本編
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「師範、お帰りだったんですね」
「紗雪も今帰りか!」
煉獄の自室に人影を認めて紗雪は声をかけた。ちょうど羽織を脱ぐ所だった煉獄からそれを受け取ると、衣桁(いこう)にかける。煉獄は文机の前に座ると紗雪にも座るよう促した。
「今日の任務は早く終わったと聞いていたが?」
「はい。医薬品が随分減っていたので蝶屋敷に補充に行ってきました」
「そうか!怪我の対処は早ければ早い方が良いからな!」
紗雪は最近他の隊士のサポートに回ることが多かった。主に階級が下の隊士が手に負えない現場に急遽回されている。なので隠より先に隊士の手当てをすることが増えていた。
「蝶屋敷で会ってきましたよ。竈門炭治郎君と禰󠄀豆子ちゃんに」
「………」
紗雪が切り出すと、途端に煉獄が顔を顰めた。胡座をかいた足の上に片肘を立てると顎を乗せる。
(ありゃ、拗ねられた)
紗雪がこちらに残ってからというもの、煉獄は時折こうして素の部分を見せるようになっていた。初めこそ驚いた紗雪だったが、これが意外と可愛らしい。こういう時は紗雪も少し砕けた対応をする事にしている。
「素直で可愛い兄妹でしたよ?師範だって本当はわかってるでしょ?」
「…お館様の裁定に口を挟む気はない。だが理由があれば鬼を見逃していいとは思えない」
「多様性ですよ師範。人にも様々居るように鬼にも違いがあって良い筈でしょう?」
「………」
納得する気のない煉獄はふいと横を向いてしまった。紗雪が畳に手をつき顔を覗き込む。
「私のような変わり者はあっさり受け入れてくれたのにどうしたんでしょうね?」
「…君と鬼は違う」
じろりと横目に睨まれ紗雪は苦笑した。煉獄が続ける。
「鬼は本能で人を喰らう。野放しにして良い存在では無い」
「では人の理性で鬼の本能を抑え込んでいる禰󠄀豆子ちゃんはたいへん人らしい鬼と言う事ですね」
「………」
煉獄は苦虫を噛み潰したような顔をした。引き際を感じて紗雪が座り直す。
「口を挟みすぎましたね。申し訳ありません。どうも私は鬼への怒りとか憎しみを持ち合わせていない分、理解が鈍いみたいで」
「君とて仲間を鬼に殺されただろう。鬼に悪感情はないのか?」
紗雪の意外な言葉に煉獄は目を見張った。紗雪の仲間5人は鬼のせいで死んだのだ。
「ないですね。そもそも戦場で死ぬのは想定内と言うか…いつ戦死しても仕方がないと言うか」
「言っておくぞ紗雪」
煉獄は紗雪の手を掴むと顔を覗き込んだ。キョトンとする紗雪を真っ直ぐ見つめる。
「君が死ぬのは決して仕方がない事ではない。君の命を軽んじる事は俺が許さない」
「はい。師範に拾っていただいた身ですから。命を無駄にするつもりはありません」
煉獄の教えを無駄にする気はない。紗雪が頷けば煉獄が満足そうに笑った。
「ならば良い!それより万年筆の使い心地はどうだ?俺は筆の方が使いやすいが紗雪はそういう訳にもいくまい!」
「万年筆!」
今度は紗雪が煉獄の顔を覗き込んだ。ギョッとする煉獄に詰め寄る。
「もしかしてこの時代、万年筆ってメチャメチャ高級品なんじゃありません?胡蝶さんにすんごい言われたんですけど!」
「必要なものに高級かどうかは関係ないぞ!」
「その言い方!絶対高級品じゃ無いですか!筆に慣れろで良いでしょう!?」
煉獄に散財させたなんて申し訳なさすぎる。紗雪ががっくり肩を落とすと煉獄がその肩を叩いた。
「筆を使った事はあるのか?紗雪」
「…小学生の時に何度か」
「報告書を書けるか?」
「……書けません」
紗雪の正直な告白に煉獄は笑った。
「隠に代筆させる方法もあるがな。文字が書けるのにそんな必要は無いだろう」
「そうですけど…でもこの先インクの補充とかペン先の交換とかもあるし」
しかし煉獄はそんな事はとっくに想定済みのようだった。
「隠に言えば用意出来るよう手配してある。心配は無用だ」
「至れり尽くせりが過ぎる…」
煉獄にとって継子とは甘やかすものなのではと疑いたくなる。煉獄は腕を組むと意気揚々と宣言した。
「この話はこれで終いだな!」
「いやいや駄目ですよ?もう高級品を買うのは止めてくださいね!?」
釘を刺して置かなければ紗雪の知らない所でどんどん高級品が増えていきそうで怖い。しかし煉獄は紗雪の言葉は聞こえないことにしたようだ。
「さぁ、お互い任務帰りだ!少し休むことにしよう!!」
「師範聞いてます!?聞こえないふりは止めて下さい!」
「五月蝿いぞお前ら!!」
愼寿郎がスパン!と襖を開け放つと怒鳴り込んできた。煉獄と紗雪が驚いてそちらを見ると外はすっかり明るくなっている。
「夜が明ける前からでかい声でくっちゃべりよって!今夜の任務に差し支えるだろうが!!さっさと寝ろ!」
「えっ!もう愼寿郎さんが起きてくるような時間なんですか!?やばい!」
「こら!どういう意味だ!」
「え?言っていいですか?」
「…言わんで良い」
楽しそうな紗雪とゲンナリした顔をする愼寿郎を見ながら煉獄はじわりと喜びそうになる顔を必死に戻した。父親が任務に差し支えるから寝ろなどと発言する日が来るとは。
(言えば父上が気を悪くされる。堪えろ俺!)
「とにかく!千寿郎には言っておいてやるから寝ろ!!」
荒い足音を立てて立ち去る愼寿郎を見送ると紗雪が煉獄を振り返った。
「怒られてしまったので寝ようと思います。お休みなさい師範」
畳に手をつき頭を下げる。はらりと髪紐が解けて紗雪の髪が落ちた。
「?」
驚いて顔を上げれば煉獄が紗雪の髪紐を握っている。髪を解いたのが煉獄なのを理解すると紗雪は目を瞬かせた。
「あの…?」
「あぁ、すまん。髪紐が切れそうだった」
確かに何処かで引っ掛けたのかほつれて紐が細くなっている。
「新しいものを買ってこよう」
当然のように自分が買ってくるつもりの煉獄に紗雪は困った顔をした。
「私、タダ働きしている訳では無いのでお給金頂いてますが」
要は髪紐ぐらいならいくらでも自分で買える。しかし煉獄は譲る気はさらさら無いようだった。
「髪紐ならば高級品では無い。俺が買っても問題ないだろう?」
「ん?あれ?そう、ですか?」
眠気も相まって何だか訳が分からなくなってきた。首を傾げる紗雪の頭を撫でると煉獄は穏やかに笑った。
「今日は本当にいい日だ。ではお休み紗雪」
「はぁ…お休みなさい」
紗雪は頭の上にクエスチョンマークを大量に浮かべながら自室へと戻っていった。それを見送ると煉獄が髪紐に唇を寄せる。
(君がこの時代に来たのは俺にとって最高の幸運だ)
煉獄は暫く朝の空気に浸っていたが、やがて満足すると襖を静かに閉めたのだった。
「紗雪も今帰りか!」
煉獄の自室に人影を認めて紗雪は声をかけた。ちょうど羽織を脱ぐ所だった煉獄からそれを受け取ると、衣桁(いこう)にかける。煉獄は文机の前に座ると紗雪にも座るよう促した。
「今日の任務は早く終わったと聞いていたが?」
「はい。医薬品が随分減っていたので蝶屋敷に補充に行ってきました」
「そうか!怪我の対処は早ければ早い方が良いからな!」
紗雪は最近他の隊士のサポートに回ることが多かった。主に階級が下の隊士が手に負えない現場に急遽回されている。なので隠より先に隊士の手当てをすることが増えていた。
「蝶屋敷で会ってきましたよ。竈門炭治郎君と禰󠄀豆子ちゃんに」
「………」
紗雪が切り出すと、途端に煉獄が顔を顰めた。胡座をかいた足の上に片肘を立てると顎を乗せる。
(ありゃ、拗ねられた)
紗雪がこちらに残ってからというもの、煉獄は時折こうして素の部分を見せるようになっていた。初めこそ驚いた紗雪だったが、これが意外と可愛らしい。こういう時は紗雪も少し砕けた対応をする事にしている。
「素直で可愛い兄妹でしたよ?師範だって本当はわかってるでしょ?」
「…お館様の裁定に口を挟む気はない。だが理由があれば鬼を見逃していいとは思えない」
「多様性ですよ師範。人にも様々居るように鬼にも違いがあって良い筈でしょう?」
「………」
納得する気のない煉獄はふいと横を向いてしまった。紗雪が畳に手をつき顔を覗き込む。
「私のような変わり者はあっさり受け入れてくれたのにどうしたんでしょうね?」
「…君と鬼は違う」
じろりと横目に睨まれ紗雪は苦笑した。煉獄が続ける。
「鬼は本能で人を喰らう。野放しにして良い存在では無い」
「では人の理性で鬼の本能を抑え込んでいる禰󠄀豆子ちゃんはたいへん人らしい鬼と言う事ですね」
「………」
煉獄は苦虫を噛み潰したような顔をした。引き際を感じて紗雪が座り直す。
「口を挟みすぎましたね。申し訳ありません。どうも私は鬼への怒りとか憎しみを持ち合わせていない分、理解が鈍いみたいで」
「君とて仲間を鬼に殺されただろう。鬼に悪感情はないのか?」
紗雪の意外な言葉に煉獄は目を見張った。紗雪の仲間5人は鬼のせいで死んだのだ。
「ないですね。そもそも戦場で死ぬのは想定内と言うか…いつ戦死しても仕方がないと言うか」
「言っておくぞ紗雪」
煉獄は紗雪の手を掴むと顔を覗き込んだ。キョトンとする紗雪を真っ直ぐ見つめる。
「君が死ぬのは決して仕方がない事ではない。君の命を軽んじる事は俺が許さない」
「はい。師範に拾っていただいた身ですから。命を無駄にするつもりはありません」
煉獄の教えを無駄にする気はない。紗雪が頷けば煉獄が満足そうに笑った。
「ならば良い!それより万年筆の使い心地はどうだ?俺は筆の方が使いやすいが紗雪はそういう訳にもいくまい!」
「万年筆!」
今度は紗雪が煉獄の顔を覗き込んだ。ギョッとする煉獄に詰め寄る。
「もしかしてこの時代、万年筆ってメチャメチャ高級品なんじゃありません?胡蝶さんにすんごい言われたんですけど!」
「必要なものに高級かどうかは関係ないぞ!」
「その言い方!絶対高級品じゃ無いですか!筆に慣れろで良いでしょう!?」
煉獄に散財させたなんて申し訳なさすぎる。紗雪ががっくり肩を落とすと煉獄がその肩を叩いた。
「筆を使った事はあるのか?紗雪」
「…小学生の時に何度か」
「報告書を書けるか?」
「……書けません」
紗雪の正直な告白に煉獄は笑った。
「隠に代筆させる方法もあるがな。文字が書けるのにそんな必要は無いだろう」
「そうですけど…でもこの先インクの補充とかペン先の交換とかもあるし」
しかし煉獄はそんな事はとっくに想定済みのようだった。
「隠に言えば用意出来るよう手配してある。心配は無用だ」
「至れり尽くせりが過ぎる…」
煉獄にとって継子とは甘やかすものなのではと疑いたくなる。煉獄は腕を組むと意気揚々と宣言した。
「この話はこれで終いだな!」
「いやいや駄目ですよ?もう高級品を買うのは止めてくださいね!?」
釘を刺して置かなければ紗雪の知らない所でどんどん高級品が増えていきそうで怖い。しかし煉獄は紗雪の言葉は聞こえないことにしたようだ。
「さぁ、お互い任務帰りだ!少し休むことにしよう!!」
「師範聞いてます!?聞こえないふりは止めて下さい!」
「五月蝿いぞお前ら!!」
愼寿郎がスパン!と襖を開け放つと怒鳴り込んできた。煉獄と紗雪が驚いてそちらを見ると外はすっかり明るくなっている。
「夜が明ける前からでかい声でくっちゃべりよって!今夜の任務に差し支えるだろうが!!さっさと寝ろ!」
「えっ!もう愼寿郎さんが起きてくるような時間なんですか!?やばい!」
「こら!どういう意味だ!」
「え?言っていいですか?」
「…言わんで良い」
楽しそうな紗雪とゲンナリした顔をする愼寿郎を見ながら煉獄はじわりと喜びそうになる顔を必死に戻した。父親が任務に差し支えるから寝ろなどと発言する日が来るとは。
(言えば父上が気を悪くされる。堪えろ俺!)
「とにかく!千寿郎には言っておいてやるから寝ろ!!」
荒い足音を立てて立ち去る愼寿郎を見送ると紗雪が煉獄を振り返った。
「怒られてしまったので寝ようと思います。お休みなさい師範」
畳に手をつき頭を下げる。はらりと髪紐が解けて紗雪の髪が落ちた。
「?」
驚いて顔を上げれば煉獄が紗雪の髪紐を握っている。髪を解いたのが煉獄なのを理解すると紗雪は目を瞬かせた。
「あの…?」
「あぁ、すまん。髪紐が切れそうだった」
確かに何処かで引っ掛けたのかほつれて紐が細くなっている。
「新しいものを買ってこよう」
当然のように自分が買ってくるつもりの煉獄に紗雪は困った顔をした。
「私、タダ働きしている訳では無いのでお給金頂いてますが」
要は髪紐ぐらいならいくらでも自分で買える。しかし煉獄は譲る気はさらさら無いようだった。
「髪紐ならば高級品では無い。俺が買っても問題ないだろう?」
「ん?あれ?そう、ですか?」
眠気も相まって何だか訳が分からなくなってきた。首を傾げる紗雪の頭を撫でると煉獄は穏やかに笑った。
「今日は本当にいい日だ。ではお休み紗雪」
「はぁ…お休みなさい」
紗雪は頭の上にクエスチョンマークを大量に浮かべながら自室へと戻っていった。それを見送ると煉獄が髪紐に唇を寄せる。
(君がこの時代に来たのは俺にとって最高の幸運だ)
煉獄は暫く朝の空気に浸っていたが、やがて満足すると襖を静かに閉めたのだった。