短編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
体の重みが消えて煉獄は立ち上がった。鬼の体がチリとなって霧散して行く。紗雪が血相を変えて駆け寄ってきた。
「師範!大丈夫ですか!?怪我は…どこか痛むところは?」
「大丈夫だ!どこも何ともない!!」
実際血気術は鬼の消滅と共にその効力を綺麗に失っていた。ぶつかった時には液状だったこともあり痛みもない。しかし紗雪は煉獄の言葉に不審そうにすると背中や肩を触り始めた。
「本当ですか?師範は時折さらっと嘘をつきますからね」
「よもや!信用が無いな!!」
「そういうことを言っているのではありません!」
頬や耳の裏まで覗かれて煉獄は紗雪の手を押しとどめた。宇髄のにやにやした視線が刺さって落ち着かない。
「紗雪、男の体にべたべた触るものではない!それより他に小鬼が残っていないか確かめるぞ」
「わかりました」
煉獄は紗雪を連れてまだ土煙の残る蔵の中に入った。ベットや鏡台、数え切れないほどの洋服や靴が散乱している。
(こんなにあれこれ…奥さんが鬼になった事を受け入れられなかったのかな)
静まり返った蔵の中、ベットの隅にシーツのかけられた小山を見つけ紗雪は何気なくそれをめくった。
「………」
現れたものに息を呑む。それは手のひらに収まるような小さな髑髏だった。
「…埋葬してやろう」
肩に手を置かれ気付けば煉獄が隣に立っていた。頷いて崩れそうな髑髏を五つそっと腕に抱く。
「鬼はもういないようだ。隠に始末を任せ俺達は戻るとしよう」
「はい」
煉獄について外へ戻ると、目を覚ました豪田が駆け付け宇髄を睨み付けていた。
「貴様!何てことをしてくれたんだ!!人の家で好き勝手を…」
「好き勝手だぁ!?じゃあ首にした使用人を鬼に食わせるのは好き勝手って言わねぇ気か?」
「し、使用人など!いくらでも替えのきくものと一緒にするな!!」
しん…とその場が静まりかえった。隠の先導で外へと出てきた使用人達も立ち尽くす。
「妻が鬼だから何だと言うのだ!あれが生きてさえいてくれれば他の事など些事だ!!」
「飢えさえ収まれば会話もできる!笑ってもくれる!!それを…それを…うぁぁぁぁっ!!」
豪田が頭を掻き毟り地面に膝をついて蹲る。イライラしていた宇髄は紗雪が抱えてきたものに口を閉ざした。
紗雪が豪田の前に屈み込むとその前に髑髏を並べる。
「それはこれを見ても言える事でしょうか」
「何だこんなも…っ」
髑髏を鷲掴みにしようとした豪田の手を煉獄が地面に押さえつけた。ギシ…と腕が悲鳴を上げて豪田が呻く。
「ベッドの隅に無造作に積まれていました。あの哀れな小さな鬼達がどうやって生まれたのか今更知りたくもありませんが…本当に生まれてきたのは鬼の子だけだったのですか?」
「あれはまた駄目だったと泣いたんだぞ!そんなことが…そんな……そん…」
豪田の視線が目の前に並べられた髑髏に注がれた。その顔から徐々に血の気がひいて行く。力の抜けた豪田に煉獄が手を離した。
「鬼になると人間だった頃の記憶は殆ど失われる。人間を喰えば喰うほど」
「……あれは…あれ、は…」
鬼となった妻の自分を見る目がこれまでと違うのは豪田にも分かっていた。腹を空かせた時にいつでも喰える餌。そんなものを見る肉食獣の目だ。
「我が子を喰いたいと願うような女性でしたか?あなたの妻は」
「………」
細く長い長い息を吐き出すと豪田はもう一言も喋らなくなった。ボロボロと涙を流すと小さな髑髏をかき抱く。
「夜が明けるな」
宇髄の言葉に顔を上げれば、空が明るさを取り戻そうとしていた。
「長く帰ってこないと思ったらそんな事になってたのか」
「もう大変だったよー。小鬼に襲われた後から記憶なくて、気付いたら豪田のオッサンは号泣してるし、蔵は潰れてるし、紗雪さんは福地に土下座されてるし」
善逸は蝶屋敷で事の顛末を炭治郎に愚痴っていた。長期任務だったからと宇髄が二日の休みを保証してくれたのでのんべんだらりとする。縁側に善逸と並んで腰掛けていた炭治郎が目を丸くした。
「土下座ってどうして?」
「んー、なんか誤解があったらしくて福地が紗雪さんを殴っちゃったんだって。んで福地の幼馴染のカナさんから頬っぺたパンパンに腫れるまで張り倒された挙句に引き摺られて来てた」
「そ、それは凄いな」
結局紗雪は許す以前に怒っておらず、土下座にはなんの意味も無かった。そこまで思い出して善逸はププーっと吹き出した。
「どうしたんだ?善逸」
「いや、その後さぁ…紗雪さんカナさんに告られて迫られて固まってたんだけどその顔が面白くってさ!」
完全に男性と思われていた紗雪はカナの誤解を解くためにワイシャツの中をチラ見させる事態になっていた。
「煉獄さんや宇髄さんから出る音も面白くって面白くって」
うひひーと笑う善逸に炭治郎はそうか!と相槌を打った。善逸が楽しかったのなら何よりだと思う。
「…そういえばさ」
ひとしきり笑うと善逸は空を見上げた。よく晴れた青空を雲がゆっくり流れて行く。
「煉獄さんや宇髄さんって強い音がするだろ?」
「そうだな、凄く強い人の匂いだ」
「俺、紗雪さんも同じなんだろうって思ってたんだけど違った」
意外なことを言う善逸に炭治郎がその横顔を見つめた。善逸はいつものどこかぼんやりしたような顔をしている。
「紗雪さんも普段は全然ブレない音なんだけどさ。時折凄いブレたり、壊れそうな音を立てたり、結構俺らとおんなじだった」
「そっか」
あの強い紗雪が自分達と変わらない。そんな善逸の台詞に何故か炭治郎はホッとする自分を感じた。でも…と善逸が続ける。
「紗雪さんはその曲がった音を凄い力技で元に戻すんだ」
心に走った動揺を自分で押さえつけて無かったことにしてしまう。
「逆にそっちの方が怖かった。いつかばっきり折れちゃいそうで…紗雪さんたまに物凄い軋んだ音を立てるから」
「善逸…」
眉を寄せた炭治郎に善逸はパッと笑った。
「だけど凄いんだぜ!そう言う時って必ず煉獄さんが紗雪さんに声をかけるんだ!そしたら紗雪さんの音がすーっと落ち着いて元に戻るんだ」
「そうかぁ!やっぱり煉獄さんは凄いなぁ!」
「……」
(ループタイの時の煉獄さんの凄い音のことは黙ってよう)
純粋に煉獄を尊敬する炭治郎に口を噤む善逸であった。
「師範!大丈夫ですか!?怪我は…どこか痛むところは?」
「大丈夫だ!どこも何ともない!!」
実際血気術は鬼の消滅と共にその効力を綺麗に失っていた。ぶつかった時には液状だったこともあり痛みもない。しかし紗雪は煉獄の言葉に不審そうにすると背中や肩を触り始めた。
「本当ですか?師範は時折さらっと嘘をつきますからね」
「よもや!信用が無いな!!」
「そういうことを言っているのではありません!」
頬や耳の裏まで覗かれて煉獄は紗雪の手を押しとどめた。宇髄のにやにやした視線が刺さって落ち着かない。
「紗雪、男の体にべたべた触るものではない!それより他に小鬼が残っていないか確かめるぞ」
「わかりました」
煉獄は紗雪を連れてまだ土煙の残る蔵の中に入った。ベットや鏡台、数え切れないほどの洋服や靴が散乱している。
(こんなにあれこれ…奥さんが鬼になった事を受け入れられなかったのかな)
静まり返った蔵の中、ベットの隅にシーツのかけられた小山を見つけ紗雪は何気なくそれをめくった。
「………」
現れたものに息を呑む。それは手のひらに収まるような小さな髑髏だった。
「…埋葬してやろう」
肩に手を置かれ気付けば煉獄が隣に立っていた。頷いて崩れそうな髑髏を五つそっと腕に抱く。
「鬼はもういないようだ。隠に始末を任せ俺達は戻るとしよう」
「はい」
煉獄について外へ戻ると、目を覚ました豪田が駆け付け宇髄を睨み付けていた。
「貴様!何てことをしてくれたんだ!!人の家で好き勝手を…」
「好き勝手だぁ!?じゃあ首にした使用人を鬼に食わせるのは好き勝手って言わねぇ気か?」
「し、使用人など!いくらでも替えのきくものと一緒にするな!!」
しん…とその場が静まりかえった。隠の先導で外へと出てきた使用人達も立ち尽くす。
「妻が鬼だから何だと言うのだ!あれが生きてさえいてくれれば他の事など些事だ!!」
「飢えさえ収まれば会話もできる!笑ってもくれる!!それを…それを…うぁぁぁぁっ!!」
豪田が頭を掻き毟り地面に膝をついて蹲る。イライラしていた宇髄は紗雪が抱えてきたものに口を閉ざした。
紗雪が豪田の前に屈み込むとその前に髑髏を並べる。
「それはこれを見ても言える事でしょうか」
「何だこんなも…っ」
髑髏を鷲掴みにしようとした豪田の手を煉獄が地面に押さえつけた。ギシ…と腕が悲鳴を上げて豪田が呻く。
「ベッドの隅に無造作に積まれていました。あの哀れな小さな鬼達がどうやって生まれたのか今更知りたくもありませんが…本当に生まれてきたのは鬼の子だけだったのですか?」
「あれはまた駄目だったと泣いたんだぞ!そんなことが…そんな……そん…」
豪田の視線が目の前に並べられた髑髏に注がれた。その顔から徐々に血の気がひいて行く。力の抜けた豪田に煉獄が手を離した。
「鬼になると人間だった頃の記憶は殆ど失われる。人間を喰えば喰うほど」
「……あれは…あれ、は…」
鬼となった妻の自分を見る目がこれまでと違うのは豪田にも分かっていた。腹を空かせた時にいつでも喰える餌。そんなものを見る肉食獣の目だ。
「我が子を喰いたいと願うような女性でしたか?あなたの妻は」
「………」
細く長い長い息を吐き出すと豪田はもう一言も喋らなくなった。ボロボロと涙を流すと小さな髑髏をかき抱く。
「夜が明けるな」
宇髄の言葉に顔を上げれば、空が明るさを取り戻そうとしていた。
「長く帰ってこないと思ったらそんな事になってたのか」
「もう大変だったよー。小鬼に襲われた後から記憶なくて、気付いたら豪田のオッサンは号泣してるし、蔵は潰れてるし、紗雪さんは福地に土下座されてるし」
善逸は蝶屋敷で事の顛末を炭治郎に愚痴っていた。長期任務だったからと宇髄が二日の休みを保証してくれたのでのんべんだらりとする。縁側に善逸と並んで腰掛けていた炭治郎が目を丸くした。
「土下座ってどうして?」
「んー、なんか誤解があったらしくて福地が紗雪さんを殴っちゃったんだって。んで福地の幼馴染のカナさんから頬っぺたパンパンに腫れるまで張り倒された挙句に引き摺られて来てた」
「そ、それは凄いな」
結局紗雪は許す以前に怒っておらず、土下座にはなんの意味も無かった。そこまで思い出して善逸はププーっと吹き出した。
「どうしたんだ?善逸」
「いや、その後さぁ…紗雪さんカナさんに告られて迫られて固まってたんだけどその顔が面白くってさ!」
完全に男性と思われていた紗雪はカナの誤解を解くためにワイシャツの中をチラ見させる事態になっていた。
「煉獄さんや宇髄さんから出る音も面白くって面白くって」
うひひーと笑う善逸に炭治郎はそうか!と相槌を打った。善逸が楽しかったのなら何よりだと思う。
「…そういえばさ」
ひとしきり笑うと善逸は空を見上げた。よく晴れた青空を雲がゆっくり流れて行く。
「煉獄さんや宇髄さんって強い音がするだろ?」
「そうだな、凄く強い人の匂いだ」
「俺、紗雪さんも同じなんだろうって思ってたんだけど違った」
意外なことを言う善逸に炭治郎がその横顔を見つめた。善逸はいつものどこかぼんやりしたような顔をしている。
「紗雪さんも普段は全然ブレない音なんだけどさ。時折凄いブレたり、壊れそうな音を立てたり、結構俺らとおんなじだった」
「そっか」
あの強い紗雪が自分達と変わらない。そんな善逸の台詞に何故か炭治郎はホッとする自分を感じた。でも…と善逸が続ける。
「紗雪さんはその曲がった音を凄い力技で元に戻すんだ」
心に走った動揺を自分で押さえつけて無かったことにしてしまう。
「逆にそっちの方が怖かった。いつかばっきり折れちゃいそうで…紗雪さんたまに物凄い軋んだ音を立てるから」
「善逸…」
眉を寄せた炭治郎に善逸はパッと笑った。
「だけど凄いんだぜ!そう言う時って必ず煉獄さんが紗雪さんに声をかけるんだ!そしたら紗雪さんの音がすーっと落ち着いて元に戻るんだ」
「そうかぁ!やっぱり煉獄さんは凄いなぁ!」
「……」
(ループタイの時の煉獄さんの凄い音のことは黙ってよう)
純粋に煉獄を尊敬する炭治郎に口を噤む善逸であった。
13/13ページ