短編
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(…重い?)
陽が落ちる頃、紗雪は足がうまく動かないのに気が付いて目を覚ました。何かが足元に蹲っている。
「!?」
緊張の走った紗雪だったが、それが煉獄なのに気がつくと大きく息を吐き出し仰向けに転がった。
「びっ…くりし、ぐえっ!」
紗雪が起きたことに気付いた煉獄が腹の上に全体重をかけて乗ってくる。紗雪は慌てて総身に力を込めると身を起こした。
「師は…人のお腹に乗るのはやめようね。重いから」
お腹の上から降ろされた煉獄がキョトンと首を傾げる。あざと可愛いの単語が紗雪の頭を駆け巡った。
(落ち着け!落ち着こうか私!!これは師範!私の師匠!!血気術だから!)
言い聞かせないと可愛がってしまいそうだ。煉獄が紗雪の胸ポケットに顔を寄せると、フンフンと匂いを嗅いだ。
「え、何…?あぁ」
胡蝶に貰った煮干しが入ったままだったのを思い出し、紗雪はそれを煉獄の鼻先に持って行った。パクリと食い付く煉獄に変な声が出そうになる。
(くっそカワイイ)
紗雪は煮干しを齧る煉獄から庭へと目を向けた。薄暗くなってきたけどまだ夜とも言えない微妙な時間だ。
「少し体を動かしておきましょう」
紗雪が取り出した猫じゃらしに煉獄の尻尾がピンと立ち上がる。途端に臨戦態勢になった煉獄が飛びついてきた。猫になっても柱である煉獄の反応速度は相当速い。猫じゃらしで少し遊ぶつもりが、しっかり自分の鍛錬にもなった紗雪は額を流れる汗を拭った。
「紗雪さん、お風呂が沸きました。どうぞお入り下さい」
「いえ!千寿郎さんこそお先にどうぞ」
「兄上も洗って差し上げたいので後にします。湯上りの兄上をお願いできますか?」
「…分かりました」
風呂上がりの煉獄を相手にするなら自分も身綺麗な方がいいだろう。紗雪は有り難く風呂を頂くことにすると着替えを持って脱衣室に入った。鍵をかけると服を脱ぎ風呂に入る。湯船に身を沈め、はぁ…と気の抜けたため息をついた所で廊下から聞こえた声に紗雪はひっくり返りそうになった。
「みゃあ!」
「ふぁっ!?」
ザブンと湯が揺れる。廊下から脱衣室の戸をカリカリとかく音が聞こえた。
(いやいや、ちょっと待って!確かに飼い猫は風呂の前で待機したがるって聞いたことはあるけど!!)
煉獄にされるのはちょっと…いやかなり反応に困る。千寿郎の慌てた声が聞こえてきた。
「兄上!女性の湯浴みに声がけしてはいけません!!」
「みゃうみゃう!にゃー!!」
(反論してる!)
もう頭の中では大きな猫にしか思えない。紗雪は大急ぎで風呂から上がると新しい隊服を身につけた。おざなりに髪を拭くと戸を開ける。
「千寿郎さん、すいませんお待たせし…っ」
「うみゃーっ!!」
言い終わるより先に煉獄が脱衣室に飛び込んでくる。大興奮の様子で走り回ると風呂場に突撃しそのまま足を滑らせ湯船に突っ込む。
「「あ」」
ふぎゃーっ!!と煉獄の悲鳴が家中に響き渡った。
「うーごーきーまーせん」
「みゅう…」
途中からは愼寿郎まで巻き込んで紗雪は千寿郎と共に何とか煉獄を捕獲し着替えさせた。湯船に突っ込んだ煉獄が風呂場を断固拒否したので、一度湯船に入った(?)のだし良しとしようと妥協した結果だ。
今は紗雪が煉獄の髪を手拭いで拭いている。気持ちが良いのか煉獄は目を細めたままされるがままだ。ちなみに着替えを受け持った愼寿郎と千寿郎は疲労困憊で休んでいる。暴れる煉獄を着替えさせたのだから無理もない。
「全く。いくら今は猫になっているとは言え元に戻った時後悔するのは師範なんですよ?」
「にゃうにゃう」
「…相槌を打たんで宜しい」
「にゃー」
「………」
フワフワに乾いた髪の毛に紗雪が拭いていた手を止めると、煉獄はプルプルッと首を振った。水の入った容器を差し出すと早速口をつける。
(あー、早く戻って欲しい)
猫の煉獄が嫌なわけでは無い。むしろ可愛いとさえ思う。しかし彼は鬼殺隊の柱で自分の師範なのだ。助けを求めている人も、その人柄を頼りに思っている人もいる。紗雪もあの快活な声がないのは寂しい。
(そっか、寂しいんだ私)
まだまだ煉獄の傍で沢山のことを知り、学び、覚えていきたい。あの明るい笑顔と快活な声に背中を押してもらいたい。
(いやいや、頼りにしすぎだから)
いつかは独り立ちする時が来るはずだ。その時こんな頼りない心持ちでは戦えない。
「うにゃ!」
水を飲み満足した煉獄がゴロゴロと喉を鳴らしながら紗雪の肩に額を押し付けてくる。完全にリラックス状態の煉獄に紗雪は笑って猫耳の後ろをかいた。煉獄が紗雪の首に鼻を寄せると匂いを嗅いでくる。
「風呂上がりだから匂いが違いますか?」
「にゃー」
紗雪の中で煉獄は既に完全な猫で、匂いを嗅がれようが、引っ付かれようが微塵も気にならない。クワァと欠伸をした煉獄に紗雪は煉獄の部屋へと足を向けると布団の上を叩いた。
「師範の…あぁ、杏寿郎さんの寝床ですよ。ここでお休みください」
言えば自分の匂いなのは分かったのか煉獄が布団の上で丸くなった。背中を撫でると目を閉じたのを確認して紗雪も自室へ戻る。
(怪我をしたわけでもないのに夜に家にいるって変な感じ)
それだけ鬼殺隊としての生活が紗雪の中に馴染んだと言うことなのだろう。紗雪は隊服のまま布団に横になると眠りについた。
翌朝、目を開けると煉獄が隣で丸くなっていて心臓が縮み上がることになるのを紗雪は知らない。
三日目の朝、何かの蠢く気配に紗雪は目を覚ました。毎日煉獄が紗雪の布団に転がりにきていたので、またそれだろうと手を伸ばす。
「おはよう杏寿郎さん…その辺の襖を破かないでね」
完全に寝ぼけたまま煉獄のふわふわの髪を撫でる。猫耳の後ろをかこうとして、しかし紗雪はピタリと動きを止めた。
(耳がない…)
「………」
そろ…と手を離すと顔を上げる。そこには唖然としたまま顔を真っ赤にした煉獄がいて、紗雪は反対に真っ青になった。
「もっ…申し訳ございませんーっ!!」
朝特有の爽やかな空気に紗雪の謝罪の声が響き渡った。
「なるほど!そういう事か!!」
起きてきた千寿郎と共に一連の経緯を説明すると煉獄は膝を打って頷いた。未だしなっと萎れている紗雪の肩を叩く。
「紗雪!そんなに気にするな!猫だった俺の様子を聞くにあの対応は致し方あるまい!!」
「そう言って頂けると…」
「紗雪さん、元気出して下さい」
いくら煉獄や千寿郎に慰められても、心境としては『穴があったら入りたい』だ。
「紗雪は胡蝶に手紙を出しておいてくれ!念の為に後で診察を受けに行くとな!今夜から俺も君も任務に復帰だ!!俺は身支度を整えてくる!」
「わかりました」
煉獄は立ち上がると自室に向かった。障子を閉め文机の前に座る。
「……よも、ゃ」
プシューと耳まで赤くなると煉獄は文机に突っ伏した。ゴチン!と痛い音がしたがそれどころでは無い。
「不甲斐無し!」
(いくら猫になっていたとは言え人としての理性を失いあの様な…)
実はそこそこ残っている記憶の中で、事あるごとに紗雪の傍に寄って行ってはくっ付いていた自分を思い出し煉獄は頭を掻きむしった。穴が無いのならば掘ってでも入りたい。
(よく紗雪に気にするななどと言えたな!?)
気にしない訳がない。自分の名前を呼ぶ声も躊躇いなく触れてくる手もその腕の温かさも…。
「無念無想!!」
(鬼の血気術にはもう二度と!絶対に!何が何でもかかりはせん!!)
「明鏡止水!!」
たまたま廊下を通りかかった愼寿郎が煉獄の大声に驚いた後、呆れた顔で呟いた。
「元に戻っても何をしとるんだアイツは」
塀の上を野良猫がのんびりと歩き去って行った。
陽が落ちる頃、紗雪は足がうまく動かないのに気が付いて目を覚ました。何かが足元に蹲っている。
「!?」
緊張の走った紗雪だったが、それが煉獄なのに気がつくと大きく息を吐き出し仰向けに転がった。
「びっ…くりし、ぐえっ!」
紗雪が起きたことに気付いた煉獄が腹の上に全体重をかけて乗ってくる。紗雪は慌てて総身に力を込めると身を起こした。
「師は…人のお腹に乗るのはやめようね。重いから」
お腹の上から降ろされた煉獄がキョトンと首を傾げる。あざと可愛いの単語が紗雪の頭を駆け巡った。
(落ち着け!落ち着こうか私!!これは師範!私の師匠!!血気術だから!)
言い聞かせないと可愛がってしまいそうだ。煉獄が紗雪の胸ポケットに顔を寄せると、フンフンと匂いを嗅いだ。
「え、何…?あぁ」
胡蝶に貰った煮干しが入ったままだったのを思い出し、紗雪はそれを煉獄の鼻先に持って行った。パクリと食い付く煉獄に変な声が出そうになる。
(くっそカワイイ)
紗雪は煮干しを齧る煉獄から庭へと目を向けた。薄暗くなってきたけどまだ夜とも言えない微妙な時間だ。
「少し体を動かしておきましょう」
紗雪が取り出した猫じゃらしに煉獄の尻尾がピンと立ち上がる。途端に臨戦態勢になった煉獄が飛びついてきた。猫になっても柱である煉獄の反応速度は相当速い。猫じゃらしで少し遊ぶつもりが、しっかり自分の鍛錬にもなった紗雪は額を流れる汗を拭った。
「紗雪さん、お風呂が沸きました。どうぞお入り下さい」
「いえ!千寿郎さんこそお先にどうぞ」
「兄上も洗って差し上げたいので後にします。湯上りの兄上をお願いできますか?」
「…分かりました」
風呂上がりの煉獄を相手にするなら自分も身綺麗な方がいいだろう。紗雪は有り難く風呂を頂くことにすると着替えを持って脱衣室に入った。鍵をかけると服を脱ぎ風呂に入る。湯船に身を沈め、はぁ…と気の抜けたため息をついた所で廊下から聞こえた声に紗雪はひっくり返りそうになった。
「みゃあ!」
「ふぁっ!?」
ザブンと湯が揺れる。廊下から脱衣室の戸をカリカリとかく音が聞こえた。
(いやいや、ちょっと待って!確かに飼い猫は風呂の前で待機したがるって聞いたことはあるけど!!)
煉獄にされるのはちょっと…いやかなり反応に困る。千寿郎の慌てた声が聞こえてきた。
「兄上!女性の湯浴みに声がけしてはいけません!!」
「みゃうみゃう!にゃー!!」
(反論してる!)
もう頭の中では大きな猫にしか思えない。紗雪は大急ぎで風呂から上がると新しい隊服を身につけた。おざなりに髪を拭くと戸を開ける。
「千寿郎さん、すいませんお待たせし…っ」
「うみゃーっ!!」
言い終わるより先に煉獄が脱衣室に飛び込んでくる。大興奮の様子で走り回ると風呂場に突撃しそのまま足を滑らせ湯船に突っ込む。
「「あ」」
ふぎゃーっ!!と煉獄の悲鳴が家中に響き渡った。
「うーごーきーまーせん」
「みゅう…」
途中からは愼寿郎まで巻き込んで紗雪は千寿郎と共に何とか煉獄を捕獲し着替えさせた。湯船に突っ込んだ煉獄が風呂場を断固拒否したので、一度湯船に入った(?)のだし良しとしようと妥協した結果だ。
今は紗雪が煉獄の髪を手拭いで拭いている。気持ちが良いのか煉獄は目を細めたままされるがままだ。ちなみに着替えを受け持った愼寿郎と千寿郎は疲労困憊で休んでいる。暴れる煉獄を着替えさせたのだから無理もない。
「全く。いくら今は猫になっているとは言え元に戻った時後悔するのは師範なんですよ?」
「にゃうにゃう」
「…相槌を打たんで宜しい」
「にゃー」
「………」
フワフワに乾いた髪の毛に紗雪が拭いていた手を止めると、煉獄はプルプルッと首を振った。水の入った容器を差し出すと早速口をつける。
(あー、早く戻って欲しい)
猫の煉獄が嫌なわけでは無い。むしろ可愛いとさえ思う。しかし彼は鬼殺隊の柱で自分の師範なのだ。助けを求めている人も、その人柄を頼りに思っている人もいる。紗雪もあの快活な声がないのは寂しい。
(そっか、寂しいんだ私)
まだまだ煉獄の傍で沢山のことを知り、学び、覚えていきたい。あの明るい笑顔と快活な声に背中を押してもらいたい。
(いやいや、頼りにしすぎだから)
いつかは独り立ちする時が来るはずだ。その時こんな頼りない心持ちでは戦えない。
「うにゃ!」
水を飲み満足した煉獄がゴロゴロと喉を鳴らしながら紗雪の肩に額を押し付けてくる。完全にリラックス状態の煉獄に紗雪は笑って猫耳の後ろをかいた。煉獄が紗雪の首に鼻を寄せると匂いを嗅いでくる。
「風呂上がりだから匂いが違いますか?」
「にゃー」
紗雪の中で煉獄は既に完全な猫で、匂いを嗅がれようが、引っ付かれようが微塵も気にならない。クワァと欠伸をした煉獄に紗雪は煉獄の部屋へと足を向けると布団の上を叩いた。
「師範の…あぁ、杏寿郎さんの寝床ですよ。ここでお休みください」
言えば自分の匂いなのは分かったのか煉獄が布団の上で丸くなった。背中を撫でると目を閉じたのを確認して紗雪も自室へ戻る。
(怪我をしたわけでもないのに夜に家にいるって変な感じ)
それだけ鬼殺隊としての生活が紗雪の中に馴染んだと言うことなのだろう。紗雪は隊服のまま布団に横になると眠りについた。
翌朝、目を開けると煉獄が隣で丸くなっていて心臓が縮み上がることになるのを紗雪は知らない。
三日目の朝、何かの蠢く気配に紗雪は目を覚ました。毎日煉獄が紗雪の布団に転がりにきていたので、またそれだろうと手を伸ばす。
「おはよう杏寿郎さん…その辺の襖を破かないでね」
完全に寝ぼけたまま煉獄のふわふわの髪を撫でる。猫耳の後ろをかこうとして、しかし紗雪はピタリと動きを止めた。
(耳がない…)
「………」
そろ…と手を離すと顔を上げる。そこには唖然としたまま顔を真っ赤にした煉獄がいて、紗雪は反対に真っ青になった。
「もっ…申し訳ございませんーっ!!」
朝特有の爽やかな空気に紗雪の謝罪の声が響き渡った。
「なるほど!そういう事か!!」
起きてきた千寿郎と共に一連の経緯を説明すると煉獄は膝を打って頷いた。未だしなっと萎れている紗雪の肩を叩く。
「紗雪!そんなに気にするな!猫だった俺の様子を聞くにあの対応は致し方あるまい!!」
「そう言って頂けると…」
「紗雪さん、元気出して下さい」
いくら煉獄や千寿郎に慰められても、心境としては『穴があったら入りたい』だ。
「紗雪は胡蝶に手紙を出しておいてくれ!念の為に後で診察を受けに行くとな!今夜から俺も君も任務に復帰だ!!俺は身支度を整えてくる!」
「わかりました」
煉獄は立ち上がると自室に向かった。障子を閉め文机の前に座る。
「……よも、ゃ」
プシューと耳まで赤くなると煉獄は文机に突っ伏した。ゴチン!と痛い音がしたがそれどころでは無い。
「不甲斐無し!」
(いくら猫になっていたとは言え人としての理性を失いあの様な…)
実はそこそこ残っている記憶の中で、事あるごとに紗雪の傍に寄って行ってはくっ付いていた自分を思い出し煉獄は頭を掻きむしった。穴が無いのならば掘ってでも入りたい。
(よく紗雪に気にするななどと言えたな!?)
気にしない訳がない。自分の名前を呼ぶ声も躊躇いなく触れてくる手もその腕の温かさも…。
「無念無想!!」
(鬼の血気術にはもう二度と!絶対に!何が何でもかかりはせん!!)
「明鏡止水!!」
たまたま廊下を通りかかった愼寿郎が煉獄の大声に驚いた後、呆れた顔で呟いた。
「元に戻っても何をしとるんだアイツは」
塀の上を野良猫がのんびりと歩き去って行った。