本編
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「紗雪!出掛けるから支度をしなさい!!」
いきなりそう言われて紗雪は洗濯物を取り落としそうになった。千寿郎がささっとそれを引き受ける。
「あ…すいません千寿郎さん」
「いえいえ、どうぞ着替えてらして下さい紗雪さん」
(着替え…)
千寿郎に言われて紗雪は困った顔をした。どこに行くのか知らないが、何を着るべきなのだろう。
「師範、どちらへ」
「胡蝶の所だ!今からの時間だから昼餉を何処かで食べて行こう!!」
ますます何を着ていけば良いか分からない。とにかく今来ている物では駄目な事だけは紗雪にも分かった。
「この前、音柱様に洋服を頂いたと仰っていたではありませんか。それを着ていけば良いと思いますよ」
「そうだな!お館様から賜った着物もあるが、一人では着られないのだから仕方あるまい!!宇髄の奥方がくれた服を着ると良い!!」
煉獄は微妙に『奥方』を強調した。宇髄から貰った服と言う響きが気に入らない。しかしそんな事には気付かず紗雪は頷いた。
「そうですね。頂いた着物はすごく素敵なんですが…。すいませんが、少し時間を下さい」
「うむ!大丈夫だ!」
紗雪は部屋に戻ると着物と袴を脱いだ。それらをきちんと畳むと箪笥にしまってあった洋服を取り出す。たとう紙に包んだままだったのでどんなデザインかまだ見ていない。
(この時代の人ってどんな洋服着てたっけ?)
煉獄の話によるとまだ洋装の女性は珍しいらしい。きっとこれから増えていくのだろう。紗雪はたとう紙を開くと洋服に手を伸ばしたのだった。
「お待たせしました」
「うわぁ!よくお似合いです紗雪さん!」
低めのヒールを履くと紗雪を待つ煉獄と千寿郎の元に急ぐ。姿を表した紗雪に千寿郎が目を見開いた。
「おかしく無いと良いんですけど」
「そんな事ありませんよ」
黄色のセーラーカラーに白のブラウス、緑のロングスカート、クロッシェの帽子という出立ちは紗雪に言わせると可愛すぎて自分が着るのは申し訳なくなるのだが、煉獄を待たせているので贅沢は言えない。髪はいつもの後ろで一つ縛りでは似合わないので解いた。
(靴やパンストや下着の果てまで…今度宇髄さんの奥さんにお礼の手紙を送ろう)
そんな事を思いつつ煉獄の前に立つ。煉獄は平素の顔のまま瞬きをしていなかった。
「師範?お待たせしました。出発出来ます」
「っ!!そうか!では行こう!!」
煉獄はハッとすると慌てて紗雪に背を向けた。紗雪が千寿郎に声をかけると煉獄の背中を追う。
「歩きですか?」
「うむ!昼餉を食べる予定もあるしな!!折角なので紗雪も街並みなど見てみると良い!」
「ありがとうございます」
煉獄の気遣いに紗雪は素直に感謝した。店が立ち並ぶ繁華街はやはり見ているだけでも楽しい。
「食べ物屋さんが沢山ありますね。専門色が強いなぁ」
「紗雪の所は違うのか!」
「勿論そういうお店も有りますけど、ファミレス…えっと、和食も洋食も甘味も食べられるお店が多かったですね」
「それは良いな!選び放題だ!!」
煉獄なら五人前は食べそうだと思って紗雪は笑った。小間物屋や呉服屋などから煉獄に声がかかる。顔馴染みの様子に紗雪が煉獄を見た。
「時折世話になっているのだ!」
「流石師範、インテリですね」
うんうんと頷く紗雪に笑うと煉獄はその肩にポンと手を置いた。
「用事を済ませてくる!すまないがその辺で待っていてくれ!」
「はい」
紗雪は街灯を背にすると何気なく周囲を観察した。まだ明るい街中には老若男女が行き交い現代とは違う活気が満ちている。
「やめて下さい!」
女性の悲鳴が聞こえて、紗雪はそちらに視線を向けた。着物姿の女の人二人が、異人に絡まれている。異人の方も二人で、酔っているようだった
『良いじゃねえか…綺麗なおべべを着てるんだしよ〜』
『こんな辺境まで来てやったんだ。ちょっとはあそんでくれよ』
「触らないで…!」
裏路地への入り口で大きな通りに逃げないよう異人が立ち塞がっている。女性達は異人の言葉を理解していないようだった。
「………」
(全く酔っ払いってのはいつの時代も!)
紗雪は足取りも荒く異人に歩み寄ると女性に無遠慮に伸ばされた腕を掴んだ。
『おぅ!クールビューティー、俺たちと遊んでくれるのか?』
『楽しく遊ぼうぜ』
ゲラゲラ笑う異人に紗雪はその腕を捻りあげると、突き飛ばした。異人が大きくよろけて尻餅をつく。
「念の為お聞きしますが、お知り合いですか?」
「いいえ!」
「急に絡まれて…!」
これで知り合いですと言われた日には土下座するしか道はないが、その心配はないらしい。紗雪はその確認だけ女性達に取ると、異人に向き合った。
『何しやがる!!』
『旅先で気が大きくなるのは勝手だが、やって良いことと悪いことの区別がつかないなら酒なんぞ飲むな!!』
『っ!!』
思いがけなく流暢な英語で怒鳴られ、異人達は一瞬黙り込んだ。しかし紗雪は女一人。酔っていることもあり異人達はすぐまた絡み出す。
『おうおう!この黄色い猿は人間の言葉がうまいなぁ』
『はっ!そんな田舎言葉で話されたって聞き取りにくいんだよテキサス訛りが!あんたらより猿の方が上手く話すだろうさ!!』
『何をぅ!!』
鼻で笑われカッとなった異人が紗雪に襲いかかる。紗雪は異人の腕を一瞬で後ろに捻ると足を払い床に腹這いにした。
『動けばコイツの腕を折る!』
もう一人にすかさず釘を刺せば真っ青になって両手を上にあげた。
『す、すまない!何だよ!警官か?軍人か!?』
「紗雪!」
煉獄の叱咤の声に紗雪は慌てて異人から手を離すと立ち上がった。大股でこちらに歩いてくる煉獄の表情を見るなり頭を下げる。
「すいません師範!!」
「俺は待っていろと言ったんだ紗雪」
「…はい」
しゅんとしてしまった紗雪に代わり煉獄は異人に手を貸すと立ち上がらせた。
「すまなかったな!俺の弟子が迷惑をかけた!!しかし君達も他国で恥を晒すのは感心しないな!!」
『ちっ、猿が臭えんだよ』
『おいやめろ!もう行くぞ』
ぶつぶつ文句を言う異人の腕をもう一人の異人が慌てて掴んだ。そのまま引き摺るように連れて行く。
『おい何だよ!』
『黙れ!分からないのか?殺されるぞ俺たち』
青褪めた顔の連れに紗雪に倒された方がようやく黙った。恐々後ろを振り返る。
『そんなヤベェのかあの女』
『女の方じゃねぇよ!最後の男、アイツヤバい』
青い顔を白くして男は震えた。
『アイツずっと俺たちの事殺しそうな目で見てた。途中で来た女に何かしてたら間違いなく殺されてる』
『………』
『行こう、酒は他でも飲める』
異人達はそそくさと人混みの中に消えた。一方紗雪は腕組みをした煉獄の前でひたすら小さくなっていた。
「いいか紗雪!俺たちが一般人に手を出すなどあってはならん!!」
「はい」
「君ならば言うまでもなく分かっていると思っていた!!」
「…はい」
「あの!」
絡まれていた女性達がたまらず口を開いた。両側から紗雪を挟むと煉獄を見上げる。
「私達この方のお陰で助かったんです!」
「急に絡まれて言葉も分からず…あのままだったら私達…」
「どうか叱らないでください」
「お願いします!」
揃って頭を下げる女性達に煉獄はため息をつくと腕組みを解いた。
「紗雪、君がこちらの女性達を助けようとしたことは素晴らしい事だ。だが、力を振るう相手を間違えてはいけない。分かるな?」
「はい!本当にすいません!!」
紗雪は深々と頭を下げた。許してもらえるまでとてもじゃ無いが頭を上げられない。動かなくなった紗雪の頭に煉獄はポンと手を置いた。
「行くぞ紗雪!昼餉の店を探そう!!」
「は、はい!では私達はこれで」
「本当にありがとうございました」
「お気を落とさないでくださいね」
女性達に感謝と慰めをもらうと紗雪は煉獄の後ろを歩き出した。幾許も歩かぬうちに煉獄が紗雪を振り返る。
「紗雪、これを」
「何ですか?」
小さな包みを受け取って紗雪は煉獄を見上げた。いつもの元気がない紗雪の顔を煉獄が覗き込む。
「切り替えろ紗雪!いつまでも引き摺るな!それは髪紐だ!!」
「髪紐?」
開けるよう促されて中を見ると、数種類の髪紐が入っていた。紗雪が驚いて煉獄を見る。
「これ…」
「いつも同じものを使っているだろう!好きに使うと良い」
(そんな細かな事に気付いてくれるなんて…)
紗雪は嬉しくなってギュッと髪紐の入った包みを抱き締めた。煉獄に微笑みかける。
「ありがとうございます。凄く嬉しいです」
「何よりだ」
煉獄は満足気に頷くと再び歩き出した。
いきなりそう言われて紗雪は洗濯物を取り落としそうになった。千寿郎がささっとそれを引き受ける。
「あ…すいません千寿郎さん」
「いえいえ、どうぞ着替えてらして下さい紗雪さん」
(着替え…)
千寿郎に言われて紗雪は困った顔をした。どこに行くのか知らないが、何を着るべきなのだろう。
「師範、どちらへ」
「胡蝶の所だ!今からの時間だから昼餉を何処かで食べて行こう!!」
ますます何を着ていけば良いか分からない。とにかく今来ている物では駄目な事だけは紗雪にも分かった。
「この前、音柱様に洋服を頂いたと仰っていたではありませんか。それを着ていけば良いと思いますよ」
「そうだな!お館様から賜った着物もあるが、一人では着られないのだから仕方あるまい!!宇髄の奥方がくれた服を着ると良い!!」
煉獄は微妙に『奥方』を強調した。宇髄から貰った服と言う響きが気に入らない。しかしそんな事には気付かず紗雪は頷いた。
「そうですね。頂いた着物はすごく素敵なんですが…。すいませんが、少し時間を下さい」
「うむ!大丈夫だ!」
紗雪は部屋に戻ると着物と袴を脱いだ。それらをきちんと畳むと箪笥にしまってあった洋服を取り出す。たとう紙に包んだままだったのでどんなデザインかまだ見ていない。
(この時代の人ってどんな洋服着てたっけ?)
煉獄の話によるとまだ洋装の女性は珍しいらしい。きっとこれから増えていくのだろう。紗雪はたとう紙を開くと洋服に手を伸ばしたのだった。
「お待たせしました」
「うわぁ!よくお似合いです紗雪さん!」
低めのヒールを履くと紗雪を待つ煉獄と千寿郎の元に急ぐ。姿を表した紗雪に千寿郎が目を見開いた。
「おかしく無いと良いんですけど」
「そんな事ありませんよ」
黄色のセーラーカラーに白のブラウス、緑のロングスカート、クロッシェの帽子という出立ちは紗雪に言わせると可愛すぎて自分が着るのは申し訳なくなるのだが、煉獄を待たせているので贅沢は言えない。髪はいつもの後ろで一つ縛りでは似合わないので解いた。
(靴やパンストや下着の果てまで…今度宇髄さんの奥さんにお礼の手紙を送ろう)
そんな事を思いつつ煉獄の前に立つ。煉獄は平素の顔のまま瞬きをしていなかった。
「師範?お待たせしました。出発出来ます」
「っ!!そうか!では行こう!!」
煉獄はハッとすると慌てて紗雪に背を向けた。紗雪が千寿郎に声をかけると煉獄の背中を追う。
「歩きですか?」
「うむ!昼餉を食べる予定もあるしな!!折角なので紗雪も街並みなど見てみると良い!」
「ありがとうございます」
煉獄の気遣いに紗雪は素直に感謝した。店が立ち並ぶ繁華街はやはり見ているだけでも楽しい。
「食べ物屋さんが沢山ありますね。専門色が強いなぁ」
「紗雪の所は違うのか!」
「勿論そういうお店も有りますけど、ファミレス…えっと、和食も洋食も甘味も食べられるお店が多かったですね」
「それは良いな!選び放題だ!!」
煉獄なら五人前は食べそうだと思って紗雪は笑った。小間物屋や呉服屋などから煉獄に声がかかる。顔馴染みの様子に紗雪が煉獄を見た。
「時折世話になっているのだ!」
「流石師範、インテリですね」
うんうんと頷く紗雪に笑うと煉獄はその肩にポンと手を置いた。
「用事を済ませてくる!すまないがその辺で待っていてくれ!」
「はい」
紗雪は街灯を背にすると何気なく周囲を観察した。まだ明るい街中には老若男女が行き交い現代とは違う活気が満ちている。
「やめて下さい!」
女性の悲鳴が聞こえて、紗雪はそちらに視線を向けた。着物姿の女の人二人が、異人に絡まれている。異人の方も二人で、酔っているようだった
『良いじゃねえか…綺麗なおべべを着てるんだしよ〜』
『こんな辺境まで来てやったんだ。ちょっとはあそんでくれよ』
「触らないで…!」
裏路地への入り口で大きな通りに逃げないよう異人が立ち塞がっている。女性達は異人の言葉を理解していないようだった。
「………」
(全く酔っ払いってのはいつの時代も!)
紗雪は足取りも荒く異人に歩み寄ると女性に無遠慮に伸ばされた腕を掴んだ。
『おぅ!クールビューティー、俺たちと遊んでくれるのか?』
『楽しく遊ぼうぜ』
ゲラゲラ笑う異人に紗雪はその腕を捻りあげると、突き飛ばした。異人が大きくよろけて尻餅をつく。
「念の為お聞きしますが、お知り合いですか?」
「いいえ!」
「急に絡まれて…!」
これで知り合いですと言われた日には土下座するしか道はないが、その心配はないらしい。紗雪はその確認だけ女性達に取ると、異人に向き合った。
『何しやがる!!』
『旅先で気が大きくなるのは勝手だが、やって良いことと悪いことの区別がつかないなら酒なんぞ飲むな!!』
『っ!!』
思いがけなく流暢な英語で怒鳴られ、異人達は一瞬黙り込んだ。しかし紗雪は女一人。酔っていることもあり異人達はすぐまた絡み出す。
『おうおう!この黄色い猿は人間の言葉がうまいなぁ』
『はっ!そんな田舎言葉で話されたって聞き取りにくいんだよテキサス訛りが!あんたらより猿の方が上手く話すだろうさ!!』
『何をぅ!!』
鼻で笑われカッとなった異人が紗雪に襲いかかる。紗雪は異人の腕を一瞬で後ろに捻ると足を払い床に腹這いにした。
『動けばコイツの腕を折る!』
もう一人にすかさず釘を刺せば真っ青になって両手を上にあげた。
『す、すまない!何だよ!警官か?軍人か!?』
「紗雪!」
煉獄の叱咤の声に紗雪は慌てて異人から手を離すと立ち上がった。大股でこちらに歩いてくる煉獄の表情を見るなり頭を下げる。
「すいません師範!!」
「俺は待っていろと言ったんだ紗雪」
「…はい」
しゅんとしてしまった紗雪に代わり煉獄は異人に手を貸すと立ち上がらせた。
「すまなかったな!俺の弟子が迷惑をかけた!!しかし君達も他国で恥を晒すのは感心しないな!!」
『ちっ、猿が臭えんだよ』
『おいやめろ!もう行くぞ』
ぶつぶつ文句を言う異人の腕をもう一人の異人が慌てて掴んだ。そのまま引き摺るように連れて行く。
『おい何だよ!』
『黙れ!分からないのか?殺されるぞ俺たち』
青褪めた顔の連れに紗雪に倒された方がようやく黙った。恐々後ろを振り返る。
『そんなヤベェのかあの女』
『女の方じゃねぇよ!最後の男、アイツヤバい』
青い顔を白くして男は震えた。
『アイツずっと俺たちの事殺しそうな目で見てた。途中で来た女に何かしてたら間違いなく殺されてる』
『………』
『行こう、酒は他でも飲める』
異人達はそそくさと人混みの中に消えた。一方紗雪は腕組みをした煉獄の前でひたすら小さくなっていた。
「いいか紗雪!俺たちが一般人に手を出すなどあってはならん!!」
「はい」
「君ならば言うまでもなく分かっていると思っていた!!」
「…はい」
「あの!」
絡まれていた女性達がたまらず口を開いた。両側から紗雪を挟むと煉獄を見上げる。
「私達この方のお陰で助かったんです!」
「急に絡まれて言葉も分からず…あのままだったら私達…」
「どうか叱らないでください」
「お願いします!」
揃って頭を下げる女性達に煉獄はため息をつくと腕組みを解いた。
「紗雪、君がこちらの女性達を助けようとしたことは素晴らしい事だ。だが、力を振るう相手を間違えてはいけない。分かるな?」
「はい!本当にすいません!!」
紗雪は深々と頭を下げた。許してもらえるまでとてもじゃ無いが頭を上げられない。動かなくなった紗雪の頭に煉獄はポンと手を置いた。
「行くぞ紗雪!昼餉の店を探そう!!」
「は、はい!では私達はこれで」
「本当にありがとうございました」
「お気を落とさないでくださいね」
女性達に感謝と慰めをもらうと紗雪は煉獄の後ろを歩き出した。幾許も歩かぬうちに煉獄が紗雪を振り返る。
「紗雪、これを」
「何ですか?」
小さな包みを受け取って紗雪は煉獄を見上げた。いつもの元気がない紗雪の顔を煉獄が覗き込む。
「切り替えろ紗雪!いつまでも引き摺るな!それは髪紐だ!!」
「髪紐?」
開けるよう促されて中を見ると、数種類の髪紐が入っていた。紗雪が驚いて煉獄を見る。
「これ…」
「いつも同じものを使っているだろう!好きに使うと良い」
(そんな細かな事に気付いてくれるなんて…)
紗雪は嬉しくなってギュッと髪紐の入った包みを抱き締めた。煉獄に微笑みかける。
「ありがとうございます。凄く嬉しいです」
「何よりだ」
煉獄は満足気に頷くと再び歩き出した。