに背を向け、もたれ掛かりながらズルズルと床に沈み込んだ。
それを影から見ていた陸遜は、何を考えているのかコクコクうなずきながら 次の目標はララ!と、駆けていった。
*
(うわぁぁぁぁ、なに赤くなってんのよ自分!!!ふざけないでー!!!
あいつが倒れこむ寸前にあの約束してくれたお兄ちゃんが出てきたなんて!お兄ちゃんに失礼だわ!)
ララはダシダシと音を立て歩きながら、長い髪の毛を振り乱し懸命にそれは 自分の勘違いだったんだと思い込ませようとしていた。
(落ち着け、自分。お兄ちゃんは色んなところを旅してるんだって言ってた、あいつは…?)
「興覇どのは気づいたみたいですよ、ララどの?」
後ろからニュっと出てきた陸遜が唐突も無く声をかける。
「はぁっ!?なによ、はくげそ…って言ったっけ?」
「興覇どの以外の名前まだ、覚えてくださってなかったんですか?伯言ですよ」
「んぁ…、その…、あいつばっかり私の前に出しゃばるから…って、だからなによ!」
「まだ気づかないんですかぁ、ララどの。興覇どのは、」
「ちょっと待って!伯言、あのね、あいつって、ずっと、10年ぐらい前からあなた達と一緒?」
「興覇どのはここに来る前、長江で海賊をしていて色んなところを転々としてたって聞いてます」
「ホントに?」
「ええ、私の聞いたことが正しければ本当ですよ」
「そう、ありがとう。しばらく私にかまわないで」
ララは、撃沈したように、どんよりとしたオーラを回りに纏わりつけながら
どこを見てるのかつかめない視線で自分の部屋にダルイ足取りで向かった。
「後は2人が気持ちを認めるだけですね。ふふっ」
陸遜は腕を組みながら一言そう呟いた。
*
次の日の朝、寝不足が原因であろうクマを引きずった二人が現れたのは 皆が朝食を食べ終わろうとしているときだった。
「ララ?どうしたの?そんなくらい顔して?」
尚香が心配そうに声をかける。
「興覇どのも顔色が悪いようだが?」
呂蒙も何事かと甘寧の顔を覗き込む。
「気にしないで。後で聞きたいことがあるんだけど、しょこーの部屋に行ってもいい?」
「えっ、それは別にいいけどどうしたのよ?」
「後で話すから」
尚香の質問に短い言葉でキッチリ終止符を打つと、ララは黙々と朝食を食べ始めた。
甘寧といえば、呂蒙の質問に答えるでもなくあれこれと、訳の分からない小言をこぼしていた。
そこに陸遜は待ってましたと言わんばかりに張り切った声で
「全く。二人はいつまでグダグダしてるおつもりですか!?
見てるこっちがじれったいです。 お互いの気持ちをぶっちゃけた方が楽になりますよ。
ほら、ほんのチョットの勇気なんですから。」
と、始めは荒く、最後は優しく諭すように言った。
ララと甘寧はグッっと陸遜を睨むと、誰ともなしに言った。
「お前のばあちゃん歌のうまい外国人か?」
「あんた江陵に来たことある?」
お互いに短い質問だが、相手の意図することが嫌ほどわかる。
「そうよ。とても素敵なおばあさまよ。憧れだわ」
「ああ、10年前にな。3ヶ月」
「「やっぱり」」
二人は、諦めがついたのか、それとも安心したのか顔に薄っすら笑みをうかべている。
「思い出したよ。あのときの嬢ちゃんがお前なんだろ?」
甘寧は、ララの頭をポフポフしながら言う。
「気安く触らないでよ!あのときのあんたはもっとカッコよかった」
「なんだそれ?あのころより成長したつもりだぜ? ってもまだ一人前じゃないから迎えには行けなかったんだけどな」
「馬鹿じゃないの!あんたとろいのよ!おそすぎて忘れられてるんだと思ってたじゃない!!!」
強い口調とは裏腹に、涙目になりながら喚くララの頭を優しく撫でる甘寧。
珍しくいい雰囲気なのだが、ココは朝食中の食堂。
回りにはギャラリーがわんさかいる。
もちろん二人の世界丸出しのララと甘寧は注目の的。
そこに、顎に手をかけ眉をしかめる陸遜が二人に水を差す。
「あの、二人は知り合いだったんですか?以前どこかで?」
自分の思惑通りいったものの、二人の会話の内容がいまいち掴めない陸遜は 初歩的な質問を投げかける。
「ああ、10年前な俺がまだ海賊やってた頃、ほとんど船の上で生活してて
二ヶ月とその場にとどまらなかった俺らが、江陵に珍しく三ヶ月もいたんだよ 。そこでブラブラしててあったのがコイツ。
おにいちゃん、おにいちゃんってなついてきたんだよ」
「なによ!自分だって一人で寂しがってたくせに!」
「はぁ、それでなんですか?二人は付き合ってたとかそういうことではないんですか?」
懐かしそうな顔をしながらララと出会ったときのことを話す甘寧に陸遜はさらに質問を重ねる。
「ねぇな。俺は、すぐ居なくなっちまうからそういう事すると悪いと思ってた。 ってより、二人ともガキだったしな。」
ちょっと苦笑いを含んだ表情で甘寧は言う。
ララといえば、顔を朱に染めながらすっかりおとなしくなっている。
甘寧が、あのときのお兄ちゃんだと知って、今までの行動がどんどん恥ずかしくなっているのだろう。
「・・・読み違いましたか・・・けど、、あながちそうともいえないですよね?」
軽くうつむきながらブツブツ考えをまとめる陸遜だが、そこは軍師 。考えがまとまるにそんなに時間は要さない。
「つまりは、二人とも相手を思っていながらくっついてはいないわけですね」
「んまぁ、そういうことになるのか・・・、一人前になったら迎えに行くとは言ったけどな」
「それじゃあ!今、言っちゃえばいいんですよ!「迎えに来たぜ、ララ」って」
二人からはすっかりアウトオブ眼中(古っ)にされていたギャラリーからパラパラと拍手が起こる。
それで、はっと我に返ったララの恥ずかしさは爆発したらしく 走って食堂から走って出て行ってしまった。
「っ、まてっ!!」
走って出て行くララを急いで追いかけ、甘寧まで食堂から出て行ってしまう。
今まで面白がって見ていた出し物が急に居なくなり一気に空気が変わる
「あ、っえっと、皆早めに飯くって仕事しようぜ。 なぁ、」
と孫策が君主らしく声をかけ、その場を取り繕った。
*
「まてよ!ララ!!」
ララに追いついた甘寧は切羽詰った声で呼びかける。
「俺、なんか言ったか?!」
ララはその問いかけに答えずに、未だひたすら走っている。
「おいっ!ララ!」
答えが返ってくるのが待てずに甘寧は、ララの服の襟をクイっと掴みララの動きを止めた。
「なぁ、いきなりなんなんだよ?走って出て行ったりして」
「・・・・・」
「黙ってたらわかんねぇんだよ、なんか言えって」
うつむいたまま、甘寧の顔を見ようといないララをなだめる様な口調で甘寧は言う。
「・・・だって・・・あんたが、 お兄ちゃんだって知らなくて・・・、色々言っちゃったし、 皆になんか・・・、すっごい、見られてたし・・・」
「っはぁ。ったく、そんなことかよ。
そんなの俺も、気づかなかったよ。 気にするな。それに、俺が早く言いにいけなかったのも悪いしな」
「そうよ!あんたが早く来なかったのが悪いんだからね!!
・・・私、忘れられたと思ってたんだから・・・」
「忘れた事なんてねえよ。ずっと、早く迎えに行かなきゃって思ってたし 嬢ちゃんがどんな風におっきくなってるかとか考えてたよ」
そう言いながら甘寧はララの両肩をそっと、少し力強く、掴みララの顔を覗き込んだ。
「伯言の言いなりじゃないが、・・・俺んとこ来るか? って、一人前まではまだだけどな」
硬く口を結び複雑な顔でジッと甘寧を見ていたララが口を開いた。
「私、街に居られなくなったの。お母さんも、お父さんも死んじゃったし誰も居ないの。
・・・ねぇ、可愛そうでしょ?!面倒見てよ!」
そう、強い口調でララは言い放つと同時に、大粒の涙をボタボタと落とし始めた。
「まてよっ、泣くなって、おい!なんなんだ?!」
いきなり泣き出すララに訳が分からずオロオロする甘寧。
「面倒見てやるから泣くなって!俺が、一生面倒見てやるからよ!」
「っ言った、ズズッ・・・からね ?」
ララは、泣いたままで鼻をすすりながらぐしゃぐしゃの顔で問う。
「ああ。これでも俺は言ったことに責任は持つタイプだぜ。
だから、なぁ、泣くのやめてくれねぇか?」
「ほんとよ、ウソついたら死ぬほど重りつけて河の底に沈めるからね!」
よっぽど女の子が泣くのに耐えられないらしい甘寧はいい事を言いながらも 土下座して頼み込みそうな勢いだ。
なんだか、言葉の良さが半減してる。しかし、その頼みが効いたのか ララの涙は止まり始め、口調もいつものモノに戻っている。
「言いたいだけ言ってろ!俺はウソはつかねぇ!! お前の面倒死ぬまで見てやるって言ったら、見てやるんだよ!」
甘寧はそう言いながらララをヒョイと高く持ち上げ、船の外側でブラブラさせながら言った。
「それより、お前、次さっきみたいな汚い顔した時にはお前が河の底だぞ。もう泣くなよ?な?」
「なによそれっ!!!汚いってっ!って、それより、何してんのよ!!私殺す気!!?」
バタバタ騒ぐララを船の内側に戻すと、 そのまま高い位置で抱っこするような感じでララを捕まえる。
ララの足は宙を彷徨ったまま。
「今までごめんな。今から10年分取り返してやる」
甘寧はそう言いララをさらに強く抱きしめた。
* *
二人が走り去った後の食堂は、一端孫策の言葉でまともな雰囲気に戻ったのだが、
その後すぐに陸遜によって崩されララと、甘寧の二人がその後どうなるかの話で盛り上がり 一日仕事にならなかったそうな・・・
ちゃんちゃん。
ララを船に乗っけて13日。
特に変った事はない。
しいて言うなら甘寧とララの言い合い合戦が増えている、と言った所だろうか。
「伯言どの、あの二人は大丈夫なのか?」
「どうしたんです?子明どの?あの二人がどうかしたんですか?」
「どうもこうも、毎日こう言い合いばっかりでは身がもたないのでは…」
「なんだ、そんなことですか。それなら全く心配ないと思いますよ。
あれは二人の趣味みたいなモノですから」
「はぁ、そうか…」
何処からの自信なのか、そう言い切る陸遜の勢いに押される呂蒙。
ドダッシ!!! 陸遜と呂蒙の居るところから反対側の甲板から、もの凄い音が聞こえてきた。
二人は顔を見合わせるなり、音の方向に向かって走り出した。
先程とは打って変わって真剣な顔だ。
「興覇どのっ!!ララどの!!」
一足先にその場に着いた呂蒙は少し顔を朱に染める。
そのすぐ後の陸遜はニヤついている。
「興覇どの、女性をおびえさせてはいけませんよ」
「何があったのっ!?どう‥した・の…って、そういう事ぉ…」
「興覇。お前、何が…」
「そういう事は、ココではなくもっと適切な場所があったのではないですか?」
尚香、孫策、周瑜と次々に集まりだし、それぞれに勝手な言葉を吐いていく。
その彼らの目の前には二人が重なり合って倒れこんでいる光景。
ぱっと見、甘寧がララを押し倒した風にも見える。
「あっのねぇ、脳みそ糸蒟蒻さん、呪い殺すわよ」
「はぁあ?誰のせいで俺は痛い目に会ったんだ?あぁ?」
「痛い目!!?人を下敷きにしといてそれはないわよ!下になった人のこと考えたことある?!」
「しらねぇよ!俺だって好きでお前の上になんか落ちねぇってんだよ!」
「当たり前よ。好きで落ちられたらたまったもんじゃないわ」
「まぁ、まぁお二人さん。ココは仲良くしましょうよ。折角ここまで進展したんですから。ねぇ」
二人の言い合いがいつものようにヒートアップする前に陸遜が軽い止めに入った。
が、それが正しい止め方なのかはいささか疑問だが・・・。
「興覇どのもララどのも正直になったらどうです?
こんな体勢で言い合っていたらこっちがやきもち焼くじゃないですかぁ」
陸遜の言葉に二人はやっとお互いが倒れこんだままの体勢、
つまりは甘寧がララを押し倒したような体勢でいることに気がついた。
「ちっちょっと、早くどきなさいよ!いつまでこうしてるつもり!皆に変な誤解されちゃったじゃない!!」
ララの顔はスッカリ真っ赤になっている。
「あ、すまねぇ」
甘寧の方もやや顔を赤くしながらやっとララの上から身体をどけようとしたそ時…
陸遜が後ろからさりげなく甘寧をエイッと軽く(?)押した。
不意に押された甘寧の身体は前方に傾きララめがけて倒れこむ。
「うぃぉっ、りくそ」
ちゅ。 ……
むなしく途中で途切れてしまった甘寧の反発。
妙に堅い雰囲気。
一人満足そうな陸遜。
どれもこれもチグハグで、可哀想としか言えない風景。
「あ、ああのよ、お前ら、その、なんっつーかそう言う仲なのか?」
やっとのことで口を開いたのは孫策で、余りにも不自然すぎる状況であったにもかかわらず聞く。
しかし、当の本人達は思考が停止してしまっているらしく、固まったまま動かない。
「興覇? ララ?」
孫策はちょいちょいと二人を突きながら声をかける。
「「…!!!?」」
孫策に突かれ我に返った二人は、今ある現状をすばやく飲み込んだらしく
すごい速さで立ち上がり、 一瞬、間をおくと相手の顔も見えないうちに背を向けてサッサと走っていった。
その場に残された孫策、呂蒙、周瑜、尚香は呆然とそれを見送り、 作戦を成功させたらしい陸遜だけが、一人満足げな笑みをたたえていた。
* *
(まてまて、なんなんだ俺らしくねぇ。あいつがなんだってんだ?
俺は、あの子とちゃんと約束したじゃねぇか、一人前になったら迎えにいくって…。
それまでは、他の女とはヤラネェって決めたはずだろ!チキショウ!!)
甘寧は船の手すりに寄りかかるようにしてやっとのことで立ち、頭を掻きむしりながら考えをめぐらせていた。
(アレは確か、長江沿いの町で、あの子はおばあちゃんが変な名ま…っ!!!)
どうやら何かに気づいたらしい。
「ああああああ!!!!!」
甘寧は叫ぶなり、 手すりに背を向け、もたれ掛かりながらズルズルと床に沈み込んだ。
それを影から見ていた陸遜は、何を考えているのかコクコクうなずきながら 次の目標はララ!と、駆けていった。
*
(うわぁぁぁぁ、なに赤くなってんのよ自分!!!ふざけないでー!!!
あいつが倒れこむ寸前にあの約束してくれたお兄ちゃんが出てきたなんて!お兄ちゃんに失礼だわ!)
ララはダシダシと音を立て歩きながら、長い髪の毛を振り乱し懸命にそれは 自分の勘違いだったんだと思い込ませようとしていた。
(落ち着け、自分。お兄ちゃんは色んなところを旅してるんだって言ってた、あいつは…?)
「興覇どのは気づいたみたいですよ、ララどの?」
後ろからニュっと出てきた陸遜が唐突も無く声をかける。
「はぁっ!?なによ、はくげそ…って言ったっけ?」
「興覇どの以外の名前まだ、覚えてくださってなかったんですか?伯言ですよ」
「んぁ…、その…、あいつばっかり私の前に出しゃばるから…って、だからなによ!」
「まだ気づかないんですかぁ、ララどの。興覇どのは、」
「ちょっと待って!伯言、あのね、あいつって、ずっと、10年ぐらい前からあなた達と一緒?」
「興覇どのはここに来る前、長江で海賊をしていて色んなところを転々としてたって聞いてます」
「ホントに?」
「ええ、私の聞いたことが正しければ本当ですよ」
「そう、ありがとう。しばらく私にかまわないで」
ララは、撃沈したように、どんよりとしたオーラを回りに纏わりつけながら
どこを見てるのかつかめない視線で自分の部屋にダルイ足取りで向かった。
「後は2人が気持ちを認めるだけですね。ふふっ」
陸遜は腕を組みながら一言そう呟いた。
*
次の日の朝、寝不足が原因であろうクマを引きずった二人が現れたのは 皆が朝食を食べ終わろうとしているときだった。
「ララ?どうしたの?そんなくらい顔して?」
尚香が心配そうに声をかける。
「興覇どのも顔色が悪いようだが?」
呂蒙も何事かと甘寧の顔を覗き込む。
「気にしないで。後で聞きたいことがあるんだけど、しょこーの部屋に行ってもいい?」
「えっ、それは別にいいけどどうしたのよ?」
「後で話すから」
尚香の質問に短い言葉でキッチリ終止符を打つと、ララは黙々と朝食を食べ始めた。
甘寧といえば、呂蒙の質問に答えるでもなくあれこれと、訳の分からない小言をこぼしていた。
そこに陸遜は待ってましたと言わんばかりに張り切った声で
「全く。二人はいつまでグダグダしてるおつもりですか!?
見てるこっちがじれったいです。 お互いの気持ちをぶっちゃけた方が楽になりますよ。
ほら、ほんのチョットの勇気なんですから。」
と、始めは荒く、最後は優しく諭すように言った。
ララと甘寧はグッっと陸遜を睨むと、誰ともなしに言った。
「お前のばあちゃん歌のうまい外国人か?」
「あんた江陵に来たことある?」
お互いに短い質問だが、相手の意図することが嫌ほどわかる。
「そうよ。とても素敵なおばあさまよ。憧れだわ」
「ああ、10年前にな。3ヶ月」
「「やっぱり」」
二人は、諦めがついたのか、それとも安心したのか顔に薄っすら笑みをうかべている。
「思い出したよ。あのときの嬢ちゃんがお前なんだろ?」
甘寧は、ララの頭をポフポフしながら言う。
「気安く触らないでよ!あのときのあんたはもっとカッコよかった」
「なんだそれ?あのころより成長したつもりだぜ? ってもまだ一人前じゃないから迎えには行けなかったんだけどな」
「馬鹿じゃないの!あんたとろいのよ!おそすぎて忘れられてるんだと思ってたじゃない!!!」
強い口調とは裏腹に、涙目になりながら喚くララの頭を優しく撫でる甘寧。
珍しくいい雰囲気なのだが、ココは朝食中の食堂。
回りにはギャラリーがわんさかいる。
もちろん二人の世界丸出しのララと甘寧は注目の的。
そこに、顎に手をかけ眉をしかめる陸遜が二人に水を差す。
「あの、二人は知り合いだったんですか?以前どこかで?」
自分の思惑通りいったものの、二人の会話の内容がいまいち掴めない陸遜は 初歩的な質問を投げかける。
「ああ、10年前な俺がまだ海賊やってた頃、ほとんど船の上で生活してて
二ヶ月とその場にとどまらなかった俺らが、江陵に珍しく三ヶ月もいたんだよ 。そこでブラブラしててあったのがコイツ。
おにいちゃん、おにいちゃんってなついてきたんだよ」
「なによ!自分だって一人で寂しがってたくせに!」
「はぁ、それでなんですか?二人は付き合ってたとかそういうことではないんですか?」
懐かしそうな顔をしながらララと出会ったときのことを話す甘寧に陸遜はさらに質問を重ねる。
「ねぇな。俺は、すぐ居なくなっちまうからそういう事すると悪いと思ってた。 ってより、二人ともガキだったしな。」
ちょっと苦笑いを含んだ表情で甘寧は言う。
ララといえば、顔を朱に染めながらすっかりおとなしくなっている。
甘寧が、あのときのお兄ちゃんだと知って、今までの行動がどんどん恥ずかしくなっているのだろう。
「・・・読み違いましたか・・・けど、、あながちそうともいえないですよね?」
軽くうつむきながらブツブツ考えをまとめる陸遜だが、そこは軍師 。考えがまとまるにそんなに時間は要さない。
「つまりは、二人とも相手を思っていながらくっついてはいないわけですね」
「んまぁ、そういうことになるのか・・・、一人前になったら迎えに行くとは言ったけどな」
「それじゃあ!今、言っちゃえばいいんですよ!「迎えに来たぜ、ララ」って」
二人からはすっかりアウトオブ眼中(古っ)にされていたギャラリーからパラパラと拍手が起こる。
それで、はっと我に返ったララの恥ずかしさは爆発したらしく 走って食堂から走って出て行ってしまった。
「っ、まてっ!!」
走って出て行くララを急いで追いかけ、甘寧まで食堂から出て行ってしまう。
今まで面白がって見ていた出し物が急に居なくなり一気に空気が変わる
「あ、っえっと、皆早めに飯くって仕事しようぜ。 なぁ、」
と孫策が君主らしく声をかけ、その場を取り繕った。
*
「まてよ!ララ!!」
ララに追いついた甘寧は切羽詰った声で呼びかける。
「俺、なんか言ったか?!」
ララはその問いかけに答えずに、未だひたすら走っている。
「おいっ!ララ!」
答えが返ってくるのが待てずに甘寧は、ララの服の襟をクイっと掴みララの動きを止めた。
「なぁ、いきなりなんなんだよ?走って出て行ったりして」
「・・・・・」
「黙ってたらわかんねぇんだよ、なんか言えって」
うつむいたまま、甘寧の顔を見ようといないララをなだめる様な口調で甘寧は言う。
「・・・だって・・・あんたが、 お兄ちゃんだって知らなくて・・・、色々言っちゃったし、 皆になんか・・・、すっごい、見られてたし・・・」
「っはぁ。ったく、そんなことかよ。
そんなの俺も、気づかなかったよ。 気にするな。それに、俺が早く言いにいけなかったのも悪いしな」
「そうよ!あんたが早く来なかったのが悪いんだからね!!
・・・私、忘れられたと思ってたんだから・・・」
「忘れた事なんてねえよ。ずっと、早く迎えに行かなきゃって思ってたし 嬢ちゃんがどんな風におっきくなってるかとか考えてたよ」
そう言いながら甘寧はララの両肩をそっと、少し力強く、掴みララの顔を覗き込んだ。
「伯言の言いなりじゃないが、・・・俺んとこ来るか? って、一人前まではまだだけどな」
硬く口を結び複雑な顔でジッと甘寧を見ていたララが口を開いた。
「私、街に居られなくなったの。お母さんも、お父さんも死んじゃったし誰も居ないの。
・・・ねぇ、可愛そうでしょ?!面倒見てよ!」
そう、強い口調でララは言い放つと同時に、大粒の涙をボタボタと落とし始めた。
「まてよっ、泣くなって、おい!なんなんだ?!」
いきなり泣き出すララに訳が分からずオロオロする甘寧。
「面倒見てやるから泣くなって!俺が、一生面倒見てやるからよ!」
「っ言った、ズズッ・・・からね ?」
ララは、泣いたままで鼻をすすりながらぐしゃぐしゃの顔で問う。
「ああ。これでも俺は言ったことに責任は持つタイプだぜ。
だから、なぁ、泣くのやめてくれねぇか?」
「ほんとよ、ウソついたら死ぬほど重りつけて河の底に沈めるからね!」
よっぽど女の子が泣くのに耐えられないらしい甘寧はいい事を言いながらも 土下座して頼み込みそうな勢いだ。
なんだか、言葉の良さが半減してる。しかし、その頼みが効いたのか ララの涙は止まり始め、口調もいつものモノに戻っている。
「言いたいだけ言ってろ!俺はウソはつかねぇ!! お前の面倒死ぬまで見てやるって言ったら、見てやるんだよ!」
甘寧はそう言いながらララをヒョイと高く持ち上げ、船の外側でブラブラさせながら言った。
「それより、お前、次さっきみたいな汚い顔した時にはお前が河の底だぞ。もう泣くなよ?な?」
「なによそれっ!!!汚いってっ!って、それより、何してんのよ!!私殺す気!!?」
バタバタ騒ぐララを船の内側に戻すと、 そのまま高い位置で抱っこするような感じでララを捕まえる。
ララの足は宙を彷徨ったまま。
「今までごめんな。今から10年分取り返してやる」
甘寧はそう言いララをさらに強く抱きしめた。
* *
二人が走り去った後の食堂は、一端孫策の言葉でまともな雰囲気に戻ったのだが、
その後すぐに陸遜によって崩されララと、甘寧の二人がその後どうなるかの話で盛り上がり 一日仕事にならなかったそうな・・・
ちゃんちゃん。
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