短編
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「なぁ、見たか?」
「あぁ!手当してもらった!」
蝶屋敷に近づくにつれ浮き足だった隊士達とすれ違い煉獄は首を傾げた。傷を負ったもの達が嬉しそうに立ち去っていく。
「よう、煉獄ぅ」
「不死川か!久しぶりだな!!」
屋敷の方から薬を片手に歩いてくる不死川に煉獄は軽く手を上げた。不死川が僅かに眉を寄せると頭をかく。
「あー…すまねぇな」
「なにがだ!」
謝られる覚えがなくて煉獄は首を傾げた。目を丸くする不死川に今度は煉獄が眉を寄せる。
「紗雪に何かあったのか?」
昨日の紗雪の任務先は不死川の担当区域に近かったはずである。煉獄の問いに不死川は答えにくそうにした。
「血気術にちょっとな…命に別状はねぇんだが」
「!!」
そこまで聞くと煉獄は蝶屋敷に向かって走り出した。草履を脱ぐのも煩わしく診察室へ飛び込む。
「紗雪!」
「これでいいでしょう。明日まで包帯は取らないで下さいね」
「は、はい!ありがとうございます!!」
「………」
目に入ってきたのは救護員の服を着た紗雪と妙に嬉しそうな隊士だった。スキップで立ち去る隊士を他所に煉獄がポカンとする。
「紗雪、か?」
「師範。お戻りになられていたのですね」
いつもと同じように出迎えられて煉獄はその姿をマジマジと見つめた。自分の知る紗雪より大人びた顔立ちと体付き。長い髪は何箇所かを緩く三つ編みしてあった。視線に気づいた紗雪が照れたように髪に触れる。
「昨夜禰󠄀豆子ちゃんのオモチャになりまして…」
「体は大丈夫か?」
見惚れそうになって煉獄はハッと我に帰った。と同時に隊士達が何故あれほど浮ついていたのかを理解してモヤモヤしたものが込み上げる。
「はい。二、三日で戻るそうです。何もしていないのも気詰まりなのでお手伝いをさせていただいています」
「君は…」
(こんなに美しく歳を重ねていくんだな)
喉元まで出かかった言葉を煉獄は飲み込んだ。小首を傾げる紗雪の肩を思い切りよく叩く。
「うむ!良い心掛けだ!!励むと良い!」
「ありがとうございます」
「紗雪さん!次の患者をお願いします!」
「今行きます。それでは失礼いたします」
煉獄は駆けていく紗雪を温かく見送った。
翌日。
「どうせ屋敷に篭ってるしか能がねぇんだ!隊士様を慰めるぐらいしやがれ!」
「!!」
グイと腕を引かれて紗雪は大きく体制を崩した。鬼殺を行った者の中には昂りを抑えられない者も少なくないが、この隊士は荒れようが酷い。
「傷が開くからジッとして!」
「うるせぇ!年増なのにカマトトぶってんじゃねぇよ!オラ、こっち来い!!」
病室の方へと引っ張られて足を踏ん張るが止められない。
(胡蝶さんはいない。炭治郎君達も任務に出た。どうする)
病室のドアに手をかけこちらへ下卑た笑みを向ける隊士に紗雪は歯を食いしばった。
「へへ、ほらこ、ぃ…」
首に突きつけられた二本の日輪刀に隊士の顔色が変わった。不死川と煉獄が額に青筋を立てて隊士を睨み付けている。不死川がズイと隊士に詰め寄った。
「テメェ…蝶屋敷で狼藉たぁ良い度胸だなァ」
「い、いや、これは…その……ぃっ!?」
紗雪の腕を掴んでいる手首に激痛が走り隊士は慌ててそちらに視線をやった。煉獄が隊士の手首を色が変わるほど握り締めている。物言わぬ煉獄の視線の強さに隊士は戦慄した。慌てて紗雪の手を離すと床に這いつくばって頭を下げる。
「もっ、申し訳ございません!!」
「謝る相手は俺らじゃねぇだろうがよぉ?」
「ひぃ!」
怒れる不死川とコメツキバッタと化した隊士を余所に煉獄は紗雪を振り返った。
「大丈夫か紗雪!」
「ありがとうございます師範。お手を煩わせてしまって申し訳ありません」
頭を下げる紗雪の手首が赤くなっていて痛々しい。煉獄は僅かに眉を寄せると気になっていた事を尋ねた。
「全集中の常中はどうした?」
問われて紗雪はぎくりと肩を揺らした。煉獄を上目遣いに見上げ、しゅんと肩を落とす。
「この姿になってからどうしても上手く出来なくて…血気術の影響だとは思うのですが」
力を出そうとすると全身から力が抜けるような違和感に襲われる。隊士の首根っこを掴んだ不死川がこちらを振り返った。
「おい煉獄。こっちは俺がやっとくから紗雪を連れて帰れ」
「で、ですが蝶屋敷の業務が…」
今は隊士の訪れも多く忙しい。躊躇する紗雪に不死川が呆れた目を向けた。
「お前…いや、何でもねぇ。さっさと行け」
「あれ?なんか気になりますけど!?」
「行くぞ!紗雪!!」
「無視!?あ、待ってください師範!」
立ち去って行く背中を見送ると不死川はため息をついた。
(なんで俺がこんな気ぃ回さなきゃいけねぇんだよぉ)
しかし自分が出張っておかなければ煉獄が隊士を殺しかねなかったのだから仕方がない。不死川は青を通り越して白い顔色をする隊士にニンマリと笑った。
「良かったなぁオイ。俺は今の煉獄よりは優しいぜぇ」
「ひぃっ」
その後、十日ほど不死川と共に姿を消した隊士は別人のように真面目になって戻ってきた。
「君は自宅待機だ!」
「はい…あの」
煉獄家の門をくぐりながらそう告げられて紗雪は大人しく頷いた。振り向いた煉獄に深々と頭を下げる。
「申し訳ありませんでした」
「そうだな!体に異常があるのならば報告はあって然るべしだった!!」
「はい」
眉を下げる紗雪の肩に手を置く。
「だが全集中の常中が突然できなくなって慌てる気持ちは分かるつもりだ!気にするな」
「ありがとうございます」
ほっとして表情を緩ませる紗雪に煉獄はパッと背を向けた。庭へ足を向けると千寿郎を呼ぶ。
「千寿郎!いるか!!」
「はい!如何されましたか?兄上」
廊下を向こうから駆けてきた千寿郎は煉獄の隣にいる年嵩の女性に目を丸くした。
「紗雪さんの…姉上ですか?」
「千寿郎さん、私ひとりっ子です」
「あぁ!やっぱり紗雪さんなんですね!?」
掻い摘んで説明すると事態を飲み込んだ千寿郎の肩を煉獄が叩いた。
「紗雪を頼んだぞ!千寿郎!!俺は任務に向かう!」
「お任せください兄上!」
「お気をつけて」
なんとはなしにいつもと違う見送りに感じられて煉獄は意気揚々と出かけて行った。
(時間を持て余すよなぁ)
翌朝、洗濯物を畳んでいた手を止めて紗雪は庭を眺めた。お日様にあたるため日当たりの良い縁側に座っているのだが、ポカポカと暖かくて瞼が重くなってくる。眠気に抗えず紗雪はゆっくりと目を閉じた。
「………」
任務から戻って来た煉獄は縁側の柱に身を預けて眠る紗雪に足を止めた。膝の上の洗濯物がずり落ちそうになっているのを受け取るとその隣に腰掛ける。
(よく眠っている)
残されていた数枚の洗濯物を畳むと煉獄は眠る紗雪の顔をじっと見つめた。大人の女性として完成された横顔が眠る事で少しあどけなくなりつい見入ってしまう。頬にかかった髪を避けてやろうと指を伸ばすと紗雪が僅かに身じろいだ。
「ん…」
「!?」
悪いことをしたわけではないのにドキリとして煉獄は手を引っ込めると慌てて前を向いた。鼓動が速くなる自身に首を傾げる。
(何も悪い事などしていないぞ!?)
言い訳じみた思考に更に混乱する。
ぽすり。
「………………」
膝の上に感じた重みに煉獄は暫く固まった後ゆっくり視線を向けた。紗雪が煉獄の太腿に頭を乗せてくうくう眠っている。添えられた手が煉獄の膝を手繰り寄せる様に絡みついた。
「…っ!」
反射的に立ちあがろうとした煉獄だったが、思い留まるとゆっくり足の力を抜いた、収まりが良くなったのか紗雪が深く息を吐く。その様子に煉獄は気の抜けた笑みを浮かべた。
(全く君は…蝶屋敷で随分な目にあったと言うのに警戒心が足りないぞ)
それでも自分の前で気を許してくれていると思えばやはり嬉しい。煉獄は羽織を紗雪にかけてやると膝の柔らかな温もりに目を細めるのだった。
その後、目を覚ました紗雪は元の姿に戻っており煉獄を枕代わりにした事を必死に謝罪した。
「あぁ!手当してもらった!」
蝶屋敷に近づくにつれ浮き足だった隊士達とすれ違い煉獄は首を傾げた。傷を負ったもの達が嬉しそうに立ち去っていく。
「よう、煉獄ぅ」
「不死川か!久しぶりだな!!」
屋敷の方から薬を片手に歩いてくる不死川に煉獄は軽く手を上げた。不死川が僅かに眉を寄せると頭をかく。
「あー…すまねぇな」
「なにがだ!」
謝られる覚えがなくて煉獄は首を傾げた。目を丸くする不死川に今度は煉獄が眉を寄せる。
「紗雪に何かあったのか?」
昨日の紗雪の任務先は不死川の担当区域に近かったはずである。煉獄の問いに不死川は答えにくそうにした。
「血気術にちょっとな…命に別状はねぇんだが」
「!!」
そこまで聞くと煉獄は蝶屋敷に向かって走り出した。草履を脱ぐのも煩わしく診察室へ飛び込む。
「紗雪!」
「これでいいでしょう。明日まで包帯は取らないで下さいね」
「は、はい!ありがとうございます!!」
「………」
目に入ってきたのは救護員の服を着た紗雪と妙に嬉しそうな隊士だった。スキップで立ち去る隊士を他所に煉獄がポカンとする。
「紗雪、か?」
「師範。お戻りになられていたのですね」
いつもと同じように出迎えられて煉獄はその姿をマジマジと見つめた。自分の知る紗雪より大人びた顔立ちと体付き。長い髪は何箇所かを緩く三つ編みしてあった。視線に気づいた紗雪が照れたように髪に触れる。
「昨夜禰󠄀豆子ちゃんのオモチャになりまして…」
「体は大丈夫か?」
見惚れそうになって煉獄はハッと我に帰った。と同時に隊士達が何故あれほど浮ついていたのかを理解してモヤモヤしたものが込み上げる。
「はい。二、三日で戻るそうです。何もしていないのも気詰まりなのでお手伝いをさせていただいています」
「君は…」
(こんなに美しく歳を重ねていくんだな)
喉元まで出かかった言葉を煉獄は飲み込んだ。小首を傾げる紗雪の肩を思い切りよく叩く。
「うむ!良い心掛けだ!!励むと良い!」
「ありがとうございます」
「紗雪さん!次の患者をお願いします!」
「今行きます。それでは失礼いたします」
煉獄は駆けていく紗雪を温かく見送った。
翌日。
「どうせ屋敷に篭ってるしか能がねぇんだ!隊士様を慰めるぐらいしやがれ!」
「!!」
グイと腕を引かれて紗雪は大きく体制を崩した。鬼殺を行った者の中には昂りを抑えられない者も少なくないが、この隊士は荒れようが酷い。
「傷が開くからジッとして!」
「うるせぇ!年増なのにカマトトぶってんじゃねぇよ!オラ、こっち来い!!」
病室の方へと引っ張られて足を踏ん張るが止められない。
(胡蝶さんはいない。炭治郎君達も任務に出た。どうする)
病室のドアに手をかけこちらへ下卑た笑みを向ける隊士に紗雪は歯を食いしばった。
「へへ、ほらこ、ぃ…」
首に突きつけられた二本の日輪刀に隊士の顔色が変わった。不死川と煉獄が額に青筋を立てて隊士を睨み付けている。不死川がズイと隊士に詰め寄った。
「テメェ…蝶屋敷で狼藉たぁ良い度胸だなァ」
「い、いや、これは…その……ぃっ!?」
紗雪の腕を掴んでいる手首に激痛が走り隊士は慌ててそちらに視線をやった。煉獄が隊士の手首を色が変わるほど握り締めている。物言わぬ煉獄の視線の強さに隊士は戦慄した。慌てて紗雪の手を離すと床に這いつくばって頭を下げる。
「もっ、申し訳ございません!!」
「謝る相手は俺らじゃねぇだろうがよぉ?」
「ひぃ!」
怒れる不死川とコメツキバッタと化した隊士を余所に煉獄は紗雪を振り返った。
「大丈夫か紗雪!」
「ありがとうございます師範。お手を煩わせてしまって申し訳ありません」
頭を下げる紗雪の手首が赤くなっていて痛々しい。煉獄は僅かに眉を寄せると気になっていた事を尋ねた。
「全集中の常中はどうした?」
問われて紗雪はぎくりと肩を揺らした。煉獄を上目遣いに見上げ、しゅんと肩を落とす。
「この姿になってからどうしても上手く出来なくて…血気術の影響だとは思うのですが」
力を出そうとすると全身から力が抜けるような違和感に襲われる。隊士の首根っこを掴んだ不死川がこちらを振り返った。
「おい煉獄。こっちは俺がやっとくから紗雪を連れて帰れ」
「で、ですが蝶屋敷の業務が…」
今は隊士の訪れも多く忙しい。躊躇する紗雪に不死川が呆れた目を向けた。
「お前…いや、何でもねぇ。さっさと行け」
「あれ?なんか気になりますけど!?」
「行くぞ!紗雪!!」
「無視!?あ、待ってください師範!」
立ち去って行く背中を見送ると不死川はため息をついた。
(なんで俺がこんな気ぃ回さなきゃいけねぇんだよぉ)
しかし自分が出張っておかなければ煉獄が隊士を殺しかねなかったのだから仕方がない。不死川は青を通り越して白い顔色をする隊士にニンマリと笑った。
「良かったなぁオイ。俺は今の煉獄よりは優しいぜぇ」
「ひぃっ」
その後、十日ほど不死川と共に姿を消した隊士は別人のように真面目になって戻ってきた。
「君は自宅待機だ!」
「はい…あの」
煉獄家の門をくぐりながらそう告げられて紗雪は大人しく頷いた。振り向いた煉獄に深々と頭を下げる。
「申し訳ありませんでした」
「そうだな!体に異常があるのならば報告はあって然るべしだった!!」
「はい」
眉を下げる紗雪の肩に手を置く。
「だが全集中の常中が突然できなくなって慌てる気持ちは分かるつもりだ!気にするな」
「ありがとうございます」
ほっとして表情を緩ませる紗雪に煉獄はパッと背を向けた。庭へ足を向けると千寿郎を呼ぶ。
「千寿郎!いるか!!」
「はい!如何されましたか?兄上」
廊下を向こうから駆けてきた千寿郎は煉獄の隣にいる年嵩の女性に目を丸くした。
「紗雪さんの…姉上ですか?」
「千寿郎さん、私ひとりっ子です」
「あぁ!やっぱり紗雪さんなんですね!?」
掻い摘んで説明すると事態を飲み込んだ千寿郎の肩を煉獄が叩いた。
「紗雪を頼んだぞ!千寿郎!!俺は任務に向かう!」
「お任せください兄上!」
「お気をつけて」
なんとはなしにいつもと違う見送りに感じられて煉獄は意気揚々と出かけて行った。
(時間を持て余すよなぁ)
翌朝、洗濯物を畳んでいた手を止めて紗雪は庭を眺めた。お日様にあたるため日当たりの良い縁側に座っているのだが、ポカポカと暖かくて瞼が重くなってくる。眠気に抗えず紗雪はゆっくりと目を閉じた。
「………」
任務から戻って来た煉獄は縁側の柱に身を預けて眠る紗雪に足を止めた。膝の上の洗濯物がずり落ちそうになっているのを受け取るとその隣に腰掛ける。
(よく眠っている)
残されていた数枚の洗濯物を畳むと煉獄は眠る紗雪の顔をじっと見つめた。大人の女性として完成された横顔が眠る事で少しあどけなくなりつい見入ってしまう。頬にかかった髪を避けてやろうと指を伸ばすと紗雪が僅かに身じろいだ。
「ん…」
「!?」
悪いことをしたわけではないのにドキリとして煉獄は手を引っ込めると慌てて前を向いた。鼓動が速くなる自身に首を傾げる。
(何も悪い事などしていないぞ!?)
言い訳じみた思考に更に混乱する。
ぽすり。
「………………」
膝の上に感じた重みに煉獄は暫く固まった後ゆっくり視線を向けた。紗雪が煉獄の太腿に頭を乗せてくうくう眠っている。添えられた手が煉獄の膝を手繰り寄せる様に絡みついた。
「…っ!」
反射的に立ちあがろうとした煉獄だったが、思い留まるとゆっくり足の力を抜いた、収まりが良くなったのか紗雪が深く息を吐く。その様子に煉獄は気の抜けた笑みを浮かべた。
(全く君は…蝶屋敷で随分な目にあったと言うのに警戒心が足りないぞ)
それでも自分の前で気を許してくれていると思えばやはり嬉しい。煉獄は羽織を紗雪にかけてやると膝の柔らかな温もりに目を細めるのだった。
その後、目を覚ました紗雪は元の姿に戻っており煉獄を枕代わりにした事を必死に謝罪した。