短編
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「報告を」
「雛鶴さんと思しき方が切見世にいると言う話です。まきをさんと須磨さんに関しては足抜けしたと思われているなら他の店の者には情報が入らないと思われます」
窓際近くに座り洗濯物を畳んでいた紗雪は屋根の上から聞こえてきた宇髄の声にそう答えた。全て畳み終えるとそれぞれの場所にしまう。周囲を確認すると紗雪は屋根の上に駆け上がった。屋根に座る宇髄の背中に声をかける。
「炭治郎君達は…?」
「後で合流する」
「…宇髄さん?」
様子のおかしな宇髄に紗雪は首を傾げた。いつもの余裕があって明るいなりが潜んでいる。
「どうかし…」
「お前、煉獄に連絡入れておけよ」
「師範にですか?」
振り返った宇髄はニヤリと笑っていた。言われた言葉に紗雪の目が泳ぐ。
「勝手に連れてきちまったからな。お前も勝手したと思ってるから連絡入れてねぇだろ」
「………」
図星の宇髄の台詞に紗雪は眉を下げた。煉獄の継子なのに許可も取らず、巡回任務も放った形になってしまっている。紗雪は宇髄の横に座ると紙と万年筆を取り出した。あー、うー、と頭を捻りながら短い手紙を認める。紅の足に手紙を括り付けながら紗雪は呟いた。
「怒って…ますよね、きっと」
「……まぁ、その時は俺も怒られてやるよ」
煉獄はそんな奴じゃねぇから大丈夫だ!と言う台詞を期待してしまっていた紗雪はガックリと肩を落とした。これはもう腹を括るしかない。
(任務が終わったらメチャメチャ怒られよう)
煉獄に本気で怒られるのは外国人に手を上げた時以来だ。あれも怒られたと言うより懇々と叱られたのだが。
「お願いね紅」
「届ケル。椎名ノ手紙、紅届ケル」
そう言うと紅はくるりと向きを変え紗雪の後ろへと飛んだ。
「紅、どこへ…」
まるきりの方角違いに紗雪は慌てて振り返るとそのまま固まった。
「手紙、手紙!椎名ノ手紙!」
「うむ!ご苦労だったな紅!!」
着流しに羽織姿の煉獄が棟瓦に足をかけて立っていた。腕にとまった紅から手紙を外すとさっと目を通す。ちらりと視線を向けられ紗雪は立ち上がると姿勢を正した。
「…『宇髄さんの任務に同道して吉原にいます。勝手をして申し訳ありません』か」
「………」
予想以上に怒っている煉獄に紗雪は言葉が出なかった。これなら説教されたほうがマシと言う怒り方である。煉獄は手紙を懐にしまうと腕を組んだ。
「何か言いたいことがあるのならば聞こう!」
「…申し訳ありませんでした」
「それは何に対する謝罪だ?」
「………」
宇髄は口を挟もうとして止めた。火に油なのが目に見えている。紗雪もそれが分かるから助けを求めようとはしなかった。
「師範の許しなく宇髄さんの任務に同道した事です」
「それから?」
「自分の任務を放り出した形になりました」
「それから?」
「…師範が担当されていた場所の巡回任務も遂行出来ていません」
「それから?」
「………それ、から…」
他に何かあっただろうか。これ以上は思い当たる事がなく紗雪は口を噤んだ。煉獄の無言と冷たい視線が痛い。
「あ!煉獄さん!!」
「ギョロギョロ目玉!」
短くも果てしなく重い沈黙を破って炭治郎と伊之助が屋根の上を駆け寄ってきた。煉獄がパッと笑顔で振り返る。
「竈門少年!嘴平少年も元気そうだな!!」
「はい!」
「丁度いい!お前も聞けギョロギョロ目玉!!俺の所に鬼が出たんだよ!こんな!こーんなやつが!!」
「うむ!わからん!!」
伊之助が腕をグネグネさせて主張するのを一刀両断に切って捨てる。もはや考えていないのでは…?と思われそうだ。
「待つんだ伊之助。まだ善逸が…」
「善逸は来ない」
宇髄の淡々とした声に炭治郎達に緊張が走った。宇髄が自分の失敗を認めた上で指示を出す。
「お前らはもう花街を出ろ。階級が低すぎる。上弦が相手だった場合対応出来ない。紗雪、お前も煉獄と行け。あとは俺一人で動く」
食い下がる炭治郎達を嗜めると宇髄は去ってしまった。ギュッと唇を噛んだ紗雪が煉獄に頭を下げる。
「申し訳ありません師範。もう暫くの勝手をお許し下さい」
「上弦が相手ならば決して単体で事に当たらないように!宇髄との連携を忘れるな!!」
また叱られるかと思っていた紗雪は驚いて煉獄を見た。煉獄が苦い笑いを口元に浮かべる。
「俺が君を心配していることだけは忘れないでくれ紗雪」
「…はい」
煉獄が何故それから?と何度も問うてきたのか理解して紗雪は心底申し訳なく思った。いきなり居なくなったりしたら心配されて当然だ。くしゃりと頭を撫でられて紗雪は眉を下げた。
「ご心配をおかけします」
「うむ!行ってくるといい!!」
「はい!」
自分達も残ると言う炭治郎達と後で合流することを約束すると紗雪は花菱へ戻った。
(夕暮れが近い…善逸君が捕まっているなら鬼殺隊が来ていることを相手は知ってることになる。急がないと)
溜め込んだ人間がいるなら善逸ごとまとめて喰われでもしたら大惨事である。紗雪は隊服に着替えると藤吉花魁の部屋に向かった。遣手が何か叫んでいたが構わず花魁の部屋に入る。一人で夜の支度をしていた藤吉花魁が驚いて振り返った。
「椎名、どうしたの?」
「藤吉花魁、短い間ですがお世話になりました。私は行かなければならなくなりましたので、お別れに」
その場に座ると紗雪は深く頭を下げた。
「ありがとうございました。お達者で」
「…椎名も気をつけて」
藤吉花魁は落ち着いた声でそう告げた。顔を上げた紗雪の前に簪を一本示してみせる。それには藤の家紋があしらわれていた。紗雪が目を見張る。
「花菱で藤吉の名前を名乗る花魁はね、この簪とその意味を引き継ぐの。この街は鬼には都合のいい街だから」
「もしかしてこの街に調べが入るきっかけって…」
藤吉花魁はニッコリ微笑んだ。簪を髪に戻すと窓の外を見つめる。
「この街では何十年かに一度、足抜けしていく遊女がたくさん出る時がある。そんな時、歴代の藤吉花魁が鬼殺隊に知らせを送っていたの。でも…」
誰も帰ってこなかった。その言葉に紗雪は息を飲んだ。藤吉花魁の眉が悲しそうに歪められた。
「今回も足抜けする者がたくさん出てとても恐ろしかった。鬼も勿論だけれど…」
藤吉花魁はそっと紗雪の頬に手を当てた。
「私が連絡を入れたせいであなた達のような隊士が死んでしまう事がすごく怖い」
目に一杯の涙を浮かべる藤吉花魁の手を紗雪はしっかり握りしめた。
「ではお約束します。私は死にません。まだ恩返し出来てない方もいるのに死ぬわけにはいきませんから」
藤吉花魁の腕に巻かれた包帯を解くと薬を塗り直し新しいものを巻く。
「鬼は必ず倒します」
藤吉花魁が頷くのと同時に外から爆音が聞こえて紗雪は刀に手をかけた。窓の前に立つと一度藤吉花魁を振り返る。
「それでは」
「気をつけて」
紗雪は窓に足をかけると夜の闇に飛び出して行った。
「雛鶴さんと思しき方が切見世にいると言う話です。まきをさんと須磨さんに関しては足抜けしたと思われているなら他の店の者には情報が入らないと思われます」
窓際近くに座り洗濯物を畳んでいた紗雪は屋根の上から聞こえてきた宇髄の声にそう答えた。全て畳み終えるとそれぞれの場所にしまう。周囲を確認すると紗雪は屋根の上に駆け上がった。屋根に座る宇髄の背中に声をかける。
「炭治郎君達は…?」
「後で合流する」
「…宇髄さん?」
様子のおかしな宇髄に紗雪は首を傾げた。いつもの余裕があって明るいなりが潜んでいる。
「どうかし…」
「お前、煉獄に連絡入れておけよ」
「師範にですか?」
振り返った宇髄はニヤリと笑っていた。言われた言葉に紗雪の目が泳ぐ。
「勝手に連れてきちまったからな。お前も勝手したと思ってるから連絡入れてねぇだろ」
「………」
図星の宇髄の台詞に紗雪は眉を下げた。煉獄の継子なのに許可も取らず、巡回任務も放った形になってしまっている。紗雪は宇髄の横に座ると紙と万年筆を取り出した。あー、うー、と頭を捻りながら短い手紙を認める。紅の足に手紙を括り付けながら紗雪は呟いた。
「怒って…ますよね、きっと」
「……まぁ、その時は俺も怒られてやるよ」
煉獄はそんな奴じゃねぇから大丈夫だ!と言う台詞を期待してしまっていた紗雪はガックリと肩を落とした。これはもう腹を括るしかない。
(任務が終わったらメチャメチャ怒られよう)
煉獄に本気で怒られるのは外国人に手を上げた時以来だ。あれも怒られたと言うより懇々と叱られたのだが。
「お願いね紅」
「届ケル。椎名ノ手紙、紅届ケル」
そう言うと紅はくるりと向きを変え紗雪の後ろへと飛んだ。
「紅、どこへ…」
まるきりの方角違いに紗雪は慌てて振り返るとそのまま固まった。
「手紙、手紙!椎名ノ手紙!」
「うむ!ご苦労だったな紅!!」
着流しに羽織姿の煉獄が棟瓦に足をかけて立っていた。腕にとまった紅から手紙を外すとさっと目を通す。ちらりと視線を向けられ紗雪は立ち上がると姿勢を正した。
「…『宇髄さんの任務に同道して吉原にいます。勝手をして申し訳ありません』か」
「………」
予想以上に怒っている煉獄に紗雪は言葉が出なかった。これなら説教されたほうがマシと言う怒り方である。煉獄は手紙を懐にしまうと腕を組んだ。
「何か言いたいことがあるのならば聞こう!」
「…申し訳ありませんでした」
「それは何に対する謝罪だ?」
「………」
宇髄は口を挟もうとして止めた。火に油なのが目に見えている。紗雪もそれが分かるから助けを求めようとはしなかった。
「師範の許しなく宇髄さんの任務に同道した事です」
「それから?」
「自分の任務を放り出した形になりました」
「それから?」
「…師範が担当されていた場所の巡回任務も遂行出来ていません」
「それから?」
「………それ、から…」
他に何かあっただろうか。これ以上は思い当たる事がなく紗雪は口を噤んだ。煉獄の無言と冷たい視線が痛い。
「あ!煉獄さん!!」
「ギョロギョロ目玉!」
短くも果てしなく重い沈黙を破って炭治郎と伊之助が屋根の上を駆け寄ってきた。煉獄がパッと笑顔で振り返る。
「竈門少年!嘴平少年も元気そうだな!!」
「はい!」
「丁度いい!お前も聞けギョロギョロ目玉!!俺の所に鬼が出たんだよ!こんな!こーんなやつが!!」
「うむ!わからん!!」
伊之助が腕をグネグネさせて主張するのを一刀両断に切って捨てる。もはや考えていないのでは…?と思われそうだ。
「待つんだ伊之助。まだ善逸が…」
「善逸は来ない」
宇髄の淡々とした声に炭治郎達に緊張が走った。宇髄が自分の失敗を認めた上で指示を出す。
「お前らはもう花街を出ろ。階級が低すぎる。上弦が相手だった場合対応出来ない。紗雪、お前も煉獄と行け。あとは俺一人で動く」
食い下がる炭治郎達を嗜めると宇髄は去ってしまった。ギュッと唇を噛んだ紗雪が煉獄に頭を下げる。
「申し訳ありません師範。もう暫くの勝手をお許し下さい」
「上弦が相手ならば決して単体で事に当たらないように!宇髄との連携を忘れるな!!」
また叱られるかと思っていた紗雪は驚いて煉獄を見た。煉獄が苦い笑いを口元に浮かべる。
「俺が君を心配していることだけは忘れないでくれ紗雪」
「…はい」
煉獄が何故それから?と何度も問うてきたのか理解して紗雪は心底申し訳なく思った。いきなり居なくなったりしたら心配されて当然だ。くしゃりと頭を撫でられて紗雪は眉を下げた。
「ご心配をおかけします」
「うむ!行ってくるといい!!」
「はい!」
自分達も残ると言う炭治郎達と後で合流することを約束すると紗雪は花菱へ戻った。
(夕暮れが近い…善逸君が捕まっているなら鬼殺隊が来ていることを相手は知ってることになる。急がないと)
溜め込んだ人間がいるなら善逸ごとまとめて喰われでもしたら大惨事である。紗雪は隊服に着替えると藤吉花魁の部屋に向かった。遣手が何か叫んでいたが構わず花魁の部屋に入る。一人で夜の支度をしていた藤吉花魁が驚いて振り返った。
「椎名、どうしたの?」
「藤吉花魁、短い間ですがお世話になりました。私は行かなければならなくなりましたので、お別れに」
その場に座ると紗雪は深く頭を下げた。
「ありがとうございました。お達者で」
「…椎名も気をつけて」
藤吉花魁は落ち着いた声でそう告げた。顔を上げた紗雪の前に簪を一本示してみせる。それには藤の家紋があしらわれていた。紗雪が目を見張る。
「花菱で藤吉の名前を名乗る花魁はね、この簪とその意味を引き継ぐの。この街は鬼には都合のいい街だから」
「もしかしてこの街に調べが入るきっかけって…」
藤吉花魁はニッコリ微笑んだ。簪を髪に戻すと窓の外を見つめる。
「この街では何十年かに一度、足抜けしていく遊女がたくさん出る時がある。そんな時、歴代の藤吉花魁が鬼殺隊に知らせを送っていたの。でも…」
誰も帰ってこなかった。その言葉に紗雪は息を飲んだ。藤吉花魁の眉が悲しそうに歪められた。
「今回も足抜けする者がたくさん出てとても恐ろしかった。鬼も勿論だけれど…」
藤吉花魁はそっと紗雪の頬に手を当てた。
「私が連絡を入れたせいであなた達のような隊士が死んでしまう事がすごく怖い」
目に一杯の涙を浮かべる藤吉花魁の手を紗雪はしっかり握りしめた。
「ではお約束します。私は死にません。まだ恩返し出来てない方もいるのに死ぬわけにはいきませんから」
藤吉花魁の腕に巻かれた包帯を解くと薬を塗り直し新しいものを巻く。
「鬼は必ず倒します」
藤吉花魁が頷くのと同時に外から爆音が聞こえて紗雪は刀に手をかけた。窓の前に立つと一度藤吉花魁を振り返る。
「それでは」
「気をつけて」
紗雪は窓に足をかけると夜の闇に飛び出して行った。