本編
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「椎名急グ!無限列車、怪我人一杯!鬼、上弦!炎柱様大怪我!!交戦中!」
「!!」
蝶屋敷にいた紗雪はスッと背中が冷える感覚に一瞬立ち尽くした。しかしすぐ立ち直ると動き出す。
「アオイさん、胡蝶さんに医療に詳しい隠の手配を頼んでください。なるべく大勢お願いします。二班に分けて先発隊には外傷に関する物を、後発隊にはそれ以外を。準備出来次第出して下さい」
たまたまそばに居たアオイに指示を出す。
「わかりました」
「まだ試験中ですが血液も持たせて下さい」
この時代、輸血の技術はまだ完成されていなかった。血液型の分類も怪しいぐらいだ。しかし紗雪から血液に関する話を聞いた胡蝶は独自にそれらの対策を立て、試験している真っ最中だった。
紗雪は自分の装備品を掴むと紅を追って走り出した。心臓が嫌な速さで脈打つ。
(上弦の鬼…大怪我ってどの程度?あぁ、もう!この足もっとちゃんと動け!!)
相当なスピードで移動しているのに全然前に進まない気がして紗雪は太腿を何度か叩いた。
(落ち着け、呼吸を整えろ。師範は大丈夫。あの人は強い人だから)
だがその強さ故に、人を守る為に無理をすることを紗雪はよく知っている。紗雪は歯を食いしばると足に力を込めた。
夜が薄くなり朝日が辺りを照らし出す。視界の向こうに横転した汽車を認めて紗雪は目を凝らした。先頭車両の横に座り込んだ煉獄を見つける。地面に広がる血溜まりに紗雪はアルミマットを広げた。
「師範!」
「紗雪さん!?」
駆け込んできた紗雪に炭治郎が声を上げた。紗雪がアルミマットの上に煉獄に寝かせるのに手を貸す。煉獄の目が紗雪を捕らえた。
「…どうして」
「喋らないで。喉に血が詰まるから横向いてて下さい」
グイと顔を押し炭治郎の方を無理やり向かせる。
「隊服脱がしますよ。それと炭治郎君、何でもいいから師範に話しかけて」
「え!?な、何でも!?」
自分の羽織を脱いで手を消毒すると煉獄の隊服に手をかける。紗雪の突然のふりに炭治郎が狼狽えた。
「師範意識を保って下さいね。はい!炭治郎君!!君の好きな食べ物からよーいドン!」
「は、はい!タラの芽が好きです!あと…趣味は頭突きと掃除です。炭焼きをしていた頃は野生動物を追い払うのに…」
紗雪は煉獄の腹の傷に顔を顰めた。よく痛みでショック死しなかったなと思う。
(鋼の意志のおかげだね)
注射器を取り出すと傷の周辺に麻酔を打つ。ガーゼで血を押さえながら紗雪は腹の傷の状態を確認した。
(やっぱり師範のビックリ人間度は予想を超えるね)
太い血管や腎臓、大腸、小腸には大きな損傷がない。紗雪は他に傷がないか確認しながら処置を進めた。ガーゼを何度も取り替える。
(出血が酷い。血液を持って来ればよかった)
後悔しても後の祭りである。紗雪は装備品の中から点滴用のチューブを取り出した。
「師範、ご自分の血液型とかご存知ないですよね」
「…あぁ」
煉獄のぼんやりした返事に腹を括る。
「私O型なので、師範の血液型が特殊じゃない限り大抵行けます。運を天に任せますよ」
「…今更だな…君に全て、任せる」
「善逸君手伝って」
「お、俺!?」
突然呼ばれ善逸は跳び上がった。紗雪がチューブについたポンプを手渡す。
「この中で一番心拍が安定してるのは?」
「えと…煉獄さん」
(こんな時でもか)
善逸の返事に頷くと紗雪はチューブの片方の針を自分の腕に刺した。血がチューブの中を通り反対側の針まで到達する。紗雪はそれを煉獄の腕に刺した。
「師範の心拍に合わせてポンプを押して」
「うえぇ?わ、わかった!」
善逸の押すポンプで紗雪の血が煉獄の中に入っていく。すーっと体が冷たくなる感覚に堪えながら紗雪は処置を進めた。
「おい、お前顔色が」
「黙って」
伊之助の言葉を紗雪が遮る。目眩がして首を振ると、汗が流れて視界の邪魔をする。
「失礼します」
「!?」
横から伸びてきた手拭いに紗雪は驚いてそちらを見た。いつの間にか隠が隣に控えている。汽車の方へ視線を向けると大勢の隠が乗客を救助していた。
「血液は?」
「こちらに」
隠がもう一人来ると荷物から血液を取り出す。組み立て式の点滴スタンドを組むとそこに血液を引っ掛けた。
「紗雪様の血液です。蟲柱様よりこれを持って行くようにと」
「有り難い」
紗雪は血液パックの下についているチューブを引っ張るとそれについた針を煉獄に刺した。自分の方のチューブを投げ捨てる。
(これなら間に合う)
煉獄の傷を細かく確認すると装備品から大判の白いシートを取り出した。密閉袋から取り出す前に煉獄の傷と自分の手を念入りに消毒する。紗雪は隣にいた隠にも声をかけた。
「手を消毒して。これで傷を全面覆います。隙間を作りたくないから手伝って」
「はい!」
最新医学で作られた医療用再生シートだ。紗雪は慎重にそれを煉獄の腹と背中の両面に貼り付けた。半透明の保護テープで何重にもシートを覆うと今度は伊之助に声をかける。
「伊之助君、師範の体を起こすから手伝って。師範、痛みますよ」
「あぁ…っ」
「慎重に」
「わ、わかってる!」
ゆっくりと体を起こしても煉獄の額に脂汗が浮かぶ。紗雪は大急ぎで包帯を巻くと煉獄の体を横たえた。細菌による感染を防止するための薬液を注射すると懐中時計を隠に渡す。
「30秒数えて」
煉獄の首の脈をとると目を凝らし集中する。
(心拍、脈拍共に正常範囲内…出血も大丈夫、止まってる)
普通なら考えられない事だがこれが呼吸を極めるという事なのか。紗雪は大きく息を吐き出すと隠に合図した。
「血液はこのまま6単位全て輸血して。それと担架を。師範を急いで蝶屋敷へ運んでください」
「畏まりました。おい!こっちに担架だ!急げ!!」
慌ただしく動き出す隠に炭治郎達の表情が緩む。紗雪が煉獄を覗きこんだ。
「絶対動かないでくださいね。麻酔で眠りますか?」
むしろその方が辛くなくて良いかもしれない。しかし煉獄は首を横に振ると紗雪の頬に触れた。紗雪がその手を捕まえる。
「君を見ていたいから…このままで良い」
「そうですか、と言いたい所ですが師範は蝶屋敷行きです」
「それは残念だ…」
隠の持ってきた担架に乗せられた煉獄に紗雪が自分の羽織をかける。
「弟子不幸もほどほどにして下さい」
「あぁ…気をつけよう…」
「持ち上げます」
隠が担架を運び出す。煉獄はギリギリまで紗雪の指を掴んで離さなかった。遠くなって行く担架を見送ると紗雪はポカンとしている炭治郎達を振り返った。
「どうかしましたか?」
「えっ!あ、いえ!何でも!!」
(煉獄さんと紗雪さんってどういう関係!?)
はっきり言って距離が近すぎる。炭治郎が慌てて首を振ると紗雪に額を弾かれた。
「ほら、今度は炭治郎君の手当てをしますよ。腹の傷、血は止まってるけど化膿したら大変です」
「で、でも…紗雪さんは大丈夫なんですか?顔色が真っ青です」
紗雪は自分の顔に触れると苦笑した。
「そんなに酷いですか?師範が気がつかなくて良かったです。血を抜きすぎただけですから大丈夫ですよ。はい、傷を見せて」
手当してもらいながら炭治郎は口を開いた。
「紗雪さん凄いですね。人の体の出血状態まで分かるなんて、まるで煉獄さんみたいだ」
「そう言えばどうしてでしょう?無我夢中で気が付きませんでした」
不思議と煉獄の体の状態が手に取る様にわかった。今振り返ると不思議な感覚だと思う。紗雪は炭治郎の傷を手当し終えると、ホッと気を抜いた。途端に襲ってくる目眩に後ろへ倒れ込む。
「紗雪さん!?」
「あー、ごめん。ちょっと駄目かも…」
視界が白く霞んで意識が遠のく。
「だ、誰か!来てくれー!!」
炭治郎の叫び声を最後に紗雪の意識は途切れた。
「!!」
蝶屋敷にいた紗雪はスッと背中が冷える感覚に一瞬立ち尽くした。しかしすぐ立ち直ると動き出す。
「アオイさん、胡蝶さんに医療に詳しい隠の手配を頼んでください。なるべく大勢お願いします。二班に分けて先発隊には外傷に関する物を、後発隊にはそれ以外を。準備出来次第出して下さい」
たまたまそばに居たアオイに指示を出す。
「わかりました」
「まだ試験中ですが血液も持たせて下さい」
この時代、輸血の技術はまだ完成されていなかった。血液型の分類も怪しいぐらいだ。しかし紗雪から血液に関する話を聞いた胡蝶は独自にそれらの対策を立て、試験している真っ最中だった。
紗雪は自分の装備品を掴むと紅を追って走り出した。心臓が嫌な速さで脈打つ。
(上弦の鬼…大怪我ってどの程度?あぁ、もう!この足もっとちゃんと動け!!)
相当なスピードで移動しているのに全然前に進まない気がして紗雪は太腿を何度か叩いた。
(落ち着け、呼吸を整えろ。師範は大丈夫。あの人は強い人だから)
だがその強さ故に、人を守る為に無理をすることを紗雪はよく知っている。紗雪は歯を食いしばると足に力を込めた。
夜が薄くなり朝日が辺りを照らし出す。視界の向こうに横転した汽車を認めて紗雪は目を凝らした。先頭車両の横に座り込んだ煉獄を見つける。地面に広がる血溜まりに紗雪はアルミマットを広げた。
「師範!」
「紗雪さん!?」
駆け込んできた紗雪に炭治郎が声を上げた。紗雪がアルミマットの上に煉獄に寝かせるのに手を貸す。煉獄の目が紗雪を捕らえた。
「…どうして」
「喋らないで。喉に血が詰まるから横向いてて下さい」
グイと顔を押し炭治郎の方を無理やり向かせる。
「隊服脱がしますよ。それと炭治郎君、何でもいいから師範に話しかけて」
「え!?な、何でも!?」
自分の羽織を脱いで手を消毒すると煉獄の隊服に手をかける。紗雪の突然のふりに炭治郎が狼狽えた。
「師範意識を保って下さいね。はい!炭治郎君!!君の好きな食べ物からよーいドン!」
「は、はい!タラの芽が好きです!あと…趣味は頭突きと掃除です。炭焼きをしていた頃は野生動物を追い払うのに…」
紗雪は煉獄の腹の傷に顔を顰めた。よく痛みでショック死しなかったなと思う。
(鋼の意志のおかげだね)
注射器を取り出すと傷の周辺に麻酔を打つ。ガーゼで血を押さえながら紗雪は腹の傷の状態を確認した。
(やっぱり師範のビックリ人間度は予想を超えるね)
太い血管や腎臓、大腸、小腸には大きな損傷がない。紗雪は他に傷がないか確認しながら処置を進めた。ガーゼを何度も取り替える。
(出血が酷い。血液を持って来ればよかった)
後悔しても後の祭りである。紗雪は装備品の中から点滴用のチューブを取り出した。
「師範、ご自分の血液型とかご存知ないですよね」
「…あぁ」
煉獄のぼんやりした返事に腹を括る。
「私O型なので、師範の血液型が特殊じゃない限り大抵行けます。運を天に任せますよ」
「…今更だな…君に全て、任せる」
「善逸君手伝って」
「お、俺!?」
突然呼ばれ善逸は跳び上がった。紗雪がチューブについたポンプを手渡す。
「この中で一番心拍が安定してるのは?」
「えと…煉獄さん」
(こんな時でもか)
善逸の返事に頷くと紗雪はチューブの片方の針を自分の腕に刺した。血がチューブの中を通り反対側の針まで到達する。紗雪はそれを煉獄の腕に刺した。
「師範の心拍に合わせてポンプを押して」
「うえぇ?わ、わかった!」
善逸の押すポンプで紗雪の血が煉獄の中に入っていく。すーっと体が冷たくなる感覚に堪えながら紗雪は処置を進めた。
「おい、お前顔色が」
「黙って」
伊之助の言葉を紗雪が遮る。目眩がして首を振ると、汗が流れて視界の邪魔をする。
「失礼します」
「!?」
横から伸びてきた手拭いに紗雪は驚いてそちらを見た。いつの間にか隠が隣に控えている。汽車の方へ視線を向けると大勢の隠が乗客を救助していた。
「血液は?」
「こちらに」
隠がもう一人来ると荷物から血液を取り出す。組み立て式の点滴スタンドを組むとそこに血液を引っ掛けた。
「紗雪様の血液です。蟲柱様よりこれを持って行くようにと」
「有り難い」
紗雪は血液パックの下についているチューブを引っ張るとそれについた針を煉獄に刺した。自分の方のチューブを投げ捨てる。
(これなら間に合う)
煉獄の傷を細かく確認すると装備品から大判の白いシートを取り出した。密閉袋から取り出す前に煉獄の傷と自分の手を念入りに消毒する。紗雪は隣にいた隠にも声をかけた。
「手を消毒して。これで傷を全面覆います。隙間を作りたくないから手伝って」
「はい!」
最新医学で作られた医療用再生シートだ。紗雪は慎重にそれを煉獄の腹と背中の両面に貼り付けた。半透明の保護テープで何重にもシートを覆うと今度は伊之助に声をかける。
「伊之助君、師範の体を起こすから手伝って。師範、痛みますよ」
「あぁ…っ」
「慎重に」
「わ、わかってる!」
ゆっくりと体を起こしても煉獄の額に脂汗が浮かぶ。紗雪は大急ぎで包帯を巻くと煉獄の体を横たえた。細菌による感染を防止するための薬液を注射すると懐中時計を隠に渡す。
「30秒数えて」
煉獄の首の脈をとると目を凝らし集中する。
(心拍、脈拍共に正常範囲内…出血も大丈夫、止まってる)
普通なら考えられない事だがこれが呼吸を極めるという事なのか。紗雪は大きく息を吐き出すと隠に合図した。
「血液はこのまま6単位全て輸血して。それと担架を。師範を急いで蝶屋敷へ運んでください」
「畏まりました。おい!こっちに担架だ!急げ!!」
慌ただしく動き出す隠に炭治郎達の表情が緩む。紗雪が煉獄を覗きこんだ。
「絶対動かないでくださいね。麻酔で眠りますか?」
むしろその方が辛くなくて良いかもしれない。しかし煉獄は首を横に振ると紗雪の頬に触れた。紗雪がその手を捕まえる。
「君を見ていたいから…このままで良い」
「そうですか、と言いたい所ですが師範は蝶屋敷行きです」
「それは残念だ…」
隠の持ってきた担架に乗せられた煉獄に紗雪が自分の羽織をかける。
「弟子不幸もほどほどにして下さい」
「あぁ…気をつけよう…」
「持ち上げます」
隠が担架を運び出す。煉獄はギリギリまで紗雪の指を掴んで離さなかった。遠くなって行く担架を見送ると紗雪はポカンとしている炭治郎達を振り返った。
「どうかしましたか?」
「えっ!あ、いえ!何でも!!」
(煉獄さんと紗雪さんってどういう関係!?)
はっきり言って距離が近すぎる。炭治郎が慌てて首を振ると紗雪に額を弾かれた。
「ほら、今度は炭治郎君の手当てをしますよ。腹の傷、血は止まってるけど化膿したら大変です」
「で、でも…紗雪さんは大丈夫なんですか?顔色が真っ青です」
紗雪は自分の顔に触れると苦笑した。
「そんなに酷いですか?師範が気がつかなくて良かったです。血を抜きすぎただけですから大丈夫ですよ。はい、傷を見せて」
手当してもらいながら炭治郎は口を開いた。
「紗雪さん凄いですね。人の体の出血状態まで分かるなんて、まるで煉獄さんみたいだ」
「そう言えばどうしてでしょう?無我夢中で気が付きませんでした」
不思議と煉獄の体の状態が手に取る様にわかった。今振り返ると不思議な感覚だと思う。紗雪は炭治郎の傷を手当し終えると、ホッと気を抜いた。途端に襲ってくる目眩に後ろへ倒れ込む。
「紗雪さん!?」
「あー、ごめん。ちょっと駄目かも…」
視界が白く霞んで意識が遠のく。
「だ、誰か!来てくれー!!」
炭治郎の叫び声を最後に紗雪の意識は途切れた。