短編
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「……え、と」
真夜中の廊下をカナは恐る恐る進んでいた。泣く泣く出て行く支度をしていたら豪田に呼び出されたのだ。
「この仕事をやり遂げられたら解雇を取り消してやる」
福地と離れたくないカナに断る余地は無かった。渡された紙の指示に従い一階の応接間に入ると月明かりで何とか次の文字を読む。
「どうして明かりをつけちゃいけないのかしら…えぇっと、暖炉の上にある鏡の裏のボタンを押すべし…これね」
ガコン!と音がして暖炉の横の壁がスライドする。カナは飛び上がって胸を押さえた。
「えぇ?何これ…真っ直ぐ行って突き当りの荷物を取ってくる事。よし…行くぞ!」
「どこへですか?」
「ひゃあ!!」
真後ろから声をかけられカナは比喩ではなく飛び上がった。バクバク言う心臓を抑えながら振り返る。カナの反応に紗雪は目を丸くしていた。
「紗雪さん!寿命!縮むから!!」
「すいません、そこまで驚かれるとは」
半泣きになられて紗雪は素直に頭を下げた。深呼吸したカナが紗雪を見上げる。
「それで紗雪さんはどうしてここに?」
「物音がしたので気になって…カナさんこそどうされたんですか?」
「………」
この仕事について口止めされているカナは黙ってしまった。チラリと先ほど開いた入り口を見る。そこは真っ暗でまるで地獄の入り口のようだった。
「…もしかしてこの中に入るんですか?いやぁ、真っ暗ですよ?危ないからやめておいた方が良いです」
「でもっ……荷物を取って来れたら解雇しないって…」
ギュッと手を握りしめるカナに紗雪は首を傾げた。
「どんな荷物ですか?何個取ってくるよう言われましたか?明かりもなしに入っていって迷路のようにでもなっていたら?こんな夜更けにやらせるほど急ぎの仕事なら何故カナさんお一人に?」
「………」
矢継ぎ早な質問にカナは答えられない。それでも諦められなくて入り口を見るカナに紗雪はため息を付いた。
「わかりました。私も一緒に行きますよ」
「で、でも…!」
有り難いけれど申し訳ない。言葉に詰まるカナに紗雪が明るく笑いかけた。
「どうせ一人でやれとか言われてるんでしょう?でも見張りが居るわけでもありませんし大丈夫ですよ。荷物を取って返ってきたら一人で行きましたと言えば良いだけです」
紗雪はチラリと部屋の入口に視線を走らせた。善逸の手がオーケーサインを送ってくる。カナが紗雪の手を両手で握った。
「ありがとう!紗雪さん!!」
「いえいえ、では行きましょうか」
ポケットから自分の装備品であるペン型ライトを取り出すと明かりを照らす。見たこと無い明かりに目を丸くするカナに紗雪は苦笑した。
「祖父が趣味人だったんです。取り上げられたくないので内緒にしてくださいね」
「絶対言わない!!約束する!」
何度も頷くと紗雪に続いてカナは隠し通路に足を踏み入れるのだった。
「思った以上に暗いですね…」
(この明かりだけじゃ心許無いな)
言っても始まらないので言葉にはせず先に進む。カナは紗雪の背中に隠れるように歩いていた。
「真っ直ぐ進むんでしたよね?」
「そ、そう…突き当りの荷物を取ってこいって」
(こんな所に保管されてる荷物なんてカビ生えてそうだ)
通路は入ってすぐ下りの階段になっていた。土を掘って作った地下道なのだろう、じめじめした空気が漂っている。残念なことにほんの僅かだが鉄さび臭さが残っていた。
(決まりだね)
鬼に繋がる隠し通路だ。紗雪は目の前に現れたドアに足を止めた。カナが恐る恐る顔を覗かせる。
「ど、どうしたの?紗雪さん」
「突き当り…でしょうか?ドアがあります」
「ほんと!?」
パッと笑顔になったカナはドアに向かって駆け出した。紗雪が慌てて声をかける。
「カナさん待って!嫌な予感しかしない…」
「荷物!」
開いたドアの向こうの暗闇でザワザワと闇より濃いものが蠢いた。明かりに一瞬照らされた何かがザァっと波のように引いていく。
「えっ?」
「逃げますよカナさん!!」
一つずつは小さくとも相当な数の鬼に紗雪はカナを抱えると来た方向に向かって走り出した。
「な…なにあれ!なにあれ!?」
「カナさん暴れないで!」
後ろをもう一度見ようとするカナの動きに紗雪がペンライトを落とす。真っ暗闇になったこちらへ鬼が駆け寄ってくるのが音で分かった。カナが首にしがみついているのを確認すると紗雪はポケットに入れてあった藤の花の粉末を後ろに向かって振りまいた。
「いぃぃっ!!」
「ぎゃぁっ!」
悲鳴を上げて追いかけてくる足音が離れる。それでも相当な速度でこちらに追いつこうとしていた。
「紗雪さんこっち!急いで!!」
正面から聞こえてくる善逸の声を頼りに全力で駆け抜ける。応接間に出た瞬間紗雪は叫んだ。
「閉めて!!」
「っ!!」
善逸が力一杯壁を閉める。ガチン!と壁が閉じたのと同時に向こう側で沢山の手が壁を叩く音が不気味に響いた。
「「「……………」」」
無言で立ち尽くしているとやがて諦めたのか音が遠ざかっていく。善逸がハッとして廊下の方を振り返った。
「誰か来る」
「隠れて」
善逸がピアノにかけられた幕の中へ、紗雪はカナと一緒に分厚いカーテンの中に隠れて息を殺す。応接室へ執事長の杵嶋が入ってきた。閉じられた壁を確認すると一つ頷く。
「ふむ…餌にしては気が利いている。ちゃんと壁を閉じていくとは」
「………っ」
(しー…)
叫びそうになるカナの口を手で塞ぐと紗雪は人差し指を立てて静かにするよう合図した。杵嶋が出て行くのを確認するとそっとカーテンから出る。カナは顔面蒼白になっていた。
「なにあれ…?私、私殺されそうになったの?」
「カナさん落ち着いて…」
「落ち着いて!?どうやって!?何を落ち着けて言うの!」
「カナさん…」
「こんな、こんな所いちゃ駄目!福地にも言って逃げなきゃ!!」
「カナさん!」
紗雪の声を聞いていない恐慌状態のカナを、紗雪はギュッと自分の胸元に押し付けて抱きしめた。ガタガタと歯を鳴らすカナの頭をそっと撫でる。
「大丈夫ですカナさん。あれは光を嫌っていた。少しでも明るいところなら心配いらないですから」
「………」
紗雪の心臓の音にカナはしばらくすると落ち着きを取り戻した。静かになったカナの顔を覗き込むと紗雪が微笑む。
「福地さんのことも心配しないで下さい。私達が守りますから」
「紗雪さん…吾妻さんも。あなた達はいったい…?」
カナの真っ当な質問に紗雪と善逸はちょっと困った顔で笑った。
「その質問は後で隠という者に聞いて下さい。すぐ迎えに来るよう伝えますから」
紗雪は窓の外に止まっている紅に合図を送った。10分ほどで窓の外に現れた隠にカナを託す。おぶられて去っていくカナを見送ると紗雪と善逸は使用人部屋に戻るのだった。
真夜中の廊下をカナは恐る恐る進んでいた。泣く泣く出て行く支度をしていたら豪田に呼び出されたのだ。
「この仕事をやり遂げられたら解雇を取り消してやる」
福地と離れたくないカナに断る余地は無かった。渡された紙の指示に従い一階の応接間に入ると月明かりで何とか次の文字を読む。
「どうして明かりをつけちゃいけないのかしら…えぇっと、暖炉の上にある鏡の裏のボタンを押すべし…これね」
ガコン!と音がして暖炉の横の壁がスライドする。カナは飛び上がって胸を押さえた。
「えぇ?何これ…真っ直ぐ行って突き当りの荷物を取ってくる事。よし…行くぞ!」
「どこへですか?」
「ひゃあ!!」
真後ろから声をかけられカナは比喩ではなく飛び上がった。バクバク言う心臓を抑えながら振り返る。カナの反応に紗雪は目を丸くしていた。
「紗雪さん!寿命!縮むから!!」
「すいません、そこまで驚かれるとは」
半泣きになられて紗雪は素直に頭を下げた。深呼吸したカナが紗雪を見上げる。
「それで紗雪さんはどうしてここに?」
「物音がしたので気になって…カナさんこそどうされたんですか?」
「………」
この仕事について口止めされているカナは黙ってしまった。チラリと先ほど開いた入り口を見る。そこは真っ暗でまるで地獄の入り口のようだった。
「…もしかしてこの中に入るんですか?いやぁ、真っ暗ですよ?危ないからやめておいた方が良いです」
「でもっ……荷物を取って来れたら解雇しないって…」
ギュッと手を握りしめるカナに紗雪は首を傾げた。
「どんな荷物ですか?何個取ってくるよう言われましたか?明かりもなしに入っていって迷路のようにでもなっていたら?こんな夜更けにやらせるほど急ぎの仕事なら何故カナさんお一人に?」
「………」
矢継ぎ早な質問にカナは答えられない。それでも諦められなくて入り口を見るカナに紗雪はため息を付いた。
「わかりました。私も一緒に行きますよ」
「で、でも…!」
有り難いけれど申し訳ない。言葉に詰まるカナに紗雪が明るく笑いかけた。
「どうせ一人でやれとか言われてるんでしょう?でも見張りが居るわけでもありませんし大丈夫ですよ。荷物を取って返ってきたら一人で行きましたと言えば良いだけです」
紗雪はチラリと部屋の入口に視線を走らせた。善逸の手がオーケーサインを送ってくる。カナが紗雪の手を両手で握った。
「ありがとう!紗雪さん!!」
「いえいえ、では行きましょうか」
ポケットから自分の装備品であるペン型ライトを取り出すと明かりを照らす。見たこと無い明かりに目を丸くするカナに紗雪は苦笑した。
「祖父が趣味人だったんです。取り上げられたくないので内緒にしてくださいね」
「絶対言わない!!約束する!」
何度も頷くと紗雪に続いてカナは隠し通路に足を踏み入れるのだった。
「思った以上に暗いですね…」
(この明かりだけじゃ心許無いな)
言っても始まらないので言葉にはせず先に進む。カナは紗雪の背中に隠れるように歩いていた。
「真っ直ぐ進むんでしたよね?」
「そ、そう…突き当りの荷物を取ってこいって」
(こんな所に保管されてる荷物なんてカビ生えてそうだ)
通路は入ってすぐ下りの階段になっていた。土を掘って作った地下道なのだろう、じめじめした空気が漂っている。残念なことにほんの僅かだが鉄さび臭さが残っていた。
(決まりだね)
鬼に繋がる隠し通路だ。紗雪は目の前に現れたドアに足を止めた。カナが恐る恐る顔を覗かせる。
「ど、どうしたの?紗雪さん」
「突き当り…でしょうか?ドアがあります」
「ほんと!?」
パッと笑顔になったカナはドアに向かって駆け出した。紗雪が慌てて声をかける。
「カナさん待って!嫌な予感しかしない…」
「荷物!」
開いたドアの向こうの暗闇でザワザワと闇より濃いものが蠢いた。明かりに一瞬照らされた何かがザァっと波のように引いていく。
「えっ?」
「逃げますよカナさん!!」
一つずつは小さくとも相当な数の鬼に紗雪はカナを抱えると来た方向に向かって走り出した。
「な…なにあれ!なにあれ!?」
「カナさん暴れないで!」
後ろをもう一度見ようとするカナの動きに紗雪がペンライトを落とす。真っ暗闇になったこちらへ鬼が駆け寄ってくるのが音で分かった。カナが首にしがみついているのを確認すると紗雪はポケットに入れてあった藤の花の粉末を後ろに向かって振りまいた。
「いぃぃっ!!」
「ぎゃぁっ!」
悲鳴を上げて追いかけてくる足音が離れる。それでも相当な速度でこちらに追いつこうとしていた。
「紗雪さんこっち!急いで!!」
正面から聞こえてくる善逸の声を頼りに全力で駆け抜ける。応接間に出た瞬間紗雪は叫んだ。
「閉めて!!」
「っ!!」
善逸が力一杯壁を閉める。ガチン!と壁が閉じたのと同時に向こう側で沢山の手が壁を叩く音が不気味に響いた。
「「「……………」」」
無言で立ち尽くしているとやがて諦めたのか音が遠ざかっていく。善逸がハッとして廊下の方を振り返った。
「誰か来る」
「隠れて」
善逸がピアノにかけられた幕の中へ、紗雪はカナと一緒に分厚いカーテンの中に隠れて息を殺す。応接室へ執事長の杵嶋が入ってきた。閉じられた壁を確認すると一つ頷く。
「ふむ…餌にしては気が利いている。ちゃんと壁を閉じていくとは」
「………っ」
(しー…)
叫びそうになるカナの口を手で塞ぐと紗雪は人差し指を立てて静かにするよう合図した。杵嶋が出て行くのを確認するとそっとカーテンから出る。カナは顔面蒼白になっていた。
「なにあれ…?私、私殺されそうになったの?」
「カナさん落ち着いて…」
「落ち着いて!?どうやって!?何を落ち着けて言うの!」
「カナさん…」
「こんな、こんな所いちゃ駄目!福地にも言って逃げなきゃ!!」
「カナさん!」
紗雪の声を聞いていない恐慌状態のカナを、紗雪はギュッと自分の胸元に押し付けて抱きしめた。ガタガタと歯を鳴らすカナの頭をそっと撫でる。
「大丈夫ですカナさん。あれは光を嫌っていた。少しでも明るいところなら心配いらないですから」
「………」
紗雪の心臓の音にカナはしばらくすると落ち着きを取り戻した。静かになったカナの顔を覗き込むと紗雪が微笑む。
「福地さんのことも心配しないで下さい。私達が守りますから」
「紗雪さん…吾妻さんも。あなた達はいったい…?」
カナの真っ当な質問に紗雪と善逸はちょっと困った顔で笑った。
「その質問は後で隠という者に聞いて下さい。すぐ迎えに来るよう伝えますから」
紗雪は窓の外に止まっている紅に合図を送った。10分ほどで窓の外に現れた隠にカナを託す。おぶられて去っていくカナを見送ると紗雪と善逸は使用人部屋に戻るのだった。