短編
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陽が高く登り煉獄は目を覚ました。
(じき昼になるか…椎名が大人しいな?)
とうに元気よく遊んでいる時間である。煉獄は紗雪を起こそうと布団を捲り…慌てて掛け直した。
「!?」
(待て待て待て!)
そろ…と布団から這い出る。布団が蠢き中からスラリとした腕が伸びて煉獄は飛び上がった。
「戻ったのか!?紗雪!」
「ん……は、ぃ?」
寝惚けた紗雪が布団から顔を出す。覗いた肩が素肌なのを認めて煉獄が光の速さで紗雪に羽織を投げつけた。
「うわっ!な、何っ!?」
「紗雪待て待て!動くな!!」
「えっ?師範!?えっ?あれっ!?えっ!!?」
パニックになる紗雪を置いて部屋から飛び出ると煉獄は襖に背を向けた形で廊下に座り込んだ。
「紗雪落ち着け!どこまで覚えている?」
「どこって…ええっと……確か他の隊士の援護に行って…そうだ!血気術!!」
ガバッと身を起こす音と息を呑む音が聞こえて居た堪れない。しかしいらない誤解を受けたくない煉獄は必死で言葉を続けた。
「そうだ!君は血気術で子供の姿になっていたのだ!記憶が無かったためか一人寝を嫌がってな!」
「あー……えー?うわ、ホントすいません」
紗雪の声が落ち着いてきたのを感じ煉獄もほっと胸を撫で下ろす。
「そこの衣桁(いこう)に俺の着物がかけてあるだろう。とりあえずそれを着て自分の部屋で着替えて来るといい」
「すいません、お借りします」
煉獄の着物をおざなりに着ると廊下に出る。ブカブカな自分の着物を着る紗雪から煉獄は慌てて目を逸らした。
「すいません!すぐ着替えてきます!!」
よほど不恰好に見えるのだろうと、紗雪は大慌てで自分の部屋に駆け込んだのだった。
「本当に申し訳ありませんでした!」
一連の騒動の顛末を聞いた紗雪は畳に手をつくと深々と頭を下げた。千寿郎が慌てて取りなす。
「おやめ下さい!大変だったのは紗雪さんの方です!!」
「いや、もう…千寿郎さんにも大変なご迷惑をお掛けして…」
穴があったら入りたいとは正にこの事。紗雪は真っ赤になった顔を両手で覆った。
「私、小さい頃は無尽蔵の体力を持った幼児なんて呼ばれ方をしていたらしくて…」
「無尽蔵…」
さもありなん。なかなか的確な表現に煉獄は思わず感心した。紗雪がますます小さくなる。
「あの…お伺いしても良いでしょうか?私、どれぐらいの方達にお世話になったんでしょう」
お詫び行脚をしなければならない。煉獄が上げていく名前に紗雪は頭を抱えた。
「あの、ちなみにお伺いしたいのですが…」
「何でしょうか!?千寿郎さん!」
千寿郎に切り出され紗雪は思い切り身構えた。まだ何かやらかしているのかと自分が恐ろしくなる。千寿郎が苦笑すると手を横に振った。
「あ、いえ。大したことではないのですが、鶏のロックと言うのは何のことでしょうか」
「鶏の…?あぁ、絵本に出てきた鶏の名前ですね」
懐かしい名前に紗雪は目を細めた。煉獄が千寿郎を見る。
「何故千寿郎がそれを?」
「紗雪さんが父上を見てそれにそっくりだと」
「確か…ロックと言う名前の鶏が冒険に出る話だったような。鶏冠が二つに割れていることを揶揄われていた気弱なロックが勇気を出していく話だった筈です」
どうして愼寿郎を見るなりそう言ったかは流石に紗雪にも分からない。気弱そうなところを看破でもしたのだろうか。
「何にせよ、愼寿郎さんにもお詫び申し上げてきます」
紗雪はゲンナリしながら立ち上がったのだった。
「只今戻りました」
「ご苦労だったな紗雪」
夕方前にお詫び行脚から戻ってきた紗雪を煉獄は苦笑して迎えた。心無しか…いや、かなりげっそりした紗雪に金平糖の入った小さな箱を渡す。
「ありがとうございます」
「どうだった?」
許さないなどという者はいないだろうが念の為にと煉獄が聞けば、紗雪は金平糖を一つ口に運び苦笑した。
「概ね皆さん良かったなと労ってくださいました。伊黒さんにはちょっと睨まれてしまいましたが」
鏑丸にした事を思えばそれで済んだのは驚くべき事だ。ただ…と紗雪は肩を落とした。
「冨岡さんが…なんっにも言ってくださらないので何を思っておられるのか…色々に話してみたんですけど」
終いには心が折れてしまいお礼とお詫びを重ねて伝えると逃げるように帰ってきてしまった。
「炭治郎君との稽古を邪魔した形になりますから怒ってらっしゃるのかも」
「冨岡はそんな男ではないぞ!俺からも話しておこう」
「申し訳ありません」
「継子の為に一肌脱ぐのは当然だ!」
煉獄が胸を張って答えるのに紗雪はなんとも言えない表情を浮かべた。煉獄が目線で先を促す。
「私はあまり両親を恋しがらない子供でしたでしょう」
「………」
口にこそ出さなかったが煉獄はその通りだと思った。親を恋しがり泣いたのは初めだけで、後は親の事を口にさえ出さなかった。煉獄の沈黙を肯定と受け取ると、紗雪は困った顔で俯いた。
「両親は14歳の事件の後私を見捨てましたが…実は初めからあまり私に興味を持っていませんでした」
「まぁ、もとより仕事人間だったと言うのもあるのですが、産まれたのが私のような昼寝もほとんどしない動き出したら止まらないマグロのような育てにくい子供だったのですから仕方ないと言えばそうなのですが」
紗雪は自嘲気味に笑った後、煉獄の顔を見て慌てて手を振った。
「すいません!急に変な話をしましたね!!つまり私は変わった子供だったのできっと驚かれたと思いまして…っ!」
煉獄は紗雪の手を取ると自分も倒れ込みながらその手を引っ張った。予想外の動きに紗雪が煉獄の上に倒れ込むような形になる。目を瞬く紗雪に煉獄が笑った。
「子供の君は懐炉のように温かったな!君は悲しければ泣き、楽しければ笑い、嬉しければ喜び、気に入らなければ怒る大変子供らしい子供だった!」
「師範…」
肩に乗ったままの紗雪の頭を撫でる。
「君の愛らしさに胡蝶はじめ多くの者が癒されたと言っていたぞ!」
「それは…大袈裟過ぎやしませんか」
紗雪は力無く笑った。ここに来て沢山の人の優しさを受け取ったが、自分の中の空虚な部分はなかなか埋められない。
「本当だぞ紗雪」
煉獄は至極真面目に紗雪を見つめた。
「君は御両親には恵まれなかったかもしれないが、ここには大勢の君を守りたい者がいる」
「今回お世話になった皆さんですか?だとしたら世界最強の保護者軍団ですね」
紗雪は今日会ってきた顔ぶれを思い出して泣きそうになった。伊黒や冨岡も決して紗雪を拒絶する素振りはなかった。少しそう言ったもので空虚な心に蓋をしても良いのだろうか?
決して埋まるものではないけれど。
「うむ!その筆頭に是非俺も入れておいてくれ!」
「ふふ…ありがとうございます師範」
漸く陰りなく笑った紗雪に煉獄も微笑んだ。ところで…と紗雪が口を開いた。
「さっき倒れ込んだ拍子に金平糖をばら撒いてしまいました。拾わないと大惨事になるかと」
「それはマズイな!すぐに拾おう!!」
蟻が入ってきては大変と真剣に金平糖を拾いにかかる煉獄と紗雪だった。
(じき昼になるか…椎名が大人しいな?)
とうに元気よく遊んでいる時間である。煉獄は紗雪を起こそうと布団を捲り…慌てて掛け直した。
「!?」
(待て待て待て!)
そろ…と布団から這い出る。布団が蠢き中からスラリとした腕が伸びて煉獄は飛び上がった。
「戻ったのか!?紗雪!」
「ん……は、ぃ?」
寝惚けた紗雪が布団から顔を出す。覗いた肩が素肌なのを認めて煉獄が光の速さで紗雪に羽織を投げつけた。
「うわっ!な、何っ!?」
「紗雪待て待て!動くな!!」
「えっ?師範!?えっ?あれっ!?えっ!!?」
パニックになる紗雪を置いて部屋から飛び出ると煉獄は襖に背を向けた形で廊下に座り込んだ。
「紗雪落ち着け!どこまで覚えている?」
「どこって…ええっと……確か他の隊士の援護に行って…そうだ!血気術!!」
ガバッと身を起こす音と息を呑む音が聞こえて居た堪れない。しかしいらない誤解を受けたくない煉獄は必死で言葉を続けた。
「そうだ!君は血気術で子供の姿になっていたのだ!記憶が無かったためか一人寝を嫌がってな!」
「あー……えー?うわ、ホントすいません」
紗雪の声が落ち着いてきたのを感じ煉獄もほっと胸を撫で下ろす。
「そこの衣桁(いこう)に俺の着物がかけてあるだろう。とりあえずそれを着て自分の部屋で着替えて来るといい」
「すいません、お借りします」
煉獄の着物をおざなりに着ると廊下に出る。ブカブカな自分の着物を着る紗雪から煉獄は慌てて目を逸らした。
「すいません!すぐ着替えてきます!!」
よほど不恰好に見えるのだろうと、紗雪は大慌てで自分の部屋に駆け込んだのだった。
「本当に申し訳ありませんでした!」
一連の騒動の顛末を聞いた紗雪は畳に手をつくと深々と頭を下げた。千寿郎が慌てて取りなす。
「おやめ下さい!大変だったのは紗雪さんの方です!!」
「いや、もう…千寿郎さんにも大変なご迷惑をお掛けして…」
穴があったら入りたいとは正にこの事。紗雪は真っ赤になった顔を両手で覆った。
「私、小さい頃は無尽蔵の体力を持った幼児なんて呼ばれ方をしていたらしくて…」
「無尽蔵…」
さもありなん。なかなか的確な表現に煉獄は思わず感心した。紗雪がますます小さくなる。
「あの…お伺いしても良いでしょうか?私、どれぐらいの方達にお世話になったんでしょう」
お詫び行脚をしなければならない。煉獄が上げていく名前に紗雪は頭を抱えた。
「あの、ちなみにお伺いしたいのですが…」
「何でしょうか!?千寿郎さん!」
千寿郎に切り出され紗雪は思い切り身構えた。まだ何かやらかしているのかと自分が恐ろしくなる。千寿郎が苦笑すると手を横に振った。
「あ、いえ。大したことではないのですが、鶏のロックと言うのは何のことでしょうか」
「鶏の…?あぁ、絵本に出てきた鶏の名前ですね」
懐かしい名前に紗雪は目を細めた。煉獄が千寿郎を見る。
「何故千寿郎がそれを?」
「紗雪さんが父上を見てそれにそっくりだと」
「確か…ロックと言う名前の鶏が冒険に出る話だったような。鶏冠が二つに割れていることを揶揄われていた気弱なロックが勇気を出していく話だった筈です」
どうして愼寿郎を見るなりそう言ったかは流石に紗雪にも分からない。気弱そうなところを看破でもしたのだろうか。
「何にせよ、愼寿郎さんにもお詫び申し上げてきます」
紗雪はゲンナリしながら立ち上がったのだった。
「只今戻りました」
「ご苦労だったな紗雪」
夕方前にお詫び行脚から戻ってきた紗雪を煉獄は苦笑して迎えた。心無しか…いや、かなりげっそりした紗雪に金平糖の入った小さな箱を渡す。
「ありがとうございます」
「どうだった?」
許さないなどという者はいないだろうが念の為にと煉獄が聞けば、紗雪は金平糖を一つ口に運び苦笑した。
「概ね皆さん良かったなと労ってくださいました。伊黒さんにはちょっと睨まれてしまいましたが」
鏑丸にした事を思えばそれで済んだのは驚くべき事だ。ただ…と紗雪は肩を落とした。
「冨岡さんが…なんっにも言ってくださらないので何を思っておられるのか…色々に話してみたんですけど」
終いには心が折れてしまいお礼とお詫びを重ねて伝えると逃げるように帰ってきてしまった。
「炭治郎君との稽古を邪魔した形になりますから怒ってらっしゃるのかも」
「冨岡はそんな男ではないぞ!俺からも話しておこう」
「申し訳ありません」
「継子の為に一肌脱ぐのは当然だ!」
煉獄が胸を張って答えるのに紗雪はなんとも言えない表情を浮かべた。煉獄が目線で先を促す。
「私はあまり両親を恋しがらない子供でしたでしょう」
「………」
口にこそ出さなかったが煉獄はその通りだと思った。親を恋しがり泣いたのは初めだけで、後は親の事を口にさえ出さなかった。煉獄の沈黙を肯定と受け取ると、紗雪は困った顔で俯いた。
「両親は14歳の事件の後私を見捨てましたが…実は初めからあまり私に興味を持っていませんでした」
「まぁ、もとより仕事人間だったと言うのもあるのですが、産まれたのが私のような昼寝もほとんどしない動き出したら止まらないマグロのような育てにくい子供だったのですから仕方ないと言えばそうなのですが」
紗雪は自嘲気味に笑った後、煉獄の顔を見て慌てて手を振った。
「すいません!急に変な話をしましたね!!つまり私は変わった子供だったのできっと驚かれたと思いまして…っ!」
煉獄は紗雪の手を取ると自分も倒れ込みながらその手を引っ張った。予想外の動きに紗雪が煉獄の上に倒れ込むような形になる。目を瞬く紗雪に煉獄が笑った。
「子供の君は懐炉のように温かったな!君は悲しければ泣き、楽しければ笑い、嬉しければ喜び、気に入らなければ怒る大変子供らしい子供だった!」
「師範…」
肩に乗ったままの紗雪の頭を撫でる。
「君の愛らしさに胡蝶はじめ多くの者が癒されたと言っていたぞ!」
「それは…大袈裟過ぎやしませんか」
紗雪は力無く笑った。ここに来て沢山の人の優しさを受け取ったが、自分の中の空虚な部分はなかなか埋められない。
「本当だぞ紗雪」
煉獄は至極真面目に紗雪を見つめた。
「君は御両親には恵まれなかったかもしれないが、ここには大勢の君を守りたい者がいる」
「今回お世話になった皆さんですか?だとしたら世界最強の保護者軍団ですね」
紗雪は今日会ってきた顔ぶれを思い出して泣きそうになった。伊黒や冨岡も決して紗雪を拒絶する素振りはなかった。少しそう言ったもので空虚な心に蓋をしても良いのだろうか?
決して埋まるものではないけれど。
「うむ!その筆頭に是非俺も入れておいてくれ!」
「ふふ…ありがとうございます師範」
漸く陰りなく笑った紗雪に煉獄も微笑んだ。ところで…と紗雪が口を開いた。
「さっき倒れ込んだ拍子に金平糖をばら撒いてしまいました。拾わないと大惨事になるかと」
「それはマズイな!すぐに拾おう!!」
蟻が入ってきては大変と真剣に金平糖を拾いにかかる煉獄と紗雪だった。